漆話 「またな」
コラボ最終回です!
撃っち先生ありがとうございました!
では事件の顛末をどうぞっ。
次回から本編もどります。
side ???
「ひひひっっっ、まだ……まだ終わっていない……」
草木も眠る丑三つ時。
そこには夜の森を駆ける黒髪の幼女の姿があった。
頬は焼き爛れて無惨な姿となっているが、琥珀色の瞳は新しい玩具を見つけた子供のように輝いていた。
「ツルギ……八雲剣……。あれを――〔0と1を行使する程度の能力〕さえ駒にすれば、ひひっ、ひひひひっ」
不気味な嗤い声が夜の森に響く。
星空に浮かぶ月だけが幼女を照らし、見辛い森を支配の能力によって木々を曲げながら進んでい
刹那、周囲は闇に包まれた。
唐突に幼女を照らす月は消え、星で微かに見えた木々すらも闇に消えてしまった。幼女は立ち止まって周囲を見渡したが、自分の姿が見えないくらいに暗い。
恐怖を掻き立てられる黒々とした闇。
幼女は平気ではあるが不安にはなる。
まるで――闇に飲み込まれてしまったような。
「なんだ……何がいったい……」
『まったく……君はどうしようもないほど懲りないなぁ』
「そ、その声は……!?」
どこからか響き渡るテノールボイス。
上下前後左右から聞こえて周囲を確認するが姿は見えない。しかし、幼女は誰が言葉を発しているのかを知っていた。
「なぜ……!? 汝は世界で起こる全てのことに不干渉だったはず……! そうだろう――暗闇!?」
『まぁ……確かにそうだね』
街においても声の主――暗闇は不干渉を貫いてきた。
世界最古の妖怪は街と外を遮る結界を張るという行為以外で、暗闇が街の事件や外の戦争に干渉した事例はほとんどない。暗闇は己から干渉することを拒んでおり、ここ数千年の間では月の住人が街を侵略したときぐらいしか動いていない。
その月の住人の軍勢を3秒で全滅させた実力からわかる通り、彼は世界に干渉するには強大すぎる妖怪なのだ。
だからこそ醜悪は好き勝手やれたのだが……。
『君は少々やりすぎた。異世界転移を勝手に行い、挙げ句の果てには守護者たちに迷惑をかけた』
「ふ、ふざけるな! 己の欲望を満たして何が悪い!?」
『別に君は悪くないさ。人間が考えたモラルやルールを無視すれば、君の行動を咎める要素はない。それにボクは基本的に傍観者だから、こんなこと言える立場ではないね。けど――君はボクの逆鱗に触れたんだよ』
神殺の殺気すら柳に風だった幼女は、闇の四方八方から放たれる『畏れ』に怯える。
彼等の殺気やカリスマ、威圧や覇気などお遊びのように感じられるほどの暗闇の畏れで、幼女は胃液を強制的に吐く。
『こう見えてボクの好奇心だけで寿命を20年も無駄にさせてしまった紫苑には罪悪感を持っているんだ。だからこそ紫君に紫苑の場所を教えたし、彼には余生を穏やかに暮らしてほしかった。彼女なら紫苑を変えてくれると思ったからね』
「たかが人間一人に大袈裟すぎる! あの男に――」
『しかし、君は紫苑の寿命を面白半分に削った』
幼女でも分かる。
暗闇は怒りを露にしているのだ。
『ボクの逆鱗に触れた。この意味が分かるかい?』
「殺すのか? ふ、ふん。妾が死んだところで他にもクローンは幾らでも存在する。たとえ世界最古の妖怪だろうが――」
『何をいってる? ――君のクローン153872人は一人残らず処分したよ。残るは君だけだ』
幼女は開いた口が塞がらなかった。
