第1文 恋文はクーリングオフで……ダメ?
まず初めに、恋引一途を読んで頂きありがとうございます。タイトルも前置きも真面目な感じですが、内容は登場人物が様々なバカを起こすストーリーとなってますので、気軽にお読み頂ければと思います。基本何でもありなので、ついていけなくなった方は無理をせずに。どうなっても作者は知りませんぜ?
それでは、恋引一途をお楽しみ下さい。
学校の下校時間。僕こと荒木康は、下駄箱の前で悩んでいた。靴が無いとかそんな陰湿な話では無い。
てか、そっちの方がどんなに良かった事か。
「これは……」
僕は下駄箱の中に手を突っ込み、ある物を取り出す。
僕の指に掴まれているのは、白色の質素な手紙だ。
これはヤバイっすね。雨乞いダンスでもしようかな。既に雨降っているけど。
(十中八九アレだよね……)
このある意味特徴を醸し出す程の質素な手紙。だが、僕のセンサーはビンビンに反応している。しちゃってる。
紛れもねぇ……こいつは羅武霊唾だ!
何かの間違いにならないかなこれ。
「うーん……取り敢えず読んでみますか」
手紙を裏返し、貼られていたハートのシールを剥がす。このシールが胡散臭さを引き出していてポイントが高いですよ。
『今日の放課後、東校舎の二階空き教室に一人で来られたし』
これまた随分と簡潔な文章だこと。
東校舎には、各階に一つ以上空き教室が存在する。何も置いていない所か、施錠すらしていない。徹底した解放感を僕達に提供している。存在意義も解き放ってしまったようだ。
二階に空き教室は一つしかない。つまりは、今からそこに行けと言う事だ。
「……いや」
そんな事よりも気になる事がある。
何で文章が血のように赤いんですかね?
右下に添えられた、ハートのステッキを持った不気味な死神のイラストは何なんですかね!?
あれかな。ラブレターじゃなくてこれ、果たし状かな。ラブレターだったら、相当病んでますよ。
(僕の勘違いかな……)
さっきセンサー……面倒事察知センサーがビンビンに反応していたと言うのに。これも別のベクトルで面倒だけど。
「……まぁ、良いや」
僕は手紙を元に戻し、左隣の下駄箱の中にシュウウウウ!
超エキサイティング!
「帰ろ」
さようなら見知らぬ誰か。頑張って手紙を受け取った栄えある藤田くん。
僕は帰宅部の活動に精を出すよ。
帰り道。雨降る下校は傘をパクられる羽目になった。代わりに、開くと必ずキノコ傘になるポンコツが置いてあったけど。
折って良いかな、これ。
翌日。下駄箱に手紙は置いてなかった。あと、栄えある筈の藤田くんは欠席だった。
先生の話だと、入院したらしい。
誰がそんなひどい事を……(他人事)
で、学校では特に問題は起こらず、平和な時間を過ごす事が出来た。
問題は、自宅に帰ってから起こった。
「……ナンデ?」
自室。僕は手に持っている物を見下ろしながらそう呟いた。
手紙だった。昨日と同じ、白く質素な外見。違う所は、ハートのシールが何故か二重に貼られていた事。嫌がらせかな?
そして、最も重要な事は、これが窓に挟まっていた事だ。
「……いやぁ~」
まさか、わざわざ僕の家まで手紙を置きに来るとは思わなかった。てか、ここ二階ですよ? ちゃんと窓に鍵かけましたよ? どーやって挟んだの? イリュージョン?
手紙の中身は、昨日と同じ文章の便箋。漢字全てにルビが振られている所を見ると、相手は僕が漢字を読めないお馬鹿さんであると思っているようだ。これは中々クルね、頭に。
んで、他に一枚の写真が添付されていた。近場の自然公園にある噴水を背景に、僕の両親が写っている。次会いに行かなかったら、この二人に危害を加えると言いたいのだろうか。
「……中々度胸があるな」
それとも、蛮勇と言うべきか。
なにせ、その写真は噴水を背に、母さんが父さんに見事な昇竜拳をキメているシーンだった。この光景を見て両親(主に母さん)にちょっかいを出す気になる謎の人物に、僕は興味を引かれ始めていた。
「明日行ってみるか」
多分、開幕キレられるだろうけど。
因みに、写真を両親に見せてみた所、写真を撮られた覚えは無いらしい。
盗撮じゃね? あと、母さん達自然公園で何してたの?
翌日の放課後。初っ端からこれだけ時間の流れが早いと読者さんがついて来てくれるか心配になる今日この頃。
僕は目的地の空き教室に来ていた。
しかし、本当に殺風景で何も無いなここは。これにはかの社長もにっこりですよ。ウキウキ気分でビフォーアフターしそうだ。
僕は全然ウキウキ気分じゃないけどね。
「誰もいねぇ……」
この空き教室にいるのは、僕だけだった。どうやら、相手はおこではなく激おこのようだ。
「どーすっかな……」
生憎と放置プレイを楽しむ性分ではない。すぐにでもでんでんでんぐり返しで帰りたいが、ここで帰ったら、またあの不幸の手紙が届きそうでメンドイ。ここに来た意味も無くなるし。
「飽きるまでここにいますか」
窓枠に肘を乗せるような体勢で僕は外を見る。運動部の活動に勤しむ学生の声が聞こえる。
うーん……虚しいですな。康スペシャルルールで時間が加速しないかな。
カキンッ、と一際大きな音が響き渡る。聞こえた方に眼を向けると、野球部員のバッターがバットを降り終えたのが見えた。そこから上に視線をずらす。見よ、あの高く上がったボールの勇ましき回転を!
「……と言うか」
段々
こっちに
向かって
来ている
ような……!?
「あぶねぇ!」
物凄い速度で迫り来るデスボールを避ける。ハハハ、この康様に傷をつけようだなんて愚かなバッターよ!
メギォヨッ!!
「…………」
聞き慣れない所か、どう発音すべきか悩む音がした。
嫌な予感を抱きながら、ゆっくりとそちらに顔を向ける。
「…………」
♪眼と眼が~合~う瞬間(以下省略)
は、喜ばしい事に無かったが、それが無くてもかなり困った状況になっていた。
先程まで外を眺めていた僕の後ろ。そこにいつの間にか少女がいた。
「~~~~っ!」
鼻を押さえて蹲っていた。痛そうな声もセットで。
視線を横に移すと、僕にサーチ&ダイブしようとしたボールが転がっていた。この時点で名探偵じゃなくとも、何が起こったか予想はつく。
「あー……もし、そこのお方」
無視する訳にもいかず、僕はこの場から去りたい気持ちを抑えて声をかける。この人だよね、僕に手紙を寄越したの。
「……! あぁ、なんだい?」
痛そうな声から一転。凛とした声色で返事をし、彼女はすっと立ち上がった。
藍色の髪を腰まで伸ばしたポニーテール。武人にあどけなさを残したような顔立ち。すらっとしながらも出る所は出ている身体。簡単に言えば美少女の類いに余裕で入るであろう少女は、それらを全てぶち壊すかの様に鼻血を垂れ流していた。涙眼でもあった。めっちゃ痛々しかった。
「……鼻、痛くないの?」
「痛い。曲がるかと思った」
むしろ曲がってないのかそれで。
「……一先ず、ここで話すのもなんだし、保健室に行こう」
その痛々しい姿のまま会話をするのは御免である。
「……うん」
素直に頷く彼女にティッシュを渡してから、僕は彼女と一緒に保健室へと向かった。
何だかなぁ……。