片想いのススメ
アタシね、
高校生の頃から、憧れているひとがいるの。
Kさん、っていうんだけど。
20歳位年上のひと…… ふふふ
そんだけ歳が離れているから、
恋愛対象って感じじゃなかったなー
アタシにとっては、
んもー!
「雲の上のひと」だし!
近くに来られちゃ困るわけね。
面と向かってはいけないのよ。
緊張するし、どうしていいか分からなくなっちまうから。
でも、
すっごく好きだし、
憧れているから、
アタシの夢は、
「そのひとの家政婦になる!」なの!
え?
もちろん、いまでもそう思ってるヨ。
コイビトやオクサンになっちゃったら、
ひょっとしたら、
別れる事になるかもしれないけれど、
家政婦ならそんなことないじゃない?
ずーっっっと、
Kさんのお世話をできるわけじゃない?
そんないい立場はないよ!
ハタチくらいの頃、
アタシ、ホテルで働いていたの。
そのホテルにはね、
Kさんはちょくちょく来ていたのよ。
でも、
アタシは一度も!お見かけしたことがないの……。
いっつもニアミスで……。
その時のアタシは、
そのホテルの中のレストランで働いてる事が多かったのね。
でね、
ある日、
Kさんの秘書がレストランに来ていて、
注文されたものをアタシが持って行ったら、
「おっ、今日は口紅をつけてるんだねー!」
って言うのよ。
「いいえ、つけてませんけど。」
「えっ、どうしてよ、ボクが来てるっていうのに!」
「つける必要ないと思います。」
真顔で言ってやったわ。
「じゃあ、誰が来る時にはつけるの?」
「そうですねー、
Kさんだったら、つけますねー。」
「へぇー。
Kさんのこと好きなの?」
「ええ、好きです、高校生の頃から憧れているんです!」
「へぇぇぇーーー。
じゃあ、手紙を書きなよ。
ボクが持って行ってあげる。
きっと返事をくれるよ。」
……、って秘書が言うもんだから、
アタシは手紙を書き始めたの、フロントで。
それがさー、
その秘書がね、
アタシが書いてるのを目の前でジッと見てるわけよ。
待ってるのよ、アタシが書き終わるのを。
だもんだから、
落ち着いて書けないし……。
しかも、きったない字でさあ……。
アタシにしてみたら、
辞書を引いて、字を調べながら書きたかったのに……、
ひらがなの多い手紙になっちゃって……。
きったない字で……。
でも、
秘書が、
飛行機を一本遅らせてまで待っていてくれたから、
いっそいで書かなくちゃ……! と思って……。
書いたよー、きったない字で……。
で、
秘書に渡して。
「きっと返事くれるよ!」
と、
秘書は去っていったわけ。
ところが、
待てど暮らせど、
Kさんからの手紙は来ないわけ。
どういうこっちゃ!
あの秘書、ちゃんと渡したのか!
と思っているうちにアタシも期待しなくなって、
忘れてしまってた。
で、
その年のクリスマスイブ、
アタシは仕事が休みで家にいたんだけど、
職場から電話がかかってきたの。
「なんか郵便が届いてるよ。」
「郵便? 明日、会社に行ってから見るからいいよ、置いといてー。」
「それがさ……。
これ、たぶん、Kさんからだと思うんだよね……。」
「いますぐいくっ!」
って、
いっそいでホテルに走ってさー。
「ほらこれ。」
って差し出されるのを、
「触らないで! 触らないで!」
って…… アハハ
封筒にKさん個人の名前は書いてなかったけれど、
Kさんの会社の名前が書いてあったの。
封を開けて、
早く中を見たいんだけど、
封を切るのがもったいなくてさあ……。
それでもやっと、
端っこを、ほそーーーーーーく切ったよ。
うすーーーーく、チョコーーーッっとだけ。
で、
みんなから隠れて、
こっそり見たの。
「アタシのなんだから、見せないよ! 減る!」
って言いながら。
封筒の中身は、
残念ながら、
文面は手書きではなかったけれど、
署名のところだけ手書きでね。
あ、でも、
手書きではないけれど、
内容は、
手紙を送った誰もにでも返すようなありきたりな文じゃなくって、
明らかに、
アタシに向けての文だったよ〜
それ以来、アタシね、
年一回、
自分の誕生日にだけ、
その手紙を読み返すの…… ふふ
そう、その時からいままでずっと。
かれこれ、20年近くになるかな?
そうそう、年一回だけ。
自分の誕生日にだけ。
ウン、誰にも見せたことないヨ。
あれは棺桶にいれてもらわないとナーー
……、
って、
この話で、
ご飯三膳はいけるな、アタシ。
そう愉しげに呟くと、
彼女は、
あったかいストーブの前で眠る猫のような、
満ち足りたまなざしで、
「おかわり!」
と言った……☆
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↑友の実話を、
チョットだけ変えて。
だって、
そのまま使っていいよー、って言うんだもん。
ごちそうさまでした!