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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
8章 幻影異変~策士の舞台と壊れし人形~
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60話 櫻木桜華

誰なのか

誰でもないのか

side 紫苑


「というわけで元に戻せ、ハゲ」

「感動の再会の一言目がそれですか? まったく、貴方は変わりませんね。あと私は禿ておりません」

「脳みそがツルツルだって言いてーんだよ」


俺はリビングで再会した龍慧に辛辣な言葉を浴びせる。

それほどのことをしたんだ。


霊夢達が異変解決に家を離れて三日後(・・・)

無抵抗の龍慧を連れて帰ってきたときにはホッとし、龍慧が敗北したことには驚愕した。同時に霊夢たちの成長に表情がほころんだのは言うまでもない。

霊夢達は三日も戦った覚えはないと言っていたが、龍慧の作りだす空間は時間の流れが違うから仕方ないことだろう。


今この場所にいるのは霊夢・魔理沙・妖夢・アリス・紫・未来(アホ)龍慧(ハゲ)、そして俺の計7人である。結構多いな。

アリスは人が現れた瞬間に例の発狂しそうになったが、龍慧が意味不明の言語を口にした瞬間に崩れ落ちて意識を失った。街でも見たことのある、相手を気絶するあれだ。

そして紫も呼んだら未来も来て今に至るというわけ。


龍慧は俺の言葉を無視して紫に挨拶。


「これはこれは幻想郷の賢者。ご機嫌麗しゅう」

「えぇ、貴方が霊龍慧ね」

「一度でもいいから夜刀神紫苑の一番弟子にお目にかかりたいと思っていましたが……ふむ」


龍慧は紫の顔を眺めた後、











「胡散臭いですね」

「「「「「「お前が言うな!!」」」」」」











壮大なブーメランを投げた。

全方面からツッコミが入る。


「確かに西条のババアほどじゃないけど紫は胡散臭いかもしれない! 初めてあった時なんて『あれ、紫ってこんなにきな臭い奴だったけ?』って思ったけど!」

「ちょ、師匠それフォローになってませんよ!?」

「でも『何もしてないのに学校側の不審者リストに載った詐欺師(笑)』には言われる筋合いはねーぞ?」

「紫苑!? それ何気に私の黒歴史ですからね!?」


心外にも程がある。

なんか他東方二次作品で紫=胡散臭いなんて構図が出来上がってる気がするけど、少なくともこの作品では遥かにマシなのだ。異論は認めん。


呆れたように脱線した話を戻す霊夢。


「龍慧さん、早くしてよ」

「アリっちの精神状態を不安定にしておくのもあれだしね」

「それもそうですね」


龍慧は指を鳴らした。

すると『ミトラスの首輪』は音を立てて崩れ去り、淡い鈍色の光がアリスの身体を包んだ。それの数秒のことで、霊夢達3人に仰々しくお辞儀をする。




「終わりましたよ」




「「「早っ!?」」」

「あはは、この程度の精神操作は私の十八番ですからねぇ。首輪の難解にした術式もコンマ一秒で解析できますから」


本当にコイツの頭はどうなってんだとつくづく感じる。

紫が必死に知恵を絞って境界をいじっても不可能だった術式を、指先だけで解決する龍慧の思考回路。さすがは千年以上の時を生きる神器の一族と言ったところか。紫も幻想郷を覆う結界なんて術式編んでる奴なんだが、詐欺師はそれ以上ということかね。


魔理沙がソファーに寝ているアリスの元へと駆け寄った時、苦しげなうめき声の後目を覚ました。


「……魔理沙?」

「アリスうううううううううううううううう!!」

「え? ま、魔理沙!?」


そして起き上がったアリスに抱きつく魔理沙。

親友の精神状態が回復したのだ。俺も嬉しいし、それが魔理沙なら言わずもがなかな。

霊夢や妖夢もアリスに駆け寄る中、詐欺師は俺に耳打ちする。


「父親の気分はどうでしたか?」

「やっぱお前が意図的に操作したのかよ……」

「詐欺師ですから」


こちとら大変だったんだぞ。精神的な意味で。


幼児後退していたアリスにとって俺は肉親。

一日中ベッタリくっついて来るのは百歩譲って別にいいけど、風呂や寝室にも乱入してくるのは精神衛生上よろしくなかった。特に風呂なんかは俺の紳士力を試しているのかってぐらい、アリスは積極的だったわ。

