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女盗賊

街の中に入ると門の前が広場になっていて、その先に大通りが続いている。

通りに添って、商店らしきものが軒を並べている。

これは中世風の町並みなんだろうが、俺にとって実際に目の前にするのは初めてな訳で、何もかもが物珍しい。


やはり軍人らしき姿が目につく。ヘルド軍の侵攻に備えているのだろう。

いかにもたたずまいが職業軍人ぽいのもいるが、素人が付け焼き刃で武装してるようなやからもいる。

それより多少はマシな軽装で武装しているのは、街の自治軍が何かだろうか。


広場には、まばらだが屋台も出ていて食い物が売られている。

果物らしきもの、肉を焼いた串やき風やらを出している屋台がある。


屋台のベンチで食べている人間は、旅人風が多い。

ほとんどは俺達のような姿形だが、普通より耳が長くて切れ長の目が印象的な種族や、背が低く愛嬌のある顔立ちの種族など、俺達の地球では見たことのない種族も少数いる。


アネットが言う。

「食事。食事。取り敢えず、食事。 早く宿とって、昼食を食べに行きましょう」


「了解。依存はないぞ。でもどこへ行けば宿なんだ?」

「こっち、こっち」彼女は先頭をとって、元気よく歩き出す。


しばらく歩くと見栄えが良く清潔そうな、建物の前に連れていかれる。

一階は食堂のようだ。

多分二階、三階が宿なんだろう。


しかし……

造りが豪華で高そうだな。

いくつか宿っぽい店の前を通り過ごしていたのだが、もうちょい安そうで大衆的な(はっきり言うと若干小汚い)所はいくつかあった。


ユマと顔を見合わせる。彼女は小さく顔を横にふる。

やっぱ、高いんだな。


「アネット。連れてきてもらってすまないが、俺達には高すぎるようだ」


「宿代くらい私がもつわ。この、アネット ド・ダイス・ムーレヴリエにおまかせあれ」

アネットは、ぽんと胸を叩き自慢そうだ。


「異世界人のあんたにはわかんないだろうけど、私、ムーレヴリエ家の末子なの。 お金にはそんなに困ってないから気にしないで」


貴族って事か。

貴族の中でも相当変わり者なんだろうな。


有り難く好意に甘えることにして、皆で宿の主人らしき姿の太った男のもとに行く。

アネットが声をかける。

「ご主人。部屋空いてるかしら」

「ああ、あんたら運がいいよ。丁度二部屋空きがある」


ユマがぴったりと自分の身体を俺に押し付け、アネットの方を見る。

ユマ。俺は恋人とは別人だって理解したよな? 説明してあるよな?


