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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
混章 命と生き方の交錯~東方『平和を求める兵器』とのコラボ~
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伍話 人類最悪

そろそろ終盤戦の第5話。

おそらくあと2話くらいで終わるかと。

もうちょっとババアの最悪さを出したかったなぁ。


それでは――ごゆるりとお楽しみくださいませ。

side 紫苑


西条との因縁は4年前。

そう――俺は4年前に両親を殺された。


九尾をけしかけて両親を殺害し、その死体を俺の前に投げ寄越しながら嗤う西条のババア。あの歪み切ったババアの顔は今でも忘れない。



『どうだ? 妾が憎いか? 殺したいほど恨んでいるか?』



かつて壊神に『お前は人を殺すのを楽しんでいるのか?』と質問したことがある。その回答は『そンなのただの変態じゃねェか。戦うことは楽しとは思うが、殺すことが楽しいのは頭のおかしいことがやる奴だァ』というものだった。

つまり壊神の殺人概念から言えば、西条のババアは変態(・・)のカテゴリーに入るらしい。いや、あのババアは人を殺すことで絶望するか、怒り狂う人間の顔を楽しむのが目的だから微妙に違うのか? どちらにしろ変態であることに変わりはないか。だからこそ壊神は西条のババアが苦手なのだろう。


苦手じゃない奴を見てみたいが。


俺は両親を殺されたとき、西条のババアに聞かれたとき――何と答えたのだろうか?

……あぁ、そうだ。まだ紫や幽香、幽々と出会ってなかったから、俺はこう答えたんだ。






『お前を恨むほど暇じゃない』






それ以降だろうか、あのババアが俺にちょっかいをかけ始めたのは。

あの時絶望しなかった(・・・・・・・)俺を絶望させるために――あのババアは街でも悉く事件を起こして俺を東方西走させやがった。


「冗談きついよ、まったく……」


そして紅魔館にたどり着き、上空に差し掛かった俺は――目の前に広がる悲惨な光景を目の当たりにした。それはどこか――俺たちの街の日常風景を彷彿させるものだった。




破壊された庭園。




満身創痍の紅魔館メンバー。




その光景を微笑みながら見つめるゴスロリ少女。









――ババアの横にいる目から光の消えたフランドール・スカーレット。










このババアはどこまで俺をコケにすれば気が済むんだろうか?


俺は『風』の化身を解除して、紅魔館メンバーとババアの間に着地する。

特に怪我の酷いレミリア・スカーレットは突如現れた黒髪の男に警戒するが、ゴスロリ少女は口が裂けんばかりに笑みを浮かべた。俺はそれを無表情で見つめながら、紅魔館の主に近づく。

もちろん目的は『雄羊』の使用。


「き、貴様は……」

「ボロボロの状態でしゃべるな」


昨夜や美鈴、パチュリーさんやこぁさんも無事じゃない傷ではあったが、全員を治癒していたら俺の神力が枯渇してしまうので、一番ひどそうな幼い吸血鬼の力を回復させる。


それをニヤニヤ眺めながら待つババア。

コイツにとってこれは余興の一種。奇襲なんてナンセンスなんだろう。コイツのセンスなんざ知ろうとも思わないけどさ。


ある程度回復させたレミリアを立たせながら、俺は人生で1.2位を争うレベルで会いたくなかったゴスロリ少女と相対する。

外見は妖精のように美しく、琥珀色の瞳は宝石に勝るとも劣らない。

しかし、その恵まれた外見を台無しにする嗤み。この世の『負の感情』を全て詰め込んだような、生命が本能的に忌避する西条摩可の表情が全てを物語っていた。




「久しぶりだな、神殺」

「俺は会いたくなかったよ、醜悪」




齢1000年を生きる……というより記憶と能力を継承した偽物(レプリカ)は――指をパチンと鳴らす。

その音に反応したフランドール・スカーレットは虚ろな目のまま俺に右手を向けて――〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕を発動させた。

