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召喚〜説明



始まりの季節だと言われている4月の上旬、毎年の恒例行事である新入生の入学式を終えた俺たち三年一組は大学受験や就職に向けて動き始めていた。



俺もその内の一人だったが俺は進学するでも無く、就職するでも無く、卒業するのと同時に海外に出るつもりだった。理由はーーー殺し合いを経験するため。俺はどうしてだか幼い頃から漠然と強くなりたいと考えていたのだ。別に親やそのご先祖様の中に格闘家がいたとか、トラウマを払拭する為にだとかでは無い。何故なのかは分からないが人が生きる為に息をする様に、魚が泳ぐ様に俺はただ目的も無く強くなりたいと思っていたのだ。



その為に俺は近くにあった道場に通う事にした。その道場はどうトチ狂ったのか、本物の刀や剣に槍、鏃付きの矢を使う実戦的(・・・)な道場だった。そんなところに通いたいなどと考えている馬鹿はいる訳も無く、門下生は俺一人だった。そのせいか師匠には付きっ切りで色々と教えてもらえたのだがどうやら俺は才能が無い部類に入るらしい。ここまで才能が無い奴は珍しいと腹を抱えて笑っていたクソ師匠を無視して俺は考えた。



才能が無いのか、そうか。でも強くなりたいのは諦められない。なら努力でどうにかしようと。



そうして俺はひたすら努力をし続けた。1日のほとんどを使って剣を振るい、槍を突き、矢を放つ。天才なら感覚でどうにかするような事を膨大なまでの鍛錬で追いかけた。そのせいかクソ師匠曰く、土台だけならば十分に出来上がったと言われた。



で、その後にクソ師匠から誘われたのだ。高校卒業したら戦争しているところに行こうと、まるでコンビニに行こうぜみたいな気軽さで誘われて、俺も即答で頷いた。どのくらい強くなっているのかを見たかったのだ。



なので俺は周りがこれからに向けて頑張っている中で割と余裕があった。満開だった桜が散るのを見て、掃除大変そうだなぁとアホな事を考えられるくらいには。



そうやって桜を簡単に片付ける方法について真剣に考え出したところで一組の担任と副担任、それと新米だという教師二人が入ってきてホームルームを始める時間になった、



日直が起立、礼、と号令をかけて全員がそれに従って頭を下げ、顔を上げた時にはーーー三年一組28人、教師4人、計32人はこの異世界ーーーアースに召喚されていた。



初めは理解出来なかった。顔を上げた瞬間に見慣れていた教室から荘厳な石造りの部屋に居たのだから。



困惑の時間は一瞬、そこから徐々に混乱からざわめきが聞こえ出す。気の弱い女子が顔を青ざめさせているのを友人らしき女子が落ち着かせようとし、素行の悪い男子が怯えからかクラスのカーストワーストの生徒に当たり散らし、担任が発狂しかけていた新米の教師の片割れをシバいて正気に戻していたり。俺はというとクソ師匠のせいで目が覚めたらどこかの山奥だったということが稀によくあったので比較的落ち着いていた。こういう時に必要なのは情報だ。ここがどこなのかを知ることが出来ればそれだけでも精神的に余裕が出来る。



情報を得ようかと動き始めようとした時に、男子に当たり散らされていたカーストワーストの生徒が突然狂ったように笑い出した。



曰く、異世界召喚だと。


曰く、テンプレだと。



それを聞いて動いたのは担任と俺だった。何か知っているのかと問い詰めるが狂ったように笑って妄想に耽っていてこちらの話を聞こうとしない。なので俺がクソ師匠との修行の中で身に付けた『人体を壊さないけど滅茶苦茶痛い関節技フルコース』で懇切丁寧にお願い(・・・)すると是非とも話させてくださいと懇願してきた。それを見て周りはドン引きしていたが……担任と新米の教師の発狂していない方は爆笑していた。



そうしてカーストワーストの生徒ーーー新戸部太一(にとべたいち)から話を聞くことが出来た。なんでも彼が言うには、携帯の小説サイトにあった異世界召喚ものの召喚と流れが同じだとか。



妄想などと否定するのは簡単だが、現実に起こってしまっているので否定できなかった。それを聞いて発狂していた新米の教師が再び発狂したが、今度は担任と新米の教師の片割れ、それに俺の3人でシバく事で優しく正気に戻してあげた。



話が中断したので再開しようとした時、重たい音が聞こえてきた。音がした方向にあったのは古めかしい扉。それが一人でに開き、金髪碧眼の美青年が現れた。



彼は俺たちの事を見ると優しく安心させるような笑みを浮かべ、役者の様に手を大きく広げて一言こう告げた。



ーーーようこそ勇者様方。我らの世界、アースへ、と。















歓迎した様子の青年はアレン・クリストフ。俺たちを喚び出した張本人で、この国ーーー王国の宰相だそうだ。こちらとしては喚び出した理由と帰れるかどうかを早急に聞きたかったのだが、アレンが俺たちの事を案内しようとした時に一人の少女がそれを邪魔した。



