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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
6章 宴会と異変~生を望む者~
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43話 街の絆

俺たちを敵に回すことの意味

身を持って思い知れ

side パチュリ―


私と咲夜、霊夢にアリスは宴会の端で集まっていた。

もちろん理由は彼のことだ。


「最近の彼はどうなの?」

「まだ白玉楼の宴会で話したばかりでしょ……。紫苑さんと修行しているけれど、彼が神力を過度に使用した形跡はないわね」


紫苑さんに全力を使わせるくらいに強くないし、と霊夢は自虐的に肩をすくめた。




紫苑さんの寿命が5年も残っていないという話を聞いたのは、数週間前にあった白玉楼の宴会でのこと。

その話を聞いた私たちは驚愕した。特に妹様と咲夜は相当ショックを受けており、妹様は目から光が消えていた。

自分のしたことの重さを理解したのだろう。


『わ、私……お兄様の手を……』

『あ、その件は関係ないよ。もし紫苑が限界突破で化身を使用したのなら、腕の欠損なんて数秒で治せるはずだし。数週間かけたのなら自分の神力だけで回復させたんじゃないかな?』


そして未来さんの計画協力を促されて、レミィは渋々と了承したのは今でも覚えている。

妹様と咲夜にとって大切な存在であり、私個人としても5年なんて短い歳月で彼と別れたくない。彼とは本についてもっと語り合いたいし、紫苑さんが死ぬことを考えると胸が張り裂けそうな気持ちになるのだ。




「あの九頭竜って男の言うことは信用できるの?」

「相変わらず咲夜は九頭竜さんに厳しいわね。獅子王さんとヴラドさんも同じようなことを言ってたから、恐らく本当のことだと思う。吸血鬼が頭下げたのよ?」


咲夜の言い方は未来さんを信用してないというよりも、その最悪の事実を信じたくないという印象がある。


「とは言ったものの、霊夢はやることが分かっているけれど、私たちは何をすれば……」

「紫苑様と相思相愛に成ればいいんじゃない?」

「なぁ――!?」


さらっと答えた咲夜にアリスが赤面する。

なんか異変の時も咲夜は霊夢達に向かって『自分は紫苑さんを愛している』というニュアンスの発言をしたらしい。愛する覚悟を決めた女って怖いわ。


まぁ、私たちのやることは咲夜が言った通り。

だけれど。


「紫苑さんと相思相愛って、紫苑さんに勝つより難しいわよ?」

「どういうこと?」

「彼が私たちを異性として見るのかってことよ」

「「「……あー」」」


紫苑さんは私たちをどういう目で見ているのか。

霊夢は妹のような弟子として見ている気がする。

アリスは親切なご近所さんね。

咲夜はフラン(妹)の保護者。

私は……本仲間?


