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奴隷商人ファウル



左腕を切り落とされてから目覚めたのが三日後、そして目覚めてから更に四日で計一週間が経った。その間で俺がした事と言えばひたすら食って眠っただけ。出血死寸前まで減った血と体力を戻す事だけに集中していたわけだ。



その間の俺の世話はすべてレティシアがしてくれた。食事や薬を持ってきてくれたり、身体を拭く布を用意してくれたり、眠るまで側にいてくれて目覚めても側にいてくれたり……怪我人という免罪符があるから良いが、無かったら女に頼り切っているただの屑である。この恩は必ず返さないといけないな。



そして一週間目、ようやくまともに動ける程に回復してきた俺は確認ついでに少し身体を動かしていた。そこに用事があると席を外していたレティシアが戻ってきて驚いたのか目を見開かせている。



「……何をしている」


「ん?身体動かしてるんだけど?」


「いや、そうじゃなくてだな……いや、ナオキはこういう奴だったな。私が間違っていた」


「酷いなぁおい」



ただ、天井の梁に残っていた右手でぶら下がって懸垂をしていただけなのに何でここまで言われないといけないのか……まぁレティシアが新しい水を持ってきてくれたのと確認も終わったので梁から手を放して着地する。



「身体の調子はどうだ?」


「片腕が無くなったからバランスが崩れてることと寝た切りの生活で筋力が落ちてる事以外は良好ってところだな。筋力は戻せば良いとして、片腕が無いからバランスが取りづらいのが辛いな。後戦闘方法も考え直さないとマズいし」


「……無茶だけはしないでくれよ?」


「う〜ん……難しいなぁ。俺はこれまでの事を無理無茶だと思ってしてないし。俺がそう思ってないだけで周りからすれば無理無茶に見えるかもしれないし」


「やり過ぎれば私が止めるから……頼む」


「……うん、分かったよ」



顔を俯かせて懇願するレティシアの姿を見て肯定する事しか出来なかった。ウチのクソ師匠は俺が無理無茶かもしれない事をしても煽ってくる真性のクソだったし、何ていうか……こう……まともに俺の事を心配してくれているというだけでどうもやり辛くなってくる。



レティシアが持ってきてくれた生温い水を飲む。日本では蛇口を捻れば冷たい水が出てくるのだがこっちでは魔法(・・)を使わない限りは水は常温のままだ。こういうところを見ると異世界なんだなぁ(・・・・・・・・)と思い知らされる。



「身体の調子が良いのならファウル様に会ってくれないか?ナオキがここに来てから一週間、心底心配しているようで少し窶れて来ている」


「ファウルの体型だったら窶れたくらいが丁度いいと思うんだけどな……うん、会うよ」



心配させて悪かったという事と、俺の世話をしてくれた事に礼を言いたい。身の回りの世話こそはレティシアがしてくれたのだが、その為の費用を出しているのはファウル以外にいない。出されていた薬も金に糸目をつけないで集めてきた一級品だと効果から分かる。ここまでしてくれて礼も言えずに頭も下げれない様ならガチモンのクズでしか無い。そんなクズに俺はなりたく無い。



「手を貸そうか?」


「いんや、一人で歩ける」



手を貸そうとしてくれるレティシアの申し出を断ってゆっくりと屈伸をして足の具合の再確認をする。寝た切りで脚力が落ちて、更に片腕を無くしてバランスが取りにくいもののファウルが居るところまで歩くのには問題無さそうだ。



一週間ぶりに歩く事になるので一歩一歩を確かめる様に歩きながらレティシアの案内でファウルのいる場所に向かう。



その途中出会うのは質素な服を着て掃除や荷物運びに勤しんでいる人々。老人はいないが幼い者から成人した者まで男女問わず。そしてヒューマン、エルフやドワーフや獣人と種族まで問わずに働いている彼らには一つだけ共通点がある。



それは首に付けられている首輪。地球ならチョーカーのようなオシャレグッズとして扱われているのだがここではそんな綺麗な意味合いで使われていない。その首輪は本来の意味通りで、飼われている事の証明(・・・・・・・・・・)なのだから。



そしてその首輪は、レティシアの首にも付けられている。



そうしてレティシアに案内された先は俺が何度も足を運んだ事がある応接室。対魔法、防音処置が施されていて秘密の話をするのに最適な場所だとファウルが自慢げに語っていた事を覚えている。