俺と隣に立つレミリアの前にある地面が爆発する。

それと同時に俺は虚空から『鬼刀・帝』を妖力全開で一閃し、フランの能力と相殺させる。叢雲を持ってこなかったのが非常に悔やまれる。


その光景に満足したのか、ババアは不気味な嗤みを浮かべた。


「まさか汝と会うとは思ってもいなかったが……これは僥倖とでも言うべきか」

「嘘つけや。つか……お前、フランを」

「この()のことか?」


フランに馴れ馴れしく触る西条のババアに、レミリアは激怒した。

俺だって大切な存在をババアに触られたら怒るわ。


「フランに触れるなっっ!!」

「ひひひっっ、その感情は素晴らしいな。この駒の四肢を引きちぎって紅き館の上にでも吊り下げてみようかね? さぞかし面白いものが見られそうだ」

「貴様ああああああああああああ!!!!」

「落ち着けよ、紅魔館の主」


今にも飛びかかりそうなレミリアの肩を抑える俺。

コイツは感情的になればなるほど喜ぶので、合理的に対処した方が効果的なのは遺憾ながら知っている。伊達に『ババア担当』と言われていないんでね。


「おい、ババア。お前はレミリア・スカーレットを怒らせるためにフランドール・スカーレットを支配したわけじゃないんだろ? というか俺がここに来るのを知ってた節があるし、目的は俺なんじゃないか? わざわざ目的に逸れたことをするのは止めろよ」

「確かに真の目的を達成せずに遊びが過ぎてしまうのはナンセンスだな。神殺の推測通り、最初は不思議な次元を壊してやろうと面白半分に来てみたが……汝と帝王が来てから目的を汝に変えたまでよ」

「人様に迷惑かけないと生きていけないのか、お前は」


未来も兼定もヴラドも変わらなかったけど、西条のババアも全く変わってなかった。

思考のベクトルが『いかに己の欲望を満たすか』にしか行かず、その欲望が第三者にとってはた迷惑だから手に負えないのだ。加えてコイツに説得なんてものは通用しないので、そんな偽善者は悉く利用されて死んでいったからな。

あの侵食と同化の妖怪の件で、ツルギはババアを説得するかもしれない可能性も考慮して博麗神社に残してきた。


「何を言っている、神殺」


そう首をかしげた西条のババアは両手を広げ、空を仰いで狂ったように嗤う。






「ひひひひひひっっっ! 恐怖! 憎悪!! 絶望!!! その姿は美しいであろう!? 知識を持つ生命が他者を憎み畏れる姿に、幸福や希望などぐちゃぐちゃに壊して満たしたいであろう!? あぁ! 想像しただけで……!」






腹をよじらせて、顔を両手で押さえて不気味に嗤う姿は『スカーレットデビル』でさえも畏れた。存在そのものが歪んでいると感じる。


「妾の目的は――神殺の寿命を削ること(・・・・・・・・・・)


