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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
9章 永夜・幻影の宴会~死に逝く理由~
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65話 祝いの夜

神殺と詐欺師は揺さぶられる

side 紫苑


踊り酔う小さな百鬼夜行。

飲み比べに花を咲かせる蓬莱の姫様と元竹林の案内人。

早々に酔いつぶれた吸血鬼姉妹。

白澤と兎に絡まれる不老不死。


提灯の明かりが星々の輝きを隠し、草木が寝静まる刻にも関わらず喧騒や賑わいの絶えない博麗神社の境内。そこには誰一人として憂いた顔をするものはいなかった。


俺は安定の麦茶を飲み、ビニールシートの上に所狭しと並ぶ料理を賄としながら、その光景を目に焼き付けていた。

膝には俺の足を枕にして寝息を立てるアリス。起こさないように絶妙な位置をキープする俺だが、泣き疲れたアリスはどのようなことをしても起きないだろう。あ、18禁展開はないので。


そんな傍観者と洒落込んでいる俺の前に現れたのは、


「あら、紫苑にぃ、ここに居たのね」

「幽々か。こっちの料理も殲滅しに来たのか?」

「そ、そんなことしないわ」


桃色の悪魔・西行寺幽々子だった。

加えて横には藍さんも歩いてくる。幽々と紫が旧知の仲なのは知っていたが、この二人のセットは珍しいと思う。俺だけかもしれんが。


俺から見て幽々が左、右に藍さんが座る。


「紫苑殿、どうしてこのような人気のないところで? 確かにブルーシートは敷いては居りますが、あちらの賑やかな輪に加われたらいかがかと」

「静かに飲みたい気分なんだ。アリスもいることだし」

「ふふ、パパだものね」

「茶化すなよ……」


呆れこそすれ怒る気はない。

そのことが分かっているのか幽々は上品に笑う。


全く、幽々は相変わらずだな。

だからこそ――俺は彼女に問う。


「なぁ、幽々は俺の……あれを聞いたか?」

「ばっちり」


あのグロ歴史を聞いた者の反応とは思えない返しに、俺は拍子抜けた声が思わず出てしまった。

未来レベルのマイペースさを持つ彼女だが、これには予想外。

藍さんも唖然としている。


「私にとっては紫苑にぃは紫苑にぃだもの」

「そうか……」


俺は俺、か……。

幽々は昔からブレないなぁ。それが良いことなのか悪いのかは知らんけど。

少なくともこの場では良い意味で思った。


「その……、私はアリスから話を聞いたときは信じられませんでした。紫苑殿がそのようなことをする人間には見えなかったので」

「あはは、それ昔に同じこと言われたわ」


実は俺の過去を知っているのは暗闇と詐欺師だけじゃない。

アイツ――今は亡き少女には話したことがあるのだ。その時に藍さんと全く同じことを言われたのは、今でも記憶に残っている。暴露した次の日に月の軍勢が襲来してきたのは皮肉めいた運命を感じるが。


「どれだけ取り繕うが、俺の罪は変わらんしね」

「だから紫苑にぃは人として死ぬつもりなんでしょ? それも、私は別に止めないし、それで紫苑にぃが満足するのならありだと思うの」

「………」


俺は目を見開いた。

初めて、人生で初めて『人として死ぬこと』を肯定された気がする。


冥界の管理人としての発言なのかは定かではないが、今までアホ共や要塞からも説得され続けた俺に取って、幽々の言葉はどう反応すればいいのか分からなかった。


少なくとも……幽々は俺が死んでも悲しまないのだろうか?

それはそれで寂しい気もするけど、ちょっとは気持ちは楽になる。

幻想郷で予想外に交流が多くなってしまい、悲しむ者達が増えてしまったことに少し後悔していたから、この反応は正直ありがたいと思う自分がいた。過去に関しても拒絶されなかったからな。幽々に怯えた目で見られるとか軽く死ねるわ。


まぁ、二番目に心配だった幽々が前向きに捉えてくれているのは助かる。

一番心配なのは幽香だけど――











「だって、死んでも魂は逃がさないし」

「」











その返しは予想外だわ。三点リーダーすら出てこなかった。

どうしよう、俺ってもしかして……死んでも環境は大して変わらないのだろうか?


