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女魔術師

ヘリを30分程も飛ばし、今は森の上空を飛んでいる。

夕闇が濃くなってきた。 TADS(ガンナー用の表示装置)の画像を頼りに、着陸可能な地点がないかを探しながら飛ぶ。


暗視モードで表示される景色内に、木の生えていない空き地を見つける。

100m四方程度の広さだ。

今日は、あそこに降りて野営しよう。

女も休ませたいし、俺も喉が乾いて腹も減った。一服したい。


ヘリを空き地に向け、出来るだけ素早く着陸してから機外のライトをつける。

後部席の女を引き出そうと、キャノピーを開けてやる。

女は、自力で外に出ようとした。 多少元気は取り戻したか。

さっきは取り乱していたので心配したが、思ったより芯は強いのだろう。

手を貸し、降りる時の足場を教え、なんとか地上に下ろす。


地面は草地だ。

俺はヘリに戻り、サバイバルキットの中をあさると二食分の戦闘糧食に水、シート代わりの非常用ブランケット、野営用の灯りを取り出す。


「今、飯を作る。 一服しよう」と声をかけ、加熱剤を取り出して二食分の食事の用意をする。

カレーライスに鳥五目飯だ。

ジャパニーズな鳥五目飯は俺が食って、一応は西洋料理に分類されるカレーの方を女に食わせた方が良さそうだ。


食事を用意しているとヘリが無人で上昇を始める。

相棒は周辺の偵察をすると言っているが、久しぶりの空をもう少し味わいたいようだ。

しょうがないか。

俺は召喚リストから、昔使っていた89式小銃(アサルトライフル)を選び実体化する。

ここの様なオープンスペースならば、威力が低く射程の短い拳銃を選択する意味は無いだろう。


食事が温まるのを待つ間、女に話し掛ける。


「名前は? 俺はさっきも言ったが冬富ふゆとみつかさだ」

「ユマ・イベール」


沈黙が訪れる。俺は世間話が苦手だ。相手が美人なら尚更なおさらだ。

女は落ち着いてきたらしく、泣きすぎてれた目も少しは元に戻っている。


肩に掛かる程度の長さの茶色の髪、瞳の色は茶色か黒だ。灯りが弱くて良く分からない。

瞳はやや切れ長で、高すぎない格好の良い鼻の形と、小さめの口元。

顔の造作が、どことなく貴族的な印象を受ける。


いや……流石さすがに、女の顔をじろじろ見るのは失礼だよな。

上着の前の裂け目が気になるらしく、手を添えて強く押さえている。


俺は話題を探すが、良いのが見つからない。

ならば事務的に聞きたいことを聞くのが一番楽だ。


「行きたい場所、安全に過ごせそうな場所の心当たりはあるか?」


俺は、温まった戦闘糧食のウィンナーカレーライスを彼女に勧め、自分は鳥五目飯を手に取る。

食べ物のセンスの無さに関しては、俺にでは無く自衛隊に言って欲しい。


「帝国に行きたい。ノルトステア帝国に。ディアンの故郷の」


「帝国? 何処にあるんだ?」


「今居るサラマテル王国の西方にあるの。 あなたが戦ったモンスターは東の蛮国ヘルドの兵士。

それと……ありがとう。助けてくれて。さっきはごめんなさい」


「いや。あんたの立場なら当然だ。それと礼を言うのは目的地に着いてからでいい」


「怪我してない? 私、少しなら癒し手の魔法が使える」


癒し手の魔法とは、傷の回復が出来ると言う事なのだろうか?


「大丈夫だ」


「そう」

彼女は真っ直ぐに俺の方を見て言う。

「あなたが、ディアンじゃないことは解ってる。でも、もっと近くに行っていい? 顔を近くで良く見たい」


突然、後方から、カサッと言う音が聞こえる。


くそっ。

ユマとの会話に気を取られ周りへの注意がおろそかになっていた。

後ろから、音をたてた本人らしい女が何か話しかけてくる。

俺は、手元の89式小銃に手を伸ばしながら、素早く後を振り返ろうとする。


「動かないで。死にたくないでしょ。武器に手を伸ばさないで」


俺は銃をあきらめ、急な動作をしないように注意しながらゆっくり後を振り返る。

若い女が飾りのついた杖を俺に向けている。10m程度の距離だ。


…俺の心の中で15番機が問う。


「テキ、コロス?」


相棒は1000m程離れた上空にいる。 使い魔として俺の動揺を察知し、異変に気がついたのだろう。 赤外線暗視装置を使いM230E1 30mmチェーンガンを相手にロック済だ。

チェーンガンの有効射程は1500mはあるのだ。

射撃は待てと相棒に心の中で告げると、女の方を見ながら相手の出方をうかがう。

杖をこちらに向けているのは、魔法の構えか?


女魔術師は俺が顔を向けるとびっくりしたような表情で、こちらをまじまじと見る。

ショートヘアでクルッとした大きな目をしてる。銀髪で目は緑だ。

口元が可愛らしい。元気一杯の体育系の可愛らしいお姉さんといった風だ。


「俺の顔に何か付いているのか?」


そういえば戦闘の後で顔を洗ってもいない。血でもこびり着いているのだろうか?

