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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
4章 春雪異変~確かな想い~
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27話 語らぬ者

語らない者は

何を想って隠すのか

side 紫苑


「ねぇ、アイツのこと教えて」

「未来のことか?」

「うん」


リビングでゆっくり本を読んでいると、いつもどおりホラゲをしているフランが訪ねてきた。というか、カタカタと慣れた動作でPC使ってる金髪幼女ってすげーな。

パチュリ―さんは隣で本を読んで、アリスは人形を作っている。幽香は「ちょっと修業してくる」って帰っていった。よほど切裂き魔に負けたことが悔しいらしい。

しかしフランの質問に二人も動きを止めた。


「何が知りたいの?」

「お兄様が知ってること」

「別にいいけど……」

「いつかアイツより強くなりたい」


幼女が切裂き魔に対抗意識を燃やしていらっしゃる。

フランも幽香も強いけど、未来は別次元の強さだからなぁ。


「九頭竜未来、17歳。俺の住んでた街では5本の指にはいる化物の1人だ。能力は〔全てを切り裂く程度の能力〕」

「それってどんな能力なの?」

「形あるものは勿論、下手すれば次元の壁すら切り裂く能力だよ。とにかく『刃さえあれば斬れないものなど存在しない』なんてチート能力さ」


どちらかといえば一部は紫に近い能力だな。


昔、未来が『僕の能力で二次元行けるんじゃね?』とか言い始めて、帝王含むオタク集団がガチでやりはじめて、あちこち次元の壁切り裂いて事件レベルにまで発展したことがある。二次元越えは無理だったけど。

その結論にたどり着いた男、串刺し公・ヴラドの『一度でもいいから二次元の女の子と会いたかった』の名言は今でも語り継がれている。『あの野郎呪い受けてから、頭までおかしくなったんじゃねェの?』って壊神の言葉と一緒に。


話を戻そう。

壊神みたく幻想や精神までは切れないが、未来の能力は規格外であった。


「その能力に加えて、刀術・剣術に関しては天才の領域だ。戦いの中で無理矢理身につけた俺とは違って、剣道を自分なりにアレンジした奴だから、能力使わなくても普通に強い」


というか能力を殆ど使ってない気がする。

能力なしである程度のものは切り裂けるし。


「逆を言えば……刃さえなければ弱い」

「呆気ない弱点ね」

「妖力で刃作れるから意味ないけどさ」

「気になったんだけど、九頭竜って何の妖怪のハーフなの?」


アリスの疑問に俺は答える。


「サトリ」

「「「……え?」」」

「覚妖怪」


そう、アイツは『人の心を見透かす』という、江戸時代の妖怪画集『今昔画図続百鬼』の記述や、日本全国の民話などで伝えられている有名な妖怪・覚と人間のハーフである。

だから未来は相手の行動をある程度予測(・・)できるのだ。


「そ、それじゃあ……」

「補足だけど、アイツは考えていることを『何となく』でしか読めないから、全部相手に知れ渡ってるわけじゃないよ」


何を考えているのか『言葉』までは分からないと、アイツは言っていた。それでも充分だけどねーって付け加えて。

それに3人は安心したように胸を撫で下ろした。


「〔全てを切り裂く程度の能力〕に剣術の才能、おまけに覚妖怪としての『相手の行動をある程度予測する力』――それがアイツが化物と呼ばれる所以だな」

「……ありがとう、お兄様」


笑顔でフランは言うと、またPCに向き直ってカタカタとリズミカルに音をたてる。その画面を隣で見ていたアリスが引きつった表情を浮かべていることから、もしかして今の情報をまとめてんのか?

495年も閉じ籠っていた吸血鬼は、史上最高の吸血鬼以上にIT機器を使いこなしているようだ。


幼女やべぇな、と俺は遠い目をして外を眺める。

相変わらずの雪。


ふと脳裏に浮かぶ異変解決に行った3人+肉盾。


「……異変解決組は大丈夫かな」

「あの3人なら心配ないでしょ」


加えて切裂き魔までオマケとして同行してるから、滅多なことは起こらないはずなんだが……なぜか『嫌な予感』を拭うことが出来ない。

もしかして異変って毎度毎度に天災レベルの事件がくっついているのだろうか? 未来までいるのに拭えないとか異常だぞ?

というか冥界ってどんな所なんだ?

パチュリ―さんに聞いてみると、本から顔をあげて答えてくれた。


「冥界は幻想卿に存在する、閻魔の裁判を終えて成仏や転生が決まった霊たちがそれを待つ間に滞在する場所。そこには四季が存在して、とても美しい場所だそうよ」

「へぇ……そりゃ行ってみたいな」

「基本的には亡者以外は立ち入り禁止な場所。貴方でも難しいんじゃないかしら?」


死なないと行けないのかー。案外すぐかもな(・・・・・・・)

あ、でも俺は地獄行きなパターンか?

俺は不貞腐れるように仰向けに倒れる。


「くっそー。未来じゃなくて俺が行けば良かったー」

「紫苑さんは怪我したばかりなんだから休んでないと。いくら完治してるとはいえ、もっと自分を大切にしなきゃ」


アリスの忠告に、フランとパチュリ―さんも頷く。


「冥界には大きな桜の木があるんだから、もしかしたら異変後の宴会で見れるわよ。白玉楼って所にね」

「お、春が戻ってこれたら桜が見れそうだな!? その白玉楼に行くのが楽し……み……」


白玉楼(・・・)だと?





