黒竜戦、再び
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ハインド攻撃ヘリを無力化した俺は、残りの敵を確認する。
ひとつ目はシルフィードと交戦中の黒竜。
ふたつ目は敵戦車の集団だ。領主の兵たちを機関銃で蹴散らしているT-72戦車が5両見える。
シルフィードが黒竜の雷撃を受け、地面に叩きつけられた。
何両かの敵戦車が、主砲をシルフィードに向けている。
「殺らせない!」 俺はヘルファイア・ミサイルを戦車に向かって撃った。
同時にコクピット内に警報が鳴り響く。敵戦車からレーザー照射を受けている。
レーザーはミサイルの照準用だ。次に来るのは、誘導型のレフレークス・ミサイルだろう。
レーザーを目標に照射し、その反射光でミサイルが誘導される仕組みだ。
俺は、回避行動に移る。
俺の撃ったヘルファイア・ミサイルは敵戦車に着弾し、戦車の1両が沈黙する。
しかしコクピット内の警報は鳴り止まない。
残りの戦車がアパッチを落とそうと、レーザー照射を続けている。
レーザーがうるさくて、ヘルファイア・ミサイルの発射態勢がとれない。
『10式。来い!』
地上に光が集まり、日本国自衛隊の主力戦車が実体化する。
『参上しました♪』と10式戦車。
『T-72戦車を潰せ』 俺は命令した。 『遠慮しなくていい』
『了解です♪』
10式は、敵の照準を避けるため高速で移動を開始する。
同時に新型の44口径120mm滑腔砲での砲撃。APFSDS弾が敵の正面装甲に着弾する。
弾頭は旧式の複合装甲を簡単に貫くと、破片を撒き散らかし膨れ上がる火の玉が内部構造を焼いた。
敵戦車は10式に任せて良さそうだ。
第四世代型の10式の相手をするには、第二世代型のT-72ではそもそも役不足だ。
敵戦車は襲い掛かってくる10式の相手に夢中で、俺へのレーザー照射は無くなった。
シルフィードを助けるため、俺はドラゴン同士の闘いに割り込む。
◆
シルフィード達とアパッチの間は、まだ距離が2kmほどある。
シルフィードは、いくつかT-72戦車の主砲攻撃を受けてしまっていた。
後ろ足の付け根周辺が負傷し、血が止まっていない。
今は空を飛んでいるが、羽ばたきが遅く、どこかぎこちない。
黒竜も空中を飛んでいる。
身体の表面は傷ついている。しかし、シルフィードよりダメージは少なそうだ。飛び方にも変化は無い。
黒竜がシルフィードに飛びかかろうとする。
俺は黒竜に狙いを定めるとM230 30mmチェーンガンを発射。
30ミリ機関砲弾が黒竜の体表で爆ぜる。
しかし、竜の体表に黒色のモヤのようなものが湧き出し、ダメージを防いでいる。
お得意の魔法防御のシールドだろう。
黒竜は、うるさそうにこちらを見る。
『フユトミ。邪魔は止めろ。貴様にはうんざりだ』
『ハインドは無力化した。T-72戦車も風前の灯だ。
あきらめろ。お前の負けだ』
『そうかな? 全力を出していると思うなよ。 シルフィードは殺したくないからな。手を抜いていただけだ』
シルフィードが怒りに震える。
『手を抜いていたですって! 侮辱するのもいい加減にして!!』
黒竜は雷撃をシルフィードに放つ。
弱っていたシルフィードは抵抗出来ず、直撃を受け高度を下げる。
それ以上、黒竜は彼女の相手をせず俺の方を憎しみに満ちた目つきで振り返る。
『お前は死ね。フユトミ』と言うと、カッと口を開けブレスを放った。
冗談だろ。2kmも離れてるんだぞ。
