第2文 女教師で担任は大体強い方式
さっそく&いきなり小説のタイトル変えました。これでもまだ仮タイトルなので、まだ変更するかもしれません。いっそ仮のまま行くか。
「風波彩月。ここ照丘高校の一年生。性別は女。俺らと同じクラスの生徒。出席番号9。文武両道才色兼備。武人みたいな人だが可愛い物に目がない。座右の銘は当たって爆ぜろ。髪は藍色だが生粋の日本人。地毛らしい。スリーサイズは上から……」
「裁判長裁判長。聞いちゃいけない所に行ってる気がします」
「んじゃ、はしょってEだ」
「おいこら」
明かりがついていない教室。僕と悪友の高良陽一は、朝早くから登校していた。眠たい。
「性別問わず周りからの評価は高い。特に男子からは絶大な人気を誇っているな」
「ほーん」
何度目か分からない欠伸をしながら、僕は適当に相槌を打つ。外は良い天気だなぁ……。授業中気持ち良く寝れそうだ。
「で、次。被告人、荒木康」
「ふぁい?」
いつの間に僕は被告人になってるんですかね? 裁判長。
「ここ照丘高校の一年生。性別は男。俺と同じクラスの生徒。以上、他に特記する事無し」
「まるでモブキャラの紹介みたいじゃないか」
「そうだぞモブ男君」
「黒板と同棲生活するか?」
眠くてもやる時はやりますよボカァ?
「さて、被告人である康は、昨日放課後に人気優等生の風波から告白をされた」
「そーだねー」
「よって、火炙りの刑に処す。異論は認めない」
あれ、審議はスキップ機能付き?
「裁判長。弁護人を要求する!」
「却下だ。ここには弁護をしてくれる役がいない」
「なら、僕が一人二役で……」
「うるせえ黙れ陽一ファイアー!」
「うわあっつ!」
どこからか取り出したスプレーとライターによる即席火炎放射器が僕に放たれる。躊躇いなくやりやがったこの野郎!
「テメエこら! 僕の髪をアフロにする気か!」
「全世界の彼女いない者の怒りと憎しみがこもった業火をとくと味わえ!」
知るかそんなん!
「らぁ!」
「うおっ!?」
近くにあった誰かの椅子を、陽一の両手に向けて投げつける。狙い通り、即席火炎放射器を世紀末と化した裁判長から離れさせた。
「って~。被告人の分際で裁判長に楯突くたぁ、囚人になる覚悟できてんだろうなぁ?」
「あー上等だ。下克上してやんよ」
猟奇的ラジオ体操の始まりだ!
「……で、異論はあるか? 囚人共」
「「いいえ、異論など滅相も御座いません。矯正監」」
「宜しい。その言葉に免じて土下座から正座になる事を許す。顔を上げろ」
「「イエス、マム」」
矯正監のありがたいお言葉に僕と陽一は顔を上げる。正座のまま見上げると、キリッと整った大人の顔をしかめっ面にしてこちらを見下ろす女性が立っていた。ただ眉間に皺を寄せて見下ろしているだけで、この眼力この威力。視線だけで人を殺せそうだな、この人。
「囚人A。次失礼な事を考えたら、快楽的な教育をしてやろう」
「お慈悲を、矯正監。この哀れな囚人めにどうかお慈悲を!」
でなきゃ心臓止まる。
しかし、人の思考を読めるとは……恐るべし、我が担任よ。
「さて、囚人もとい荒木と高良。周りを見てみろ」
僕らの担任……九重瑶恵先生の命令に従い、辺りを見渡した。
――未来を担うであろう生徒の学び場であるこの教室。
健全で清潔に整った空間は、面白味が何一つありません。
快楽に飢えている高校生達から不満の声が上がります。
『つまんねー』
『サボりの場をプリーズ』
『寝心地の良い環境を』
我儘で鬱陶しい生徒達の為に、匠が一肌脱ぎます。
無駄に整えられた机と椅子。規律に縛られた印象を抱かせるオブジェクトを、匠の技で気の向くままに乱雑に。
何と言うことでしょう。飽き飽きする教室が、匠の手により、まるで玩具箱のようなワクワクさせる雰囲気に。
更に、匠の粋な計らいにより、机の中にある物を全てぶちまけて、単色の床をカラフルに仕上げます。
これからは、生まれ変わった教室で、活き活きと勉学に励む事が出来るでしょう――。
(ナレーター:九重瑶恵)
カチッ、と九重先生(通称タマチャン)が、劇的アフターさせた匠を称える曲を流していたラジカセの停止ボタンを押す。懐かしいもん持ってますねタマチャン。
「タマチャン……あんまし上手く無かったっすよ」
陽一が微妙な表情で感想を述べる。曲も半音ずれててパチモン臭してたしな。
「当たり前だ。番組を見ていないからな」
見てないのかよ。何でやったんだよ。無駄に長くて僕達も読者も飽き飽きだよ。
「さて、簡潔に述べると、教室が無法地帯となった訳だが」
半分以上こんな風にデコレーションしたのタマチャンだけどね。
「荒木、高良、朝のチャイムまでにこれを何とかしておけ」
「……これを二人で元通りにしろと……?」
ははは、まさか……聞き間違いですよね? ですよねタマチャン!?
