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「ツカサちゃーん。 待ちくたびれたわよ。 死ぬ準備できたあ?」

エレシュキガルは言う。


「悪いな。 できていない」


俺は兵器たちを召喚しょうかんする。


地上に光の塊が5つ、上空に5つ現れる。

地上の光は10式戦車5台、上空の光はアパッチ・ロングボウ戦闘ヘリ5機に変化し、俺を守護するように実体化した。

エストラがくれた”複数同時召喚”の能力だ。


「うそぉぉぉぉおー 数多すぎー そんなの聞いてないー」 エレシュキガルが叫ぶ。


俺の前には10式が居て、奴からの射線しゃせんは通らない。

魔族の女は俺への直接攻撃を諦めて、防御を選ぶ。


上空の5機のアパッチから、30mmチェーンガンの一斉射撃がエレシュキガルを襲う。

ヘルファイア・ミサイルは最低射程距離を割っている為、発射できない。


奴は5門の機関砲からの攻撃になんとか耐えた。 

最大強度で魔法を発動したのだろう。 機関砲弾の連射を受け、女魔族の展開したシールド表面が強く輝く。 

しかしエレシュキガルは、砲弾の雨の中、動けない。


そこまでだ。


照準を終えた5両の10式戦車から発射されたAPFSDS弾がエレシュキガルをおそう。

チェーンガンに耐えるのに精一杯だった魔法シールドは、5門の主砲から発射された弾頭の直撃に耐えられる訳もなく一瞬で崩壊ほうかい

身体は原形を失って霧散むさんした。


ずいぶん呆気あっけない最後だ。 中級以上の魔族のはずなんだがな、と俺は思った。


太陽がそろそろ昇る時刻だ。 

青い竜の姿のシルフィードが明るくなってきた東の空を背景に、俺のそばに降下してきた。

逆光のせいで黒い大きな影が降りてくるように見える。


「ツカサ!」 彼女は地上に降りると同時に少女の姿に変身する。

俺が買ってやった伸縮自在の小さな魔法のプレートが、服の形になって展開し彼女の裸身らしんおおう。


走り寄って来た彼女は、そのままの勢いで俺に抱きついて来た。

「良かったわ。 無茶するんだから!」


俺はシルフィードを抱いたまま話す。 彼女が離してくれない。

薄い素材の服の向こうに、スタイルの良いシルフィードの身体の線をじかに感じる。

「無茶でも無い。 特に危険らしい危険は無かった。 エストラは思ったより気さくな奴だったぞ」


「気さくな…奴って言うより女よね。 あんたの場合。 絶対そう」


俺は彼女からなんとか身体を離し、ふと考える。 ドラゴンって嗅覚きゅうかくが鋭かったりするんだろうか? そうではないことを祈る。 俺の身体からエストラの匂いがしたりすると色々まずい。


「女と言えばエレシュキガルは待ち伏せしてなかったの?」


「いや。 もう始末した。 奴は、死んだ。 もう身体も消え失せたが」


「魔族を? だってあいつ本気出せば中級なんでしょ? さっき会話してから時間ほとんどってないし、いくらツカサでも、こんな短時間で無理…」


俺はさっきまでエレシュキガルが居た場所を示した。 砲撃の後が地面に残っている。

シルフィードは周囲の異変にやっと気がつく。

5機のアパッチと5両の10式。


「何であんたの使い魔、こんなに多いの?」 彼女は驚いて声をあげた。


俺は一機だけアパッチを残し、残りを送還した。 シルフィードと一緒に本部まで戻る。

道すがらシルフィードに、体験した出来事を話しながら飛んだ。


「700年前に戻って、エストラから能力を引き継いだ…って事か。 それこそお伽話とぎばなしの中みたいな話だけど、魔族を一瞬でほふった証拠を見せられちゃうと、信じるしか無い…か」


「ツカサが強くなって嬉しい気持ちと、なんか、置いてきぼりにされて寂しいというか。 もう歴史上の英雄クラスの能力持ちだよね。 私じゃ相手にならないかも」


がらにもなく、しみじみと話すシルフィードに俺は苦笑した。


「そんな大層たいそうなもんじゃない。 ドラゴンにそう言われると結構(こた)える。 俺は俺だ。 シルフィードには感謝しているし、当てにしている。 これからも助けて欲しい」