しかも幽々の時よりヤバかったぞ。タオル撒いてなかったし。

拒否権がない俺は風呂時は般若心経を永遠と唱えていた。


それを聞いて爆笑した未来にスカイアッパーをぶちかましたり、嫉妬に狂った幽香とそれを止める紫とのリアルファイト、来た瞬間にアリス発狂して目が点になる兼定など、この三日間が大変だった。


「マジで面白かった。龍慧ナイス!」

「恐縮です」

「オイ」


アホみたいな会話をしていると、アリスが俺の存在に気付いて声をかけてきた。






「お、お父さん」

「龍慧、アリス発狂したままだぞ」

「あれ? おかしいですね?」

「ちょ、いや! これは!」






顔を赤面して言い訳をするアリス。


「ま、間違えただけなの! 三日間その名前で呼んでたから、それに慣れちゃったって言うか!」

「なるほどね、つまりアリスは発狂してた三日間のことは記憶にあるのか」

「えぇ」

「……風呂も?」

「~~っ!!!」


ちょっとストレート過ぎたか。

頭から湯気が出ているのかと錯覚してしまうくらい顔を赤くさせるアリスに、未来と魔理沙が声を上げて笑って、霊夢と紫が呆れたように苦笑する。妖夢は己の師匠の言動に冷や汗をかくばかり。


まぁ、これで日常が戻ってきたというわけだ。

喜ぼうじゃないか。


「んじゃ、アリス回復祝いにカレーでも作るかぁ」

「「「カレーよっしゃあああああああああああああああああ!!!!!!」」」

「おや、紫苑のカレーですか」


手を叩いて喜びの雄たけびを上げる霊夢達。

笑いながら台所へ直行しようとしたときに、






「お父さん!」






俺を呼び止めたのはアリスだった。

ってか俺を『お父さん』で統一する気なのだろうか?


「どした、アリス」

「聞きたい……大切なことを聞きたいの」

「??」


真剣そうなアリスの声に皆は歩みを止めてアリスを見た。

何かを覚悟したような、それでも聞くこと自体が恐ろしいかのような、それでも必要な質問だから聞かなければならないと言うような使命感を、今のアリスからは感じた。

なんだろうか?

検討もつかない。


「質問に、答えて欲しいの」

「それ今の方がいいのか?」

「えぇ」


なるほど。

俺はアリスに向き直った。真剣な話ならば真剣に聞こうじゃないか。

とは言ってもシリアスはあまり好きじゃないし、アリスも気を張りすぎている気もする。ここは落ち着かせることが必要かもしれない。


「とりあえずソファーに座ろうか。立ち話をするのも――」











「――櫻木桜華」











……え?











アリスの口からとんでもない名前が聞こえた。


櫻木桜華、だと?


「アリス、何なんだぜそれ?」

「聞いたことのない名前だねー」


未来と魔理沙が何か言っているようだが俺の耳には入らない。




それよりも――なぜアリスがその名前を知っている?




思考が定まらない中、アリスは言葉を続けた。


「龍慧さんから聞いたわ。この名前を」

「………」

「私は知ってる、お父さんのこと、全部」

「………」

「けど、これは霊夢達も知らなきゃいけないことだと思うの。だから、私は貴方に質問するわ。もし、私たちのことを信じてくれているのなら――正直に答えて」


アリスは龍慧以外の戸惑う空気の中、凛とした声で問う。
















「――かつて3万の罪無き人間を虐殺した『史上最悪の殺人鬼』、櫻木桜華。それが貴方の本当の名前なの?」
















アリスは俺の本当の名前を暴露した。




   ♦♦♦



side ???