『神殺や帝王とかは勘違いしてるだろうけど……君はボクの闇を奪ったのではなく奪わせてあげたんだよ? 摩可君のクローンなんて探そうと思えば1秒で特定できる。影や闇が存在する場所は異次元だろうと一つ残らずボクの領域だし』
「………」
『話はそれくらいにしよう。後で祝福の妖怪・杏弦奏君のところに行かないといけない。あぁ、本当に最初から手元におくべきだったよ』
「まっ」
その言葉を最後にグシャリと何かが潰れるような音が聞こえた。それ以降、幼女の声はしなくなった。
何もいない空間のなか、暗闇は大きくため息をついた。
『ボクに出来ることはこれくらいかな? 紫君、幻想郷の少女達……早めに頼むよ』
そして闇の空間は消え去り、森には虫や動物の声が静かに響き渡った。
♦♦♦
side 紫苑
「わざわざ見送りしてくれるなんてな」
「紫苑たちもしてくれたじゃないか」
またもや夕暮れ。
ヴラドが紅魔館の修復を手伝ったり、俺が異変後の宴会で料理を大量に作ったりと滞在期間が伸びたが、とうとうツルギたちの幻想郷を離れるときが来た。
ここには杏弦奏とヴァルバトーゼ、エリザベート。そしてツルギがいる。
「紫苑もヴラド公も元気でね。今度来た時は料理を振る舞ってあげるわ」
「It's very fun(白目)」
「I'm glad(白目)」
エリザベートの笑顔に俺は一瞬意識を手放す。
あの暗闇ノックアウトさせた化学兵器を口に運ばないといけないプレッシャーというものに、俺は反射的に胃袋に『雄羊』を使用していた。
その時は切裂き魔と壊神も連れてこよう。友達だからねっ。
「帝王よ、また会おうぞ」
「もう二度と会いたくはないわっ」
「そちらの世界に芸術を求めて旅をするのも悪くない」
「……ふん」
相変わらず中の悪そうな二人。
しかし……少し緩和されたような気がするのは気のせいか? 俺とババアのような関係から、俺たちアホ共と同じような関係に変わったようなような。気のせいならそれでもいいが、ヴァルバトーゼも戦闘狂の部分を除けば個人的に好意を持てる相手だ。
あ、忘れてた。
俺はツルギ向き直る。
「やっべ、未来から預かってたものがあったわ」
「おぉ、じゃったの」
「なんだ?」
俺は虚空から鞘に収まった刃渡りが一般のものと比べて長い一振りのナイフ――ハンティングナイフをツルギに渡す。
ツルギは首をかしげながらそれを受け取り、刃を抜いてみる。紅い刀身が夕焼けの光に反射して、刀身の中に星のように輝く粒が見える。横目で見たヴァルバトーゼが目を細めた。
「凄い綺麗ね……」
「俺たち4人で製作したナイフだよ。未来がツルギの腕を切断したことを後悔しててさ、お礼ついでに作ってみた」
「そこまでしなくていいのに……けど、ありがとう」
デザインを皆で考え、製作はヴラドが担当し、夕飯で暗闇を釣って素材交渉を俺がして、未来が『必断』の効果を可能な限り付与させ、兼定が耐久テストを全力で行った一品。あと『少年』の加護も付与したぜ。
ヴラドから聞いたツルギの敵になるかもしれない相手が、どれ程の強さなのかは想像がつかないが、あの壊神が『俺様の能力でも壊れねェぞコレ』と太鼓判を押したから易々とは壊れんだろう。
ツルギは嬉しそうに受け取ってくれたので作った甲斐があったな。
そしてヴァルバトーゼが尋ねてくる。
「紫苑、それの素材はもしや……」
「うん、緋緋色金だよ」
暗闇の大好物を紫経由で提供したら、翌日これの原石と『ボクの秘蔵のコレクションを贈呈しよう!』のメッセージが送られてきた。玉鋼程度では壊神の耐久テストに耐えられなかったので、伝説の金属が手に入ったのは嬉しかった。
