第十一話-誰よりも高く-
アカデミーが夏休みに入った。
全寮制であるこの学院は、共和国出身者と周辺諸国出身者の割合が半々くらいであり、その半数を占める周辺諸国出身者は長期休みに入ると自分の家へと帰っていく。
ユウとアサギは共和国のセントラルシティ、つまり学院のあるこの街出身なので自宅に帰る事は簡単だ。
バナーは帝国出身で共和国へと移り住んで来た。
現在はユウ達と同じく、セントラルに居を構えて一人暮らしをしている。
三人とも自宅が近い為、夏休みに入る前からちょくちょく帰ったりしているので、夏休みを使って帰省という事はしないようだ。
その代わり、いつもは授業を受けている時間から稽古をする事が出来るので、夏休みに入ってからはもっぱら、フマイン師範の元で腕を磨いている。
そんな日々を過ごしていた彼らの元に、学院長室に来るように、とナオ先生から報せが入った。
嫌そうな顔を隠そうとしないマナを連れ、四人は再び学院長室に踏み入れた。
「やぁ、来たね。毎日フマイン先生の所で稽古をしているようじゃないか。感心感心。どうかな、最近の調子は?」
深々と学院長の椅子に座り、普通の世間話を始める普通のナオに戸惑いを隠せない生徒達三人。
だが慣れた様子で一歩踏み出す者がいた。
「ナオ、世間話をしに呼んだ訳じゃないわよね。さっさと本題を話しなさいよ」
「やれやれ、相変わらずせっかちだねマナは。私の可愛い生徒達と親睦を深めようとしていたのに」
「それはまた今度にすればいい。アンタが呼び付けるなんて、またユウ達に厄介事を頼もうって事でしょう?」
「厄介事なんて言い方をしないでくれよ。私はユウ君達に期待をしている。学院長としても、ゼルコバ共和国魔法騎士団の団長としてもね。君達三人はやがて騎士団の中枢を担う人材になると思っている。君達に入団の意思があれば、だけどね。その時はマナ、君にも特別なポストを用意するつもりだよ」
「ふーん。わたしはユウに任せるわ。ユウが入団してもしなくても、わたしはユウの隣にいる。それは変わらないもの。それより本題は?」
「ふむ。君の意思を確認出来ただけでも良しとしようか。それでは本題を話そう。先日、私の知人である妖翔族の女王から連絡があってね。自分達の住処が脅かされているから助力をお願いしたい、とね。私はすぐに部下を派遣して調査を始め、それが事実であると確認した。彼女らの住処はセントラルから北にある山岳地帯だ。針葉樹林が生い茂る深い森と、峻険な山々が自然の要塞となって彼女達を数百年に渡り守ってきた。しかし、その要塞を簡単に崩す事が出来る天敵がいたんだ。どんな種族か分かるかい?ユウ君?」
「人馬族?」
「ユウ君、いい答えだ。彼らケンタウロスは森の守護神であり、森に愛され、森を知り尽くしている存在だからね。初めて訪れた深い森でも迷う事なく進軍する事が出来るだろう。バナー君は?」
「…うーん、火蜥蜴とか?」
「サラマンダー!上位精霊の知識があったんだねバナー君。でもそうか、君は炎属性だったね。ならば知っていてもおかしくはないか。君がもし、大精霊の祠で試練に打ち勝てば、その身に聖なる焔を宿す事が出来るだろう。そうすればサラマンダーを使役する事さえ出来るよ。ただ、属性を司る大精霊はその身から溢れ出る魔力も属性を浴びる。サラマンダーは周りの空気も焼き焦がすのさ。森の中に出現したら辺り一帯は一瞬で火の海になってしまうね。では、アサギさんは?」
「答える前に、いくつか質問してもよろしいですか?」
「うん、いいよ。ただし、二つまでね」
「…ハーピィ達の住処が脅かされた、との事でしたが、具体的にどの様な形だったのでしょうか?」