少女の容姿は物語に出てくるお姫様、と言ったら分かりやすいだろう。透き通った金髪を靡かせて、可愛らしい顔を怒りで歪ませながら、紅い目でアレンの事を睨み、怒鳴っていた。



それを落ち着かせようとするアレンと怒鳴っている少女の話の内容からどうやら召喚はアレンの独断で行ったものらしく、少女を始めとした一部の人間は召喚をしないつもりだったらしい。アレンが欲の深い人間だったら召喚した人間を使って地位の向上でも目指していたのだろうが少女との言い争いでどんどん熱が篭っていく姿から察するにアレンはこの先の事を考えて独断で行った様だ。



ともあれこのままでは話が進まない。二人からすれば重要なのだがこちらとしてはぶっちゃけた話どうでも良いのだ。俺たちの今置かれている状況の把握が何よりも優先される。



手を強く打ち合わせる事で音を立て、二人の注意を引く。それだけで俺たちの事を思い出し、放置して済まなかったと頭を下げて謝られた。



状況の説明を求めると軍議で使われると言う大き目の部屋に案内される。そこでようやくこの世界の説明や、俺たちの喚び出された理由が話された。



この世界の名前はアース。大陸は二つだけで、内一つが王国、帝国、教国の三国で成り立っていて、残りの一つは魔族と呼ばれる存在が暮らしているらしい。そして俺たちが喚び出された原因はその魔族にある様だ。



王国お抱えの占い師が魔王の復活を予言したらしい。そう、RPGで登場してくる様な魔王だ。なんでも魔王は数百年周期で現れるらしく、その魔王を倒す為にこれまでは異世界から勇者を召喚して倒していたとか。



だが今代の三国の王はこの世界の問題はこの世界の住人で解決するべきだと召喚をしないことを決定したらしい。国の方針としてもそれは決められていたのだが……アレンは勇者は必要だと考えて強引に召喚を行い、その結果召喚されたのが俺たちだった。



それを話して再びアレンは俺たちに向かって頭を下げた。それを慌てて上げさせようとしたのは学校で秘密裏に付けられているイケメンランキングで1位2位を取っている神原桐人(かんばらきりと)樋谷悠真(ひたにゆうま)の二人だった。



それに追従する様に彼らの友人たちや、彼らの気を惹きたい者たちがアレンのことをフォローしているのだが……俺を始めとした数人は二人が動いたのを見て顔を顰めていた。何故なら、あの二人はイケメンとして知られているがそれと同時にトラブルメイカーでもあるから。



困っている人がいるから助ける、それは人としては美徳だろう。困っていた本人も救われるだろう。だがその結果より大きいトラブルを作るのだ。



例として挙げればヤンキーにナンパされていた女子を彼らのどちらかが助けたとする。ヤンキーが先に手を出してきたので彼らも手を出し返してそれを解決する。そしてその場はそれで終わり……後日、ヤンキーが所属しているグループを引き連れて学校にお礼参りしてくるのだ。それならまだマシなのだが酷い時には彼らの学校の生徒だからという理由だけで闇討ちされたりすることもあった。



まぁそんなことをしてくれた奴らは俺がお礼参り参りしてやったり、顔を顰めた連中で色々とやったので大丈夫なのだが、そんな理由で良い顔をしなかったのだ。あの二人が動く=トラブルが来るって分かってるから。



そして予想通り、あの二人は許可も取らずに自分たちが魔王を倒しますと宣言した。二人の友人たちや気を惹きたい者たちがそれに賛同する。その中で俺は空気を読まずに挙手して帰ることは出来るか尋ねた。



神原と樋谷から凄い言われた様な気もするがそれをスルーしてもう一度聞くと、召喚に使用した施設がそのまま帰還用に使えると教えられた。実際、過去の勇者にも魔王退治を拒否して帰った者も居るらしい。



実例があり、そして帰る手段もあると分かって俺は帰るか残るかを考えた。残って魔王退治をすることも吝かでは無い、だが神原と樋谷がいる事でやって来るトラブルを考えるとどうも気後れしてしまう。



そんな事を考えていると、扉が勢い良く開いて鎧を着た兵士が慌てて入ってきた。普通なら不敬なのだろうが、緊急事態なのかそれを気にする余裕も無さそうだ。



そして兵士の話の内容に絶句するしか無かった。



俺たちが召喚された施設ーーー通称『召喚の間』が突然崩壊したとの事だ。



これにより俺たちは地球に帰ることが出来なくなった。





取り敢えず召喚から召喚の目的の説明まで。


あと一、二話で終わらせたい。



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