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東方神殺伝~八雲紫の師~  作者: 十六夜やと
2章 紅霧の宴会~始まりの物語~
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12話 多き出会い

アイツもいたのかよ

妥当か驚きか

side アリス


面白い外来人がやって来た。


昨日、博霊神社に赴いたときに魔理沙から聞いた話だ。なんでも魔理沙のスペルカード勝負で勝ったと耳にしたときは驚いた。しかも八雲紫の師匠らしい。

これで興味を持つなという方が難しいだろう。


というわけで会ってみたわけだが……


「良かった……」


なんというか……噂と実際に会ってみたときとの印象が全然違った。

外見は人里にでもいるような人間。顔立ちも悪くはなく、むしろ良い方だと思う。ただ、霊力というものが微塵も感じられない。

戦闘面でも素人のように思えるが、右手が欠落している辺りを考えると解らなくなる。さっきの発言も物騒だし。

彼を一言で表すなら『得体の知れない外来人』だろう。


「どういう思考回路してるのよ……?」

「外の世界で会う人形遣いは大抵頭のおかしい奴らだから、ちょっと確認したくてね。また家を爆破されたら嫌だし」

「一緒にしないで欲しいわっ」


まずは彼の先入観から改める必要があると思った。

というか彼は家を爆破されたことがあるのか。


紫苑さんは近づいてきた上海の頭を優しく撫でる。

その様子から、紫苑さんは先入観がおかしいだけで、人形をちゃんと扱ってくれる人だということが伺える。なかなかそういう人間は少ないので、私は紫苑さんに好印象を持った。


「――爆破しない人形は可愛いな」


早急に認識を改めさせる必要があると思った。

どう人形遣いへの偏見を矯正しようか考えていると、ぞろぞろと幼女二人と魔法使い風の女性、メイドに異国風の服装の女性が紫苑さんの輪に入ってきた。ここだけで15人も集まっている。

蝙蝠(こうもり)のような羽を持った幼女が口を開く。


「――あら、私も話に混ぜてもらえないかしら?」

「お、異変ぶりだな。スカーレット姉」

「その呼び方は止めなさいっ!?」


彼女が今回の異変の首謀者、レミリア・スカーレットか。噂には聞いてるけど初めて会う。

幼い外見とは裏腹に、絶対的な威厳とカリスマをもつ西洋の大妖怪――というイメージを、今さっき紫苑さんの言葉によって破壊された。『うー! 咲夜ぁ!』とか言っている姿にカリスマの「か」の字も見られない。強いのは確かなのだろうけど。

なんというか……紫苑さんってマイペースな人ね。


「お兄様ー!」

「フランも来たか。元気にしてたか?」

「うんっ」


紫苑さんに正面から抱きつく金髪の幼女。それに嫌な顔一つせず、頭を撫でてあげる紫苑さん。

端から見れば血の繋がっていない兄妹のようで、金髪の幼女――フランちゃんも嬉しそうに宝石のような羽をパタパタさせている。なぜかそれを羨ましそうに見るメイドと賢者。


夜刀神紫苑――彼について一つ確かなことは、


「女性に苦労しそうなタイプね」


そう確信すると同時に思った。


――あれ? これ私もフラグ立ってない?



   ♦♦♦



side 紫苑


えーと、紫・藍さん・橙・慧音・最強・大ちゃん・そーなのかー・魔理沙・アリス・スカーレット姉・フラン・パチュリー・咲夜・美鈴……そして俺の計17人か。


人口密度たけぇなオイ。


出来れば遠くで一人寂しく飲んでいる妹紅とかも呼びたいが、これ以上人口密度上がるのも考え物だな……と麦茶を飲みながら周囲を観察していると、上からはねの羽ばたく音が聞こえた。

親方! 空から女の子がっ!?

某名作を思い出したが、この少女は綺麗に着地する。


「どうも~。清く正しい射名丸文(しゃめいまるあや)と申します! 夜刀神紫苑さん、少々よろしいでしょうか!?」


その場にいる全員が『めんどくさい奴が来た』って顔をするのはなぜだろうか?