「ふむ。それはこれから説明する事でもあるから、ちょっと長いけど話そう。ハーピィはね、羽根が生えている以外はほぼ人間と同じだ。住む家は山の上にあるが、昼間の生活圏は地上にある。ハーピィが造った町があり、そこは冒険者にも開かれていて、数は少ないが人間もその町に住んでいる。今回襲われたのは、いくつかあるそんな町の一つ。幸いにして人的被害は無かったようだが、抵抗した際に少なくない怪我人が出ている。冒険者の人達も抵抗に協力してくれたようだが、彼らもまた完全に無事とはいかなかったようだ。これが一つ目だね」
「その襲撃者がハーピィにとって天敵なのは何故ですか?」
「…うーん、参ったな…アサギさんはとても鋭い洞察力を持っているね。これを説明する事は答えを言う事と同じだ。でも答えると言った以上答えないといけないね。ハーピィは羽根が生えている以外は人間と変わらないと言ったね。それは通常時の話なんだ。戦闘を行う時は、ハーピィは本来の姿に戻る。手脚には鋭い爪が伸び、身体も飛行に適した美しいフォルムになる。風を纏い、自由に空を舞いながら敵を攻撃するのさ。だが、今回現れた天敵は彼女達が纏う風を打ち消す程の暴威を振るった。単純かつ純粋なパワーだよ。振るう拳は空気を揺るがし、その行進は自然の柵である針葉樹を根こそぎ薙ぎ倒した。更に倒れた樹木を振り回したり投げつけたり、やりたい放題だったようだ。犠牲者が出なかったのは、その彼らが手加減をしたからに他ならない。だから女王は私に助けを求めてきたのさ。さて、話過ぎたかな。アサギさん、答えを聞こうか」
「…巨人族」
「Exactly!!今回相対するのは巨人族です!!」
椅子から立ち上がり、ババーンと手を広げて言い切ったナオ。
正解を出したアサギは勿論、いつものように生徒達三人は置いてきぼりだ。
マナがまたイライラし始めている。
「さて、全容を説明しよう。またツララを当てられたくないし。今回君達にはハーピィの町を守る為の防衛部隊に加わってもらう。出発は明日。先発隊は既に到着しており、魔法陣などを使って防衛陣地を設営している。君達はその最前線ではなく、ハーピィ達の住処を守ってもらいたい。万が一前線が破られた際には、彼女達の避難誘導をして欲しい」
「分かりました。具体的な避難方法はありますか?」
四人を代表してユウが答える。
「この防衛作戦の第一課題はハーピィの町を守る事だが、最も重要な課題はハーピィ達を護る事だ。住民がいれば町はすぐに立て直せるからね。避難先はこの学院。巨人族の目的は今のところ不明だが、手加減をした一度目の襲撃の後、そのまま居座ったり何か要求をするでもなく姿を消したところを見ると、次の襲撃があると推測される。巨人族を完全に押し返す事が出来ればベスト。しかしそれは難しいだろうね。だから頃合いを見て巨人族側との交渉を行わなければならない。彼らが何故、数多ある街の中からハーピィの住処を通る道を選んだのか?そして何故、何もしなければ素通り出来たはずの町を襲ったのか?それらも突き止めなければならない。私はね、今回の襲撃は気まぐれなどではないと思っている。必ず何者かの意図が働いているはずだ。あの組織のものか、はたまた別の人物か…」
「ベルジアント…?」
「ん?ユウ君、何か情報があるのかい?」
「はい。前回の任務の時、フレデリカさんが仰ってました。ベルジアント卿は巨人と人間のハーフなんだと。あの後個人的に調べてみましたが、ベルジアント卿は十二歳の時に帝国に渡ったそうです。そこから帝国軍の要職を務める名家の養子となったと。巨人族と意思疎通を図るのは容易ではありません。ですが彼ならば可能なのではないでしょうか」