レティシアに扉を開けられて中に入ると上座のソファーにデップリと肥えた男性が深く座って待っていた。そしてその側には茶髪の眼鏡をかけて俗に言うメイド服を来た女性が直立不動の姿勢で控えている。



「よぉファウル、少し痩せたんじゃ無いか?」


「……ふん、誰かがいらん心配をさせてくれたせいで5kgは痩せたわ。どうしてくれる?」


「いやいや、太り過ぎてるから痩せた方が良いだろう。アーシェもそう思うだろ?」


「確かにそうですね、ファウル様は後20kgは痩せられた方が健康的かと思われます。レティシアはどうでしょうか?」


「うむ、私もファウル様は痩せられた方が良いと思うぞ」


「クソッ!!味方がここには居ない……ッ!!」



3対1で痩せた方が良いと決まって味方が居ないファウルは薄くなっている頭を抱えた。俺から始まったファウル苛めだが確かにファウルは窶れている。頬の肉が無くなっているし、目元には薄いものの隈まである。



ファウルの対面のソファーに座り、それと同時にファウルに向かって頭を下げる。頭を下げる事に対しての躊躇いも戸惑いも恥じらいも無い。ファウルに世話になったのは事実で、それに俺も感謝しているから。



「面倒かけて悪かった。そしてありがとう、お陰で助かった」


「……ふん、俺はお前に二つも命を救われているからな。これで一つは返したぞ」



ファウルの言う命を二つ救われたというのは俺がこいつと出会う切っ掛けになった事だ。



この店にいる俺とファウル以外の人はここで働いているのでは無く全員が商品ーーー奴隷なのだ。ファウルはそれを扱う奴隷商人。地球では過去の遺産だとしても、この世界では今もある事だ。



ファウルは王都の外で仕入れた奴隷を連れて帰っていた。無論魔物や盗賊などを警戒して護衛を連れて。だがその護衛が裏切り、盗賊と手を組んでファウルの奴隷(しょうひん)を奪おうとした。その時に偶々俺が近くを通りかかっていて、助けたのだ。



そして結果として俺はファウルの命を二つ救った事になる。一つは言うまでも無くファウル本人の命、そしてもう一つは商人としてのファウルの命。



あそこで奴隷を見捨てて助かったとしても商人としての信用はガタ落ちして、最悪は顧客が居なくなる事もあり得るとか。商人にとって何よりも大切なのは信用、信用があるからこそ商売が成り立つ。その信用が無くなってしまえば、商人としてのファウルは死ぬ。だからファウルは二つの命を救われたと言うのだ。



そこからファウルとの交流が始まるのだが細かい事は置いておくとしよう。それに禿げた肥満の男にツンデレ風に言われても正直気持ち悪いだけだ。



「ーーーナオキ、単刀直入に聞くぞ。何があった」



アーシェが淹れてくれたお茶を味わっているとファウルが神妙な顔付きでそう切り出してきた。その眼は真実を知りたがっていて、嘘偽りは許さないと語っている。レティシアとアーシェもそうだった。何も言っては来ないが真実を求めている眼を俺に向けている。



「その前にだ、王都での俺はどうなってる?」


「……犯罪者として扱われて勇者たちによって断罪されたと報じられている。断罪とは言っても同郷のよしみで片腕を切り落とすだけで済ませた勇者たちは慈悲深いと持て囃されているな。反対に勇者たちと同郷なのに犯罪を犯したお前に対する批判が上がっている」


「ーーークハハッ、そんな事だろうと思ってたぜ」



王都での俺の扱いよりも、勇者たちが持て囃されていると聞かされて思わず笑ってしまう。与えられた情報を吟味もせずに丸呑みしていた奴らが慈悲深い?そんな訳あるか。



「さて……話が長くなるがそれでも良いか?」


「構わん、今日中に済ませなければならない仕事を全て終えている」


「私もだ、ナオキに何があったか知りたい」


「ご安心を、お茶の準備は出来ておりますので」


「アーシェは本当にブレ無いなぁ……」



アーシェのマイペースっぷりに呆れながらお茶を飲み干し、喉を潤わせて俺が腕を切り落とされるまでの経緯を語る事にした。




次回は説明回。ナオキが召喚される経緯から腕を切り落とされるまでを書きます。



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