俺はその発言に驚いた。

まさかババアも俺の能力について知ってるとは。


「さすがの神殺も死ぬ間際であれば恐怖を覚えるであろう? そうでなくても……汝を大切に想うものたちが汝の死に悲しみ嘆く姿を想像するのも一興」

「……はぁ、ここまで悪意丸出しだと逆に呆れて言葉も出ねーよ。そんな面倒なことに必死になるお前もアホらしい」

「ひひひっ、妾の言いたいことは1つじゃ」


またも指を鳴らすと、虚空から二丁の拳銃を取り出す。そして周囲に数十もの機械的な箱が出現する。確か『ガンビット』とか昔言ってた気がする。

西条のババアは相変わらず嗤っているが、今までのとは違う俺たちの街の住人ならではの『好戦的な笑み』だ。


それに合わせてフランもレーヴァティンを構え、俺は複雑な気持ちになる。別に誰かの手のひらで踊るのは嫌いではないが、フランを戦力として使うババアは気に食わない。










「さっさと死ね、軍神」

「殺れるもんなら殺ってみな、ババア」










俺は隣に立つレミリアに耳打ちをする。


「お前はどうする、レミリア」

「……貴様はあのヴラド公の」

「あのじーさんの連れさ」

「――フランは私の妹、助けないはずがない!」


レミリアはグングニル、俺は帝を構えた。


そして呼吸を合わせてないのに同じタイミングで妹とババアの元へ地面を蹴る。


十化身中最大火力の『白馬』、フランを相手するとして『猪』、神力消費の激しい切り札の『戦士』は使えない。それに隣にはレミリアがいるわけで。

俺は第5の化身『少年』を使用する。

拝火教の勝利神は旅人の安全を司る守護神でもあり、十五歳の少年の姿で旅人の前に現れたという。この化身の能力は伝承通り『加護』。対象者の周りに黄金色の薄い防壁を張り、一定のダメージを吸収する防御用の化身だ。、俺の最近使ってないスペルカード、防壁『難攻不落の大要塞』もそれの省エネバージョンと考えても良い。

対象はレミリア。さすがにフランの破壊をまともに受けて平気でいられるとは思えない。


問題は化身の同時使用の不可――ババアに妖刀一本で立ち向かわないといけないという縛りプレイだろう。いくらババアが相手だとしても、これは少々きつい。






だから。






「さっさとくたばれよ! ババア!」


俺は第9の化身『山羊』を使用する(・・・・・・・)

レミリアにかけている『少年』を解除したわけではない。気合と根性で激痛に耐えながら化身を同時使用しているのだ。


雷の玉でババアのガンビットから発射される魔力の玉を弾きながら、俺はババアに近接戦闘を仕掛ける。二丁拳銃相手に刀での接近戦は有利だと思われるが、このババアは二丁拳銃による超近接格闘(ガン・カタ)を好むやつだ。

それだから今のババアは嗤っているのか、それとも化身の多重使用で俺の寿命が減る(・・・・・・・)ことを喜んでいるのか。


まぁ、そんなことはどうでもいい。


「ほらほら! そこの吸血鬼を庇っていると、どんどん汝の寿命が減っていくぞ!」

「「「「「――っ!?」」」」」


大きな声で言ったせいで紅魔館メンバーが反応する。

俺とレミリアへの精神攻撃の類だと思われるが、その程度で揺らぐ心は持ち合わせていないんだわ。


「レミリアぁ! 前だけ見てろっ!」

「だがっ!」


俺はレミリアに顔を向ける。

その顔は――おそらく笑っている。










「40年だろうが5年だろうが1年だろうが! 人間死ぬときはさっさとくたばって死ぬんだよ! なら――せいぜい格好良く生きて格好良く死のうじゃねぇか! ババア、もっと俺を楽しませろっっっ!!」










俺は神力の残量を無視して『山羊』の最大火力をババアに放つ。

これには人類最悪も嗤いながら冷や汗をかく。コイツは隠れることや接近格闘、魔術は得意ではあるが、それらを除けば俺でも倒せるような実力。

ババアは刀を二丁拳銃で受けながら問う。






「汝、死ぬ気か?」

「さっきからそう言ってるだろうが」






死を覚悟している人間ってのは異常なくらい強い。

たかが己の欲望を満たすだけに力を振るう奴に、切裂き魔や壊神、帝王と遊んで(ころしあって)きた俺に勝てるとでも思ってるのだろうか?






さぁ。






ひとまず。






「――喜劇(ころしあい)と洒落込もうぜ?」






剣「出番ない(´;ω;`)」

紫苑「ほら、次はあるさ……」

ヴァル「我の出番もない(´・ω・`)」

ヴラド「上に同じ(´・ω・`)」

紫苑「吸血鬼組も出番あるから元気出せって!」

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