表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
8章 幻影異変~策士の舞台と壊れし人形~
65/86

54話 暗躍する影

少年の過去を見せる奇術師

幻想郷が幻想に包まれる

side アリス


永夜異変から一週間後。

私は家で人形製作に取りかかっていた。


「………」


とは言っても進んでいないのも事実。

普段なら人形製作に一度取りかかれば何時間でも没頭してしまうのに、私の頭は九頭竜さんに告げられた事実でいっぱいだった。

正確に言えば永遠亭の医者の言葉ね。




『夜刀神紫苑の寿命は長くて2年半よ』




「――っ!」

「シャンハーイ?」


上海が心配そうに顔を覗き込んでくる。

私は安心させるように頭を撫でてあげながらも、心の中は不安といった負の感情で埋め尽くされていた。


2年半。

私達幻想郷の住人にとっては刹那のような時間。


「上手く……いくのかしら……?」


九頭竜さん達の計画は成功するのだろうか?

もし成功しなければ彼は死――


そこまで考えたところで私は首を振る。











「ぜ、絶対に成功するわ! 霊夢と妖夢を信じないと!」

「――根拠のない信用。羨ましい限りですな」

「――っ!!??」











はっと後ろを振り返ると、紅魔館のメイド――咲夜がいた。

もちろん私は彼女を家に入れた記憶はなく、そもそも彼女が訪ねてきたことなど一度もない。

家の窓際に体重をかけて、腕を組みながら柄にもなくニヤニヤしている。いつもの彼女ならそんなことは絶対にせず、私と人形たちは臨戦態勢に入る。


その様子を見た咲夜に似た何か(・・・・・・・)はおどける。


「おやおや、怖いですね」

「貴方、何者?」

「ふむ……とりあえずは『十六夜咲夜』と名乗っておきましょうか」


偽者はカツカツと足音を立てながら私に近づいてくる。


「っ!」


私は人形を操って偽者に攻撃をする――が、人形達は彼女の前で動きを止めた。

何度も動かそうとしてもビクともせず、偽者は微笑むだけ。


「な、んで……」

「私の能力は醜悪の能力に似ておりましてねぇ。こうやって人形の支配を盗ませていただきました。伊達に『トリックスター』とは言われておりませんので。まぁ――」


私の前に立ち止まった偽者は私の顎をクイっと上げる。


「本来の能力ではありませんが」

「……貴方は何を企んでるのかしら?」

「さぁ? 貴女に話したところでシナリオは変わりませんよ」


偽者の鈍く光る蒼い瞳。

それから目を逸らそうとしたが体が自由に動かない。


「私に何かしてみなさい。霊夢や魔理沙、そして――」

「夜刀神紫苑」

「な!?」


紫苑さんを知っている!?

つまり彼女は外の世界の住人であり、紫苑さんの住んでいた街の人間であることを即座に理解する。同時に私では対抗の仕様がないことを理解させられた。


偽者は余裕の笑みを崩さない。


「貴女、彼に恋しているでしょう? いやいや、隠さなくとも結構です。私は貴女を監視しておりましたし、外から見ても明らかですから」

「くっ……」

「しかし――貴女は彼のことを何も知らない。理解していない。私としてはそのような人間を愛することなど理解不能ですけどね。だって、知らなければ『本来の彼』を知った時に落胆してしまうでしょ? 軽蔑してしまうでしょ? 失望してしまうでしょ?」

「そんなことない!」


これだけは断言できる。

私が彼が何をしようと信じている。

半年という短い時間だが――私は彼を信用している。


その答えに対して――偽者は声を上げて笑い出す。


「アハハハハハ、その想い、素晴らしい!」

「貴女に褒められてもうれしくないわ」

「だからこそ貴女を選んだといっても過言ではありません。……しかし、本当にそうでしょうかね?」

「どういうこと?」

「壊神……と呼ばれる存在をご存知でしょうか?」


壊神……獅子王兼定さんかしら?

幻想郷にいる外の世界出身のなかでも最も好戦的で野蛮な不老不死の男。〔森羅万象を破壊する程度の能力〕を持ち、挑発的で……寺子屋の上白沢慧音さんに惚れている一途な人?




そして、『殺人鬼』と呼ばれるほどに人を殺していた人。




私のその回答に満足した様子の偽者。


「そう、彼は殺人鬼と呼ばれるほどには人を殺していた。実際に3桁は超えるほど殺しているでしょうね。けれど、私は彼を殺人鬼とは呼びませんし、おそらく暗闇も呼ばないでしょうよ。たった(・・・)数百人程度で殺人鬼と呼ぶなど失礼というもの」

「さっきから何が言いたいの?」

「ふふふっ、さぁ?」


おどける偽者は私の耳に顔を近づけて囁く。
















櫻木桜華(さくらぎおうか)、この名前をご存じですか?」
















櫻木……桜華?

私は首を横に振ると、偽者は肩をすくめる。


「やはり、ですか。まぁ、この名前は切裂き魔や壊神、帝王ですら知らない名前ですからね。貴女は実に運が良い」

「な、何を」

「知りたくないですか? 彼の過去を」

「!?」


紫苑さんの……過去。


偽者は言った。

九頭竜さん達ですら知らない、紫苑さんの過去を知りたくはないかと。


その誘惑に私は頷く。











「では、見せてあげましょう。夜刀神紫苑の血塗られた歴史を。……まぁ、貴女の心が耐えられればの話ですが」

「え?」





刹那、私の視界は暗転する。




   ♦♦♦



side 未来


楼観剣が僕の髪を少量切断する。

一歩間違えれば頭部の髪の毛がごっそり切られ、落武者のような髪型へとなっていただろう。他のアホ共に笑われるに決まってる。

そして白楼剣と楼観剣の連撃。


数ヵ月前と比べて格段に二振りの名刀を扱えるようになっていることに感心しつつ、僕は二本のナイフで受け流す。

最近の彼女はマトモに剣を受けるとナイフを切断してくるからね。今までで二桁のナイフがお釈迦になっちゃったから、白楼剣の斬撃を横にずらしながらほくそ笑む。

僕は楼観剣を蹴り上げた(・・・・・)


