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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
1章 紅霧異変~少女の祈りと神殺の約束~
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5話 紅き館の番人

罪なき少女に狂気は合わない

side 紫苑


いや予感がする。

その感覚を当てにして『風』の化身を使ったところ、人里から見知らぬ場所へと自動転移した。


「……うわぁ」


転移して一番最初に目についたのは、目の前に存在する大きな西洋風の館だった。長時間見ていたら視力が落ちてしまいそうなほど目に優しくない紅。

血を連想させるそれは、館の主の悪趣味さを感じさせる。

黒いペンキ持参して今度塗り替えに行こうかと考えるくらいだ。


だが……『赤い霧』と『紅き館』

果たして偶然だろうか?


「まぁ、霊夢と魔理沙の霊力を感じるし正解かな」


この館は人里よりも博麗神社の方が圧倒的に近いし、もう異変解決に乗り込んでいるだろうと推測する。妖怪対峙の専門家と、弾幕ごっこで俺を圧倒した魔法使いなら異変なんてすぐ解決するだろう。

問題があるとすれば……


「その二人が来ているにもかかわらず、俺の嫌な予感が拭えねぇってコトだな」


つまり、今回の異変の元凶よりヤバい奴がここにいるってことだ。

そんな冗談みたいな奴いるとは到底信じたくないけれど、いたとしたら霊夢や魔理沙の手に負えないやつだろうし、俺も動くしかない。


「刀預けるんじゃなかった……はぁ……」


俺はトボトボと重い足取りで紅い館に足を運んだ。



   ♦♦♦



side 美鈴


「どうしよう……咲夜さんに怒られるなぁ……」


紅魔館の門前で倒れながら、私は紅魔館のメイド長にどう言い訳をするかを考えていました。

人間二人を簡単に通してしまいました。お説教は確実です。


お嬢様から『何人たりとも通すな』と命じられましたが、博麗の巫女とオマケの猛攻を食い止めることはできませんでした。恐らく目的は紅い霧を出したお嬢様でしょうが……。


「どっちにしても体が動かないですし……」


ため息をついて紅い空を見上げていると、こちらに向かってくる足音が聞こえました。1人の――それも人間の足音に疑問を抱きます。

なぜ人間がここに……?


「――紅魔館に何か御用ですか?」

「あ、生きてた」


失礼ですね。

私の顔を見下ろしている黒髪の少年が問いかけました。


「ここの門番か?」

「はい、紅魔館の門番をやっている紅美鈴(ホン・メイリン)といいます」

「自己紹介ありがとう。俺は夜刀神紫苑、普通の人間だ。そんで目の前に本来なら門を守っているはずの門番がボロボロになって倒れているんだが……どうしたんだ?」

「あはは……これは霊夢さんと魔理沙さんに……」

「あの二人か。容赦ねぇな」


まるで納得したような顔を見せる夜刀神さん。

見たことのない服装に、霊夢さんと魔理沙さんを知っているということは……外来人でしょうか?

それなら異変の最中に外に出ていることに納得はできます。


「ここは吸血鬼の住む紅魔館ですよ。人間が近寄るには危ない場所ですが」


やんわり注意喚起してみたが、夜刀神さんは少し目を見開き、興味深げに笑いました。


「吸血鬼か。こりゃまた親しみのある妖怪が出てきたもんだ」

「親しみのある……?」


もしかして……彼は吸血鬼に会ったことがあるのでしょうか?


「あれだろ。吸血鬼ってヴラドのじーさんと同じ種族だろ?」

「串刺し公を知っているのですか!?」

「うん。割とあのじーさんとは交流あったからねー」


お嬢様から聞いたことがある串刺し公ヴラド。

かつて外の世界で世話になったと自慢げに語っていた、吸血鬼の中でも上位に当たる大妖怪。

その大妖怪と交流があるこの少年は本当にただの人間なのでしょうか?


「……ん? 待てよ? まさか紅魔館の主って……レミリア・スカーレットって名前か?」

「……!?」

「あー、その反応で理解した。じーさんの言ってた『スカーレットデビル』の異名を持つ吸血鬼って幻想卿にいたのかぁ。まさか本物に会える日が来るとは思わなかったぜ」


まさかお嬢様の名前まで知っているとは……。

昔を懐かしむように少年は独り言をつぶやきます。


「こりゃあ、じーさんの言伝を伝える日が来るなんてなー。世界って広いようで狭いんかね。しっかし、あのじーさんが孫を語るように自慢してた吸血鬼姉妹……だか……ら……?」


