準備〜茶番裁判
召喚用の施設が壊れた為に地球に帰ることが出来なくなった俺たちは否応無しにアースでの生活を余儀無くされた。救いなのはこの国の王ーーースルト・シルヴァリオとその娘ーーーミリア・シルヴァリオの方針により、俺たち全員の衣食住が保障されていて、かつ魔王退治が強制では無いということだろう。これに関してはアレンも元々希望者のみにさせるつもりだったらしい。なんでも無理強いしても良い結果が出るわけ無いとの事だ。
ここで俺たちは大まかに分けて三つの派閥に分かれる事になる。
一つは神原と樋谷、その友人や気を惹きたい者たちによる精力的に魔王を討伐しようという派閥。通称勇者組。代表は言うまでもなく神原と樋谷。
一つは戦うなんて無理だがサポートならなんとかという派閥。通称支援組。代表は副担任の篠木千代子。
一つは召喚用の施設に代わる地球への帰還手段を考える派閥。通称帰還組。代表は担任の相園桐と生徒会長の時雨葵。
俺はというとその三つの派閥のどれに入るわけでも無く、ただ自分の欲求を満たすためだけに動いていた。俺の目的は終始一貫して強くなる事にある。地球の用に秩序だけで構成されているわけで無く、秩序と無秩序が良い具合に混ざり合っているアースならそれが叶うと思ったのだ。
王国騎士団長のレグルス・トリニティと知り合って勝負を仕掛け、地球に無くてアースにある技術の魔法を学ぶ為に王国魔法師団長のレイン・アーカイブスに師事して、アースの情勢を知る為にスルトとミリアやアレンと話したり、時折地球で剣道部主将で腐れ縁の幅木真衣とガチバトルやったり……それなりに楽しかったのは確かだ。
そして召喚されてから一ヶ月、現在から三ヶ月前に俺はこの世界でも生きれるだけの力を持てたと判断して城から出ることにした。理由としては修行と、アースを見て回りたかったから。
その事を告げて引きとめようとしたのは支援組と帰還組、それと勇者組の一部の者。勇者組の大半は俺が居なくなることに賛成している様だった。
その理由は、俺だけが特別なスキルを持っていなかったからだろう。俺たちは召喚されたことで自分の事をゲームのステータス画面の用に確認することが出来るようになり、そこに称号という欄があったのだ。俺を除いた31人は『勇者』ともう一つ、計二つの称号があり、どれもが希少価値の高い物だった。この世界で称号が持っているだけで恩恵が与えられる物として知られていて、誰もが持っていた『勇者』の称号なら全ステータスに成長補正が入るらしいし、特別なスキルも使える様になるとか。
そんな中で俺に与えられた称号は『戦士』と『魔法使い』の二つだけ。『戦士』は肉弾戦に関するステータスーーー筋力、耐久、素早さに成長補正が、『魔法使い』は魔法に関するステータスーーー魔力に成長と魔法の習得に補正が入る……それだけだった。『勇者』の称号のような特別な者でも無く、希少価値のあるわけでも無い普通の、アースでも一般的な称号。
それを知った勇者組が俺のことを笑い、支援組と帰還組は頑張れと励ましてくれた。俺は称号のことを知り、あぁそうなのかで済ませた。ウチのクソ師匠から無能無能と煽られていたから折れはしない。むしろ称号無しを覚悟していたからあっただけマシというやつだ。
というわけで一部から厄介払いが出来たと喜ばれながら俺は城から出て行った。向かった先はスルトとミリア、レグルスとレインとの話の中で度々出てきたギルドという組織。認識としては派遣会社に近いのか?雑務に商人の護衛、魔物退治という肉体的な仕事を斡旋しているが。
そうして俺はギルドに登録してギルド員として働き始めた。始まりは最低ランクのFからスタート。そこからE、D、C、B、A、Sと上がっていき、ランクが上がるにつれてギルドから危険度や重要度の高い仕事を回されるようになる。
そのギルドの仕事の中でファウルや色んな奴と知り合い、ランクもCまで上がり、旅立ちの資金も集まってきた頃にそれは突然やって来た。
俺たちが召喚されてから四ヶ月、突如として兵士と勇者組の奴らが俺のことを捕らえに来たのだ。
訳も分からずに、それでも暴れる訳にもいかないのでなすがままに連れて行かれた先は裁判所。魔法封じの手錠と猿轡をされてそんな所に連れて行かれれば混乱するしか無い。
そして、茶番が始まった。勇者組の一人と貴族が俺のことを犯罪人として訴えたのだ。罪状は暴行罪、強姦、国家反逆などなど……思いついた罪を手当たり次第に挙げている様にしか見えなかった。そんなものに心当たりは無い、考えた事もないと反論したかったが猿轡をされていて何も言えない。証拠は無く、勇者組の一人と貴族の用意したであろう証人による証言だけで俺のことを罪人呼ばわり。
このままではマズイとこの場から逃げ出そうとして暴れた時、神原によって俺の左腕を切り落とされた。まず感じたのは消失感、そして傷口を焼かれているかの様な激痛。傷口を押さえてのたうち回っていた俺を神原と樋谷が押え付け、本当なら死刑だが慈悲深い勇者様に感謝しろと貴族にニヤニヤと笑いながら言われて『アイテムボックス』という物を収納する事が出来る魔法に入れていた持ち物を全て奪われて、傷の手当てもされずに裁判所から放り出された。
そうしてそこから路地裏を彷徨って倒れて、ファウルの所に連れて行かれたという訳だ。
あくまでナオキの視点なので起こったことを淡々と語っているだけです。
ある程度進んでから別視点の話を書きます。