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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
4章 春雪異変~確かな想い~
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24話 招かれざる客

冬の幻想卿に

凶刃が舞い降りる

side 霊夢


今日の妖怪退治が終わり、紫苑さんの家に行ってみたところ、いつもの魔理沙とアリス。加えて幽香とフランと咲夜がいた。


「珍しい組み合わせね」

「お兄様がプリン食べに来てって誘ってくれたの!」

「私はフラン様の付き添いです」


フランは嬉しそうに羽?をパタパタさせる。

幽香は……なんか紫苑さんの家に入っていても違和感がない。師弟関係だからかしら? というか彼女は紫苑さんと会ってから丸くなった気がする。


「紫苑は留守なんだぜ」

「いつもなら、この時間には居るはずよね?」


アリスが不安そうにしているが、なぜか私も嫌な予感がした。

まるで……現在進行形で大変なことが起こっているような。そういう感覚。私は首を横に振る。

あの紫苑さんが危機的な状況に陥ってるなんて、常識的に考えてあり得ない。幻想卿に常識は通用しないが……そんなことが起こったら、それこそ異変だ。


「ひとまず紫苑さんが帰ってくるまで、私の神社でお茶でも飲む?」

「寒いから有り難いわ」


幽香の言う通り、4月中旬なのに春が来る気配がない。

慧音曰く『こういうことは珍しいが、前例がないわけではない』と言っていたので、そのうち暖かくなるだろう。


私たちは神社までの長い階段を昇る。


「今日の夕食はなんだろうな……」

「お兄様の料理なら何でも美味しいよ?」

「ですね」




登ったところで――幽香が眉を潜めた。


「……血の臭い?」

「霊夢は動物でも狩っていたのか?」

「そんな魔理沙みたいな野蛮なことするはずないでしょ」


なら、この臭いは何なのか。

新手の妖怪だろうかと神社の境内を慎重に歩き、いつもの賽銭箱のところまで来て――その血の臭いの正体が分かった。分かってしまった。



そこには2人の人物がいた。


1人はふーど?(紫苑さんの着ていたものに似ていた)を深く被っていて、顔がよく見えない。男性とも女性とも考えられるような体形で、性別がパッと見判断できない。


「――ありゃぁ。人が来ちゃったかぁ」


声でも性別が分からないわ。

語尾をわざとらしく伸ばしているしゃべり方が印象的で、困っていると言うよりも、この状況を楽しんでいる節すら見えた。


けれど、今はそんな問題じゃない。

もう1人の方だ。


もう一人は描写の必要はない。

紫苑さんだった。
















――腹部に大きな剣で刺され、大量の血を流して横たわっている紫苑さんが。








「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!?????」



   ♦♦♦



side アリス


「あ、驚いたぁ?」


霊夢が錯乱しながら泣き叫ぶ様子とは逆に、フードの人物は呑気に訪ねてきた。フードの人物は紫苑さんの腹部に刺さっている大型の剣を乱暴に引き抜き、大量の血が飛び散る。

あまり人体構造に詳しくない私でも、人間には致死量の血が流れていることは分かる。


私は――思考が追いついていなかった。


「紫苑様!」

「あれぇ?」


いつの間にか、紅魔館のメイドが紫苑さんの体をこちら側に移動させていた。あまりにもの早さに、フードの人物も目を見開いていた。

が、それも数秒のことだった。


「……なるほどねぇ。時間操作系の能力かぁ」

「――っ!?」

「アリス! ボケッとしてないで手伝え!」


魔理沙の叱咤に意識が戻される。


私は紫苑さんの腹部に手を当てて、治療系の魔法を限界まで流し込む。魔理沙も苦手ではあるが、できる限りの魔法を注ぐ。


死なせたくない。

失いたくない。

なのに。


「……どう……して……! 傷が塞がらない……の……!?」


全くの効力がない。

加えて、紫苑さんの能力〔十の化身を操る程度の能力〕には、肉体を自己再生させる化身があったはず。それなのに血が流れるばかりで、紫苑さんの目に光がない。

少しずつ確実に紫苑さんの命の灯火が消えていってることが、どうしようもなく怖かった。


「紫苑の傷を治そうとしてるぅ? 残念だけど僕の能力で、紫苑の傷は魔法程度じゃ治らないよぉ」


涙で前が霞んでいるが、私はフードの人物を睨んだ。

フードの人物はケラケラ笑いながら、剣に付着した血を払う。


「魔理沙! 咲夜! 糸で紫苑さんの傷を塞ぐわ!」

「わ、分かったのぜ!」

「私はパチュリ―様を連れて参ります!」


咲夜は魔法研究の第一人者である七色の魔女を呼びに行った。彼女なら何か分かるかもしれない。それまでは止血で時間を保つ。


私は糸で紫苑さんの傷を塞ごうと試みる。



「――ねぇ、紫苑を刺したのは」

「……貴方?」

「見れば分かるでしょぉ」



ゾクッと心臓を捕まれる感覚。

吐き気を覚えるほどの――2つの妖力の塊。

それは、四季のフラワーマスターと、小さな吸血鬼から漏れていた。


「……吸血鬼、邪魔しないでね」

「お姉さんこそ」

「あははぁ、僕が紫苑を刺したから……どうしたのかなぁ?」

「「殺す」」


幻想卿でも1.2位を争う凶悪な妖怪がフードの人物に襲いかかった。



   ♦♦♦



side 幽香


今まで何千の妖怪を殺してきただろうか。

ただ『強くなる』ための手段であり、今の私にはもう必要のないことだった。目的は果たされたのだから。




しかし――これほど相手を憎いと思ったのは初めてだ。




相手は半妖。けれど妖力が尋常じゃないほと大きい。

恐らく紫以上の妖力を漂わせる相手に、私と隣に居る小さな吸血鬼は身構えた。魔法使い共は紫苑の傷をどうにかして塞ごうとしている。


正直、ありがたい。


よそ見せずに相手をぶっ殺せる。


「僕は君たちと闘う理由はないんだけどなぁ」

「黙れ」


私はフードの人物――恐らく男の首を薙ぐ。

相手をなぶり殺すなんていう気持ちなど一切なく、とにかくこの男をこの世から永久的に消し去るために、傘を真横に振った。

捉えたと思ったけれど、男の身長の2倍はありそうな剣に弾かれる。

渾身の一撃を半妖に受け止められた。


「残念だねぇ」

「――貴方もネ?」


背後にいた小さな吸血鬼が剣を破壊しようと目に似た模様を顕現させた。確か、〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕だったか。それならば、この男の剣だって――


