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対地上戦

西の門に足早に向かう途中、兵士達の姿が見える。

王国の軍やこの街の自治軍とおぼしき兵士達が、新たなヘルド軍の出現に浮き足立っている。

ほとんどの兵士は、既に東方のヘルド軍の迎撃に向かっているのだ。

残りの兵士では、西に出現した新手の軍に有効な対応が出来ないのだろう。


彼らが動く前に、自分は戦う必要がある。

俺の持つ兵器達は、敵味方の歩兵が戦場に乱れ散った状態では能力が制限される。下手をすれば味方を巻き込んでしまうからだ。


西門を警備する兵士の危ないから戻れ、と言う警告を無視し街から出来るだけ離れる。

十分距離を取り、他人の目が無くなった頃合いを見計らい俺は相棒を呼び出す。


「15番機!」


5メートルほど上空に光が凝縮し塊となり、攻撃ヘリの形をとって実体化する。

俺は、機体を着陸させると前方のガンナー席に乗り込む。

操縦はヘリ自身に任せ、俺は攻撃に専念しよう。


街道沿いに沿って低空を飛ぶ。街道の先は平原に通じている。

平原の向こう側、2キロほど先に敵が集結している。


俺は高度を地上ギリギリまで下げ、先ほど決めておいた陸上兵器を召喚する。

「87式、来い」


地上に光が凝縮し、87式自走高射機関砲が出現する。


キャタピラーをいた戦車のような車体の上に、巨大な砲塔を備えその左右には90口径35mm対空機関砲がそれぞれ一門ずつ装備されている。


戦闘ヘリのチェーンガンより遥かに大きなその機関砲は、砲口初速が大きく射程が長い。

そして強力だ。

一門当たり1分で550発の榴弾を吐き出す能力を持っている。それが二門だ。

通称ガンタンク。

装甲物の破壊が目的の上品な10式戦車より、こちらの87式の方が歩兵には怖い存在のはずだ。


「87式自走高射機関砲、参上しました。」

男の声で87式が流暢りゅうちょうに喋る。

相棒のヘリより言葉が上手いようだ。


「敵の戦闘意欲をくじきたい。 恐怖心をあおれ。

合図したら、士気の高そうな兵達からつぶしていってくれ」


「了解」

俺は目立たぬ用に地上付近で空中停止(ホバリング)しながら、87式に前進を命じる。


平原には低い段差があって草地が続いている。ヘルド軍が布陣している方向に向かってゆるやかに傾斜しており、側面にはまばらに林が散在している。

敵軍は2kmほど先だ。味方の増援を待っているように見える。


俺はヘリのガンナー(兵器担当者)に与えられた、もう1つの眼であるTADSを使って、敵の映像を統合ヘルメット表示システムに投影する。


ズームで敵兵士の姿を確認すると、以前ユマを襲っていた豚面に似た兵士が、皮鎧に身を包み長い槍を持って並んでいる。

彼らの後ろには重そうな金属鎧に身を包んだ騎兵が、馬に似た四つ足の生き物に騎乗して控えている。かぶとを跳ね上げている兵士を見ると、中はトカゲ面だ。


数はざっと見て合計8,000ほど。

内訳は歩兵が6,000、騎兵が2,000というところか。


俺は敵の中に魔術師を探す。魔術師はやっかいだ。

恐らく残りの兵士達を全て合わせたより、脅威度が高い。


注意深く探しているつもりだが……見つからない。しかし魔術師がいないとは思えない。


87式自走高射機関砲はキャタピラで前進を続け、射撃可能な位置に着く。


「攻撃準備完了です」


敵の中に動きがある。こちらを見つけたのだろう。

魔術師達が術を使って俺達を発見したのかも知れない。

2kmほど離れているとは言え、平原なのでヘリや87式の隠れるところはない。


もう力で押し潰すしかない。


「87式、攻撃しろ」


二門の巨大な機関砲の重い射撃音と共に、35mm榴弾りゅうだんが敵歩兵の前列に着弾する。

そして、砲塔を回転しながら兵士の列をめるように斉射せいしゃする。

砲撃された化け物の兵士達は何が起こったか全く分からなかったろう。