真っ黒なブレスがビームのように連なり、俺のアパッチに向かって放出される。
俺は機を急降下させ、どうにかやり過ごす。
黒竜は、こちらに向かって飛び始めた。
距離を詰められると、まずい。あのブレスを避けられなくなる。
俺は必死にヘルファイア・ミサイルをロックすると黒竜に発射した。
だが空中機動をしている黒竜に対して、このミサイルの追尾能力は限定的だ。
黒竜は羽ばたき、ヘルファイア・ミサイルを軽々とよける。
ミサイルは目標を見失い、何もない空に向かって飛び去る。
『司令官。危ないです』
地上の10式戦車が重機関銃M2を発射。12.7mm銃弾を黒竜の身体に撒き散らす。
連射された銃弾は、竜の表面を叩いただけに終わった。
黒竜の魔法シールドは、ヘルファイア・ミサイルを叩きこまないと突破できないだろう。
10式戦車の主砲は高威力だが、対空目標は狙いづらい。
黒竜は数百メートル手前まで飛んで来る。
『死ぬ準備はいいか?』
黒竜はブレスを吐くために首を上げ息を吸い込む。
俺は死を覚悟しつつも、ハイドラ70 ロケット弾を連射した。
◆
無誘導で直線にしか飛ばないロケット弾では、牽制の役にしか立たない。
黒竜はロケット弾を避けると「往生際が悪いやつだな。そんなに死ぬのが怖いか」と俺をあざ笑う。
ああ怖いね。今、俺が死ねばユマもアネットも生き残れない。
その時、空間がキンと鳴る。
白い光の球面が地上から周囲に、空中に向かって広がっていく。
この光は見たことがある。
「ツカサ。これはユマの“絶対魔法防御”。やっぱり生きてたんだ! 良かった!!」と後席のアネット。
絶対魔法防御。
全ての魔法を無効化する結界を発生させる。
王家の血筋を持つ者のみが使用可能な上位魔法だ。
結界は広がり、黒竜の魔法は封じ込まれる。
黒竜の表面を覆う、魔法のシールドも無効化された筈だ。
「そんなに長く絶対魔法防御の効果は続かない。ドラゴンの魔力は膨大よ。すぐ打ち消される。早く急いで!」アネットが叫ぶ。
ユマが生きていた!
地上のユマを見つけて確認したい衝動を俺は必死に抑えこみ、黒竜に向かう。
チャンスがあるとしたら今、この瞬間だけなのだ。
俺は、30mmチェーンガンを黒竜に叩き込む。
ユマの魔法のお蔭で、黒竜の身体の表面を覆うシールドはキャンセルされている。
威力を弱められていない30mm機関砲弾は、本来の破壊力で黒竜を襲う。
『どうしたんだ。何が起こった?』黒竜は呻く
俺はチェーンガンの連射を止めない。
砲弾は黒竜の羽を裂き、皮を貫き、肉をえぐり、竜の肉体の中で爆発する。
『絶対魔法防御だな。そうなんだな』苦しいのだろう。黒竜は喘ぐ。
黒竜は魔法の発生元である墜落したハインドを眺める。
ユマがハインドの側にいる。いる筈だ。
また、空間がキンと音をたてた。
アネットが「ツカサ。絶対魔法防御が打ち消されたわ」と伝えてくる。
ドラゴンの表面を黒いもやが再び覆い、黒竜のを守る魔法シールドが復活してきた。
『…あの女、ユマか。殺す。…殺してやる』
黒竜はハインドに向けブレスを吐こうとする。
黒竜よ。もう遅い。
俺はヘルファイア・ミサイルを2発、発射した。
チェーンガンにずたずたにされた黒竜に、ミサイルを避ける力は残っていない。
当たりさえすれば、対戦車ヘルファイア・ミサイルは魔法防御ごと力ずくで突き抜ける。
ミサイルは貫通し、竜の内蔵をえぐり、成形炸薬弾は身体の中で爆発した。
『シルフィード…あ、愛してい…助け……』黒竜は息絶える前に呟いた。