死後の幽霊生活に頭を痛める俺。


「いや、それ意味ないから。俺そのものが消えないと――」






「紫苑にぃは自分が消えることが贖罪だと本気で思っているの?」






「え?」

「別に死ぬことに対しては何も言わないわ。でも――消えたら私は泣く。だって、ようやく会えたのに紫苑にぃはまたどっかに行っちゃうなんて嫌だし」


幽々は頬を膨らませて怒る。

彼女の発言に――俺は膝で寝ているアリスを見つめた。


俺は今日だけでどんなに心に刺さる言葉を投げかけられたであろうか?

どれだけ……俺の決意を揺さぶられたのか?


「消えたところで死者は紫苑にぃを許さない。むしろ悲しむ人が多くなるだけよ。紫苑にぃがやろうとしているのは、独りよがりの自殺だってことを忘れないで」

「……幽々」

「まぁ、紫苑にぃはそのことを分かったうえで消えようとしてる節があるわねぇ。あ、死ぬのは大歓迎よ。大好きな紫苑にぃと一緒に居られるから」


上品に微笑んでいる幽々だが、俺は溜息をつくばかり。

こうも察しがいいのは誰のせいだろう? 幽々にとって『死』とは生からの解放でしかないのだろうかと思ってしまう。


俺は空を見上げた。

明かりの中に見える微かに光る星々。


「どうして……こうも楽に死ねんのかねぇ……」

「ふふっ」



   ♦♦♦



side 龍慧


「皆様楽しそうで何よりですね」


私はグラスに継がれたワインの味を楽しみながら、輪の中に入らず離れたところから騒ぐ人々が騒ぐ様子を眺めております。

このような胡散臭い歩く不審者が居たら、せっかくの酒も美味しくなくなるでしょうし。紫苑のところにでもお邪魔しようと思いましたが、先客が来たようなので止めておきましょう。


鳥居の柱に体を預ける形で立ちながら観察していると、こちらに歩いてくる人影が。


「これはこれは、風見幽香さんではありませんか」

「……貴方が詐欺師ね」

「えぇ、霊龍慧と申します。以後お見知り置きを」


日傘を差しながら、風見幽香さんは微笑んだ。


事前情報では『兼定や未来レベルの好戦的なU(アルティメット)S(サディスティック)C(クリーチャー)』だと掴んでいたのですが、表向きは笑顔である私は少し困惑しました。

まぁ、平和的なのは良いことでしょう。


「もっと凶暴的だと思った……かしら?」

「バレてしまいましたか」

「もう好戦的である理由はないのよね。紫苑との約束を果たすために無差別に襲っていたわけだし、無意味なことはしない主義なの」


目的を果たした今は好戦的である理由はない……ということでしょうか?

なるほど、USC時代は約束のためだけに彼女は妖怪や人を殺していたと。


危険なまでに一途と言いますか……私はそう言うの好きですよ。八雲紫といい西行寺幽々子といい、こうも応援したくなるほど素敵な女性達に囲まれて、紫苑は本当に幸せ者ですね。


「まぁ、九頭竜未来はいつか倒すけど」

「頑張って下さい。貴女にならできます」

「……兼定やヴラドは否定的なのに、龍慧は私が倒せると信じているの?」


心底不思議そうに首を傾げる幽香さんに微笑みかける。


確かに彼等なら『不可能』と切り捨てるでしょう。

しかし、私は違います。






「えぇ、だって貴女は――彼の弟子ですから」

「……あははははっっ!!」






彼女は大きく目を丸くしたかと思うと、腹を抑えて笑い始めた。


夜刀神紫苑の弟子……というのは、もはや絶対的な信頼性があるものとして街では有名です。彼は弟子の成長に妥協はしないうえ、彼に感化されたされた者は彼の期待に応えようと努力する節がある。紫苑の弟子は3人しか居ませんが。

