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死者からの手紙

今日も客が来る。帝国の師団長しだんちょうだ。

皇帝は俺に対して5万の兵を提供する約束をしたが、その際に帝国兵の取りまとめを行う役が今日来るカイ・クレーマンだ。


今回俺は、2万の帝国兵のエフェソスの街への駐留ちゅうりゅう要請ようせいした。

クレーマンは、帝国駐留軍の指揮官を兼ねることとなる。

その為、挨拶あいさつに来たのだ。


彼は俺の部下ではなく、同盟を結んだ帝国の代表者という位置づけになる。

作戦に関する全体の指揮権は俺が保持しているが。


クレーマンは理知的な顔立ちで振る舞いも洗練されている、いかにもエリートらしい雰囲気だ。

実際、皇帝直属の第10師団をたばねているのだから、能力的にもりすぐりの軍人だろう。

よろいたぐいは身につけておらず、軍服を着ている。剣もびていない。


一応断っておくが、とりあえず今回の相手は男だ。 女性陣に冷やかされないで済む。


同席するのはユマと、同じ帝国軍人であるシルフィード。


「ツカサ フユトミ殿ですね。私は皇帝直属部隊 第10師団所属 師団長カイ・クレーマンと申します」

クレーマンは、軍人らしからぬ柔らかい態度で挨拶をする。


「ユマ殿、初めまして。 おうわさには聞いておりましたが、ここまでとのお美しさとは」 彼は優雅ゆうが挨拶あいさつをし、ユマは顔を赤らめる。

よくない傾向だ。 こいつは俺より女性をあつかうスキルが高い。 ロドルフより強敵だ。


彼はシルフィードにも軽く挨拶をし、彼女も会釈えしゃくを返す。

既にお互いを知っているのだろう。


「まずは、エフェソスの奪還だっかんおめでとうございます。 皇帝もお喜びでした」

クレーマンは改めて俺に向き直ると、祝いの言葉を述べた。


「ありがとう。 ただ、いくつか意見を聞きたいことがある」


俺は、新たに現れた魔族まぞくの女”エレシュキガル”について説明をして意見を求めた。

皇帝直属の師団長なら俺の知らない情報を多くもっているだろう。俺はそこに期待した。


厄介やっかいですな。 魔族は今まで組織だっておらずバラバラに攻撃して来ました。 ヘルド国が魔族を組織だって運用しているなら重大な脅威きょういです」

彼は顔をしかめた。


「我が帝国も魔族と戦った事は何回かあります。 個体によって能力にかなり差があるので、一概には言えないのですが、正直に言ってかなりの強敵です。 最近ですと30年近く前に戦いましたか」


「帝国の属州ぞくしゅう、アデルスにおける防衛戦において、1体の中級魔族が出現。迎撃には一個師団と3体のドラゴンを必要としました。辛くも勝利はしたものの、2体のドラゴンを失い、師団はほぼ壊滅状態でした。帝国は勝利と伝えておりますが、私には勝利とはとても思えません。せいぜい引き分けだったと考えます」


シルフィードが驚いて言う。


「嘘よ。私はアデルスの戦いは大勝利だったって、一体のドラゴンは軽い傷を負ったけど、大勝利だったって聞いた…」


クレーマンは首を振った。


「軍は、都合の悪い情報は隠します。シルフィード殿でしたら、やり口はご存知のはずです」


俺は驚いた。 魔族の強さもそうだが、俺にそんな情報―実際はアデルスの戦いで帝国は負けそうだった―をペラペラ伝えて良いのか?


「皇帝から、フユトミ殿を可能な限り助けてやれと命令を受けております。 この情報は”可能な限り”の範疇はんちゅうに含まれていると判断致しました」


彼はにっこり笑う。

「魔族が戦線に出てきたのなら、フユトミ殿には勝っていただかなくては困るのです」


「今回出てきた敵の”エレシュキガル”だが、どの程度の強さだか分かるだろうか? 本気を出しているようには見えなかった」俺は気になっていた点を尋ねた。


「”エレシュキガル”という名前は聞いた事がありません。 しかし、ヘルド王のお気に入りだとするなら中級以上かも知れません。 油断するべきではないでしょう」


シルフィードが言う。


「もし、私の手に負えないような敵だったら、弟のイフリートを呼ぶわ。 皇帝に直訴じきそする」


俺は意外だった。 シルフィードが人の手を借りるような提案を自分からするとは。

いや。 それだけ事態が深刻であることを認識したのだろう。 彼女も軍人なのだ。


その後、俺は兵の配置などをクレーマンと相談し、本部のあるコリントスの街にも3,000ほどの帝国兵を配置する事にした。 魔族が相手となると、帝国との国境近くにあるこの街にも、防衛力の強化は必要だ。



加えて敵の召喚能力について彼に説明した。

T72戦車だの、ハインド攻撃ヘリだの、最近、敵は兵器の召喚を多用している。

何か情報はないかと聞いてみるが、こちらについては大した収穫しゅうかくは無かった。


クレーマンは言う。

「我々はフユトミ殿の能力を知った時に、色々、極秘裏ごくひりに調査させて頂きました。 未知の強力な戦闘能力に関心を持つのは、帝国軍として当然です。 そこら辺はご理解いただけると思います」


そうだな。 俺はうなずいた。


「異世界の兵器を召喚する能力に関し、公式の記録はありませんでした」


しかし、と彼は続けた。

「大昔の伝説やお伽話の中に、強大な力を持つ魔物を召喚し敵を滅ぼす英雄達の話があります。 例えば、英雄エストラとか。 伝説ですから話は大げさで荒唐無稽こうとうむけいですが、私は思うのです。 もしかしたら過去に現れた英雄は、フユトミ殿と同じような召喚者ではないかと。 実際、伝説の記述きじゅつにフユトミ殿の使う兵器と似通った点があります」


詳細に調べれば何か分かるかもしれない、とクレーマンは言う。

彼は調査を約束して、その日は部隊に戻っていった。


リナに昼食の用意は不要と断り、会議で一緒だったユマとシルフィードを連れて外に食事をしにいく。

俺も彼女らも、昼時くらいは気分転換が必要だ。

最近は俺達の顔も有名になり、外での食事もしにくくなった。 馴染なじみの店で、奥まった席に案内してもらう。


食事が終わり本部の建物に戻ると、リンダが血相けっそうを変えて俺のところに来る。


何処どこいってたのよ!」


「いや、食事だが」


リンダは忙しそうだったので昼飯に誘わなかったのだが、まずかったろうか?