「も、勿論もちろん。 もち の ろんよ。 そ、そうよ。 まだまだ一人じゃ放っておけないし」


コリントスの街が見え始める。 もうすぐ本部だ。


ヘリを降ろし、シルフィードと一緒に市門をくぐる。

ヘリの爆音ばくおんが聞こえたのだろう。 ユマが駆けつけて来て、俺に抱きつく。


「お帰りなさい!」


腕をはなしてくれず、ピタッと俺の横で身体を寄せ一緒に歩くユマと、気のせいか面白く無さそうなシルフィードと一緒に本部の建物に戻った。

俺には客が来ている。 そのことをユマから聞いていた。 


一服入れたいが、そうもいかないようだ。 アネットとリンダは頼んでいた仕事で外出中だ。

客間に行くと男が待っていた。


「ツカサ フユトミか? 帝国師団長のカイ・クレーマンから言われてここに来た。 俺は帝国軍 特殊剣士隊とくしゅけんしたい所属のアーレント・フローレクだ」


上等で薄めの革鎧かわよろいを着ている。 目つきが鋭く、中くらいの長さの黒髪、せ気味で長身な男だ。

腰には精緻せいちな模様が着いたさやをつけ、上からのぞいている剣のつばと握り部分は禍々(まがまが)しい黒だ。


俺が男に受けた印象は、”サムライ”だ。 もちろんここは、中世の西洋スタイルの世界なんだが、何故かそう思った。


「俺は魔剣まけん使いだ。 近接戦闘でのり合いは、任せてもらっていい。 どんな敵でもな」


「帝国からの増援だな? 良く来てくれた。 冬富ふゆとみつかさだ」 俺は握手をしようと手を差し出す。


「他人の手は握らない」


握手を拒絶きょぜつされ、俺はしょうがなく、出した手を引っ込めた。 クセのある人物のようだ。 能力はありそうな感じだが。


シルフィードがたまりかねたように割り込んだ。

「あんた、失礼でしょ。 特殊剣士隊は野蛮人の集まりだってのは本当のようね」


フローレクは面白そうにシルフィードを見た。

「野蛮人の集まり? ああ。それで合っている。 青竜のシルフィードは役立たずって噂と同じくらい真実だ」


「何ですって!!」


俺は慌てて止めに入る。 仲間同士だろう!

「フローレク、口が過ぎるぞ。 彼女は大事な俺の戦力だ。 

シルフィードも気にするな」


それでも、フローレクは言い足りないらしく、シルフィードをにらむと皮肉をく。 

「シルフィードさんよ。 あんたが仕事をちゃんとしていたのなら、俺はここに呼ばれなかっただろう。 それを忘れるな」


「フローレク! いい加減にしろ!!」 俺は声を荒げた。


シルフィードは唇をみ、押し黙った。


リナとヨトは、フローレクがこの街に泊まるための宿を探してくれる。

俺は、フローレクと少し話し、奴の能力を把握した後で宿に送り出した。


フローレクは、師団長のクレーマンからの紹介状を持参していた。

それによるとエリート揃いの特殊剣士隊の中でも、能力的にトップクラスとのことだ。 

クレーマンは頑張って、俺のために優秀な剣士を引っ張ってきてくれた。 それは感謝するが、扱いにくさもトップクラスだ。


いつもだったら、大声でアーレント・フローレクの悪口を言ってそうなシルフィードが、今回は静かだ。

俺は気になって、シルフィードに声をかけようとした。


ユマが慌てて部屋に入ってくる。


「ユリオプスの街からの使者です。 魔族まぞく二人がひきいるヘルド軍の急襲を受けています。 ツカサにすぐ会いたいと」


俺はユリオプス領主のハマンこうの綺麗な長髪と切れ長の目を思い出す。 俺の提示した、領主の街を防衛する代わりに、支配下に入れという要求を断っている女性だ。


ハマン侯からの使者は、部屋に転がり込むように入るとメッセージを読み上げる。


「フユトミ殿。 私は、ユリオプス領主マイヤ・ド・ハマン侯爵こうしゃくより送られた使者です。

ハマン侯より至急のメッセージをお伝えします。 


”極めて強力な二匹の魔族にひきいられた軍勢の急襲を受け、我が街ユリオプスの守備隊は壊滅かいめつした。 至急援軍を請う。 貴殿の提示された条件は全て飲む。 我々を助けて欲しい。 お願いだ” 以上です。 こちらが侯爵自筆の書簡しょかんです」


助けを頼むのが遅すぎる。 壊滅かいめつしてから援軍もらってどうするんだ?

俺はにがい気持ちで使者からのメッセージを聞いた。


現在の俺の最優先事項は、ヘルドの核攻撃阻止だ。 

援軍えんぐん要請ようせいは無視すべきか。


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