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Fabula de Yu  作者: モモ⊿
一章-アカデミー -
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第九話-愛の飛び蹴り-

ユウ達がブルースカイ州の州都マリーを出て二日目。

毒に侵されたバナーを救うために、ナオの知り合いである医師が居る、カタミラ州のトライタン湖に向かっている。


昨夜は途中にあった町で一泊したが、皆一様に口数は少ない。

ムードメーカーであるバナーがいないというのは、やはり普段とは違う空気にしてしまうようだ。

だからこそ、常に一緒にいるユウ、アサギ、マナは勿論、会ってから日が浅いスカイとユリも、その存在の大きさを感じていた。


そんな夜が明け、二日目の道中。

宿を出てからもほぼ無言の車内を見かねて、後部座席のマナが、運転席のスカイに話し掛ける。


「ねぇスカイ?今日の昼過ぎには目的地には着けるんでしょ?」

「えぇ。ちょうど正午くらいになるでしょう」

「そう。それで、そのクロウって人はどういう人なの?」

「正直、僕もあまり知らないのです。ナオ様のお客様という事で、僕が在学中にも学院にはよくいらしてましたが、話した事は数回しかありませんし、それも挨拶程度です。僕はそのお姿を覚えていますが、クロウさんがこちらを覚えてくれているかどうか…」

ナオ(あいつ)…よくそんな程度で送り出したわね…!向こうがこっちを信じてくれなかったらどうするのよ」

「あ、それは大丈夫です。ナオ様が遣わした使い魔に、我々の情報を持たせてあるので、僕たちの様な一行が向かっているというのはご存知のはずです」

「そう。それならよかったわ。あとは解毒薬があるかどうか、ね」

「はい。クロウさんはこの世界でもトップクラスの医術の腕をお持ちです。治癒魔法も相当な使い手だとか。今の助手の(かた)達もとても優秀なんだそうです」

「ふーん。なら期待しても良さそうね」

「はい」


静まり返る車内の空気を感じ、どうでも良さそうな口調で会話をするマナ。

スカイも至って普通に言葉を返している。


しかし、他の三人の表情は暗いままだ。

それを見かねたマナは、小さい溜め息をし、次いで大きく息を吸った。


「…まったく…スカイ!!」

「はい!?」

「窓を全開にしなさい!!」

「えぇ!?」

「早く!!!!」

「はいぃ!!」


言われるがまま、車の窓全てを全開にするスカイ。

全ての窓から猛烈な風が車内に吹き込み、全員の髪やら顔を乱暴に撫でていく。

たまらず助手席のユウが窓を閉め始め、マナに向かって文句を言った。


「マナ!突然どういうつもりだ!」

「どうもこうも無いわよ!みんなしてバナーが死んだみたいな表情(かお)しちゃってさ!!わたし達はあいつを助けに行くんでしょ!?それなのに希望を待たないでどうすんのよ!!」

