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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
6章 宴会と異変~生を望む者~
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41話 びっくり

マジすか

side 未来


幻想郷で初めて参加する宴会。




なにこの通夜みたいな空気。




いや、確かに言い出したのは僕だけど!

僕としては『まだ5年もあるから大丈夫』的な意味合いで言ったけど、ここまで認識か間違うのか。遠目から見ていて紫苑への扱いが『介護』となりつつある現状に頭を抱えていた。


料理を運ぶ手伝い……というか争奪戦をしている紫苑LOVE勢を眺めながら設営してると、後ろから声をかけられた。


「貴方がフランと咲夜の言っていた『切裂き魔』ね」

「うん?」


振り返ると前に会ったことのあるフラぽんと咲ちゃんに加えて、小さな吸血鬼と魔女らしき人物、中国衣装の女性が歩いてくるのが見えた。

彼女等が紫苑の言っていた『紅魔館勢』と呼ばれる面子か。

もちろん友好的な視線とは言いがたい。


僕はいつも通り挨拶をする。

挨拶は大事だからね。


「こんにちはー、小さな吸血鬼さん」

「ふん、私のフランを痛め付けておいて呑気に挨拶?」

「フラぽんのお姉さんか」


確かに似て……る……?

うーん、そこまで共通点がないように思えるな。背の小さいところは同じだけど、そんなの地球探せばいくらでもいるし。

まぁ、フラぽんがなついているのは心を読まなくても明らかなことだから、恐らく本当のことなのだろう。ここで嘘をついて彼女にメリットはないからさ。


「僕の名前は九頭竜未来。よろしくね」

「私の名はレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼の一人よ」

「あのオタ芸を極めた一族の一人……」


いや、極めてはいないか。

彼等は日々鍛練をこなして『オタ芸』を極めようとしている、が正しい。ヴラドも今のままじゃ満足できないと紫苑の家でアニソン流して練習している。


なんて考えていると、レミリア・スカーレットという名前に聞き覚えがあることを思い出した。


「ヴラドの御孫さん?」

「貴方もヴラド公を知っているのね。けど――その下劣な口でヴラド公の名を汚さないでくれるかしら?」

「下劣、ねぇ。誉め言葉として受け取っておくよ」


やりにくいわね……とレミぽんは舌打ちをした。

あの3人に下劣なんて言われたら心外だけど、彼女の言うことは正論なので反論の余地なし。


「ヴラド公の盟友たる夜刀神を傷つけたことも許せない。今回は夜刀神がアクションを起こさなかったから見逃すが、次も同じようなことが起きたら――」


さすがはヴラドの孫。

カリスマもそれなりにあるようだ。

というか紫苑を串刺しにしただけでこの反応、昔に兼定が紫苑の臓器を木っ端微塵にした話をしたらどうなるのかな? というかレミぽんのお祖父様も紫苑をボコボコにしたことあるけど。




それにしても、紫苑は好かれてるね。

ざっと心を覗いた感じ、フラぽんと咲ちゃん、紫色の魔女に好かれていることが分かる。愛情とまでは程遠いが、チャイナな彼女もいい感情を抱かれてる。

紫苑マジたらしだわー。


「あ、フラぽんに咲ちゃん。あそこで紫苑争奪戦してるから行ってきなよ。紫苑困ってそうだし」


二人はレミぽんに許可をとって紫苑LOVE勢の中に消えていった。人はこれを燃料投下という。


「まったく……フランったら」

「いいじゃん、495年の束縛から解放されたんだし、はしゃぎたいお年頃なんじゃない?」

「貴方も経験があるのかしら?」

「……さぁ?」


紫の魔女――パッチェさんは意味深げに尋ねる。

まぁ、僕はフラぽんよりはマシかもね。


「けどレミぽんはヴラドに似てるね」

「その呼び方やめなさい。……ふん、私にとってヴラド公は目標であり、最愛の祖父よ。当たり前じゃない」

「血が繋がっていなくても?」

「それでも私の自慢の祖父に変わりはないわ」


そっかー。
















「だってさ」

「儂超嬉しいっス」
















僕は『開いた口が塞がらない』という慣用句で、今のレミリア・スカーレット以上に適した状況を見つけることが生涯なかった。



   ♦♦♦



side レミリア


へ?