「ちょ、タマチャン! チャイムまでに俺らでこれ直すの無理だって! つーか、この惨劇の半分以上タマチャンじゃん!」
「悪いが、私は二日酔いで気分がすこぶる悪い。手伝っても良いが、匠の秘技を見たいと?」
どうやら、タマチャンを働かせると、この荒地に酸味を味付けする羽目になるようだ。無法地帯が地獄にランクアップする瞬間を間近で見るのはやだなぁ。
「……平日なのに、何で二日酔いしてんですか」
今でも疑問に思うんだけど、アンタ教師だよね?
「職員室で飲み会があってな……羽目を外しすぎた」
「今聞き捨てならない単語が聞こえたんですけど……」
開催地職員室? この学校は居酒屋かなんかか?
「とにかく。片付けを宜しく頼む。チャイムまでに終わらなかったら、酔拳と甘酸っぱい液を口移しで飲ませるから、そのつもりでな」
頭を抑えながらタマチャンは唯一生還している教卓に頭を乗せ、そのまま安らかな眠りについた。
「……勝手な人だな……ホント」
こっちまで頭が痛くなってきそうだよ……。
「……やりますか」
「……そーですね」
意気消沈しながらも僕達は劇的ビフォー作業に取りかかった。酔拳はともかく、酸味の効きすぎた口づけとか勘弁願いたい。
「そう言えば、荒木。お前、風波にコクられたみたいだな」
「……何で知ってるんですか」
後、多少体調が良くなったなら手伝って下さい。
「朝見教諭がチクった」
「あの保健室の痴女め……」
やっぱり行くべきじゃなかったかな。
「安心しろ。私にしか話していない……筈だ」
「…………」
「それはともかく、断ったらしいな。何でだ?」
「何で知りたいんですか」
「暇潰しだ」
なら手伝えよ。こちとらアンタのせいで割と必死なんだよ。
「別に。特に理由なんて無いですよ」
「ほう? 荒木、お前ホモだったのか」
「いや何でそーなる」
「美少女直々の告白を断る理由なんて、それくらいしか思い付かんからな」
「さっき理由無いって言いましたよね?」
「性欲を持て余している野郎が、理由も無しに自ら女を抱ける可能性を捨てる訳無いだろ」
「アンタ男子高校生を何だと思ってんですか」
「性欲の塊」
この学校まともな教師いねえな。
「康……お前ホモだったのか……」
「お前も悪ノリしてんじゃねえよ!」
後、どさくさに紛れて誰かのエロ本を自分の鞄にしまってんじゃないよ。
タマチャンはどうでも良くなったのか、それ以上何も言う事なく、またおねんねしていた。叩き起こしてやろうかこのどら猫。
「……はぁ」
溜息をつきながら、教室の後片付けを再開する。グラビアアイドルの写真集を自分の机にしまいながら、僕は昨日の出来事を思い返した。
ラブコメディーなのに未だにラブコメ要素少なくてすみませぬ……。次話はラブコメ要素あるので、期待しないで待っていて下さい。