「いや、そんなつもりはなかったんだが…」

「だったら表情を改めなさい!アサギも!ユリも!あのバカの目を覚まさせるんでしょ!!」


突然、凄い剣幕で名前を呼ばれたアサギとユリ。

そして共に過ごすようになってからの数ヶ月で初めて怒りを露わにするマナの様子を見るユウ。


三人ともポカーンとマナを見つめていた。


「な、何よ!黙ってないで何か言いなさいよ!」

「…いや、マナ。マナの言う通りだ。必ず助けるという気持ちだけが先走って、それがプレッシャーになってしまっていた。こんなんじゃ、アイツに笑われるな」

「…ふぅ。そうね。こんな顔見られたら指差して笑うわよ、アイツ」

「そうよ!あのバカに笑われる事以上にムカつく事なんてある!?」

「無いな!」「無いわ!」

「そ、そんな同時に言わなくても良いんじゃないの二人とも」

「いいえ、ユリはまだアイツのあの顔を見た事ないからそんな事言えるのよ!あの顔ホンットにムカつくんだから!!」

「へ、へぇ〜…」


マナの勢いに引き気味なユリ。

それを見て、ユウもアサギもスカイも可笑しくて笑い出してしまう。

そんな三人を見て、拗ねたように窓の外を見るマナ。

だがその唇の端が上がっていた事をみんな知っている。


その後は、マナのおかげで新鮮な空気が流れ込んだのが良かったのか道も順調に進み、予告通り昼過ぎに到着した。



「なんだこれ…戦闘の跡がたくさん…」

「何かあったみたいね。クロウさんは無事なのかしら」

「行ってみよう」


急ぎ足になりながら、駐車場から診療所へ向かう一行。

目的の診療所の前にサングラスをした男が座っているのが見える。


「…今日は休診なんだが、診療所(ここ)に何か用か?」

「はい。クロウ先生はいらっしゃいますか?」

「いるよ。今忙しそうだから約束があるなら紹介してやる。名前は?」

「あ、はい、私の名前は…」


「クロウ先生なにやってんのー??」

「バカ、サザナミ、黙ってろって!」

「なんでよヨシキリー!先生なにやってんの??」

「説明するからとりあえずこっち来て!!」


「…」

「…」

「…えっと…」

「…」

「クロウ先生…ですか?」

「…ヒトニ…」

「えっ?」

「人に名前を訪ねる時はまず自分から名乗れ!!」

「はいっ!!失礼しました!!私の名前はユウ!!友達を助ける為に解毒薬を受け取りに来ました!!」


恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしながら指をメスに変えてユウの首筋に突き付けるクロウ。

その剣幕に押されて素直に全てを話したユウと、その一連の流れを見ていた他の面々。

診療所の裏からはサザナミとヨシキリの言い合う声が聴こえてくる。



「まったく…妙な連中に襲われかけたから警戒してたのに、バカのせいで台無しだぜ」

「あの戦闘の跡はそのせいですか?」

「あ?あぁ、見たのか。殆どはうちの助手の二人のせいだがな。返り討ちにしてやったし、俺達は無事だ。お目当ての薬もな」

「良かった…」


安堵の表情を浮かべるユウ達。

クロウが話を続ける。


「薬は無事だ。()()()()()()()()

「ここにある分…では僕達はどこへ行けばいいですか?」

「…察しのいいガキは嫌いじゃないぜ」


ニヤリとしながら経緯を説明するクロウ。

クロウ達による解析で、三種類の解毒薬を用意すればいいと分かった。

だがこの診療所にある解毒薬はその内の二種類。

残る一種類を、ここから少し離れた街の中心部にある、薬学研究所に取りに行かねばならない。

その研究所はクロウが懇意にしているところで、足りない薬品の補充を、いつもそちらに依頼しているそうだ。

今回もクロウの名前で薬が必要だと伝えてあり、更にクロウ本人も一緒に出向くという事もクロウから伝えられた。


「何から何まで、本当にありがとうございます…!このお礼は必ず」

「フン、ガキがつまんねぇ事を気にすんな。報酬はナオの野郎からたんまりふんだくってやるからよ。行くぞ」


白衣ならぬ黒衣を翻して歩き出したクロウ。

助手だと紹介された二人がその後に続く。


二組に分かれて車で移動する。

十分ほどで大きい街中に入る。

そして見えてきた、いくつもの建物と、それを囲む長くて大きな塀と、門。


ゼルコバ共和国立薬学研究所。


それがこの研究所の正式名称である。

研究内容などにより細かく建物が分かれており、クロウはその広大な敷地内を迷いなく進んでいく。


やがて着いたその建物は、数々の建物の中で一際警備が厳重だった。

その物々しい雰囲気に気圧されたユウ達にクロウが説明する。


「ここにお目当ての解毒薬がある。ただし、解毒薬ってのは対象である毒が無いと研究のしようがねえ。分かるな?」

「解毒薬と一緒に、毒も保管されている…?」

「その通りだ。しかも大量に、な。中に入るのにも、外に出るのにも、何重にもあるセキュリティーを抜けないといかん。ま、ちゃんとした許可があればすんなりいくけどな。今回は俺も一緒だから問題は無い」


その言葉通り、何人もの魔法警備員が守るセキュリティーゲートを難なく通過していくクロウとそのお供達。

ゲートや周りの警備員達により、クロウが魔法で操作されていないか、爆発物などを所持していないかなどが検査され、途中の小部屋で肉体に掛かる全ての魔法効果を打ち消すマジックキャンセラーを浴びせられ、最後の部屋で嘘発見器にて訪問の目的を質問された。

