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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
混章 命と生き方の交錯~東方『平和を求める兵器』とのコラボ~
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肆話 簒奪者の嗤い

コラボ4話目です。


……なんなんでしょうね。私の書く作品では霊夢がひどい目にあってる気がします。好きなキャラの一人なんですけどねw

side 紫苑


「ところで……そのババアの能力って何なんだ?」


異次元の幻想郷生活2日目。

朝早く起床し朝食をとった後、俺は軽い運動感覚でツルギと組手をしていた。


そこまで格闘技に通じていない俺にとって、ツルギの型は学ぶべき点が大量にあった。今度自分の幻想郷に戻ったときに、壊神相手に奇襲を仕掛けてみようか。

組手を終えて八雲家の居間で壊神ぶちのめす計画を立てていると、ツルギからババアに関する質問をしてきた。


というかツルギも西条のことババアって呼ぶのか。

うん、あってる。


「あのババアの能力は〔支配を強奪する程度の能力〕だ。例えば――未来が次元の壁を切り裂いたとして、その次元の所有権を強制的に奪う、みたいな感じ?」

「もうちょっと分かりやすく」

「ヴァルバトーゼの使い魔全てを自分の支配下に置ける」

「は!?」


西条のババアは暗闇の『闇』の一部すらも常時支配して隠れる奴だ。とにかく『他人からものを奪う』ことに至極の喜びを噛み締め、相手の絶望する様を嘲笑うババア。


「ヴラドの創造物も奪われたし、未来や兼定の攻撃も暗闇の能力で逃げるから、実質的な戦闘力は皆無だけど厄介だな」

「どうやって見つけるんだよそれ……」

「奪っておける時間にも限りはあるし、暗闇が近くにいないから逃げることも無理。俺の化身も奪われないから、多分なんとかなるだろうけど……」


俺の化身は奪われない。

これは第8の化身『大鴉』に由来する。

あらゆる呪詛や魔術的要因を跳ね返す『大鴉』は、魔力を使うババアの『強奪』をも反射するようで、街では『ババア担当』なんて不名誉な称号を与えられた気がする。


「さてと……ババア探しに幻想郷巡りでもしますかな」

「俺も手伝おうか?」

「いやいや、迷惑はかけられないよ」


ババアとツルギを会わせたくないというのもある。

するとツルギは笑いながら返してくる。


「俺たちのときも妖怪退治を手伝ってくれたんだ。それにここは俺たちの幻想郷――守護者としてババアの横暴は許すわけにはいかないからな……」

「……そこまで言うのなら手伝ってもらおうかね」


ツルギの意思は固いようだ。

というか正論持ち出されては反論できないし、知ってる場所とはいえ全く同じ(・・・・)というわけでもない。

効率性を考えればツルギの助けは正直ありがたい。





そんなわけで俺とツルギは紅魔館へと向かった。

ヴラドと待ち合わせをしているからだ。


紅魔館前には不機嫌なじーさんと、笑顔のヴァルバトーゼ。そしてエリザベートがいた。

彼女の姿に息を飲む俺。

ヴァルバトーゼの義娘で吸血鬼という彼女だが、俺は劇物料理のイメージしかない。彼女の料理は生命を宿す種族には早すぎるもので、一口食べれば物理的に天国へ行ける仕様となっている。


紫に頼んで暗闇にカレーを送ったことがあったのだが、処理に困っていたエリザベートのカレーが含まれていたことがある。

彼女のカレーを食べた暗闇が痙攣して倒れたと、後から暗闇の電話で知ったのは驚いた。

それのせいで外の世界の夜の時間が一時期短くなったらしい。


『ま、まさか私が毒で屈するとは……世界は広いな』

『それ毒ちゃう。料理や』


というか色で気づけよって思った。

ちなみに暗闇が倒れて夜が短くなった事件は『カレーの変』と語り継がれ、暗闇に膝をつかせたエリザベートは『料理の錬金術師』として、街の連中から恐れられている。


「ツルギ~」

「うわっ!」


エリザベートがツルギの姿を視界に捉えた瞬間、ツルギに抱きつこうとダイブする彼女。

ツルギはモテモテだね、うん。


「おーい、じーさん。ヴァルバトーゼさん達に迷惑かけなかったか?」

「かかかっ、しっかり2次元に引き込んでやったぞ」

「やりやがったな老害」

「何を言っておる。儂等の種族を忘れたか」

「……あー、そっか。そうだった。お前らは誇り高い高貴なる吸血鬼(オタク)だったな。忘れてたわ」


吸血鬼と書いてオタクと読む。

好みの絵を描く絵師を神と崇め奉り、好きなアニメは円盤5枚は必ず購入し、神アニソンが流れれば泣き叫ぶ種族。そして夜は週7でアニメ鑑賞会をヴラド邸で開催。

オンオフがかなり激しい奴等だったなぁ。

別に誰にも迷惑かけないなら何も言わんけどさ……。




「俺の家の書庫に18禁の同人誌保管するの止めてくれない?」

「断る」




我が家に薄い本が万単位で保管されてんだけど。

それ見たパチュリ―さんが顔真っ赤にして「こ、こういうのが趣味なの?」って言われて誤解を解くのに時間がかかったんだけど。

この前書庫で藍さんがそれ見て勉強してたんだけど。


か弱い少年の切実な願いを一蹴する吸血鬼(オタク)