「ナルホド…彼が一族をけしかけた…?だがそんな事をするメリットはないはず。ベルジアント卿が巨人族を自分達の仲間に引き入れたいのであれば、わざわざそんな目立つ事はしないと思うんだ。つまり、ベルジアント卿の思惑とは外れた何かが起こったとみていい。その件についても調査を進めて、何か分かったら君達にも報せよう。今日は出発の準備を整えて、明日の朝にこの塔の屋上で会おう。いいモノを君達に授ける。それで現地まで行ってもらうから、今回の交通手段は考えなくていいからね」
学院長室を出て自分達の部屋に向かう四人。
今回は騎士団を通しての任務という事もあり、服装は制服とローブだ。
その他の戦闘用の装備について確認をし、早々に眠りにつく。
翌朝、様々な事務室、職員室などがあるアカデミーで一番高い塔を、学院長室より高い屋上まで登っていく。
螺旋階段を延々と登り続け、彼方に目的地がある山岳地帯がはっきりと見える高さになった頃、屋上への扉が現れた。
重い鉄の扉を押し開けて、広い屋上に出る。
普段は屋上への螺旋階段自体が立入禁止になっている為、この場にはナオしかいなかった。
柔らかく風が吹く夏らしくない穏やかな晴天のもと、ナオが話し始める。
「みんなおはよう。よく眠れたかな?」
「ええ。少し緊張はしていますが…」
「なんだよユウ、緊張なんてしても良い事はねぇぞ?そんなもんここから投げ捨てちまえ!」
「バナーこそ、寝癖が付いてるわよ」
「あら、アサギこそ、いつものヘアピンがズレてるわよ?あなた達もまだまだね」
「いや、マナの忘れ物が一番多かったぞ」
「ユウ!!しーっ!!」
早朝だというのにギャアギャアと騒ぎ出す彼ら。
そんなやり取りを優しく見つめるナオが、頃合いを見て声を掛ける。
「さてみんな、緊張はほぐれたかな?これを受け取ってくれ」
ナオが掌に乗せていたそれは、長さ五センチ程の笛。
「ナオ先生、これは?」
「吹けば分かるよ。三つしか用意出来なかったからマナはユウ君と共用という事で」
顔を見合わせ、おずおずと手を伸ばす三人。
上部のストラップには紐が付いており、首に掛ける事が出来るようだ。
「準備はいいかい?よし、吹いて!」
大きく息を吸い込み、三人で一斉にその笛を吹いた。
広大な空に音が吸い込まれていった後、力強い嘶きが聞こえた。
しばらくして。
「お?なんだあれ?」
バナーが指差す方向の空に、何かが飛んで来るのが見える。
それは凄いスピードでこちらに近付いて来ていて、数秒のうちに目の前に姿を現した。
「これは、グリフォン!?」
「そう!よく知ってたねユウ君!でもただのグリフォンじゃないぞー?共和国の魔法騎士団の中でも、精鋭中の精鋭が騎乗する事が許される特別な血統のグリフォンだ。勇敢で強く、乗り手と認めた者の事は何があっても守り通す。ある程度の魔法は翼が弾き返すし、その爪は岩をも砕く。この子達はまだ育成途中で騎士団内に乗り手はいない。今回君達には特別な許可を与えるから、この子達を乗りこなしてくれたまえ。ハーピィ達の居住区に行くにはヒトの足では無理があるしね。目的地のハーピィ達の居住区はここから真っ直ぐ北。あのテルミナス山脈の中腹にある。まずはそこを目指して欲しい」
ナオが指し示す方角の遥か彼方に見える山脈。
共和国の北側の国境線にもなっており、その向こう側は環境がガラリと変わって極寒の地となっている。
そこに国は無く、国家間では暗黙のうちに無干渉地帯となっている。
「分かりました。先発隊の方達もそこに?」
「いや、そこに行くのは君達だけだ。女王に会えるのは限られた人間だけでね。私の直属の部下という事になっているから、くれぐれも粗相のないように。着いたらこれを見せて女王の元へと案内してもらうといい」
ナオが再び何かを差し出す。
「これは魔法騎士団の見習いが付けるバッジ。正式の騎士団員ではないが、それに準ずるものとして私がその身分を証明するものだ。これを見せればそれ相応の対応を受けるだろう。さてと、私の説明はここまでだ。あとはグリフォンに乗ってひとっ飛びしてもらうだけ。手綱を引けば彼らは思うように動いてくれるから、彼らを信頼してその身を預けなさい」