怒るほどのもんじゃないと思うんだが。


「ほら! これ。ヘイム男爵だんしゃくから手紙よ。 死者からの手紙って訳ね。 全く冗談じゃないわ」


リンダは一通の書簡しょかんを俺に渡す。 ロウで封印ふういんしてあり差し出し人を見ると、確かにアルノ・ド・ヘイム男爵とある。


「男爵は確かに死んでるわ。 見つかった死体は身代わりとかじゃなかった」 リンダが受け合う。


何かの罠だろうか。それとも書簡を俺に送ってから、すぐに死んだのだろうか?


俺は注意深く封印を解き、中身を取り出す。特に不審ふしんなところは無い。

俺はユマに手紙を手渡した。俺にはこの世界の文字は読めない。読んでもらうしか無い。


ユマはしばらく真剣に読んでいたが、さっと顔が青ざめる。

「ツカサ。 大事な内容です。 間違いがあるといけないので、そのまま読みます」


「ツカサ フユトミ。 お久しぶりです。

この手紙を、あなたが読んでいるということは、私は死んでいるという事になります。 

信頼出来る人間に、私が死ぬような事があったら、この手紙をフユトミに送ってくれと頼んでおいたのです。


まあ、ユマさんの殺害未遂さつがいみすいの犯人である私が死んだので、あなたにとっては、めでたい話です。

喜んでいるとは思いますが、残念ながらそれはまだちょっと早い。 


…いや、失礼。皮肉はやめましょう。あなたに大事なお願いがあります。

とりあえず私に何があったのか、最初からお話しましょう。


デステール公爵こうしゃくに裏切られ、あなたに引き渡されそうになった私は逃亡しました。

逃亡の理由は簡単です。ユマさんの殺害の計画をした私を、あなたが許すはずもなく殺されると思ったからです。私はデステール公に比べれば、小物ですし、生かしておく必要性も無かったでしょうから。


私の逃亡先はヘルド国です。 そう。私は王国を裏切ってヘルドに助けを求めたのです。

私にとっては、最も安全なところと思われましたので。


そこで、私はあなたを殺害をする為の手段を探しました。

私にとって最大の脅威はあなたです。 あなたを殺さない限り、私はずっとヘルドに居なくてはいけません。

私の日常を奪った、あなたに対する復讐の意味もあったかも知れませんね。


私は手始めに、あなたの能力について詳細に調べました。

いくつか、手がかりはありました。実は私も召喚者なんですよ。知らなかったでしょう?

だから、あなたの能力の事は、他の人間より知っているつもりです。

勿論、私は異世界からの転移者ではないし、ごく普通の召喚士です。大した魔物も呼べませんし。


…少し脱線しました。

記録を調べて分かった事は、異世界からの召喚者は過去に何名かいたのです。

あるものは、悪を滅ぼした英雄とあがめられ、あるものは欲望のままに生きた大悪人として歴史に名を残しています。

例えば、救世の英雄エストラ。例えば人々を恐怖のどん底におとしいれたれたヘルド王、キメリウス。


そう。ヘルド王、キメリウスは、あなたと同じ転移者です。

しかし、ヘルド王の転移者は、あなたと違って人間の身体に転移したのでは無く、魔族の身体に転移してしまいました。


元々ロクでもない男だったのでしょうが、魔族の身体に転移したことで不死の生命を、さらなる残虐ざんぎゃぐな性格となったヘルド王は、欲望のままに世界を思い通りにしようとしました。


ヘルド王は召喚能力も使えます。あなたの力と違って神が与えた能力ではありませんが。

あなたを異世界に転移した神、デウス・エクス・マキナに対抗する不浄ふじょうの存在から得た力です。


ヘルド王の召喚能力は世の秩序を無視した力で、それだけに強力です。

最終的には、あなたがたの世界の最も恐ろしい兵器”かくみさいる”と言うものを召喚しようとしました。


しかし、ヘルド王の前に立ちふさがったのが、さっき書いた英雄エストラです。

彼はあなたと同じ、デウス・エクス・マキナに祝福された異世界からの転移者で召喚士でした。


英雄エストラはヘルド王と激闘げきとうの末、王の召喚能力を封じ込めることに成功しました。

その戦いでエストラは命を落としましたから、勝ちとは言えないかも知れません。

ヘルド王は召喚応力は失いましたが生き残りましたから。


前書きが長くなりました。


本題に入ります。


私はヘルド王の召喚能力を復活する手段を発見したのです。

そして愚かなことに、それを王に教えてしまいました。

自分の立場を有利にする為に、王に取り行ったわけです。


言い訳を許してもらえるなら、まさか世界を滅ぼす兵器が本当に存在するとは思わなかったのです。

ヘルド王は、”かくみさいる”を召喚して人間を滅ぼそうとしています」


…核ミサイルだって? 最悪だ。言いようもなく最悪だ。


ユマは続けて、死者からの手紙を読み続ける。


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