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第5文 暴風暴君姉貴注意報

 ピピピ……ピピピ……


「……ねむ」


 スマホのアラームで目が覚める。色々と試したけど、この面白味もない目覚まし音が一番起きやすい気がするのよね。


 ピピピ……ピピピ……


「あーうるさいうるさい」


 どこぞのツンデレ少女が言いそうな事をめっちゃ棒読みで言いながら、スマホのアラームを止める。


(何でこんなに早い時間にアラームを設定したんだっけ……)


 現在7時。休日はほぼ12時まで寝ている身からすれば、勲章ものの早起きだ。


(……そうだ。今日は風波かざなみと遊びに行くんだった)


 掌でスマホを転がしながら頭を働かせる。今眼を閉じればすぐにでも二度寝が出来る自信がある。


(あぁ、風波……僕は疲れたよ……)


 起きたばっかとか、そう言う野暮なツッコミはいらない。


『ケケケ、寝ちまえ寝ちまえ。後の事なんて忘れてさ』


 おおぅ、悪魔の囁きが聞こえる。と言う事は、天使も現れるか?


『いけません。約束を破るなど、人としてあるまじき行為です』


 おうおう、ちゃんと天使がおいでなすった。でも、こう言った天使って、大抵気弱かゲテモノ何だよね。今から眼を瞑ろっかな。


『……オマエ、羽が赤いな……』


 血でコーディングしたんじゃないかってくらい赤い天使が現れやがった。かなりのゲテモノ来ちゃったよ。悪魔が引くレベルとか相当だな。


『ここで眠りにつけば、風波さんが突撃して来て、ここでパーティーを開く事になりますよ』


『それは非常に困るな……なあ、起きた方が良いんじゃねーか?』


 悪魔を説得しちゃったよ。この天使ゲテモノだがやり手だな。ニュータイプか? 敵になった時が恐ろしい。


『では、役目を終えたので私はこれで』


 有無を言わさず消える天使。これは強者ですわ。いつの間にか悪魔も消えてるし。


「……起きよ」


 このままだと頭のおかしい人になりそうなので、ひとまず顔を洗って眠気を覚まそう。

 転げ落ちるようにベットから降りて洗面所へ向かう。階段踏み外しそうになったあぶねえ。

 洗面所に着き、冷水で顔を洗う。水を勢い良く眼に入れて、更なる刺激で眠気を覚ますのが荒木流。


「アンタがこんな時間に起きるなんて、珍しい事もあるものね」


「……姉貴」


 いつの間に僕の後ろに立っていた姉貴――荒木涼華あらきすずかが、怪訝な顔をして僕を見ていた。


「姉貴こそ、いつにも増して早いじゃん。もしかして、朝帰り?」


 バコッ!


「頸椎……頸椎が……!」


 僕の首に姉貴の鋭い手刀が入る。ねぇ、大丈夫これ。風波に謝って病院に行った方が良い?


「馬鹿な事言ってると、次は落ちるわよ?」


 おいおい、ギロチンの刑はちょっと洒落になりませんよ? 姉貴だと余計に。


「ほら、終わったんなら早くどきな。後が支えてるんだから」


「へいへい」


 姉貴と場所を交換するようにして、僕は洗面所を後にする。別の意味で寝る羽目になりそうだった。

 その後、適当に朝食を済ませた僕は、自室に戻って着替える。これと言っておしゃれをしている訳では無いので、取り敢えずおかしくない格好にしておいた。

 手短に身支度を済ませて今度は玄関へ向かう。途中、再び姉貴に出くわした。


「どっか遊びに行くの? 陽一よういち君と?」


「そんなとこ」


 適当に嘘をつく。ここで女と二人で遊びに行くと知られたら、野次馬となって騒がれるのが眼に見えている。面倒事はゴメンだぜ。


「なら、私も一緒に行って良いよね? 朝早く起きたのは良いけど、やる事無くて暇なのよね」


「……えぇ?」


 こいつは予想外ですよ奥さん。まさかこの展開で僕を困らせるとは。流石は姉貴だ。僕を苦しめる事においては他の追随を許さない。てか、何もないなら寝てろよ頼むから。


「……寝てれば良いじゃん」


「今更寝てもねぇ。別に良いでしょ? 陽一君とは何度も遊んでるし」


「良くないから断っとるんじゃ」


「何で。理由でもあるの?」


「…………」


 どうするよ? ここで正直に話しちゃう? 空気読んで大人しくはなるだろうが、後が面倒だなぁ。


「……ほら、姉貴も二十歳近いだろ? 彼氏出来た事ないんだし、ここらで男掴まえないと、三十路まで見つからない悲惨な結末に……」


「てや」


「おぶっ……!」


 僕の鳩尾に姉貴の正拳突きがめり込んだ。このアマ、可愛い発音してやる事がえげつない。気絶しなかったけど、このまま寝て良いっすか?