多少の誤差はあれど、彼が異性として認識していないことは明らか。女として傷つく気持ちがないわけでもないが、私たちとて異性との交流の経験がないからなんも言えない。

じゃなかったら、こんなところで苦労しないわ。


「まぁ、その話は置いておきましょ」

「そのために私たちが集まったんじゃないの?」


霊夢は大きくため息をつくと、遠くで宴会を楽しんでいる紫苑さんに聞こえない程度に怒鳴り散らす。






「今日で宴会何回目よ!?」






「7回よ」

「冷静に数えなくてええわっ」


私にツッコむ霊夢が少し紫苑さんと重なる。

弟子になるとそこら辺も似るのか。興味深い。


「確かに3.4日に一回の頻度は異常だけれど……そこまで問題視することなのかしら? 飲んだり騒いだりする口実で宴会を開くのは、幻想郷では珍しくもないわ」

「……もし異変だとして、紫苑さんが解決に乗り出したら?」

「「「………」」」


霊夢の言いたいことをようやく理解した私。


勘の鋭い彼なら気づいていてもおかしくなさそうだが、もし異変の解決として強大な敵と戦うことになったら。もし能力を限界突破せざるを得ない状況になったら……。

それを恐れているのだろう。

宴会程度が増える異変に強大な敵が出てくるとは思えない。しかし、霊夢が問題視するのならば……関わっているのだろう。


「つまり私たちで異変を解決するわけね」

「フランや魔理沙が引き留めている今のうち――」


と一致団結しようとした瞬間。




紫苑さんの居る方向から爆発音がした。



   ♦♦♦



side 紫苑


博霊神社の賽銭箱前で並んで座る俺とじーさん。


「未来と兼定、帰ってくるの遅いな」

「ツルギにナイフの説明をする簡単なお仕事、とか言っておったのにのぅ。何かあったか?」


宴会続きで会話のネタが尽きた俺とじーさんは、ツルギの幻想郷に行ったまま帰ってこないアホ二人について考える。


「あるいは死んだ、か」

「切裂き魔と壊神とあろう者が死ぬとでも?」


ヴラドは笑い飛ばしたが、俺はそうは思わない。


「別に俺たちより強い奴がツルギの幻想郷に居ないとは限らないだろ? それに――ヴァルバトーゼの様子がおかしかったし」

「魔帝が?」


酒を飲もうとしたヴラドが手を止める。

俺は「予想だけどなー」っと咲夜の作った料理を口にする。


「憶測にすぎないけどな」

「構わん。話せ」

「なんというか……ツルギに対する『迷い』があった気がするんだよなぁ。加えて――アイツは俺に一度だけ殺気を飛ばしやがった」

「………」


ヴラドの目が鋭くなる。

いつもオタ芸だのアニメ鑑賞だのほざいているオタクは鳴りを潜め、『帝王』の異名にふさわしい風格を纏う。


「殺気を飛ばし返した以降は何もしてこなかったけどな」

「儂には殺気など欠片も見せなかった。神殺にだけということは……〔十の化身を操る程度の能力〕に関係していると?」

「知らん。憶測だって言ったろうが。そして魔帝ヴァルバトーゼが俺を警戒するとすれば『戦士』の化身以外にはあり得んだろ」


あらゆる能力を無効化する『戦士』の化身。

寿命なんざ考えなければ世界すら敵に回せる俺の切り札にして、勝利の軍神たらしめる黄金の剣。


敵対しなければ俺が手を出さないことは、ヴァルバトーゼでも分かっているはずなのだ。それでも殺気を飛ばしやがったということは……つまりはそういうことなのだろうよ。


「ツルギに危害が及ぶと貴様は考えるのか」

「十中八九そうだろう。ヴァルバトーゼも隠してることがあるだろうし、切裂き魔と壊神が巻き込まれた可能性もある」

「隠していること?」

「例えば……そうだな、ヴァルバトーゼは自分の強さについて俺と話したことがあるんだ。その時『我はソロモンの72柱の悪魔も従えてる』と解説したんだ」

「儂だって神話生物くらい従えとるわ」

「問題はそこじゃねーよ老害。アイツは『悪魔()』と言ったんだぞ? つまり、それ以外にもソロモン72柱に相当する存在を従えている可能性があるわけだ。――そう、神とか」


悪魔だって他宗教の神を貶めた姿だったり、敗北した大地母神の姿だったりと様々。ならばヴァルバトーゼが神様を従えていたとしても不思議ではないさ。

そう説明すると、ヴラドの顔が険しくなる。


「あとこれは完全に予想なんだけど、ヴァルバトーゼって姉か兄いるかもしれん」

「根拠は?」

「予想だから根拠はない。ヴァルバトーゼの日常的な行動、仕草や癖から自分より立場が上な奴が近くにいたかもしれないってことだ。要するに兄弟だな」

「……貴様は心理学も詳しかったな」


哲学も心理学も同じようなもんだぜ?