「やっぱ吸血鬼って狂ってるぜ……」

「吸血鬼の風評被害が酷いような……」


微妙な顔をするエリザベート。

このマトモそうな女の子も吸血鬼(オタク)の一人。そのうちヴラドのようになるのかと思うと涙が出てくるよ。


「話を戻そうか」

「紫苑、まだ何も始まってないぞ?」

「あのババアを見つけるのは難しい。祝福の妖怪も捜索を手伝ってくれているが、俺たちも自分の足で探そうかと思っている。そこの吸血鬼(オタク)も助けてくれるのか?」

「そのババアとやらに最強の吸血鬼の力を見せるのも悪くない。ツルギの友人の頼みならば引き受けようではないか」

「ありがとう」


もう名前すら呼んでもらえないババアを嘲笑いつつ、ヴァルバトーゼとエリザベートに感謝の言葉を述べた。


組分け的には俺とツルギとエリザベート、ヴラドとヴァルバトーゼの二組に分けた感じ。ヴラドは物凄く嫌そうな顔をしていたが、俺にはそんなの関係ない。

二人はなにかを言い合いながらも、仲睦まじそうに歩いていった。微笑ましい光景だ。


「頑張れよ、吸血鬼(オタク)ズ」

「その略仕方やめい」

「んじゃ、俺たちも行こうか」

「そうね」


吸血鬼(オタク)と人造人間と一般人はババアを探しに幻想郷を駆け巡る――






「ところで『オタク』とは何なのだ?」

「最上級の誉め言葉じゃ」

「なるほど! ならば我は最強のオタクというわけだな!」



   ♦♦♦



side 霊夢


博霊神社に例の外来人が来た。

単物に黒いズボン。黒目黒髪の優男だ。

一緒に来たツルギよりは年下だとは思うが、なぜか大人びいている物腰の不思議な外来人。


「初めまして、だよな? 俺は――」

「夜刀神紫苑――でしょ? 紅魔館に来た吸血鬼から聞いたわ」

「ヴラドか」


ヴラドという吸血鬼から聞かなければ、ただの外来人だろうと思うくらいなんの力も感じられない。ツルギと同じように力がないのかと一瞬思ったが、僅かに……ギリギリ感じ取れるぐらいの神力。

『見た目に惑わされるな』とは言われていたけど……なるほど、これほど巧妙に力を隠せる人間は少ない。


紫苑は吸血鬼という名前だけで誰なのかを当てる。


「西条っていう不老不死を探してるのよね?」

「そこまでアイツは話したのか。正確に言えば、西条のババアは不老不死じゃないけどな。似てるけど」


似ているけど不老不死じゃない?

私は首をかしげた。


「クローン、って言えば分かりやすいか? この話はツルギの分野になるだろうけど、自分と同じ記憶・能力を持ったやつが何百も存在するのが西条のババアで、そのうちの一匹が迷い込んできた感じかね」

「そっちの世界ではクローン技術があるのか?」

「魔術的なやつでクローンモドキを作ってるだけで、俺たちの世界は科学技術でクローンは作れないよ。作れたとしても非人道的がどうたらこうたらで普及しないだろうけどさ」


私の知らない領域の話をする二人。

外の世界の知識などさっぱりだ。


「今回来たのは霊夢さんの勘を頼りにしに来たわけなんだが……」

「その西条を捕まえるために私を」






「いや、殺すけど?」






さらっと。

ごく自然に言われて一瞬この人が何を言ったのか理解できなかった。

そして言葉の意味を理解した瞬間――私の全身に悪寒が走った。


この人は顔色も変えずに、ごく当然のように人を殺すと言ったのだ。


「ころ……す……?」

「そそ、生命活動を停止させるって意味ね」


ツルギとエリザベートは少々困惑している。

私の顔色が恐怖で引きつっているからなのか、紫苑が当然のように殺人宣言をしたからなのか、今の私には判断しかねた。


紫苑も最初は首をかしげていたが、その後しまったと顔を引きつらせて謝ってくる。


「あー……すまん。あっちじゃ当然のように使ってたから、こっちの霊夢さんを怖がらせちまったな。ちょっと不謹慎すぎたわ」

「……その、貴方の世界では普通だったの?」

「まぁなー。俺たちの街が普通であって、俺たちの幻想郷でも当然のように使ってたし、みんな慣れちゃったから使ってる感じかな。俺の親友達も呼吸するように殺す死なす言うし」

「殺伐としてるわね……」

「所変われば文化も変わる。俺たちの住んでた街では挨拶みたいなもんだけど……マジですまん」


ちゃんと頭を下げてくるあたり礼儀正しくていい人なんだろうけど……それよりも恐怖が勝ってしまい目を合わせられない自分がいた。


ヴラドが言ってた「儂等は『命』というものに執着しない」という言葉の鱗片を垣間見た気がした。彼にとって『命を奪うこと』すら躊躇しないものとなっている。


「それでババアの話なんだが……」

「――え? あ、あぁ、そうね」


ツルギの発言で我に返る。

ババアという言葉に違和感を持ちつつも、私は目を閉じて五感を研ぎ澄ませる。




紅魔館、庭、フランドール・スカ――










『ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっっっっ!!!!!』










「――!!!!????」


私は思わずしりもちをついた。

体の震えが止まらず、呼吸が荒くなる。


「れ、霊夢! どうした!?」

「こ、紅魔館が見えて、フランが見えて……いきなり不気味な笑い声が……」

「ババアだな。……クソがっ」


紫苑は私の言葉に舌打ちすると、ふわりと宙に舞い上がってツルギを呼ぶ。


「ツルギとエリザベートは霊夢さんのアフターケアを頼む。俺は紅魔館にひとっ跳びしてくるわ」

「「紫苑!?」」


彼は振り返らずに飛んで行った。


私は――あの悪意に満ちた声が頭から離れなかった――





紫苑「次回、ババア登場」

剣「やっとか」

紫苑「作者がどこまでババアを悪意的に書けるかだなぁ」

剣「というか霊夢がかわいそう(´・ω・`)」

紫苑「それな(´;ω;`)」

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