「ツカサと一緒の部屋で」ユマがアネットに決心したような口で言う。


「へー大胆ね。そこまで進んでるの?」そして、値踏みするように俺の方を見る。

アネットにはユマとの細かい関係は説明してない。

俺のユマへの態度を見て、恋人同士とは思っていないだろう。


「ごめん、二部屋も借りるお金ないや」ユマに言うと、アネットは主人に告げた。

「一部屋でよろしく。三人で使うから」



元々ベッドが2つしか無いその部屋に、アネットは宿の主人に無理を言って小ぶりのベッドを1つ運び込んでもらう。

たっぷりチップをはずんだようだ。

その金で2つの部屋を借りられたんじゃないだろうか。


主人に頼んで部屋へ湯を運んでもらい、女性陣に使ってもらう。

戦闘で汚れた身体で気分が悪かったはずだ。

交代で、俺も湯を使わせてもらい気分もさっぱりする。


その後、街へ繰り出し金貨を両替して、細かい銀貨や銅貨に変える。

そして美味そうな食堂で昼飯をたらふく食べた後、服やら食料、身の回りの品を揃えた。

出発は明後日の早朝にした。明日は丸一日、身体の疲れを取る予定だ。


街の食堂で夕飯を食べた後、三人で宿に向かう。アネットは酒をしこたま飲みご機嫌だ。

日が落ちてから結構時間が経っている、人通りもほとんど無い。


「こっち、こっち。はやく来ーーい。宿への近道だよ」

やたらテンションが高い。こりゃ、相当出来上がっているな。

本当に貴族かよ。


一抹いちまつの不安を抱きつつ、ユマと共にアネットを追う。

アネットに追いつこうとした俺達は、角を曲がると目前の光景を見て歩みを止めた。


「何すん……のよ」アネットがあえぐ。

向こうから歩いてきた二人組の片割れの男が、通り過ぎぎわにアネットの首に腕をかけ背後に周り首を絞めあげたのだ。手にあるのはナイフ。


「美形の兄ちゃん。二人も女連れて楽しそうだな」

「俺らにも分け前頂戴」もう一人がわざとらしい言い回しで絡む。


俺は、上着に忍び込ませていたH&K USP軍用拳銃の重さを意識する。

しかし、アネットの首筋にあるナイフにはどうやっても間に合わない。


こいつらの望みは何だ。金か? それとも。

「金ならやる。 今出すから待て」


「金?あたりまえだ。それと、そっちの女もこっちへ来い」


しがみつくユマの震えを身体に感じながら、俺はそろそろと右腕をジャケットの内側に突っ込み拳銃を握る。ごろつきはアネットを盾にのようにこちらに向けて、後ろから胸を抱えている。アネットが邪魔で相手を撃てない。


なんとかして位置をずらすんだ。


「お前、いい身体してるじゃないか」

アネットを抱えている男が、ナイフで上着を乱暴に切り裂き、手を胸の中に伸ばす。

彼女は開け広げられた胸を隠し抵抗するが、男はもう片方の手で押さえつけてそれを許さない。


駄目だ。これ以上時間は稼げない。

男はアネットの影になって撃ち難い位置にある。出ている頭を射抜くしかない。

しかし彼女と近い。近すぎる。



「人のシマで何をやってるの?」

背後から女の声が聞こえ、後方から一陣の突風が吹く。


突然、アネットを押えている男のひたいからあごにかけて、かまで切り裂いたようなぱっくりとした傷が開く。

鮮血が吹き出し、男は顔を抱えてしゃがみこむ。魔法攻撃の援護なのか?


アネットはその合間に逃げようとするが、足がふらついている。

もう一人の男が捕まえようとして動く。


俺はH&K USP軍用拳銃を抜き、捕まえようとしてる男の腹を二発撃った。

両弾命中。ごろつきは仰向あおむけに倒れこむ。

そして、頭を押さえてうずくまっている方にも同じく.45ACP弾を二発叩き込む。

こっちの男は前のめりに倒れこむ。


男達の息が絶えているのを確認すると、アネットのそばによる。


「大丈夫か」


「ええ。何とか大丈夫」顔が青ざめている。大丈夫じゃないだろう。

俺はアネットを立たせて、ジャケットを掛けてやる。

そして、助けてくれた女の方を見る。


女は呆れたように俺を見ている。そして言う。

「あなた情け容赦がないなわね。全部殺したの?」


加勢かせいを感謝する」俺は言った。


女はショート・ヘアでスリムな身体、目つきが鋭い。野性的な美人だ。

ただし邪魔そうに死体を眺める目は、この女が一般人ではないことを示している。


「私はギルド所属の盗賊。ああいう素人は目障りだったんで手を貸しただけ」

「あの手合いは自分が何したいのかも分かって無い。欲望のままに金を盗み、犯し、殺す。私達ビジネスでやってる人間からすれば迷惑この上ない」


金だけだったら見逃したんだけど、と女はつぶやく。


俺は身構えた。盗賊のギルドだと?

「素人と一緒にしないで。今回はそちらを襲う気は無いわよ」


アネットの方を見て言う。

「あなたは、もしかして貴族? 助けるんじゃなかったかな。私、貴族嫌いだし。

まあ、ここに居るあなたのナイトの覚悟が気に入ったから、今日の所は貸しは無しって事でいい」


女は俺の方を向いて微笑むと、こう言う。

「また、どこかで会ったらよろしくね」


そして、闇の中に歩み去った。


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