『――ねぇ、紫苑にぃ!』

『また遊ぼうね、紫苑にぃ』

『紫苑にぃと離れるなんて嫌だよ……!』





フラッシュバックするは過去の記憶。

ある少女との思い出。

そして――大きな桜の木。


俺は勢いよく身体を起こす。


「……なぁ、パチュリ―さん」

「――っ!? な、何?」


なぜかビクッと身体を強張らせるパチュリ―さん。


「その桜の木って名前ある?」


もし俺の記憶が正しければ――




「「西行妖(・・・)」」




俺とパチュリ―さんの声が重なる。

予想が当たってしまったことに舌打ちをしつつ、俺は立ち上がってリビングに掛けていたコートを羽織る。

その行動に3人が慌てた。


「お、お兄様!?」

「ちょっと出掛けてくる。留守は任せた」

「安静にしてって言ったでしょ!?」

「あぁ、こんな雪の降ってる外に出るなんて俺でも嫌だわ。――でも、それどころじゃなくなった」


俺は3人の声を無視して外に飛び出し、『風』を使って人里に転移した。この化身は一度行った場所じゃないと転移できないし、同時に転送できる人数は3.4人ぐらいが限界。

紅魔館の時は近くの湖にワープしたから早く着いたけど……冥界はどうやら遠いようだ。


今回の異変にあの桜が関わっているのは確定だろう。それ以外に未来が処理できない要因が思い浮かばない。


「よりにもよって……あのクソ桜かよ」


俺は大きくため息ついて異変元へと向かった。



   ♦♦♦



side 魔理沙


冥界ってのは気味の悪い場所だな。

薄暗い場所で私は思った。


ふよふよ浮いてる光のみが光源となり、どうにか遠くに灯りがあるのが見えるくらいだ。

恐らくあそこが異変の原因だと霊夢が言うから、私たちはそこへと足を進める。足音だけが静かに鳴り響き、いっそう不気味さが増す。


「この光ってるやつは――魂かな?」

「そのようね。ここは死後の成仏・転生を待つ者の場所だから、薄暗いのも納得いくわ」


そっかー、と鼻歌を歌いながら進む未来。

紫苑の所でも思ったけど、本当にマイペースな奴だぜ……。


私は神社で紫苑にしたことは許せないけど、アイツが何とも思ってなさそうだから未来に何も言わない。被害者が気にしてないのに私が文句を言う資格はないぜ。他の面子はそうは思わないだろうけどさ。

咲夜は特に恨んでるのは今でもわかる。


ある程度進むと、長い階段が目の前に表れた。

あまりにも長すぎて……これは飛んでいった方が早いな。

ほんのりと階段の横に灯籠が設置されていて、上へと続く道が迷わず分かるのはありがたい。


階段の上を飛びながら、霊夢が未来に質問した。


「ねぇ、九頭竜さん」

「なんじゃらほい」

「貴方はどうやって過去に飛ばされた紫苑さんを、元の世界に戻したの?」

「いつもどおり次元を斬った」


……もう、何も言わないのぜ。

霊夢も咲夜も唖然としている。


「あ、今はできないからね? あれ尋常じゃないほどの妖力を使うから、僕の妖力程度じゃ時間の壁は難しいね」

「……半年間も紫苑さんは待たされたわけだし、そのくらいの代償があったって訳ね。なんか時間を遡れる道具とかイメージしてたけど、貴方本当に半妖なの?」


呆れた表情で未来を見る霊夢……だが、未来の反応は違った。目を細めて、霊夢の言葉を呟く。


「……半、年? 神殺は半年も待たされた?」

「どうなさいましたか? 九頭竜様」

「ねぇ、紫苑は半年って言ったの?」

「え、えぇ。そうです」


咲夜が言葉に詰まるくらい、未来は真剣な表情で俯いた。


「何か問題があるのか?」

「――間違ってはいない。うん、何も間違ってはいない。確かに僕は紫苑からスキマ妖怪と花妖怪の師匠してたのは聞いた。そのときの話も教えてもらった。……でも、その期間(・・)は聞いてなかった」

「「「??」」」

「確かに半年だね。半年だ――











――正確に言えば9ヶ月だけど」











……は?


「ど、どういうこと?」

「僕が紫苑を救出したのに9ヶ月かかったのさ。半年とも言えなくはないけど――はたして紫苑はそういう意味で(・・・・・・・)半年って言ったのかな? それとも空白の3ヶ月(・・・・・・)に何かあったのかな?」


紫は紫苑が6ヶ月ほど紫や幽香の師匠をしたと言ってたし、そのあと消えたことも言ってた。紫苑も半年かかって戻れたと言ってた。



――けど、紫苑の口から『紫と別れて元の時間軸に戻った』と言ってないのは確か。



紫苑は自分の過去を聞かれないと応えない。そう未来が言ってたから、恐らく空白の3ヶ月に気づかなければ分からなかっただろう。未来さえも知らなかったのだから。

なら――アイツは何をしていた?

謎は深まるばかりだ。


「訳が分からないぜ……」

「自分からベラベラと過去をしゃべらないからなぁ、アイツは。隠すつもりもなかっただろうけど、こうなると気になるよね」


今度問い詰めてみようか?という未来の提案に、異議を唱える者は一人もいなかった。


「やること増えたねー。これは早急に異変解決しないと――」

「――止まりなさい」


前方から発せられる声に、私たちは動きを止めた。




「生者よ、この白玉楼の何の用ですか?」




霊夢「週別ユニークアクセスが500越えたわね」

魔理沙「読んでくれて本当に感謝だぜ!」

未来「評価もしてくれると嬉しいな」

パチェ「露骨な評価稼ぎ……してもらったら確かに嬉しいわね」

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