表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/47

救出

さらわれたユマはエフェソスの街の何処どこかにらえられている筈だ。

街中まちなかへ攻めこむ為には、兵士達が必要になる。


敵味方をまとめて破壊して良いなら、俺の兵器のほうが効率が良い。

しかし街中を占拠しているヘルド兵をはいし、ユマを含めた住民を開放するには、地上軍が必要になる。


領主りょうしゅが言うには兵たちが準備を整え、エフェソスの街まで進軍出来るのは急いでも丸一日はかかるそうだ。


俺は待つ間に出来ることをした。


リンダ経由で盗賊ギルドから情報をもらう。

俺達が持っている金は全部出しても良い。買える情報は全部買う。

占領せんりょうされたエフェソスの街にも、ギルドの息のかかったヘルド兵や人間が潜入しているそうだ。

大金を見せれば、多少の情報は入手出来るかもしれない。


ギルドから買えた情報は、現在の敵のおおよその戦力や兵士達の配置。

軍の本部を置いている建物。市民たちを集めている建物などだった。

領主の持っている情報と合わせて作戦を修正する。


ユマのいそうな場所の目星めぼしも付けたかったのだが、昨日さらわれたばかりですぐ場所が分かるはずもなかった。


「シルフィード。 黒竜はどうでるだろうか?」


シルフィードは答えた。

「ツカサを挑発ちょうはつし、おびき寄せる。ユマの誘拐ゆうかいはこれの一環いっかんね。

自分の竜族としてのプライドを回復する為に、人から見たらいかにも堂々と戦っているように見えるけど、その実自分に有利な状況に招き寄せる。

そしてツカサを無様ぶざまに負かして、それを私に見せたいんじゃないかしら?

その間はユマは無事ぶじだと思う」


彼女は、男の竜の恋愛心理には詳しいようだ。

美人ならぬ美竜?だからな。過去に沢山言い寄られて苦労くろうしたんだろう。


シルフィードの言うことが正しいとすれば、黒竜は街の外でおそってくる筈だ。

竜の姿で俺と戦うには街なかでは不便だし、自分が目立たなくなる。


黒竜に名指しされた俺とシルフィード、それと俺が魔法攻撃から無力であることを心配しているアネットを連れて、エフェソスの街に向かうことにする。

俺達が街の外に布陣ふじんしているヘルド軍を叩き、その後、領主の私兵3000人と街なかに攻め込むつもりだ。


広場に出て、攻撃ヘリを召喚しょうかんした。

いまさら人目を気にする必要は無い。この街の領主にも話は通してある。


シルフィードは竜の姿に変身し一足先に大空に舞い上がる。

俺はアネットを後席に乗せるのを手伝ってやり、俺自身も乗り込むとヘルメットの機内通話を使い呼びかけた。


「調子はどうだ。 初めての機内デートがこんな時ですまん」


「だ、大丈夫。問題ない」恐恐こわごわと窓から外を眺める。


「アテにしている。ではいくぞ」

シルフィードの後を追いヘリは舞い上がった。


領主の私兵3000人が地上を進行しているのを確認。

彼らのいる上空に差しかかる。すると対空モードに設定したロングボウ・レーダーに反応があった。


高速で接近して来る黒竜。

それにもう一つの影。レーダー表示に投影される識別名称は、Mi-24 ハインド攻撃ヘリ。


地上にも5つの光が現れ実体化した。

5両の戦車。旧ソ連の車両だ。T-72か。


「よく来たな。歓迎するぞ。逃げないかと心配していた」黒竜が脳内に直接、話をしてきた。


誰が逃げるか。


「ユマをどこに隠した」


「隠す? 冗談だろう。そこのヘリの中にいる」

黒竜は面白そうに言う。

「お前が無様ぶざまにやられるところを見せてやろうと思ってな」


…敵のハインドにユマが乗っているだと?

