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支度



「ーーーとまぁ、これが俺が腕を斬られるまでの経緯ね」


「……」



アーシェが淹れ直してくれたお茶を飲みながらこれまでの経緯をそう締めくくるとファウルは顔を顰めて頭を抱えていた。うん、そうしたくなる気持ちは分からないでも無いな。



「……ガバガバ過ぎやしないか?」


「うん、それは俺も考えてた」



そうガバガバ、杜撰すぎるのだ。まるで思い付いたから何も考えずに実行してみたと言わんばかりの杜撰な行動、それが俺とファウルの感じていることだろう。



「一番怪しいのは宰相か?ナオキが断罪されたと噂を流しているのはそこからだと聞くが……」


「それは無いな。アレンなら回りくどい方法なんて取らないで直接切り捨てに来るだろうし、なんて言ったって生かしておくだなんてする訳が無い。噂の大本なのは……勇者の名声を落とさない様にする為にじゃないか?」


「成る程、確かに勇者が冤罪者を断罪したとなれば民からの評価は下がるからな」


「同じ理由から王族も違う。となると怪しいのは貴族連中かな?それとも俺のことを目障りだと思った勇者組……そこら辺だな」



勇者組が怪しいのは『勇者』の称号の無い俺のことを見下していたから。勇者では無いのに活躍している俺のことを妬んでやったと考えられる。貴族連中が怪しいのも同じだ。勇者という神輿を担いでいるのに勇者では無い者が有名になられると困るから消してしまえと考えてもおかしく無い。



怪しいのはこの二つだが証拠がある訳では無いので推測するだけになってしまう。



「まぁ今は保留だ。黒幕がわかったら徹底的に報復するけどな!!俺の片腕斬られたから……そうだな、片腕だけを残すとかどうよ?」


「おい、誰かこの畜生をどうにかしろよ」


「報復方法考えただけで人の事を畜生呼ばわりとかやめてよぉ!!問答無用でカチコミに行かないだけ良心的だと思ってよぉ!!」


「お前は一度辞書を読んで良心の意味を学び直してこい!!」



ファウルが酷いと思ってレティシアとアーシェの方を向いたら目を逸らされてしまった。



ネタに走っている感はある物の、本当に良心的だと思って欲しい。クソ師匠からやられたら殺り返せと言われ続けて育ってきたのだ、本当のところは今すぐにでも容疑の掛かってる貴族連中と勇者組にカチコミたいところだが、今そんなことをすれば名実共に犯罪者に成ってしまう。今頃ミリアとアレン辺りが事態の収拾に向けて頑張っているはずだ。それを邪魔する様な事はしたく無い。



「……で、これからどうするのだ?」


「この国を出るつもり。出ないにしても王都には居られない」



真面目な顔になったファウルの質問に即答で返す。これからどうするのかはこの四日間で考えていた事なので澱みなく答える事ができた。



事実がどうであれ、俺はこの国では犯罪者として認識されてしまったのだ。やっていないと叫んだところで信じてもらえないのは明白。ならこの国から出てしまえば良い。そうすれば少なくとも日陰に隠れてこそこそする様な生活を送らなくても済む。



「……そうか、決めているのなら良い。だがお前と関わりのある者には別れを告げろ。信じられる者だけで良いから」


「……正直、顔出した途端に兵士呼ばれて裏切られるのが嫌だからこっそり出たいんだけどね」


「気持ちは分かる、だが私の様にお前の無実を信じている者も居るのだ。そいつらに別れも無いのは失礼だと思わんのか?」


「あ〜……分かったよ。気が重いなぁ……」



本当にそうなったら結構傷付く。心が折れるまではいかないだろうけど下手をすればトラウマ作って人間不信になるかもしれない。それが嫌だったからこっそり出ようとしたんだが……ファウルの言い分を理解出来る以上しない訳にはいかない。



となると顔を出すのは……ドワーフの爺さんと薬屋の婆さん、あとはギルドのマスターだな。



ドワーフの爺さんと薬屋の婆さんは噂に左右されずに自分の目で人を見て確かめるタイプの人種だから俺のことを見ても即座に通報とかはしないだろう。



ギルドのマスターもそういう人種だし、ギルドという組織自体が国を超越した組織だから魔物の大量発生などの緊急事態でも無い限りは国と深く関わる事はしないはず……まぁ俺の事が緊急事態扱いされてたらアウトだけどな!!



それと……もう二人ほど別れを告げたい奴が居るけど、無理だろうな。一人はお姫様のミリアだし、もう一人はレインの孫娘だし、会いに行った途端に兵士が湧いて出てもおかしく無い。残念だけど、この二人に関してはファウルを使って言伝でも頼むしか無いか。



「誰に別れを告げるか決めたようだな?」


「おう、決めてやったぜ?感謝しな!!」


「突如に偉ぶるなよ……決めたのなら良い、もう寝ていろ。戻ったとはいえ病み上りには変わり無いのだからな」



ファウルに言われて窓の外が暗くなっている事に気が付いた。空に浮かんでいる月が高い位置にあるからそこそこに時間が経っている事がわかる。



「んじゃ、お言葉に甘えさせてもらう事にするわ」


「ふん……まぁ、その、なんだ……死なずに済んでくれて良かったよ」



部屋から出るときにファウルが小声でそんな事を言ってきた。いつもなら冷やかすだろうけど、この言葉が本心から出ていると気が付いたから何も言わずに手を振るだけで終わらせた。


















「ーーーさて、ナオキの今後についてだが」


「不安ですね。強いのは分かりますがそれは両手の時の話でした。今の彼がどのくらいの強さなのか判断しかねます」



ナオキとそれに連れ添ってレティシアが部屋から出て行ったのを確認してからファウルとアーシェは口を開いた。



ナオキがこれから王都の外に出る事は予想していたが片腕の彼をそのまま行かせれば、最悪の事態も予想出来る。案外しぶとく生き残るかもしれないが、危惧しておいて損は無いだろう。



「手っ取り早いのは誰かを連れさせる事ですが……」


「レティシア、だな」


「……分かっていましたがですか宜しいのですか?彼女は一応、奴隷としては最高ランクでしたが」



この店で扱われているレティシアは高ステータス、そして希少価値のある称号持ち、更には見た目が良いとあってかなりの値段が付けられていた。それこそ並大抵の貴族では手を出せずに、名のある貴族でも買う事を躊躇するくらいには。



「ナオキの口添えのお陰で店の売り上げはすでに去年の倍を超えている。それにいつ売れるか分からないレティシアをそのままにしておくのは勿体無いからな」


「成る程、これでナオキに助けられた二つ目の命の恩返しにすると」


「……見栄くらい貼らせて欲しいな」



そんなレティシアを無償でナオキに渡そうとしているのはナオキに助けられた恩を返す為。すでにナオキの命を一つ救った、ならもう一つの命を救うためにレティシアを投資する。それごファウルの決めた恩返しだった。



本心を隠した言い方をしたのだがアーシェには通じなかったらしい。私はなんでも分かっているという風に笑う姿を見て少しイラッとした。



「あぁ、クソッ。アーシェ、7番のワインを持ってこい」


「あら、宜しいのですか?7番はお祝い用に取っておくと言っておられましたが」


「ナオキが回復したのだ、祝わんでどうする」


「これは失礼いたしました」



アーシェにからかわれながら、ファウルは数少ない友人の無事の祝いと、これからを祈って秘蔵のワインを楽しむ事にした。



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