女の子版山伏(やまぶし)みたいな恰好をしている少女は、手にカメラを持って参上した。

敵意もないことだし軽く挨拶をする。


「あぁ、初めましてだね」

「あやや、普通に返されるのは珍しいですね。私、『文々。新聞』という新聞を書いておりまして、紫苑さんの取材をしに参りました」

「紫苑さん、やめといた方がいいわよ。コイツ、有ること無いことデタラメに書くから」

「そ、そんなことないですよ~」


いつのまにか輪に入ってきた霊夢が文を睨んでいる。

なるほど、この少女は新聞記者だったか。しかもゴシップ記事を捏造するタイプらしい。

まぁ、俺には捏造されるような噂話なんてないし、別にいいか。


「ふーん、取材か。別に良いぞ」

「ありがとうございます!」

「紫苑さん!?」


霊夢をはじめとする幻想卿の住人は心配そうな表情を見せる。外の世界(あっち)の新聞記者とは仲が良かったし、あそこの発行している新聞はユーモアを混ぜつつ真実を的確に伝えてくれていたから、そこまで新聞に関して偏見を持っていない。

ここの新聞記者は知らんが、協力したら何かいいこともあるかもしれないしな。


「いや~、中々外来人の方々は取材に応じてくれないので、紫苑さんが話の分かる人で助かりました!」

「美少女のお願いを無下にはできないだろ?」

「紫苑さんはお世辞が上手いですね~」

「ホントのことだぞ? 俺は世辞なんか言わないし」

「ゑ?」


文の目が点になる。そこまで驚くことか?

幻想卿来て人里以外では女性にしか会ったことがないが、みんな「美」がつくレベルの女性・少女・幼女が多い。というか全員それだ。妖怪だから・人外だからという理由かもしれないが、外の世界で美男美女なんて数えるほどしか会ったことないから、幻想卿の住人のDNAのすさまじさは凄いなと実感する。

あたふたと顔を赤くする文を眺めながら、紫と藍さんの会話が聞こえた。


「本当、彼は相手を自分のペースに引き込むのが上手いのよね……」

「どいういことです、紫様?」

「私なんか相手を意のままに操りやすいように策や仕草を要するけど、師匠はそれを無意識にやるのよ。本人は自覚がないけれど、私にはできない芸当だわ」

「ということは……あれも?」

「完全に無意識よ」


おい、紫。その言い方だと俺が節操のない女たらしみたいじゃないか。

というか女しかいないからしょうがないじゃん。


「嫌じゃないけど疲れるわ」

「――君が幻想卿にやって来た外来人かな?」

「え? あぁ、そうだけ――っ!?」


あーはいはい、次はどんな美しい女の子かな的な気持ちで振り返ると、そこには20代前半くらいの男性が立っていた。白髪でメガネをかけた好青年に俺はこみあげてくるものを感じる。

最初に言っておく。ホモじゃない。


「僕の名前は森近霖之助(もりちかりんのすけ)。魔法の森の近くで『香霖堂』っていう道具屋を営んでいるんだ――って何で泣いているんだ!?」

「今超絶的に感動している」


ハーレムと言えば聞こえがいいが、女性だけの空間など男にとっては針の筵のような空間だ。やはり同性との交流も大切なことに変わりはない。

最近……というか、幻想卿に来てから男性と会話したことがなかったので、森近霖之助という青年が神か何かに見えた。


「それにしても道具屋かぁ」

「外の世界の物や珍しい代物とかを扱ってる店だけどね。まぁ、商売は目的ではないから、珍しいものは手元に置いてる感じかな?」

「趣味で店を開いてるってわけか。好きなことして生きられるなんて最高の人生だと思うけどなぁ。いや、霖之助さんは半人半妖だから人生って言っていいのかね?」

「良く気づいたね……僕が半妖だってことに」

「外の世界でつるんでた一人が半妖だったからさ」


あの切裂き魔は人間と妖怪のハーフだったはずだ。

すると傍観していた紫が声をかけてくる。


「切裂き魔というのは……あの男ですか?」

「……あぁ、そういえば紫は会ったっけ? 引っ越しの時の荷物整理時に差し入れ持ってきたアイツが切裂き魔だよ。あの、俺よりマイペースそうな奴」

「紫苑君よりマイペースな人がいるのか……」


慧音が戦慄している。

紫と荷物整理してた時に、いつもどうり(・・・・・・)窓から家に侵入してきた男。壊神とは良い勝負が出来そうなくらい化物じみたキチガイ野郎だ。


あいつら……今頃どうしてるのかね。



   ♦♦♦



side 霊夢


「紫苑の奴、楽しそうだな」

「ここまで幻想卿に馴染む外来人も珍しいけどね」


私と魔理沙はちょっと離れた場所(賽銭箱前)で紫苑さんと彼を囲む集団を眺めていた。

幻想入りした外来人の大半は取り乱すか絶望するかのどちらかで、外の世界とは違って弱肉強食の場所だから、数年も経たないうちに死んでしまうことが多い。紫が連れてきたから、というのも理由の一つかもしれないけれど、元の場所が幻想卿と似たような環境だったからかもしれない。