「――っ!?」

「あーらよっと……」


白楼剣を二本のナイフで絡めつつ、楼観剣に回し蹴りを放つ。突然のことに反応できない彼女は楼観剣を落とす。


だが彼女は諦めない。

すぐにナイフの拘束から逃れ、地面を転がりながら落とした楼観剣を取り戻して一閃。感嘆の声を上げながらも一閃を地面を蹴って宙に踊ることで回避。

こりゃ凄い。

彼女の対応は、この前僕がわざと落としたナイフを回収したときと同じ動きだ。つまり僕の技を盗んでいるということ。

技と言っていいのか微妙なところだけどさ。


着地した僕はナイフを彼女の首筋へ。

もちろんチェックメイトだ。


「そこまで!」


ポニーテールの少女の声が白玉楼に響き渡った。






「さっきのみょんの対応はナイスだったよ~」

「そ、そうですか!」

「未来殿、次は私と手合わせを」

「えー、少しは休ませて……」


白玉楼の縁側で休憩する3人がいた。

一人はもちろん僕で、もう一人は銀髪のショートヘアーの少女のみょんこと魂魄妖夢。

最後の一人は月と地上を監視する軍のリーダーで、パープル色のポニーテールの少女――綿月依姫だった。


どうやら依っちの上司が『月の脅威となる人物の監視』という名目で、この幻想郷に滞在することになったらしい。ちなみに豊ろんは兼定の家にお世話になっているとか。

兼定の「なんでコッチ来るンだよ!?」と叫んでいたらしいけど……面白くなってきたね!

修羅場のオンパレードじゃないか!


僕は団子の皿を持ちながら茶を啜る。

こうやって持っておかないと幽々っちに取られるからね。彼女の(食事に関する)瞬発力は紫苑の『大鴉』を軽く越える。さすが紫苑の義妹と言うべきか。


「そろそろ宴会でも始まるのかなー」

「永夜異変のですか?」

「うん、でも暑いから外での宴会は嫌だなって」


真夏の中での宴会とか暑いだけじゃん。

せめて夜に開催されてほしい。


「宴会……」

「ん? 依っち楽しみ?」

「え? あ、その……まぁ、はい……」


照れ隠しをする依っち。

僕はその微笑ましい光景を眺めつつ、縁側から立ち上がった。手にはナイフを。


「その楽しむ気持ちは悪くないよ。誰だって楽しいことがあれば素直に喜べばいいさ」

「未来殿、手合わせですか!?」

「うーん……これは手合わせってより――挨拶かな?」


みょんと依っちが目を点にする中、僕は桜の木にナイフを向ける。




正確には木に隠れている何かに。




「出てきなよ、誰かさん」


そこから現れたのは一人の老人。

明らかに『歴戦の戦士』と言っても過言ではない男だったが、みょんは動揺した声で叫ぶ。


「お、お祖父様!?」

「ふーん……これ(・・)が魂魄妖忌、ねぇ……」


みょんのお祖父さんは刀を抜き――











――そして僕が真一文字に斬り裂く。











「「……え?」」


流れについていけない二人だったが、僕は血の付着していないナイフを癖で払って懐に仕舞う。

魂魄妖忌だったもの(・・・・・)は霞んでいき、そして何もなかったかのように消え失せた。痕跡も血も残さず。


僕は二人に向かって肩をすくめた。


「手応えなし、かな?」

「お、お師匠様!? いきなり――」

「あれはみょんのお祖父さんの幻影だよ。だって――彼は白楼剣と楼観剣を持っていたし」

「あ――」


そう、幻影の持ってた刀は見間違えることなく白楼剣だった。しかし現在の白楼剣の所有者はみょんであり、魂魄妖忌が持っているのはおかしいのだ。

つまり彼は偽者。

影。


僕は縁側に置いてあったスマホを手にとって、縁側でポカーンとしてる二人に声をかけた。


「みょん、依っち。紫苑の家に行くよ」

「……まさか、異変でしょうか?」

「もしかしなくても十中八九そうだろうね。加えて僕はこの異変の首謀者を知ってる」


何のために起こしたのかは分からないけどね、と僕は笑ったけど、心の中では舌打ちをしていた。

西条のおばさんよりはマシだけど、街でも有数のトラブルメーカーであるアイツ(・・・)が関わっているからだ。目的も狙いも分からないから、今の僕としては幻想郷にいる街の連中を集めるぐらいしか対策が思い付かない。


その表情を汲み取られたのか、みょんが心配そうに反応しない僕の顔を覗き込んでいた。


「お師匠様、もしかして……」


僕は無意識にみょんの心を読む。

そして首を縦に振った。


「うん、僕の知ってる人物――いや、僕等の仲間の最後の一人が首謀者だよ。間違いない」


僕は薄暗い白玉楼の空を眺めながら呟く。




街でも珍しい竜神の一人。




稀代の奇術師にして策士家。




そして――紫苑人外化計画の発案者。











霊龍慧(みたまりゅうけい)、詐欺師だ」





紫苑「そんなわけでオリジナル異変」

未来「霊っちと魔理りん、みょんが大活躍の章!」

紫苑「次回からわかるだろうけど俺動けんからな」

未来「だよね_(:3」∠)_」

紫苑「あとアリスファンに一言、ごめんなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