というか共通点多いから知識として学んだって感じか。


「そういえば双陽異変のときに人造人間が幻想郷の結界を破って侵入してきた。ツルギではないタイプが」

「破ったのならツルギ目当てかもな。回収か処分か、どっちにしろ波乱がありそうなのは確かだぜ」

「それで、貴様はどうする?」

「もう少し待ってみるさ」


でもな、と俺は麦茶を飲み干す。


「もし切裂き魔と壊神が殺られたのなら――その時は紫経由で暗闇……いや、街の連中に伝える」

「……貴様、正気か?」

「俺はいつだって正気だよ」


俺は今どんな顔をしてるのかな。

少なくとも幻想郷の少女達には見せられない面をしているのだけは間違いないと思う。










街の連中(おれたち)を敵に回したんだ。まさか――のうのうと今後の生を貪れるとは思ってないだろう? 徹底的に、徹底的に(・・・・)、一族郎党老若男女動植物に至るまで全て皆殺しだ(・・・・・・)










俺は嗤った。

俺たちの結束は()より強いんだぜ?


「……それは戦争だぞ?」

「ふん、ツルギの世界では戦争が続いてるんだろ? その中に星の一つ二つを蹂躙できる集団と、全次元の生命活動を指鳴らすだけで終わらせることのできる暗闇が武力介入したところで問題はない」

「問題しかない」


少なくともツルギの幻想郷は終わるだろうな。


そして今まで出していた不機嫌な雰囲気を消す。


「まぁ、切裂き魔と壊神なら地べたを這いずり回っても死なないだろうよ。その程度で死ぬなら街でなんて生活できないし。つか友人(ツルギ)の幻想郷を終わらせたくない」

「それな」


ヴラドもカリスマをオフにする。


「お兄様、話は終わった?」

「おおおおおぉ、フランや!」

「ちょ、おじーさま!?」


愛でること親バカの如し。

フランが視界に入った瞬間、ヴラドは『大鴉』を使っている俺よりも早く幼女に飛びつく。

フランもフランで恥ずかしそうに嬉しそうに、ヴラドを受け入れるもんだから、老害の行動に力が入る。両親がいないフランにとって、ヴラドは父親みたいなもんなんだろ。


その様子を生暖かい目で見守っていると、魔理沙と紫が歩いてきた。


「師匠、ヴラド公との話は終わりましたか?」

「うん。ちょっと一つの世界を滅ぼす滅ぼさないの世間話してただけだから、気をつかわなくても良かったのにな」

「それ世間話なのか!?」


魔理沙の言い分も分かるけど、俺たちって基本こんな感じで雑談するぜ?


「さて、そろそろ限界だろうし終わらせようか」

「何がだぜ?」

「――異変だよ」


俺は博霊神社の鳥居の上――何もない空間を睨んだ。






「出てこいよ、鬼」

「……まさか人間風情にバレるとはねぇ」






鳥居の上に濃い霧がかかり、だんだんと姿が浮かび上がる。

角が二本生えた幼女。瓢箪に入っている何かを飲みながら、俺たちを睥睨する。


「私は伊吹萃香(いぶきすいか)。あんたは?」

「夜刀神紫苑。この立て続けに開催される宴会はお前の影響か?」

「そうだよ」


素直に認めやがった。

鬼は嘘が嫌いなんだっけか。


「なら話は早い。さっさと止めろ」

「そんなこと言ったってねぇ。私は宴会をもっと楽しみたいし――」


言葉を一度切って、俺の居る場所目掛けて落下し、拳を地面に叩きつけた。かろうじで回避したが、博霊神社の境内に大きなクレーターが誕生する。

霊夢かわいそう。






「――喧嘩したいからね」






萃香はニヤリと笑った。


「人間、殴り会おうよ」

「嫌だ……って言っても無駄か」


俺は小さな鬼を横目に肩をすくめるのであった。





剣「(((゜Д゜)))」

紫苑「大丈夫だって……壊したりしないからさ……」

剣「そもそも星が耐えられない……」

紫苑「それな」

剣「というか鬼に狙われてるけど大丈夫か?」

紫苑「大丈夫じゃない」

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