数歩下がったナオが、四人がグリフォンに騎乗するのを見届ける。
「では、行ってきます!」
「巨人族なんて俺がちょちょいとぶっとばして来ます!!」
「ハーピィの方達の安全確保も必ず」
「帰って来た時は、美味しいもの用意しておきなさいよ!」
それぞれの言葉でナオに別れを告げ、三頭のグリフォンは飛び立った。
力強い翼がしっかりと空気を掴み、荒々しい羽ばたきがその大きな体を空へと押し上げる。
あっという間に学院が遠ざかり、セントラルシティも遥か後方に。
北へ向かう空路に邪魔は無く、この空の旅は快適なものになるだろう。
さて、生徒達はというと。
「見てユウ!!建物があんなに小さい!あの森も!あの山も!世界ってこんな風に見ると全然違うんだね!」
「あぁそうだな。高い建物は色々あるが、空から見下ろすなんて事は普通出来ないもんな」
ユウの体に腕を回し、キャーキャーと騒ぐマナ。
悠久の時を過ごしてきた彼女でも、空からの眺めは初めてだったようだ。
パートナーであるユウも景色を楽しむ余裕が出て来たようだ。
マナの腕から伝わる体温に緊張はしているようだが。
バナーはずっと叫び続けているし、アサギは手綱を握る事に集中しているようだ。
二時間ほど飛行を続けたところで、行く手に町が見えて来た。
ちょうど昼時という事もあり、ユウが身振りで下に降りる事を伝える。
騎乗用とはいえグリフォンは魔物の一種。
混乱を避けるために町外れの林の中に降り、二人がグリフォンを見つつ、二人が昼食を買いに行く事にした。
買い出し班はユウとアサギ。
「ここは共和国の中で一番北にある町らしい。ここから西に行くとキャンプ場があって、そこに行く為の中継地点でもあるみたいだな」
「私達の世界の北の果て、ね。学院から見たらとても遠いと思ってたテルミナス山脈がもうすぐそこに見える。夕方には着けそうね?」
「あぁ。しかし、普段は馬にも乗らないからやっぱり疲れが溜まる。二時間置きに休憩しながら行こう。行くまでに疲れてしまったら、向こうで役に立てないからな」
「うん、賛成。あ、ねぇ見て!あのお店美味しそうよ!」
「おいちょっと待てよアサギ。引っ張るなって」
町自体は大きくないが、人が多く活気がある。
そんな賑わう町の通りを、二人一緒に買い出しをしていく。
待機班のバナーとマナは。
「おわ〜〜〜〜!ケツがイテェ!!あと腕!ウデガ!!」
「疲れてるんなら静かに待ってなさいよ。景色いいわよここ。あそこで待ってましょ」
「んー。そうだなー。あの二人もしばらくかかるだろうし、寝転がって待ってますかねー」
ポカポカ陽気の下、大きな木陰に寝転がって待つバナーとマナ。
燦々と降り注ぐ陽の光と、優しく吹き抜けるそよ風に髪を揺らされながら、束の間の休息を取る。
「なぁマナ?」
「ん?なに?」
「ユウとはうまくいってるか?」
「何よその質問。創世の天使とその契約者って意味でなら、この上なくうまくいってると思うわよ」
「そっか。ならいいんだ」
「え〜〜??気持ち悪い。悪いものでも食べた?」
「そんなんじゃないって。たった一人の親友としては、心配なんよ、あいつの事が。あいつは小さい頃に両親と死に別れてさ。親戚が運営してる養護施設に引き取られた。でも、そこら中で戦争が起きてるのは今も昔も変わらずでさ。あいつが入った時、あいつより年下のヤツしかいなかったんだと。だから、両親を亡くした境遇は変わらないってのに、弟や妹達の世話は自分がやらなきゃーってなっちまって。幼馴染とか同年代の友達もいたはずなのに、気付いたら誰とも遊ばないヤツになってた」