いやー、これ加工するの苦労したぜ。ヴラドが。
なかなか形を変えないから妖刀の妖力もフルで使って、少しずつナイフの形に加工していたとか。
ヴァルバトーゼがそれを聞いて頭を抱えて、奏が引きつった笑みを浮かべていた。
「原産地の次元でも少量しか入手できない希少金属だぞ……? 我も緋緋色金なんて数えるほどしか見たことないわ」
「ちゃっかり伝説レベルの武器を造ったって……」
ほら、図工の時間を楽しむ小学生みたいなもんだよ。
誰だって『ぼくがかんがえたさいきょうのぶき』なんてもんを作ってみたいだろ? それができる環境下だったから実行しただけの話。
夜中のハイテンションでTRPGやってたときに、『こんなの作ってツルギに渡そうぜ!』って話になって、夜中のハイテンションでデザインしたからね。
夜中のハイテンション怖いね。
それを知ってか知らずか。
「ありがとう、大切にするよ」
「いいっていいって。銘は自分で決めていいよ」
隣でヴラドがエリザベートに『不滅』の加護を付与した、緋緋色金のブローチを渡していた。
撃っち先生に許可を得たとはいえ、こんな代物を渡してしまった作者は後で土下座することになるだろうけど、俺には関係ないから大丈夫。
『やっべぇもの輸入しちまったよ……』みたいな表情をしていた杏弦奏は、一つ咳払いをすると俺とヴラドを見据える。
「なら――私も人類最悪を討ってくれた貴方たちに祝福を与えるわ。何がいいかしら?」
「え、じゃあ大きい土鍋欲しい」
「儂はPCと液タブ」
「祝福の意味を知ってるかしら?」
冗談に決まってるじゃないか。
ハハッ。
「っても祝福ねぇ。思いつかないな」
「なら命の――」
「人間として、思いつかないなぁ」
人間という言葉を強調して、俺は奏に念を押す。
命の延長なんて必要ないね。
「幸運の祝福、というのはどうかしら?」
「うーん、ならそれで」
「ヴラド公には――成就の祝福を」
「……ふむ、ありがたく受け取っておこう」
ヴラドは成就させたい目標とかでもあるんかね?
2次元の嫁と結婚したいとか?
幸運と成就をそれぞれエンチャウントされた俺とヴラドは、ヴァルバトーゼが抉じ開けた次元の隙間に入ろうとする。
もう……俺の寿命を鑑みてツルギたちと会うことはないだろうな。壊神や切裂き魔なら会えるかもしれないけど、俺は故人となってる可能性が高い。
しかし、それをツルギに悟らせるわけにはいかないな。
だから――この言葉で別れるとしよう。
「またな、ツルギ」
「あぁ、紫苑」
こうして、俺は異次元の幻想郷を後にした。
「ヴラド公……」
「紫苑のことは任せておけ。必ずツルギと再開させてやろう」
「帝王、頼んだぞ」
「貴様も死ぬなよ、魔帝」
♦♦♦
「紫苑さん、おかえりなさい」
「師匠、お疲れさまです」
「紫に霊夢か。ちゃんと終わらしてきたぜ」
「あっちではどうだったんだ?」
「こら、魔理沙! 紫苑さんは疲れてるのよ!?」
「アリス、そう怒るなって。それじゃあ晩飯の時にでも話をしようかな、あっちで起きた土産話を」
「「「「はーい!」」」」
「――俺の友人の話を、さ」
紫苑「お疲れさまでした(/・ω・)/」
剣「お疲れさまでした(/・ω・)/」
紫苑「いやー、無事に終わってよかったよ」
剣「失踪しないか気が気でなかったよ」
紫苑「コラボしてくれた撃っち先生に感謝(*´ω`)」
剣「こっちこそありがとう」
紫苑「お互い本編でも頑張ろうぜっ」
剣「そうだな!」
紫苑「こっちの本編でも少し出るかもだけどな」
剣「Σ(゜Д゜)」