入口から最後の部屋を出るまででニ十分程かかった。


「いつもなら俺一人だからもっとすんなりいくんだがな。今回は大所帯だし、厳重にならざるを得ん。帰りも同じように、申請書に書いてない余計な物を持ち出していないか厳しくチェックされる。最後までちゃんと俺に着いて来てくれ」

「分かりました。よろしくお願いします」


クロウの後に続きながらユウ達は頷いた。


「あのねあのね、クロウ先生がこの街を離れられないのはね!」

「サーザーナーミー?お前次に余計な事喋ったら声帯機関ぶっ壊して二度と喋れなくしてやんぞ〜?」

「サザナミ、ダマル」


セキュリティーチェックを終えて、長い廊下を進んでいく。

一際大きな部屋の前で立ち止まったクロウ。

スライドドアには劇薬保管室と書かれている。


室内の受付で解毒薬の持ち出しの為の申請書を手渡す。

受付は横にズラッと十五人程並んでおり、訪問者はそれより奥には進めない。

申請書を提出したら、自分の順番を待つだけでいいらしい。

室内には多くの研究者と、医療機関の関係者らしき人が多くいるが、それよりも多くの警備員が常駐し、怪しい動きをしている者はいないか目を光らせている。


「今日は混んでるな…」

「そうなんですか?」

「あぁ。あまり長居したくないんだが。見つかると面倒な奴がいるもんでな…」


疑問符を浮かべてクロウを見つめるユウ。

ちょうどその時、室内に入って来た女性を見たクロウが、ゲッと声を出した。

それと同時に女性から顔を逸らし、目が合わないように隠れようとしている。

その女性はまだこちらに気付いていない。


「お疲れ様〜。これよろしく〜」

「お疲れ様です。かしこまりました、少々お待ちください」

「はいはーい。ん?んんん?」


受付の人に返事をしつつ、室内をグルリと見渡したその女性は、壁際で小さくなっている黒衣の男を発見した。


「あれー?クロウじゃーん!ちょっとー!久しぶりー!!ていっ!!」

「どわっ!?あぶねーから飛び蹴りはやめろって言ってんだろうが!わざわざ隠れてんのに見つけやがって!」

「いや、さすがに白い壁の部屋で黒衣で隠れるのは無理かと…」

「うっせーヨシキリ!」

「おー!ヨシキリもサザナミも元気そうじゃーん!」

「相変わらず声がでけーんだよユーリ!」

「へへーん、それがアタシの取り柄だかんね!今日も元気いっぱいだぜ!クロウはどお?」

「あ?あぁ元気だ元気」

「あれ、ちょっと傷付いてない?また戦いでもしたの?」


そう言いながら、ユーリは自分の顔をクロウの顔に思いっきり近付ける。


「ちけぇわ!離れろ!」

「クロウの外装は流体金属だから傷なんてすぐ消せるけど、アタシには分かるんだかんね。無茶しないでよ」

「わーかったから離れろって。おいヨシキリ、解毒薬はまだか?」

「まだみたいですね」

「チッ。外で待ってるから、受け取ったら教えてくれ」

「分かりました」


そう言って出て行くクロウ。

その後を付いていくユーリ。


「何で付いてくんだよ!自分の仕事はどうした!」

「いいじゃんべつに〜。最近会ってなかったんだからアタシの話聞けよ〜」

「分かった分かった。じゃあむこうの…」


賑やかな声が室外に出て行き、室内がまた静かになった。


「ヨシキリくん、ユーリさんとクロウさんはどういった…?」

「ヨシキリでいいですよ、ユウさん。彼女、ユーリさんはこの薬学研究所の技術部門の統括責任者です。三年前、リィンバースの崩壊の日。僕達二人はクロウ先生に助け出されました。ですが、アンドロイドである僕達の身体は色々あって大きく損傷していて、それを直してくれたのがユーリさんなんです。僕達が真に生まれたのは、ここでユーリさんに修復され、クロウ先生にヨシキリとサザナミという名前を付けられた、あの瞬間です」

「ボク達の誕生日なんだ〜」

「そう。ユーリさんとクロウ先生はそれより以前からの知り合いだったんです。統括責任者になる前はよく診療所に入り浸っていたそうですし、おふたりの仲の良さはこの研究所でもよく知られていますね。つまるところ、クロウ先生もユーリさんも、僕達の命の恩人なんです」