87式は本来は対空用の兵器だ。だが地上の敵も攻撃できる。

その威力は軽装甲車両なら即時に破壊、重装甲の敵でさえも弱点を狙えば破壊可能だ。

生身の兵士を相手にした時の87式の凶悪さ加減は一流だ。

モンスターであろうが、人間であろうが効果に大した違いはない。

よろいなど何の意味もない。

直撃された歩兵は霧散し、爆発で後方の兵士達もなぎ倒される。


二回目の斉射せいしゃを行う。さらに後方の兵士達が弾け飛ぶ。

敵はようやく、未知の手段で攻撃されている事に気がつき始める。


俺の居るコックピット内で突然ミサイル警報が鳴り響く。

熱源に反応したのだろう。

直径数メートル程度はある大きな炎の固まりが、俺の乗っているヘリと87式に迫っている。


地上からの魔法攻撃だ。


炎が来た方向に顔を向け、俺はズームされた敵の画像をヘルメット内の表示システムで見る。

炎の固まりを俺達に投げつけている魔術師らしき人影に視線を合わせる。

ガンナーの視線に連動して動き照準を行う、30mmチェーンガンが敵に狙いをつける。


射撃開始。


ボン。


着弾した箇所から半径5メートル程度内の全域が、一斉に爆撃されたように煙を上げる。

同時に俺達を迫って飛んでいた炎の固まりが消える。術者が死んだのだろう。


他の場所からも炎と、加えて光の矢のようなものがこちらに飛び始める。

光の矢は炎より速度が早く、そのままヘリに着弾する。

ドンッと音がして衝撃があるが、装甲板の損傷で済む。

AH-64D攻撃ヘリは23mm機銃の弾薬の直撃に耐えられる。


攻撃された方向に視線を合わせ、チェーンガンで反撃する。

ボン。ボン。一度の攻撃当たり、直径10m程度の範囲が爆発で消し飛ぶ。

魔術師達の攻撃が止んだ。


騎兵達がこちらに向かって突撃を開始している。

しかし、87式対空機関砲の掃射はそれを許さない。

いきなり先頭で走っていた一団の騎兵と馬とが、周りを巻き込みながら一瞬で爆散する。

原形を留めずに。


騎兵の一部が逃げ始める。

異常な事態に逃亡を図っているのだ。

着弾と共に霧散する友軍兵士を見て怖気づいたようだ。


それでも敵の騎兵の半分程度が突撃を継続している。

1,000騎ほど残っているか。ガッツのある奴はいるもんだな。

俺が想定したより多い。


ヘリの高度を上げ、ハイドラ70ミリ・ロケット弾での攻撃に切り替える。


統合ヘルメット表示照準システム(IHADSS)で騎兵達を照準に収め、少しずつ照準をずらしながらロケット弾を4発、発射した。

ロケット弾のタイプはM255だ。

敵の上空で1発のロケット当たり2,500発のフレシェット弾頭が、広範囲にばら撒かれるよう設計されている。


4発のロケットが内蔵していた1万発のフレシェット弾を撒き散らし、ダーツ状の弾頭が騎兵の身体と馬に突き刺さる。

突撃中のおよそ8割の騎兵が落馬し、馬ともども動かなくなる。


ロケット弾はまだたっぷり残っているが、それ以上撃つ必要は無かった。

生き残りの騎兵は潰走かいそうしている。


騎兵以外の歩兵達はまだかなり残っているが、戦闘継続の意志は刈り取ったようだ。87式の威力を見て、逃げ出す者がほとんどだ。


予想より魔術師達の反撃が少なかった。

俺はこれで勝ったのか?


87式より連絡が入る。

「索敵レーダーに反応あり。 航空機らしき影が接近中」


俺はあわてて、ロングボウ・レーダーの動作モードを対地から対空モードに切り替える。


大型の飛行物体だ。ドラゴンだろうな。

やはり来たのか。

ヘルドの地上軍には、もう戦闘継続の意志は残っていない。

ドラゴンの迎撃に専念しよう。


87式自走高射機関砲に対空戦闘の準備を命じる。

「了解です。射撃レーダーによる対空戦闘モードで待機します」


戦闘の本番、対ドラゴン戦だ。


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