「あぁ、そっかぁ。君が例の……」


ニヤリと笑った男は――その目を切り裂く(・・・・)

顕現された模様を『形あるかのように』真っ二つに切り裂く。


「えっ!?」

「僕は僕に斬れないものを許さないからねぇ」


その剣を握っている腕は銀色に光っている。

さっきまでは普通の肌色だったはず。妖怪としての能力か、持ち合わせている能力なのか……

吸血鬼は炎の剣を出現させると、男に接近戦を挑んだ。

私も傘で男に切りかかる。


私と吸血鬼は初めての連携とは思えないほどの猛攻を男に浴びせる。

なのに、男は全てを避けて受け流して弾く。


「僕から言わせれば、戦闘を仕掛けてくること自体が愚行だねぇ。……紫苑の弟子と劣化壊神風情が図に乗らないでよぉ」

「紫苑を侮辱するな……!」

「それなら――」


男は大剣を構えた。

居合いに近いその構えに、剣が銀色に輝き始めた。螺旋状にまとわりつくその妖力は、紫苑の持っていた妖刀を連想させた。半分は人間のはずなのに、外の世界の大妖怪と同等の妖力を宿す。

男はギラリと飢えた瞳で私と吸血鬼を睨む。

そして一言。


「――防げるものなら防いでみな」


刹那、私と吸血鬼を襲う斬撃の嵐。

かつて紫苑にも戦闘訓練でされたものに似ているが、男の斬撃はそんな優しいものではなかった。男は動いてないのに四方八方から見えない(・・・・)斬撃が飛んでくる。

予測しようにも斬撃が絶え間なく飛んでくるので、その思考すら浮かばない。

それでも手加減されたのだろう。


私と吸血鬼は皮膚に無数の切り傷を受け、服も無残に切り裂かれている。それでも致命的までとはいかない。


しかし――私は諦めない。

相手も油断せずに剣を居合い状態にしている。


「これで分かったでしょぉ?」

「それでも……!」

「お兄様……!」



「霊符『夢想封印』!」



赤い弾幕が男を襲い、男は驚きながらも弾幕を切り裂いた。

後ろを振り向くと博霊の巫女がいた。目元を真っ赤にしながらもスペルカードを男に向けている。両足は少し震えているが、目に宿る意思は強い。


「私は! 紫苑さんを傷つけた貴方を許さない!!」

「霊夢……」


「………………………………あぁ」


男はなにかに気づいたように――構えを解く。

私と吸血鬼、博霊の巫女は怪訝な顔をした。


「そっかそっかぁ。なぁるほどねぇ。ようやく理解したよぉ。君たちは紫苑が刺されたことに怒ってたのかぁ」

「……紫苑さんと何があったのかは知らないけど、彼は幻想卿の住人で、私が守るべき人よ」

「――ごめんねぇ」

「「「え?」」」


いきなり男は謝ったかと思うと、剣を投げ捨てて私たちの方……正確には紫苑と魔法使い共の方向へ足を運ぶ。私は阻止しようと動こうとするが、先程のダメージが予想以上に大きかったせいで倒れてしまう。

白黒と博霊の巫女が間に立ち塞がるけれど、男は口調を一切変えずに告げる。


「どいてほしいんだけどぉ?」

「紫苑に何するつもりだぜ!?」

「そのままだとぉ――紫苑は死ぬよ?」


呆気にとられた2人を放置し、男は人形遣いに近づく。その人形遣いは紫苑を庇うように覆い被さった。

男は懐から小瓶を取り出して、座って治療している人形遣いに渡す。


「ほらぁ、これ使うといいよぉ」

「……何のつもりかしら?」

「『フェニックスの涙』って奴でねぇ、あらゆる傷を瞬時に治す秘薬さぁ。これなら僕の能力で治りにくい傷も回復するよぉ。傷口にかけてみてぇ」


人形遣いは一瞬迷ったが、自分の治療では彼の傷は治らないと悟っていたのか、その男から小瓶を受け取って紫苑にかけた。

傷口から赤い光が迸り、紫苑の傷は遠くから見ても分かるくらいに治っていき、顔色も良くなった。服が破れていなければ気づかなかっただろう。


「……んぁ……?」

「紫苑さん!?」

「うぉっと……」


人形遣いが起きた紫苑に抱きつく。

ちょっとイラっとした。


「ごめんなさい……!」

「何がどうなって――」

「紫苑さん、この人は誰なの?」


博霊の巫女はフードの男を指差した。

紫苑は困ったような笑みを浮かべる。


「あぁ、コイツは――」

「僕の名前は九頭竜未来(くずりゅうみらい)。よろしくねぇ」

「俺のセリフ取るなよ、切裂き魔(・・・・)


その男――九頭竜は笑って紫苑に答えた。


「久しぶりだねぇ、神殺(・・)





フラン「あいつ嫌い」

未来「えぇ……」

紫苑「当然の反応だろ?」

未来「理不尽……ではないかぁ」

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