紫苑は不思議な魅力がありますからね。


それを踏まえての私の答え。

彼女のツボにはまったようだ。


「ただの胡散臭い似非紳士かと思ったけど、確かに貴方は紫苑の仲間よ」

「最大級の褒め言葉をありがとうございます」


仰々しくお辞儀をする姿に再度笑う幽香さん。


「さて、私も紫苑のところに行くわね」

「彼も喜ぶでしょう」

「それに――私がいるとあの子達が近づけないようだし」

「??」


意味深げな言葉を残して花の妖怪は去っていった。

私はその言葉の意味を考えながら笑顔を崩さずに手を振る。


一体どういう意味でしょ――




「あ、あの!」

「はい?」




私に声をかけたのは二人の妖精。

気の弱そうな緑髪の可愛らしい妖精が声をかけてきたそうです。

隣にいる青髪の妖精は……え、何ですかこのバカでかい霊力の塊は。今の博麗の巫女すら軽く凌駕する力に私は顔を思わず引きつらせてしまいました。


「こ、今回の異変を起こしたのは……貴方でしゅか!?」

「そうですよ」


緑髪の妖精は明らかにセリフを噛みましたがスルー。

とりあえず紳士の端くれですからね。


それにしても……私に何の用でしょうかね? 幻影に対する苦情か何かでしょうか。

異変解決したから丸く収まる――なんて楽観視するほど私はバカではありません。人里は兼定によって被害ゼロと聞きましたが、妖怪の山や地底では相当の被害が出たと思いますし、もしかしたら彼女たちもその類かと考えた次第。

人に恨まれるのは慣れていますので。


まぁ、彼女たちから敵対的な視線を受けないことが気がかりですが――











「ありがとうございます!」

「……はい?」











……いけませんね、ポーカーフェイスが疎かになっております。

思わず裏返ってしまった声に苦笑しつつも、その続きを教えてくれる青髪の妖精。


「アンタ、お母さ――レティの幻影を出したでしょ? そのことに感謝してるの」

「レティ……あぁ、レティ・ホワイトロックですか」


冷気を操る冬の妖怪……という情報を思い出す私。

彼女に会ったことがないので詳しいことは知りませんが、青髪の妖精の言葉から察するに彼女たちの保護者的な存在なのでしょうね。


「レティさんが偽者だってのは分かりました。でも! 私やチルノちゃんの頭を撫でてくれたんです! 冬にしかレティさんにしか会えないから……凄く、凄く嬉しかったです!」

「……私は何も関与しておりません」

「けど幻影を出してくれたのは詐欺師さんって聞きました。だから――」


二人の妖精は私に頭を下げる。


「「ありがとうございます!」」

「………」


その言葉だけのコスト二人は走って去っていきました。

残されたのは私のみ。


ぼそりと言葉が漏れます。


「……純粋ですね。兼定が気に入る理由が分かりますよ」


私達街出身からは眩しいくらいに純粋。

私もあんな時代があったのでしょうかねぇ。






今日は――いつになく気分が良い。





紫苑「そういや龍慧」

龍慧「なんでしょう?」

紫苑「異変の時、兼定から聞いた話によると、人里の子供達が『死んだ母さんの幻影が抱きしめてくれた!』とか『父ちゃんが肩車してくれた!』とか言ってたらしい。何か心当たりはあるか?」

龍慧「……さぁ? 私にはわかりませんねぇ」

紫苑「………」



作者「投稿遅くなってすみませんm(__)m」

紫苑「どうして遅くなったし」

作者「バイト始めて忙しいんや」

紫苑「……本音は?」

作者「新しいMMORPGのLv上げしてた」

紫苑「(;゜Д゜)」

作者「ま、まぁ、不定期投稿だし……」

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