血生臭い見慣れぬ場所。

紫苑さんから見せてもらった外の世界の建造物が老化している場所に似ている。確か……『廃墟』と言っていたか?


「ここ、どこ?」


必死に思い出そうとする。

私は確か昨夜の格好をした詐欺師に――


「ということは……ここが紫苑さんの過去なのかしら?」


それにしてもどうして血生臭いのか。

ここを歩き出そうと一歩踏み出そうとしたときに、足元の何かにつまずきそうになった。かろうじで転ばなかったけど、幻覚の世界で転びそうになるなんておかしな話だ。どこまでリアルな幻覚なのだろうか。

つまずきそうになった『それ』を見て――


「――っ!!??」


叫ばなかっただけマシと思いたい。




転びそうになったそれは。




人間の。




首のない胴体だった。




どうして紫苑さんの過去にこんなものがあるのか。

体格からして成人男性の身体だろう。服装的には外の世界の一般的なもの? そこまで詳しくはないから分からないけど、首のないところから血が未だにあふれていた。


必死に今の状況を整理しようとしていると、今度は別の方向で複数人の悲鳴が上がった。

何がなんやら認識が追いつかないけど足を運ぶ私。走って建造物を横に曲がってい場所まで走る。


そこで見たものは――











女子供を斬り殺していく黒髪の少年の姿だった。











「い、いや、助け――」

「おかあさ――」

「この子だけは! どうかこの子だけでも――」


命乞いにすら耳を貸さず、首を重点的に狙ってナイフを薙ぐ少年。無表情で殺していく姿はどこか機会を彷彿させ、恐怖心が抑えられない。

しかも殺した女子供の四肢などを捥いで確実に殺していく。

本当に恐ろしい。






でも本当に恐ろしいのは――











彼が『夜刀神紫苑』であることを理解してしまったことだ。











一通りの人間を統べて殺した黒髪の少年は、いつの間にか尻餅をついて地面に座って居た私の方向へと歩いてくる。真っ直ぐ私の方向を見て、後ろを振り向いても誰もいない。

誰を狙っているのか?

そんなの決まってる。


動くことのできない私の前に少年は立つ。

幻想郷で見せてきたどのような瞳よりも残忍で冷徹な目。まるで私のことを『殺すための動物』としてしか見ていないような、抜身の刃よりも恐ろしい輝き。


「――てめぇが最後か」

「――っ!?」


こんな紫苑さんの声聞いたことがない。


私達に食事を振る舞ってくれて、悩みとかにも優しくアドバイスしてくれて、皆から好かれるのが紫苑さんのはず。こんな……まるで……殺人鬼のような……。

なんて考えていると首を掴まれた。


「うぐぅっ!?」

「……とりあえず四肢を斬るか」

「!?」


私は必死に抵抗するけど、紫苑さんの握力はすさまじく振り切ることができない。




死への恐怖。




私は涙目になりながらも呼びかけた。


「し、紫苑さっ……やめ……!」

「?? 紫苑? 誰だ?」


無表情で首をかしげた少年は、ナイフを私の眼球一歩手前に突き立てる。


「その目、気に入らない。抉りだすか」

「い、嫌ぁ……!」

「安心しろ」


次の紫苑さんの言葉を最後に、私は視界が真っ暗になるのと同時に耐えがたい激痛が走る。加えて腕、足からも悲鳴を上げるくらいの激痛に顔を歪めて、しかし口に鋭利な冷たいものでぐちゃぐちゃに切り裂かれて――意識を失った。











「どうせ、てめぇが死んだところで世界は何も変わらない。安心して死に絶えろ、女」





紫苑「やっとこの名前出てきたな」

アリス「(´;ω;`)」

紫苑「よーしよし、落ち着けって」

アリス「この過去編は考えたのいつぐらいなの?」

紫苑「だいたい紅魔当たりぐらいには流れに組み込んでいた」

アリス「そんな前から!?」

紫苑「だから、撃っち先生とのコラボで出てきたエリザベートに似てるわ、って焦った」

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