ふと夜刀神さんは言葉に詰まり、考え込むように眉を顰めます。

大事なことを思い出すかのように必死な姿に、私は声をかけることが出来ませんでした。


「レミリア・スカーレット……姉妹……確か……フランドール・スカーレット……じーさん……能力……壊神の下位互換……」


断片的に言葉を呟いており意味は分かりませんでしたが、


「――なぁ、紅さん」

「は、はい。め、美鈴でいいです」

「そうか、美鈴。一つ聞きたいことがあるんだけど」


普通の人間の質問。

ただそれだけのはずなのに、お嬢様のカリスマに近い――いや、それ以上の何か(・・)を感じ思わず声が裏返ってしまいました。私を見下ろす瞳は先ほどの優しく人懐っこい雰囲気とは打って変わり、鋭く触れるものを問答無用で切り裂くかのように冷たい。










「――この館の地下に、フランドール・スカーレットって名前の少女はいないか?」










「ど、どうしてそれを!?」

「その様子じゃあ……いるんだな?」


夜刀神さんは大きなため息を深くつきます。


「どーりで嫌な予感がするわけだ……。あんまり関わりたくはねーけど、じーさんとの約束もあるし放置してはおけないから……なんとかするしかねーよなぁ」

「どうして……妹様の名前を」

「フランドール・スカーレット、能力、暴走」

「!?」


一番伝えたいことを文字だけで表現したのでしょう。

つまり彼は知っているのです。妹様の精神状態や能力を。


妹様――フランドール・スカーレット様の能力は〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕。物資や人間・妖怪にある『目』というものを手に移動させて破壊する規格外の能力。

そのせいか、妹様は自ら地下に引きこもり495年間交流を断ってきました。自らの能力で誰も傷つけないように……。


夜刀神さんは頭痛を堪えるように頭を振り、私の前にしゃがんで腹部に手を当ててきました。

同時に彼から尋常じゃないほどの神力が迸り、私の体が瞬く間に癒されていき、数十秒も経たないうちに体が完治してしまいます。思わず立ち上がり、試しに拳を実践と同じように突き出してみますが違和感もなく、むしろ体が軽くなった気がしますね。


「これなら大丈夫そうかな? 半妖だし効くか心配だったけど」

「夜刀神さん、これは一体……」

「紫苑でいい。俺の能力の一部だと思ってくれればいいさ。その代わりといっては何だが……そのフランドール・スカーレットって少女の所に急ぎで案内してくれないか? ここまで大きな館だと案内なしで彼女の場所にたどり着く自信がない」


私は迷います。

確かに彼は私を治療してくれました。私の能力〔気を使う程度の能力〕でも彼が危害を加えるような人間にも見えません。しかし、それでも疑問に思うことがあり、彼を妹様の元に通してもよいにか判断に迷うのも事実。

考えた結果――私は紫苑さんに拳を構え聞きます。




「貴方が妹様に会う理由は――何でしょうか?」




紫苑さんは目を見開き、納得したかのように「あぁ、なるほどな」と呟くと――全身から怒気を放ちます。

瞳には理不尽に対する激しい怒りと、僅かばかりの悲しみ。


「イライラすんだよ、マジで。じーさんから彼女の話を聞いた時も不愉快だったわ。よりにもよって――いたいけな少女に〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕だと? 冗談じゃねぇ。自己満足だと分かっていてもさ、小さな女の子が苦しむ姿なんざ見たくはねーんだよ」

「………」

「会う理由? んなモン決まってるだろ。――救いに行くんだよ(・・・・・・・・)

「……貴方なら、妹様を救うことが出来るのですか?」

「知るか。できる出来ないの問題じゃない。やる(・・)だけの話さ」


まぁ……と少年は怒気を潜め、苦笑いを浮かべる。


「串刺し公・ヴラド公爵が普通の人間である俺に託した最初で最後の願いを叶えるためにってのも理由かな。心の隅に留めておいてほしい程度の願いだったけど……それだけが心残りって感じだったし、世話になった分の恩返しをするのも悪くはない」

「……分かりました」


私は構えを解きました。

ただの勘……そう、勘ですが、彼なら妹様の呪縛を解き放ってくれる。そう思ったのです。

……不思議なものです。今日会ったばかりの人間を信用するなんて。これは彼の魅力でしょうか?


「案内します。ついて来てください」

「おぉ、サンキューな」


私と紫苑さんは並んで紅魔館の中へと向かいます。


「――妹様を、よろしく頼みます」


小さな、とても人間に聞こえるような大きさではありませんでしたが、


「――あぁ、任せとけ」


きっと届いたのでしょう。



   ♦♦♦



side ???


寂しい、寂しい、寂しい。


壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても壊しても――満たさない。


もう物を壊すのは飽きた。


ねぇ


貴方は楽しませてくれるの?


貴方は――このお人形のように簡単に壊れない?


ねぇ


楽しく


おかしく


遊びマショウ?





ぶっちゃけフランをどう救おうか考えてませんw

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