第二話 晴天
アルファは急に一人になりたくなった。
イレインを置き、リビングから出て、部屋を探すことにした。
広い屋敷は隅々まで掃除が行き届いていて、チリ一つ無い。
…屋根裏部屋は別だが。
アルファは廊下の隅に部屋を見つけると、電気をつけてドアを閉じた。
とても生活感のある部屋で、アニメのポスターが貼ってある。
「イレインデモアニメハ見ルンデスネ…」
"イレイン"…そういえば、と彼女は呟く。
イレインはさっき、「家族はみんな殺した」と言っていた。
イレインが人殺しなどするのだろうか…?
アルファの中で、様々な考えが渦巻く。
アルファはドアに背をつけた。そのままずるずると脱力し、床に座り込む。
「事情ガアッタノデハ…ウワッ⁉︎」
扉が開けられ、支えが無くなったアルファは、床に頭を打ち付けた。
「わっ⁉︎イレイン!イレイン!女の子が倒れてきたよ!」
「うるさい。喚くな」
***
「アルファ・ハンズデス。ヨロシクオ願イシマス。」
「アル、よろしくね〜♪」
「…アル、トイウノハ?私ハアルファデスガ。」
「アルファって長いでしょ?だからアル!短くなるしアダ名っぽくて良いよね?」
「アダ名…デスカ。ワカリマシタ。データニ書キ加エテオキマス。」
「もう、固っ苦しいんだからにゃ〜♪」
「…」
「アル、どうしたの?」
「…予測ガ正シケレバ、私ハ今、"引いて"イマス。」
「え゛え゛〜⁉︎」
「ふっ…ふふっ…あはははは!」
「ちょっ、イレイン!笑わないでよ〜!」
談笑する。
こんなに楽しかったのは、何年ぶりなのだろうか。
あ、紹介が遅れたね。と、少年はアリィと名乗り漫画で良くありがちな自己紹介をした。
僕の名前はなんだ、とか、好きなものはなんだ、とか。
長い付き合いな方だから、そんなのは聞かなくてもわかってる。
アリィは黒の猫耳パーカーをつけていて、ハーフパンツを履いている。
元は黒猫で、しっかりと黒い尻尾が生えていた。主人にかけられた呪いで、擬人化したんだ。
と、ここでアルファにある疑問が浮かんだのか、急に質疑応答を始めた。
「…今ハ何歳クライナノデスカ?」
「…ボクはピッチピチの13歳だよ☆」
「…チョベリバデスネ。猫ノ13歳(70歳)デショウ?」
「すみませんでした」
アリィは古かった。本当に13歳か、おい。
***
それはある晴れた日の午後の事だった。
過去を思い出して憂鬱になる俺を嘲笑うような、そんな天気。
外を見たくなかったので部屋にこもってPCを開いていた。
…昨日作ったファイルがない。またあいつか。
「イレイン、イレイン。少シ話ガアルノデスガ。」
アルファが俺を呼ぶ。二回も呼ばなくていいのに。
その甲高い声が憎たらしい。ピーピー喚かれては集中などできはしない。
俺はため息を吐いてアルファの方を向いた。
「なんだ。言葉の意味ならアリィに聞けよ。」
言葉の意味以外で聞くべきことはなかろう。
何故なら彼女には____いや、考えるのはよそう。
まるで俺の失敗を肯定するみたいじゃないか。
「イレインハ、仕事ヲシテイルノデスカ?」
…こいつは予想外だ。
「書斎ニ医療ノ本ガアリマシタガ」
「医者ナノデスカ?ダトシタラ私ヲ作ッタソノ知識!一体…」
こういう時の好奇心は恐ろしいな…
「医者だよ医者」
「ヘ?」
「闇医者」
説明すると赤べこのように頷いてリビングへ戻った。
ふう、これで休める。ドアが閉まったのを確認して安堵の息を吐いた。
コーヒーでも飲もうかと上げた腰は、
そうはさせまいというかのように鳴り響いたけたたましいベル音によって元の位置に戻させられた。
自身の時間を遮られ、苛立った俺は、取り敢えず電話を取ろうと歩き出す。
歩いている間にも響くベル音は俺を更に苛立たせる。
「はい、ヴェルフェリーですが。」
____え?
そんなことはあるはずないのに。
歯車が狂っているような、そんな違和感。
運命なんて信じやしないけど。
やはりそうだ。晴天は俺を嘲笑っていた。