ハインドに手を出せない。落とせばユマを殺してしまう。


黒竜は言った。

「シルフィード。お前はそこで、フユトミがくたばるのを見ていろ」


「黒竜“エルス”。あんた、そこまで卑怯者ひきょうものだったの。竜族の面汚つらよごし!」

シルフィードがさけんだ。


卑怯ひきょう? 好きな竜を寝取ねとられたんだ。それ位はやってもいいだろう。当然の権利だ」


寝取ねとられた? 私の事?? あんた何を勘違いして…」


俺はシルフィードに脳内で呼びかけた。

「シルフィード。聞こえるか? 俺が合図するまでそこで見ていてくれ。大丈夫だ」


そして付け加えた。

「俺は負けない」


ユマを乗せたMi-24ハインド戦闘ヘリを改めてよく見る。

イモムシの頭をヘリに移植したような特徴的とくちょうな姿から見ると後期型だろう。


地上には旧ソ連製のT-72戦車が5両。こいつらは地上軍の掃討用か。

…いや。東側の戦車は地上攻撃だけじゃない、対空戦闘も可能だ。


シルフィードは戦えない。黒竜が動くなと言った。

戦えばユマを殺されるかもしれない。


余裕を見せたつもりなのだろう、「いつでもいいぞ。 先手はゆずってやろう」と黒竜は戦闘開始の宣言をする。


竜族はいつでもそうだ。シルフィードも前はそうだった。

自分の状況を有利と過大に評価し、相手を見くびる。


「そうか。それは助かる」


俺は右上方に急上昇した。

そしてMi-24ハインド戦闘ヘリを、アパッチのM230 30mmチェーンガンで攻撃する。


「バカな。お前の女が乗ってるんだぞ!」黒竜は驚いて叫ぶ。


そんな事は分かっている。

30mm機関砲弾(きかんほうだん)着弾ちゃくだんし、ハインドはメインのプロペラを軸にして、機体を水平にくるくるコマのように回しながら落ちていく。


俺が狙ったのは、ハインドの後部にある小さなプロペラであるテールローターだ。

テールローターは、機体の回転を防ぐために存在している。

失えば機体はコントロールを失い墜落ついらくする。


しかし、墜落中はユマを殺す暇はないだろう。


「シルフィード。敵はユマに手を出せない。黒竜を攻撃するんだ」


「わ、わかったわ」


俺は落ちていくハインドを見る。

ハインドはエンジンを切り、機体がそれ以上回転しないようにした。

そしてプロペラを空転させるオートローテションと呼ばれる不時着ふじちゃくの体勢にはいったようだ。


「よかった。不時着ふじちゃくできそうだ」俺は胸をなでおろす。


ハインドのパイロットは腕が良かった。

ユマの命を救うために俺はそれに賭けていた。俺が死んだらユマも、なぶられて殺される。

全員助かるにはリスクを取るしか無い。


シルフィードと黒竜は戦っている。

「この卑怯者め。恥知らず」

シルフィードは真空のやいばを含むドラゴン・ブレスを黒竜めがけて吐き出す。

魔法のブレスは黒竜の防御を突き抜け身体を切りく。


シルフィードが優勢ゆうせいだ。

「悪い。もう少し頑張ってくれ。すぐ助けに行く」


俺は落ちていくハインド攻撃ヘリに目を戻す。

地上に生えている木を潰しながら、森の中に不時着ふじちゃくし機体をかたむけ停止する。


落下地点にアパッチの機首きしゅを向けた。


ズームを使ってハインドを見る。動いているのは一人。パイロットか。

コックピットから出ようとしている。ユマを殺すかもしれない。


俺はアパッチにコントロールを渡し、空中停止ホバリングさせる。

ユマとパイロットの距離が近すぎて、威力の大きいチェーンガンは使えない。


アパッチのコクピットを跳ね上げると、スコープ付きのMINIMI機関銃を召喚した。

アサルトライフルである89式5.56mm小銃よりも、スコープ付きのMINIMI機関銃の方が有効射程は長い。自衛隊の装備の不思議なところだ。

MINIMIで殺してやる。


ヘリから出てきたパイロットを射撃した。

連射された5.56mm銃弾が敵を貫く。

できれば天国へ行け。あんた操縦の腕は良かったぜ。


ズームでハインドを良く見ても、ユマを見つけられない。奥の輸送用のスペースにいるのかも知れない。

アパッチを着陸させてすぐにでも助けたかったが、残したシルフィードとT-72戦車にさらされている地上軍が気になる。


ユマすまない。何とか自力で脱出してくれ。


「アネット、ユマは見つからない。シルフィードと地上軍を助けに戻るぞ」


同乗どうじょうのアネットに声をかけ、俺は後ろ髪を引かれる思いで、シルフィードと黒竜のいる場所に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