幻想卿より危険な気がするけど。


魔理沙と紫苑さんを見ながら会話していると、妹紅が近づいてきた。


「妹紅は紫苑と話さないのぜ?」

「人が多すぎでしょ?」


確かに群がりすぎている気もする。


「けど……紫苑が馴染めそうで良かったわ」

「どうしたの妹紅? ずいぶん紫苑さんに肩入れするじゃないの」

「私のような不老不死を気味悪がらない数少ない人間だからね」

「あー……」


私と魔理沙は納得した。


「ホント不思議な奴だぜ……アイツの住んでた所ってどんなところなんだろうな?」

「それも気になるけど……私としては紫との関係が知りたいわ」

「ただの師弟関係だろうぜ?」

「え?」


妹紅が驚いた顔をするので説明する。

以前の私と同じ顔をしたのは笑った。


「紫と紫苑さんがいつ出会ったのか(・・・・・・・・)ってのもだし、明らかに紫が紫苑さんに狂信しているのも気になるし」

「賢者の式神も紫苑について知らなかった感じだし、よく分からないね」


紫と紫苑さんの関係は明らかに矛盾しているし、『ただの師弟関係』の枠に嵌らないと思う。

3人で悩んでいると、背後から気配がした。



「――あら、遅れたわね」

「「「――っっ!!」」」



その妖力に振り替えると、緑色の髪の女性がいた。

そうだ、忘れてた。紫苑さんと一番相性が悪そうな奴を。


「か、風見幽香っ」

「ただ宴会に参加するだけなのに、どうして怯えているのかしら?」


クスクスと風見幽香は嗤う。

その姿に私をはじめとする3人は冷や汗をかく。


四季のフラワーマスター・風見幽香。

幻想卿において紫と並ぶほどの強さを持つ大妖怪。危険度が最も高く、友好度は最悪と称されるほどで、無類の戦闘狂だ。幻想卿が出来る前から存在する妖怪で、とにかく『強くて恐ろしい』と周囲の認識がある。私も一回戦闘を仕掛けられたことがあるけど……紫が止めてなかったらと思うとぞっとずる。

強者との戦闘を何よりも好み、狂ったくらいの強さへの執着心を見せる彼女。


もしそんな化物が――〔十の化身を操る程度の能力〕を持つ紫苑さんと会ったら……。


(おいっ、どーすんだよこれ! 幽香が紫苑と出会いでもしたら……)

(それをどうするか考えてるのよっ!?)

(あぁもう! 幽香の奴、明らかに外来人を探してるんだけど!?)


「ねぇ、なんか外来人が来たって紫から聞いたのだけれど、どこにいるのかしら?」

(((あのクソババアっ!!??)))


紫と紫苑さんの関係って本当は最悪じゃないかと疑う。

完全に紫苑さんを殺す気でいるわ……!


「おー、どーしたー?」

(((タイミング悪すぎっ!?)))


あろうことか紫苑さんがこちらに歩いて来た。

妹紅はいつでも先頭に乱入できるように構えて、魔理沙はあきらめの表情で紫苑さんを見つめる。


「フランがスカーレット姉にチョークスリーパーホールドかけ始めて、それを観戦している集団から抜けてきたんだけど――っと、初めましてかな?」


呑気に紫苑さんは来たばかりの風見幽香に挨拶をする。

一方の彼女はというと、


「……………」


鳩が豆鉄砲を食ったような表情で紫苑さんを見つめている。

トレードマークとも言うべき白い日傘を落とした時点で、私たちは彼女の様子がおかしいことに気付いた。本来の彼女なら様子見として紫苑さんの首をはねてもおかしくない。


「俺の名前は――って、あれ? この妖力……幽香か?」

「……………………………紫苑?」

「「「え?」」」


まったく状況についていけないが、どうやら紫苑さんと風見幽香は知り合いらしい。


「幽香か! 久しぶりだなぁ。紫が幻想卿にいる時点で幽香もこっちにいるかもしれないと推測するべきだったなぁ。あまりにも大きく綺麗に成長していて幽香だって気づかなかった――うわっ」

「紫苑っ……本物、よね……!?」

「ちょ、せ、背骨がっ。ミシミシ鳴ってるんだけどっ!?」


滝のように涙を流す風見幽香と、彼女に抱きつかれて背骨からなってはいけない音が鳴ってる紫苑さん。


その光景を見ている私たちの気持ちは同じだ。



(((ついていけねー……)))




紫苑「次から過去編かな?」

霊夢「早く説明してくれないと分からないわ」

紫苑「明らかに矛盾してるもんな。端から見れば」

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