「久し振りぶじゃのぅ、レミリアよ」




ゑ?




「まったく背が成長しておらんな。ちゃんと血と飯を食っておるのか? 歯磨きはちゃんとしておるか?」




ちょ、




「吸血鬼たるもの早寝早起、オタ芸の鍛練を欠かしてはならぬと昔から言っていただろう? 今週末に紫苑の家のテレビを占領してアニメ観賞会をするから――」

「待っておじいさま」


わからない。いろんな意味で。


え、ちょ、は、あ、へぇ?


「本当におじいさま?」

「カカカッッ、このヴラド・ツェペシュを見間違えるほど、レミリア・スカーレットの目は節穴となったか?」


いや、間違いないのは知ってる。

この気を抜くと一瞬で飲み込まれる圧倒的存在感は、吸血鬼という種族を名乗っていれば嫌と言うほど聞く。史上最高の吸血鬼にして『帝王』の異名を持つ怪異。


しかし――


「お祖父様キャラ変わってない?」

「儂は昔からこれじゃぞ」

「「いや、それはない」」


不本意ながら私と九頭竜という男の声が重なった。

私は小声で九頭竜を責める。


(あの誇り高きおじいさまはどうしたのよ!?)

(ほら、カリスマ性は残ってるじゃん)

(存在感と言葉が一致してないのよ!)

(……余命一年で吹っ切れちゃったらしく、まぁ、その。あんな残念な吸血鬼の王になっちゃった☆)

(私達の王になんてことをっ!?)

(僕は悪くない! というか外の世界の吸血鬼なんて全員あんな感じだよ!?)


それ以前に重要なことがある。




おじいさま何で生きてんの?




夜刀神曰く1年に亡くなったはず。

嘘を言っている様子もまるでなかったし、ならば目の前にいるヴラド・ツェペシュは何者だ?

私はおじいさまに尋ねた。


「おじいさま、どうしてここに……?」

「儂にもわからぬ。いつの間にか幽体となって白玉楼(ここ)に居たわけじゃよ。まぁ、過程や理由など分からずとも『幽霊となって顕現した』という事実さえあれば、さほど重要なことではないわ」


高らか笑う吸血鬼の王。


おじいさまは唐突に私の身体を掴んで持ち上げ、己の肩に私の足をかける。

要するに肩車だ。

もちろんそのようなことをする歳ではないので、恥ずかしさ九割で赤面してしまう。残りの一割はもちろん羞恥心だ。『スカーレットデビル』の名にあるまじき醜態と言えよう。


「お、おじいさま!?」

「カカカッ、昔はこのように肩車をしてやったのう」

「そ、そんな肩車してもらうような歳ではないわ! というかパチェも美鈴も見てないで助けなさいよ!」


パチェは瞳を閉じながらフッっと小さく笑い、美鈴は苦笑いをしながら助けようとはしない。もちろん九頭竜も穏やかな表情で保護者のように見守っている。

なんという非情な奴等だ。


「微笑ましいわね、レミィ」

「さすがにヴラド公の行動に手は出せませんよ」

「まさにおじーちゃんと孫だなー」

「美鈴、今月は減給ね」

「なんで私だけ!?」


とは言ってはいるが……少し、ほんの少しだけ嬉しいのは事実。


数百年前に喧嘩別れになってしまったおじいさま。

あの後死ぬほど後悔し、それでもプライドが邪魔をして謝罪を述べることが出来なかったのだ。数か月前に夜刀神がおじいさまの遺言を言いに来た後の数日間は自分の部屋から出ることが出来ず、ずっと自分の失態を罵ってきた。

