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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
一章-アカデミー -
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第十四話-立ちはだかる壁-

ミサの護衛隊長アルジェに、氷神リサが奉られている洞窟の場所を教えてもらったユウ、マナ、バナーは治療などをアサギとリズに任せ、三人で洞窟へと向かった。


「氷神リサって人の封印を解いてどうするつもりなんだろうな?」


グリフォンで並んで空を飛びながら、バナーが話し出した。


「分からないわ!そもそも封印されてる理由すら分からない!ゲイルさんが言ってた神話では、テルミナス山脈を作り出したって事になってたけど、リサの魔力属性は氷よ。でもテルミナス山脈は鉱石まで産出される岩山。リサが魔力で作り出せるとは思えない。何か裏があるわね」


「なるほどな。ま、行ってみりゃわかるか!」


「えぇ、行くわよ!」


「もうすぐのはずだ」


洞窟がある場所には、小さい(やしろ)が門を構えている。

近くの人達が大切に祀っているようだ。


その参道には、勇敢にベルジアントに立ち向かったのであろう、警備兵のハーピィが四人。

その全員が地面に倒れ、かろうじて息をしている状態だった。

すぐにでも回復処置をしないとまずいという事で、バナーが四人をグリフォンで運ぶ事になった。

四人を下ろしたらまたすぐに戻ってくる手筈だ。


「頼んだぞバナー」


「任せろ。すぐ戻ってくる!」


ベルジアントは既に封印を解いて洞窟内に侵入している。

ユウとマナだけで挑むには明らかに荷が重いだろう。

だがここで行かなければ、ミサの命を救う事も出来ず、氷神リサの封印を狙う理由も分からないままだ。


「行こう」


ユウの言葉に、頷きで返すマナ。



長く深い洞窟だった。

普段は封印されているだけあって、内部に光源は無い。

ユウは原始的な光の魔法を発動し、その明かりを頼りに進む。

入口からは細く、狭い道が続いていたが、やがて大きく開けた空間に出た。

道は、その空間を繋ぐように大きな橋の様に続いている。


プレビニエンス内部と同じ様に、ところどころで鉱石が鈍く光を反射していた。

タイミング次第では幻想的な景色だと楽しめた事だろう。

下の方から水音が聞こえてくる事から、テルミナス山脈からの湧水が流れているのだろう。


大橋を渡り切るとまた道幅は狭まり、天井もぐっと近くなる。

何度か繰り返し、そんな空間を通り過ぎた。


暗くて狭い洞窟などの地下空間では、闇の眷属達が生まれ出すものだ。

だが、この洞窟は清浄な空気に満ちている。

これはリサが生み出すものなのだろうか。


洞窟の奥へと進んでいると、次第に空気が冷たくなってきた。

空気の変化はやがて、周囲にも変化をもたらしていく。

洞窟の壁面や地面が湿り、それは氷や霜柱に変わっていった。


ザクザクと霜柱を踏みしめながら、地面に残る大きな足跡を見つめる。

ベルジアントが通った跡だ。

足跡は一人分しか無い事から、ミサの事は背負ったり抱えたりしているのだろう。


「ふと思ったんだが、入口の封印を解く為にミサさんを攫ったんだとしたら、ここに入った時点で解放してもいいと思わないか?こんな狭い道でミサさんが抵抗でもしたら、二人とも生き埋めになるかもしれないのに」


「そうね。ミサは風の使い手だから、閉じられた空間だと力をうまく使えないのは確かだけど、それを抜きにしてもミサは強い。そんなミサを気絶させてでもまだ連れているのは、この後にもミサの力が必要だって事ね」


「リサさんの封印を解く為、とか?」


「あり得るかも。そもそも入口の封印がミサによるものなんだから、ここを作ったのもミサの可能性がある。リサが封印されている理由も知ってるはず。助け出して全部聞き出してやるんだから!」