「へぇ…知らなかった…ユウって自分の事は話したがらないのよね。その理由がちょっと分かったわ。それで?心優しいバナー少年はどこで出てくるの?」
「よくぞ聞いてくれた!俺がこっちに来たのは九歳の時だ。俺の家の前に公園があってさ、そこで毎日毎日あいつと弟や妹達が遊んでるわけ。俺は家から出られなかったから、その様子を窓から見てた。ある日、かくれんぼをしてたあいつらのうちの一人が、俺の家の庭に入り込んで隠れちまった。公園の中だけってルールを堂々と破ってな。まぁ、小さかったからよく分かってなかったんだろう。そんで、公園全部探しても見つからないってんで大騒ぎになってさ。自警団に通報して街中を捜索するとか言い出してるワケ。見つからない当の本人はというと、俺が見てる窓のすぐ下で待ちくたびれて寝てんのよ。だから俺は庭まで走ってって、寝てるそいつを抱き上げて、家の門をこじ開けた。そのあたりでユウも気付いて、かくれんぼは終了。それからあいつらがその公園で遊ぶ時は俺も混ぜてもらうようになった。そんな感じ」
「ふーん。微笑ましいエピソードじゃない。でもあんた達って今までにいっぱいバカな事してそうよね」
「そりゃーもう!ユウが女の子に告白された時なんてもう…!ん?なんか首筋がヒンヤリするな…?」
「今すぐ土下座して謝るのと、首筋から矢を生やした物体になるのと、どっちがいい…?」
ズザァァァァ!っと地面をドリフトしながら土下座をキメるバナー。
「すぁーせんっしたぁぁ!!!このままじゃカッコ悪くてあの世に行けねーぜ!!」
「だったら他人の恥ずかしい過去をバラしたりするな!!」
「だってマナがさー!」
「早かったのねアサギ。これ美味しそう」
「マナさぁん!?」
「何やってんのよバカ。食べたら出発するわよ」
「はーい!」
その後もギャーギャーと騒ぎながら昼食を食べ終えた四人は、また北に向かって出発した。
町や村は見えないが、農家や畑などが点在しているので人は住んでいるようだ。
念の為に高度を取ろうとすると、グリフォンは自分でちょうどいい高度を見つけ、その高度に流れる気流に乗った。
「凄い。この子達、空気の流れが分かるのね」
そうして、グリフォンが気流に乗ったお陰で速度が増し、休憩を挟んでも予定より早く目的地に到着した四人。
テルミナス山脈を穿ち、築かれたハーピィ達の住処。
そう、ナオからは住処としか聞かされていなかった。
だが着いてみるとそこは、確かに国であった。
入り口は堅牢な門が立ち、数人のハーピィの衛兵が鋭い槍を持って警備している。
その門前にグリフォンで乗り付けた四人は、当然衛兵に囲まれた。
六人程のハーピィの衛兵に囲まれている。
槍の穂先は向けられていないが、油断はしていない。
そしてその中の、兜に赤い羽根を付けた者が一歩前に出て話しかけて来た。
「貴様らは何者だ。ここが我らハーピィの国と知っているのか?知らないかったのであれば今すぐ引き返して欲しい。知っていて来たのであれば、その目的を教えてくれ」
高圧的ではないが、拒否する事を許さない空気は存分に感じ取れる。
おそらく彼女はこの警備兵の隊長なのだろう。
全員でグリフォンから降り、代表してユウが説明を始める。
「不躾な真似をして申し訳ありません。我々は、ゼルコバ魔法騎士団長のナオ・ジークムント・アリステス閣下の命により、貴方達に味方するように言付かった者。どうか、貴方達の女王様に謁見させていただけないでしょうか」
「ナオ殿は確かに女王様の盟友ではある…ならば貴様らがその配下であるという証拠を示せ」
四人共がそれぞれの胸に付けていたバッジを見せる。
ゼルコバ共和国の紋章である欅の木が刻印されたそのバッジには、ナオ自らが一人一人の名前を刻んでいる為、偽造は不可能。
そのバッジを見た隊長が態度を改める。