それでも……紅魔館の主として、心配してくれたフランの姉として、このまま自己嫌悪に陥った状況を続けるわけにもいかず、どうにかみんなの助けがあって立ち直れた。






とか思ってたら目の前におじいさまが現れた。






数百年前とは随分と印象が変わっていたけれど、それでも私が目指した圧倒的なカリスマや、同族や親しき者に向ける慈愛に満ちた瞳は健在だった。何よりも――あれだけ酷いことを言ったのに、それでも私のことを『孫』と言ってくれることが……たまらなく嬉しい。


私はおじいさまの蒼色の髪に顔を埋めて、おじいさまにだけ聞こえるように小さく囁くように言った。




数百年前から言いたかったこと。




もう言えないと思っていた一言。










「おじいさま……ごめんなさい」

「……儂もすまなかった」



   ♦♦♦



side ???


今年は宴会というものが少ないな。

春の期間が少ないというのが原因の一つだろうけど、それにしても宴会の回数が減らされたらたまったもんじゃない。私は騒がしいのが大好きだし、酒を飲むのはもっと大好きだ。






それと同じくらい喧嘩も大好きだ。






私は白玉楼の宴会の様子を眺めながら笑う。


1……2……3……4人か。

他の奴らとは比べ物にならないほど大きな力を感じる。八雲紫以上の実力者が4人も幻想郷にいることに心が躍るさ。

半妖と不老不死と幽霊と……ん? この力は人間か?


あの半妖はヘラヘラした態度ではあるが……相当な手練れだろう。

一瞬だけれど気づかれそうになった。上手く霧に隠れているはずなのに気づくか。

どの妖怪と人間の子なのかね。


幽霊は私たちとは遠い同族の『吸血鬼』じゃないか。

死人の分際でここまで意識と妖力を宿した幽霊なんて見たことも聞いたこともない。冥界の管理人以上に存在が安定してるのも驚愕だ。吸血鬼なんて私たち()に敵う種族とは思っていないが、あれは別格といっても過言じゃない。四天王の全力でも勝てるかどうか。


そして不老不死は……僅かながら鬼の血の匂いがする。

上手に隠しているが間違いない。あの男は数え切れないほどの鬼を殺したことのある奴だ。同族として許しがたいが、その鬼を殺すレベルの実力者なのは確か。迂闊に手を出すと返り討ちに会いかねない。


最後の人間。

コイツは……ヤバいな。

私は4人の強大な力の持ち主の一人が人間であることに素直に驚き、加えて博麗の巫女以上の力を持つ人間という事実。






しかし、この人間の恐ろしいところは『喧嘩をしたい』と考えると、本能的に『不可能だ』と反射的に判断してしまうのだ。






コイツは何者なんだ?

能力が関係していることは間違いないが……断言できることは一つある。


あの人間は格上の相手だ。


本能的に負けてしまうことは分かる。鬼の本能に干渉する能力を持つ人間がどれ程厄介かは見なくてもわかる。……それでも『喧嘩してみたい』と思うのは鬼の性だろう?

さて、どうやったらあの人間と喧嘩できるだろうか?


私は珍しく策を練るのであった。










「また変なのが来やがったか……」





未来「次の異変も始まるかな」

紫苑「俺狙われてんだけど」

兼定「いつものことだろォ」

紫苑「『レミリアの家にヴラドが現れて幽霊騒ぎ』って話もしたかったけど、残念ながらコレは決めてたから無理だったわm(__)m」



紫苑「話は変わるけど、このストーリーが長くなって終わるかどうかわからなくなってきたわ」

霊夢「え!?」

紫苑「だから、ストーリーにさほど関係のない話なんかは違うところに書こうかと思う」

霊夢「つまり……他のタイトルで書くってコト?」

紫苑「そうそう。『東方神殺伝~???~』みたいな感じでサイドストーリーを時々あげるかもね」

霊夢「なるほど」

紫苑「というわけで、これからも東方神殺伝をよろしく!」

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