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追憶のざわめき  作者: 武州骸骨
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序章~さよなら人類~

~序章~さよなら人類


 その日、人間の歴史は終わった。人間は至る所に生息し山が邪魔なら削り海が邪魔なら埋め立てて生息圏を確保してきた。この星の支配者であると、そう思っていた。いや、正確に言えばそんな事を思って生活している人間は少なかっただろう。しかし、この星って人間が支配してますよね?と言われれば、そうかもね、と返すくらいは普通に思われていただろう。当たり前のことは考えもしない。問われなければ気にもしないこと自体が当たり前にこの星が人類に支配されていることの証明といえるのではないだろうか。


 事の起こりは家畜の感染症だった。家畜の感染症から人に感染するウィルスに成長する、そんなことは今まで何回もあったしそれ自体は特筆すべきことでもない。最初の感染者が出て問題になり、様々な分析から対応する薬剤が創りだされ次第に脅威度が下がっていく。確かに特効薬が見つかっていない感染症もある。だが、感染経路等の判別や隔離等の様々な対応により被害を少なくする知恵を人類はもっていた。そして今回もそれが有効だと、そう思っていた。

 

 かつてアジアと呼ばれた地域にあった感染症に無責任な国家が元凶と伝えられているが今となってはもう定かではない。それまでものなら、パンデミック、世界流行になる前に何らか対応が取れたのだが、たったひとつ違ったことはウィルスが時計を持っていたことだ。感染していても発症しない。発症しないのだから誰も問題にしないし、そもそも感染を感知できない。そして保菌者が飛行機で船で列車で移動し充分に世界中に蔓延するまでひっそりと潜んで一気に爆発した。先に感染したものも後に感染したものも、感染からの時間ではなく期日を待ってその日その時に発症する時限爆弾のような時計をそいつは持っていた。


 まさに爆発という表現が適切だろう。世界中に感染者がいる状態で一斉に発症した。多少の時間差はあったものの、そんなものは無いに等しく皆が高熱にうなされ死んでいった。医者も看護師も救急救命士も、レントゲン技師も会計職員も、消防士も放火魔も、警察官も泥棒も、電力会社の営業も発電所の技術者も、定食屋のおばさんも弁当屋のアルバイトも、プロデューサーもアイドルもみんなみんな倒れてみんなみんな死んでいった。病理学者やドラッグ・デザイナーたちが顕微鏡を覗くまもなく死んでしまったのだからこれはもうどうしようもない。


 事故が起こっても救急車は来ないし火事が起こっても消すものもいない世界で大量のハエが飛び回るとてもとてもうるさい世界は3ヶ月で全てを食い尽くされ残ったのは骨だけになりとてもとても静かな世界になった。60億人いた人間が数千人になり、絶滅こそしなかったもののもはやこの星の支配者などではなくなった人類は戦々恐々としながら科学や文明を失った世界でなんとか命をつないでいくしかなかった。


 生き残った人間がいたということは、感染しても発症しなかったということだ。ごくわずかであるとはいえ、発症しなかった人たちはどんな人たちなのだろう。それはいないとされていた人たちであり、空想の中の住人と思われてた人たち、その特質を隠して隠して隠しつづけた人たち。つまりは一般的な人たちではなく特殊な資質をもつということだ。特殊であるゆえに隠れて暮らし社会的に認知されずにきた人たち。これはその感染症が発生するまでは認識されなかった要素である”魔素”を利用できるものたち、魔素に侵されない資質を持つ人たち。もっとも、彼等は魔素なるものは認識していたし利用していた。なにしろ彼等が成すその特殊な物事は魔素を利用することで、つまり魔力を使うことで成されていたのだから。


 かつて毒ガスである酸素を利用する生き物が誕生したように魔素を利用する資質、特性をもった人間だけが生き残った。それまで魔素なるもが問題にされなかったのは一般的な地域における濃度が低く人体に影響が及ばなかったからだ。全ての問題は単純に濃度であり濃い魔素は耐性のない人間を死に誘う毒である。感染したウィルスは細胞のタンパク質を使い毒素、つまり魔素を生産した。世界中で魔素の大量生産が短時間で行われた結果、絶滅と言ってもいいほどの被害がでた。ただ、その毒を毒とせず利用し何らかの力にしていた人たちがいて、そういう人たちは魔法使いや呪術師などと呼ばれ、物語の中の住人であり実際には存在しないということになっていただけだ。


 大絶滅を経験した世代は人類の最後の世代であり、また、新世界の第一世代となった。科学や文明の恩恵を知っているこの世代が一番苦労したであろうことは想像に難くない。発電所はあるが動かす人はいない、浄水設備はあっても誰も動かせない。メンテナンスを受けないアスファルト道路はベコベコになり雨水がたまり、スーパーに食べ物を運ぶトラックはもう走っていない。病気で死ななくても飢えて死ぬ可能性だってあるのだ。


 そして魔素を利用する、つまり魔力を持つものしかいない世界で姿形を変え、環境に対しより適応した選択に成功した者達だけが子孫を残し新しい歴史が始まった。第一世代の詳しい歴史はほとんど残っていない。わずかに残っているものもそれが事実かどうか誰もわからない。歴史らしきものが書かれるまで数百年の年月がかかったと見られている。それゆえ第一世代について書かれた歴史書と言われているものは後世のつくり話であり実態に沿った内容ではないとされているのが一般の認識だ。そしてそんなあてにならない第一世代に関する歴史書に着目することが出来るような余裕がうまれたのは、世界が少しばかり安定し始め、生存のために全てを費やさなければならない時代が終焉し、多少は文化と呼べるものが立ち現われてきた左証ということでもある。



 

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