フンス!と意気込みながらズンズンと歩き出していくマナに、苦笑するしかないユウだった。




それから暫く進んだ先、これまでで一番大きい空間に出た。

その一番奥…

そこには祭壇が設けられており、女性の形をした氷の像が祀られている。

しかしその体には鎖が巻き付けられていた。

その(はし)は後ろの氷壁に突き刺さって固定されている。

鎖が体に巻き付いたまま、何者かに氷漬けにされたように見える。

まさか、あれがリサなのか。


そしてその祭壇の手前に、男女の姿があった。


「ミサ!!」


マナが叫び、走り出す。

マナとユウの出現に気付いた男女、ベルジアントとミサ。

ベルジアントが二人に気を取られた瞬間、ミサは自分の右腕を掴んでいるベルジアントの左腕を引き剥がそうと魔法を発動させる。


空気による裁断(エア・デイエクティス)!!】


左肘の関節にありったけの魔力を込めて放たれたその風魔法は、通常なら大木や大岩などを簡単に切り刻む事が出来る性質のものだ。

だが、間違いなく一番もろい関節部に当たったその魔法は、鉄と鉄がぶつかるような耳障りな音を立てただけで終わった。

見た目の変化といえば、ベルジアントが纏う衣服の腕部分が破れ、機械の身体が剥き出しになった事くらいだ。


「そんな!?」


「チッ、特注の服をビリビリにしやがって。とりあえずまた眠ってろ!」


ベルジアントはミサの腕を掴んでいた左手を離し、そのままミサの鳩尾に叩き込んだ。

息を吐き出しながら気を失って倒れるミサ。


「ミサ!? よくも!!」


走りながら氷柱(ツララ)を幾つも生成したマナが、ベルジアントに向かって右腕を振る。

大小様々な氷柱が目にも留まらぬ速さでベルジアントに襲いかかっていく。


加速(アクセラレート)!】


マナに並走していたユウは自身の速度を上げる身体強化魔法を使い、姿勢を低くしながら一気にベルジアントの懐に飛び込んだ。


マナが繰り出した氷柱を、手に持つ愛用の獲物 《ミョルニル》で防御していたベルジアントがユウの接近に気付く。


「ッラァ!!」


下から迫ってくるユウを右脚による蹴りで牽制。

ユウは顔面への軌道を描くその右脚に手を置き、その勢いを利用して上に飛び上がった。


そのままベルジアントの背後に着地、と共にユウの獲物である小太刀を抜き打ちざまに一閃。


しかしこれは空を切る。


絶え間なく襲ってくる氷柱を躱す為にベルジアントも横に飛んだのだ。


そのせいでマナの氷柱が数本、ユウに襲いかかった。


「くっ!!」


なんとか防御したユウだったが、体勢を崩してしまう。

そんな隙を見逃すベルジアントではなく、ユウに向かって突進、そのままミョルニルを振り下ろした。


しかしその必殺の一撃は、ユウの眼前に出現した氷の盾に阻まれる。


硬いもの同士がぶつかり合う音がこの空間に響き渡った。


ユウはその一瞬を利用してベルジアントの真下から脱出。


マナの隣に並んだ。


「…お前さん達、前にあの遺跡で会った奴らか。前回も今回も、何だって邪魔をする?」


「前回は偶然だった。お前達があの森にいなければ、俺達はあの遺跡を調査するだけで終わってたはずだ。だがあそこで会ってしまった。だから今回がある。巨人族を動かせる人物なんて、俺達からしたらお前しかいないからな。グロックさん達はもう戦いをやめたぞ!」


「グロック…?あぁ、あのバカか。一族の命運は俺にかかってるなんてツラしやがって。そんなわけねぇだろうがよ。なぁ?それにな、オレはあんなヤツらどうだっていいんだよ。命令はあいつら巨人族(でくのぼう)を陣営に加えるって事だったが、そんなもんに従うつもりなんてさらさらなかったさ。あんなヤツら、滅びればいい!!」


ビリビリと空気が震える。

滅びればいい、という声は喉から絞り出したような声で、底知れない怨嗟に満ちていた。


「せっかく歴戦の猛者のゲイルがいる町を襲わせたのに、お前さん達のお陰でパーになっちまった。あのゲイルが巨人族にやられたなんて事になれば、巨人族は完全に駆逐されただろうに」


「例えグロックさんの一族が全員殺されてしまったとしても、巨人族はまだ世界各地に隠れ住んでいる。お前のエゴだけでは巨人族を絶滅させる事なんて不可能。分かったら諦めろ」


「フハハハハハ!!諦めろだと!何も知らんくせにな!!殺したいから殺そうとしたとでも思ってるのか!?」


「知らないわよ。知りたくもないわ、人殺しの気持ちなんて!アンタは自分の感情を盾にして行動を肯定しようとしてるだけ。そんなの、お菓子をねだりながら泣き喚く子供と同じよ!」


「子供、ね… だったら子供らしく駄々をこねてみるか。オレの邪魔をするな。消えろ。消えないなら、オレの手で消してやる」


「自分は大人じゃないからって開き直った大人は、そこらの子供よりタチが悪いのよ。覚えておきなさいボウヤ」


「そりゃーオレを躾けたヤツなんていなかったからな。代わりにやってくれんのか?」


「そうね。コテンパンにしてあげるのがしつけって呼べるなら、喜んでやってあげるわよ?」


「ククク…いいオンナだなぁお前。やれるもんならやってみやがれ!!」




叫びながらマナに突進するベルジアント。

そこに割って入る影がひとつ。


「俺の事を忘れないでもらいたいなっ!」


二刀の小太刀でベルジアントのハンマーを弾き、マナを護る盾になる。


「なんだぁ?俺の女に手ぇ出すなってか?」


「意味は違うが、大体合ってる。俺の大切な人だ」


ベルジアントを真っ直ぐに見返しながら言ったユウ。

それに対して口笛を吹きながら賞賛の意を表したベルジアントは、笑いながら言葉を続ける。


「言うねぇ! 気に入ったよ。だったらちゃんと護れよ?手加減はしねぇ!!」



再び攻撃の姿勢を見せるベルジアントは、今度はユウに向かって攻撃を始める。


振り下ろされたハンマーを避け、カウンターで斬り込むが、それはベルジアントに読まれている。

ギリギリの距離でかわされ、大きな身体の陰から回し蹴りが迫ってきた。


身体を折って避けたユウの耳に、低い風切り音が聞こえ、体勢を立て直す暇も無くハンマーが振り下ろされる。


再びマナが氷の盾を展開させ、受け止めた、かに見えたが、分厚い盾は一瞬で砕け散ってしまう。


そのまま、ハンマーはグシャッという鈍い音を響かせた。



「ユウ!!!」






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