「失礼致しました。我が国は訪問者を厳しくチェックする決まりな為、確認を怠る訳にはいかないのです。どうかお許しください」
そう言って深くお辞儀をする隊長と警備兵達。
ユウ達はその様子にかえって慌ててしまう。
「お顔を上げてください!現在の状況も含めてそうするのは当然だと思います」
「現在の状況についてもご存知なのですね。でしたら早速女王様の元へご案内致します。こちらへどうぞ」
衛兵に案内され、門をくぐったその瞬間、暗闇の中に浮かび上がる広大な街並みが一望出来た。
「うーおー!!すげぇー!!!」
「綺麗…!!」
光る鉱石が壁に埋め込まれていて、更にその鉱石を使用した街灯が至る所に設置されているようだ。
そこにはとても洞窟の中とは思えない幻想的な風景が広がっていた。
目を輝かせながら街中を歩き続け、この街の中心部に建つ荘厳な雰囲気のある建物に着いた。
その中は長椅子がズラッと並び、一番奥に一際豪華な玉座風の椅子が置いてある。
そしてそこに座る人物が。
その椅子の前に着くと、案内をしてくれた衛兵が礼をして脇に控えた。
そして。
「そなた達がナオの配下か。私がこのハーピィの国プレビニエンスの女王、ミサ・ウィステリアである。跪け!」
圧倒的強者の圧力をかけて命令をしてくる女王ミサ。
ユウとバナーはすぐに膝を着けたが、マナとアサギは立ったままだ。
マナはなんと腕組みなどしている。
「お、おい二人とも」
ユウが声を掛けるが全く聞いていない。
ピリピリハラハラとした空気の中、マナが口を開いた。
「アンタが援軍を寄越せって言ってきて、わざわざ来てやったっていうのに、その態度はなんなの?まずはお礼から入るもんでしょ」
「マナの言う通り。女王様なのは分かってるけど、それはこの国での話。私達はナオ先生から命を受けて来た者。それ相応の対応をするのが普通なはずよ」
全く引かずに女王に言い返すマナとアサギ。
しばらく、女性三人の睨み合いが続く。
そのうち、突然笑い出す者が二人。
クスクスと笑いながら、マナが同じく笑っているミサに言う。
「変わらないわね、ミサ。初対面の人にこのお芝居をするのも昔とおんなじ!」
「だってマナが来るってナオに教えられたんだもん!初めて会った時のこれ、やっておきたくなるじゃない!本当に久しぶりねマナ!」
玉座風の椅子から降りてマナに抱き着くミサ。
呆気にとられる男達二人と、ため息を漏らすアサギ。
キャイキャイと再会を喜ぶ二人を見ながら立ち上がったユウとバナー。
「ど、どゆこと?」
「最初から変だと思ったのよね。ここは女王の住む様な家じゃないでしょ?それに、街中にも王宮の様な大きな建物は無かった。教会の様なここを除いて、ね。あの椅子が置いてある場所も、おそらくいつもは祭壇が置いてあるんじゃないかしら。床に蝋燭の蝋が落ちてるし、今置いてある椅子を置くにしたらバランス悪過ぎる」
「あらあら。鋭い子ねー。その通りよ!私は女王を名乗ってるけど、それは便宜上のもの。そもそもハーピィじゃないしね。私がハーピィの子達を守る為に作ったこの洞窟の住処が、いつの間にかハーピィの国って呼ばれる様になって、そのせいで対外的なトップを立てなくちゃいけなくなったの。それで私が選ばれたってわけ!」
「まぁその辺の説明はおいおい聞いていくとして、今回の騒動の話を始めましょ?」
「そうね!てことで、私の家に行きましょう!」
そうしてゾロゾロと移動を始めた一行。
一瞬だけ高まった緊張感はどこへやら。
セクシーお姉さんのミサ・ウィステリアと、クール系美少女のマナがお互いの話で盛り上がっている。
そしてその後ろを、混ざりたくてウズウズする竹刀系女子一人と、ボンクラ男子二人が付いて歩いていく。
いかがでしたでしょうか。
ウィステリアは安直過ぎたかな。
でも響きがいいので気に入っています。