一瞬、彼女はドギマギしたような振る舞いをするが、意を決したように俺に言う。


「……あんた一体何者? 魔物? さっき身の毛もよだつ空飛ぶ化け物を行使してたよね」

「そして、そこの彼女を何処から拉致してきたの? 散々な格好してるようだけど。

放してあげなさいよ。

顔だけが無駄に良い、このゲス男!」


魔物で女の敵でゲスだと? フェミニストの俺に対して、あんまりな評価だ。


「誤解だ。

彼女の服が破けてるのは俺のせいじゃない。 俺はゲスじゃないし、それと“身の毛もよだつ”とか、相棒の悪口を言うな」


チェーンガンでミンチにされるぞ。

どうもこの女は悪人では無いんだろうが、早とちりでお調子者の気配が濃厚だ。


俺はユマ・イベールの方を見て、助けを求める。

ユマは女の方を見て言う。

「私は、拉致されている訳ではないです」


…相棒が俺の頭のなかで警告を発する。


「ソバ ノ テキ、コロス?」


いや、お前のことを“身の毛もよだつ”って言ってたのは見慣れていないだけで、彼女の事は許してやれ……


「チガウ、アタラシイ テキ」


戦闘ヘリが捉えている映像を俺も見る。

TADSに備えられた前方監視赤外線装置(FLIR)に白い人影が複数、表示されている。

10体ほどいるか。

女魔術師の十数メートル後方のやぶの中だ。


俺は女魔術師に問う。

「ところで、あんたは一人じゃないのか? 後ろにお仲間が沢山いるようだが?」


「だ、騙されないわよ。後を向いた隙に襲おうとか」


その瞬間、やぶの中から炎の塊が、女魔術師と俺達を狙って投げつけられる。

女の身体を炎が包む、と思った途端に彼女が無効化したらしく、塊は火の粉に分かれて飛び散る。

お返しに女魔術師は振り向きざま、何処から出したのか光の矢のような物を複数本、投擲とうてきする。


「くっ」


矢は人影の一体に集まり吸い込まれ、倒れる。

素早い動きで他の影がもう1つ、女魔術師に迫る。肉弾戦を挑むつもりか?

女は反応しようとするが、相手の動きが早く間に合わない。


同時に残りの人影に何か動きがある。ジェスチャーのような動きだ。魔法を詠唱えいしょうしているのか? 残りの敵は魔術師なのか?


俺は相棒に、後方の魔術師らしき敵の固まりを「殺れ」と命令した。

同時に89式小銃(アサルトライフル)つかむと、女魔術師に近づく人影を三点バーストで射撃し援護する。


女魔術師の手前で倒れる影。


同時に1000m先からのチェーンガンによる援護射撃が、奥の敵魔術師達の間に音速の2倍の速度で着弾する。


30mm榴弾りゅうだんの破裂音が聞こえ、巻き上がった煙と共に敵の魔術師達は爆散した。


俺は、女のそばに転がっている兵士らしき男に近づく。

俺が撃った89式小銃(アサルトライフル)の5.56mm普通弾、三発を胸に食らい事切れている。

撃った時は暗くて良く分からなかったが、今見るとこいつの顔はトカゲだ。

モンスターの軍人か。


女魔術師が死体の軍服に触れ、確かめている。

「蛮国ヘルドの軍人ね。 ドッグタグもしてるし」

そして、チェーンガンで射撃されたやぶの方を見に行こうとする。俺は止めた。

「止めておけ。 相棒が射撃して、もうバラバラだ。 気分が悪くなるだけだ」


俺は魔術師に尋ねる。

「あんたは何者だ」


「私は、アネット ド・ダイス・ムーレヴリエ。見てのとおり魔術師」

女は少し躊躇した後、続ける。

「えーと、まあ、あなたのお蔭で助かった。礼を言うわ。ちょっと油断してた」


「俺は冬富ふゆとみつかさ。 召喚士だ。今、そこに居るユマの護衛をしている」


「召喚士……ね?」

魔術師は、あからさまに気に入らない素振りを見せる。


「あの見たこともない空飛ぶ化け物を従えて、長距離から10人近くを瞬時にバラバラにしておいて、普通の召喚士と主張するつもりなんだあ。

ついでに、生粋の帝国人の顔してるクセに名前が異国風のフユトミって言うのね。


へー。そうなんだあ。ふーん。


まあ、私も命を救われた恩もあるし、そういうあからさまな嘘を言われて、文句も言わずに信じるフリをする位の礼儀は心得てますけど」


いや、それ、堂々と皮肉を言ってるよな。

嘘言っている訳じゃないんだが、もう少し話さないと納得しそうにない。


「名前は本名だ。嘘は言ってない。

それと付け加えるなら、俺は異世界人だ。

能力は元の世界の兵器類を、この世界に使い魔として召喚する事。

前の世界では軍人をしていた」


女は、驚いて考え込む素振りを見せる。

「昔、修業時代に異世界から転移して来る人間の話は聞いた事はあるけど。

大抵の場合、天界からの何らかの介入が目的よね。過去の例で言うと…」


俺は、女が低く呟いたのを確かに聞いた。「まさかね」


魔術師はあらためてこちらを向き、俺に話す。

「面白そうね。私は戦争が嫌いで、きな臭いこの国から逃げてる最中なの。

私も安全な所まで、一緒に連れて行ってくれない?

あんたの護衛の旅に、かませてよ。」


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