「アンタぁ触れちゃいけない所に触れちゃったねぇ。そうやってぇ地雷を踏み抜いていくとぉ、いつか死ぬわよぉ」


 どっかの占い師みたいな事言いやがって。


「もう死にそう……」


 何で朝から死にかけなきゃならんのか。僕は今日風波に会えるのか?


こうのせいで、どうでも良くなっちゃったわ。今日は家でゆっくりしてよっと」


 荒らすだけ荒らして暴風が去っていく。最初っからそうしてろよ。


「あーくそ、いてえな」


 しかし、何だかんだあったが姉貴が来なくて良かった。これで姉貴を相手にするとなれば過労死直行だ。

 溜息一つこぼしてから玄関を出る。今日は前みたいにすっぽかす訳にも、遅れる訳にもいかんのだ。






「……あれ?」


 待ち合わせ場所である最寄り駅の前に着いた僕は、思わず素っ頓狂な声を上げた。

 スマホで時刻を確認する。現在8時31分。待ち合わせの時間は9時で、30分前には着いたのだが……。


(……もう、風波がいる)


 駅前の円形花壇の近くで、一際眼を引くポニーテールの少女が立っていた。あれ、もしかして、待ち合わせの時間間違えた? やらかしてしまいましたかね?


「あ、康! 早く来たのだな!」


「早くって……風波の方が早いだろ。待ち合わせの時間って、9時で合ってるよな?」


「そうだぞ?」


「いや、何でこんなに早いねん」


「今日が楽しみすぎて、待ちきれなくてな。良いじゃないか。結果的には30分長く楽しめるぞ」


「いやいや、僕が時間ギリギリに来たらどーすんだ」


「別に構わないよ。君に逢えるまでに比べれば、ちょっと待つぐらいどうって事ない」


「……そりゃ、まあ、どうも」


 何か返事に困るな……。こんな真っ直ぐな感情は今まで受けてこなかったし。よくもまぁ、恥ずかしくなる台詞をキッパリと言えるな。


「しかし、ちょっと残念だな」


「何が? 僕の服装?」


 やっぱ、この服装はマズかったかなー。素敵な私服姿の風波と比べると、お前何しに来たのって感じだ。


「いや、とても似合ってるぞ」


「……うん」


 これ褒められてるんだよなぁ……。


「もし、康が遅れてくれれば君の家にお邪魔出来たのになって、そう思ってな」


「それはマジで勘弁な」


 猛獣に餌を与えてはいけない。自宅が憩いの場で無くなったら、僕はどこで寝れば良いのか。


「取り合えず隣町に行こうぜ。ここで話し続けても始まらんだろ?」


「む、そうだな。……いや、待ってくれ、康」


 風波が歩き出そうとした僕の手を握って引き止める。


「ん? 何か忘れ物?」


「いや……その、だな……」


「…………?」


 言い淀む風波の姿にちょっと珍しさを覚える。何か顔紅いし、もしかして、風邪でも引いてデートを取り止めたいとか?


「……どうだろうか? 私なりにお洒落をして来たつもりなんだが……」


「……あぁ」


 そう言う事? 自ら訊きに来るとは、中々積極的ですな風波さん。


「良いと思うよ? 動きやすそうでっ!?」


 何故か仏頂面で額を叩かれた。あれ、僕ちゃんと褒めたよね?


「康、君はおめかしした女子おなごが機動力を褒められて喜ぶと思ってるのか? 私はスト○イト・クーガーか?」


「いてて……大丈夫だ風波。ちゃんと速度は足りてるぞ」


 恐ろしく速い手刀。僕でも見逃しちゃうね。すんでの所で速度を落としていて優しさも感じますぞ。


「…………」


 無言の圧力が僕を襲う。まあ、確かに似合ってるんだけどさ。それをさらっと言えるほど僕はプレイボーイじゃない。


「……そう言う所はあの時から変わってないのだな」


「いや~、面目ないね」


「良いさ、君が思わず言ってしまうような女に私がなれば良いだけだ。余裕を見せられるのも今の内だぞ?」


 挑戦的に風波は笑う。これ素直に感想を言った方が良かったかな……何されるか分かったもんじゃないぞ。


「それじゃ行こうか?」


「あぁ……お手柔らかに」


「それは私基準か?」


「僕基準でお願いします」


 切実に。

 そんなこんなで会話しながら駅の中に入った僕と風波は、ベンチで座り続ける事を余儀なくされた。

 電車行っちゃってるやん……。

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