「クロウ先生がこの街を離れられない理由はユーリさんがいるからなんだよ!」

「サザナミ!それさっき止められたのに!」

「あっ!!!」


口を滑らせて慌てふためくサザナミ。

その様子を見て、やれやれと首を振るヨシキリ。

その表情や仕草は、とてもアンドロイド(造られた人間)には見えない。

彼らにはもうアンドロイドという認識が当てはまらないのだろう。


賑やかに待ち時間を過ごしていると、受付の人がクロウの名を呼んだ。

ヨシキリとサザナミが飛んでいき、代わりに薬を受け取った。

何度も一緒に訪れている為、クロウの代理人として認められているのだという。


「これで解毒薬三種類が揃ったのね。クロウ先生の診療所にあと二つがあるから、それも合わせて持ち帰らないと」

「でもアサギ、肝心のクロウ先生がどこにいるか分からないわよ?」

「うん、それは私も思い至ったとこ…」

「ボク達が呼んで来ます。皆さんは車の前でお待ち頂けますか?」

「分かった。ありがとう、ヨシキリ」

「はい」

「はーい!」


元気に駆け出すヨシキリとサザナミ。

ユウ達は駐車場へと向かった。


駐車場で待つ事数分でクロウ達四人が来た。

来た時と同じ様に二台の車に別れて乗り込む。


「じゃあなユーリ。機材とか器具を壊さずにちゃんと働くんだぞ」

「分かってるって!まだ今月は試験管三十本しか割ってないもん!ヨユーヨユー!」

「さんじゅう…じゃあ今月の割った本数が五十本を下回ったら何でも言う事聞いてやる。分かったな?」

「ヤッター!!じゃあ映画に連れてけー!ロマンスよりホラーがいい!」

「あー分かった分かった。じゃあ行けるように頑張れよ!じゃあな!」

「よっしゃ〜!頑張る!またなー!!」


飛び跳ねながら両腕を振るユーリに別れを告げ、ユウ達はクロウの診療所へと戻って来た。


「ほらよ、コレが残りの二種類だ。組み合わせ方はこのメモに書いてあるから、薬草学の知識がある医者に見せて、正しく調合してもらえ。それを飲めばすぐ目を覚ますだろう」

「何から何まで、本当にありがとうございました。あいつ(バナー)は俺達の大切な仲間なんです。クロウ先生がいなかったらと思うと…」

「よせよせ。最初に言っただろ?礼はナオの野郎にしてもらうから気にすんなってな。ほら、とっとと行ってやれ。早い方が良いに決まってんだからよ」

「はい!ありがとうございました!!お世話になりました!!」


ユウ、アサギ、マナ、ユリ、スカイ。

五人が揃って頭を下げてお礼を伝える。

クロウはそっぽを向いて、シッシッと追い払う様に手を振っているが、それが照れ隠しである事が分かるくらいには、このクロウという人物の事が分かっている五人なのであった。


スカイが運転する車はカタミラ州を出発した。

研究所で時間が掛かったという事もあり、既に陽は落ちて満天の星空が広がっている。


昼に着いて夜に帰途につくという強行軍だが、クロウが言った通り、早く届けるに越した事はない。

バナーが目を覚ました様子を思い浮かべ、なんとなく全員がニヤニヤしている。

その期待通りになる事を信じて。





「やっと帰ったなぁ!静かにコーヒーが飲めるってもんだぜ」


診療所の入り口にあるウッドデッキで、待合の為のベンチに寝そべってコーヒーを飲んでいるクロウ。

今はサザナミもヨシキリも近くにはいない。


「あいつら…自分では隠せてるつもりだったみたいだが、焦ってるのが丸わかりだったな。ま、人との(えにし)は必死にならないと簡単に切れちまうもんだ。俺とは違って、あいつらはまだ切らさないでいられるようで良かったな」


ニヤニヤしながら独り言を言うクロウ。

だがそんなクロウに声を掛ける者がいた。


「まったくだね。忙しくなると保ち続けるのも大変だし、ましてや国が崩壊したらもう、ね」

「テメェは…!」



静かな湖畔に訪れた、この先の激動を予感させる再会の機会。

果たしてその再会が意味するものとは…。

お待たせして申し訳ないです。

これからも月イチくらいのペースで更新したいと思います。


次回、あの漢が目覚めます。

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