反攻作戦
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翌日より、俺はヘルド軍の物資輸送の拠点であるザルメスク攻撃の準備にとりかかる。
仲間達には早速割り振った仕事をやってもらう事にした。
基本的にリンダは盗賊ギルド経由での情報収集、及びこちらの戦果とか都合の良い情報を拡散する役だ。
彼女には軍資金の一部を渡し、盗賊ギルドを使って本部の警備を強化してもらった。
ユマの事も心配だし、俺への恨みのとばっちりが仲間に及ぶのも不安だからだ。
シルフィードは当然ながら、戦略級ドラゴンとして実戦部隊だ。
ユマとアネットには王国内での各勢力との交渉・調整をやってもらう。
リンダとシルフィードはすぐに忙しくなるだろうが、ユマとアネットはしばらく暇だろう。
なんせ俺は無名だから、味方になりたいと頼んでくる王国内の勢力なんてまだいない筈なのだ。
ユマの件で脅かしたデステール公爵、お仲間のベルテート公爵あたりは俺の事を良く知っているだろうが、こっちから頼んで味方につけようとは思わない。
こんな事ならヘルドのドラゴン落とした時にでも、もっと宣伝しておきゃ良かった、と後悔するが後の祭りだ。
しかし帝国が俺の味方になったことで、戦果さえあげれば味方は集めやすくなっている。
帝国の軍5万に加え、数万でも王国内の勢力を集めれば、各街の奪回が容易になる。
ザルメスク急襲は明日行うことに決めた。
作戦がうまくいけば、続いてヘルドの首都タリスへそのまま侵攻するつもりだ。
シルフィードと作戦の最終確認をしていると、アネットが横に来て一緒に話を聞いている。やはり彼女は暇なようだ。
打ち合わせが一段落したタイミングで、アネットは俺に話しかけてきた。
「私、あんたのヘリにまだ乗ったこと無い」
そう言えば、理由はあるとは言えユマばっかりヘリ乗せてたな。
アネットは魔法攻撃のスペシャリストな訳だから、ヘリに慣れておいてもらった方が良いのかと考えていると追い打ちでもう一言。
「王はやっぱり臣下を平等に扱うべき。
それに最近私に冷たくない?食事もつきあってくれなかったし」
アネットって俺の臣下なのか、という疑問が湧いたがそれは置いておいて。
冷たくしてるつもりはないし、食事もつきあうよ。
でも今回だけはやはりちょっと危険かも知れないし、俺とシルフィードで行く。
そう伝えた結果として、アネットの文句の嵐とシルフィードのジト目に、俺はなんとか耐えきった。
彼女は今まで口はともかく、実際の行動では控えめな印象があったのだが、そうでもなくなってきたようだ。
◆
翌日は早朝から、ドラゴン本来の姿のシルフィードと一緒に飛び立った。
太陽が出ている明るい間に飛ぶ理由は、示威目的だ。
俺達の力をヘルド軍と王国内の勢力の目に焼き付けるのだ。
俺のヘリも目立つだろうが、シルフィードは帝国の竜として有名だろう。
帝国が俺に味方をして、介入して来たことを印象づけるのに丁度良い。
ザルメスクに向かう途中、ヘルドの占領地区の上空を、堂々と目立つように飛ぶつもりだ。
ヘルドは残り1匹の戦略級ドラゴンをまだ持っているが、俺とシルフィードが一緒に飛んでいれば出て来れまいという読みもある。
1つ目の中間地点であるテルモピュルエの上空に差し掛かる。
ヘルドに占領された街だ。
ドラゴンと一緒に飛んでいると、恐れをなしてかワイバーンの迎撃も飛んで来ない。
俺は街の外に目を向け、目的のものを探した。
見つけた。
地竜だ。反乱勢力側の切り札。
体長が数十メートルはあるトカゲに似た竜の一種。
こいつは飛べない。だから地竜と呼ばれる。
俺は心の中で、シルフィードに呼びかけた。
『地竜を狩る。見ててくれ』
『分かった。お手並み拝見』シルフィードが答える。
俺は、FCS(火器管制装置)でAGM-114Lロングボウ・ヘルファイアを選択する。
このL型のヘルファイアはAH-64D(アパッチ・ロングボウ攻撃ヘリ)専用で、ミリメートル波を使用した機体のロングボウ火器官制レーダーと連動して動作する。
射程は9kmの対戦車ミサイルだ。
地竜まで1kmも無い。
照準を敵にロックオンした俺は、ヘルファイア・ミサイルを二発発射する。
地竜の防御能力は達戦略級ドラゴンのそれとは比較にならず、魔法防御も大したことは無い。
ヘルドの竜の魔法防御さえ突破した、ヘルファイア・ミサイルの前には無力だ。
直撃を受けた竜は、皮膚を貫通し内部で爆発したミサイルにより一瞬で肉塊となる。
地竜の周りにいたヘルド軍の兵士達が騒ぎ始めている。
地竜と行動を共にする兵隊達だろう。
俺は武装をハイドラ70ロケット弾に切り替え、M255ロケットを4発撃った。
4発の弾頭が内蔵する10,000発のダーツ状のフレシェット弾頭が撒き散らされ、モンスターの兵士達に突き刺さった。
地竜と一緒にいた兵達は、これで全滅だろう。
シルフィードは俺のことをライバル視しているようで、AGM-114Lヘルファイア・ミサイルに興味が有るようだ。
『その地竜を倒した武器、前にヘルドのドラゴン“エキドナ”に使った奴よね?』
そうだ、と答えると、シルフィードは地竜の残骸をじっと眺め、何かブツブツ呟いている。
『…やっぱ直撃食らうとマズイよね。空中での機動性を活かして戦うしかないか。
空中に出れば出たで、雑魚とは言え、あの87式って名前の地竜は脅威だわ』
どうも彼女は脳内の考えを垂れ流しにしてしまうクセがあるようだ。
そんなに俺と戦いたいのだろうか?
こちらの戦力を誇示する為に、街の周辺をシルフィードと一緒に目立つように飛んだ。
俺はヘリのズーム機能を使い街の広場や通りを観察する。
占領された街は酷い有様だ。奴隷として扱われているのだろうか、住人らしい男と女の一団が裸で縄で自由を奪われモンスター達に連れ回されている。
防衛戦で損害を受けたのだろう、建物の被害も大きそうだ。
俺達の接近を見ると、奴隷たちを引き連れてモンスター兵たちは建物の中に逃げ込んだ。
もうしばらくの辛抱だから、耐えてくれよ。何とか生き残ってくれ。
住民が入り混じり、敵の隠れる所も多い街の中では、俺の兵器も戦略級ドラゴンの破壊力も使えない。皆殺しにしてしまう。
地上軍を投入する為に、出来るだけ早く味方を集めないと。
さらに西側に進み、二つ目の中間地点であるタレントゥムの街でも地竜を血祭りにあげる。
この街はユマの故郷でもあるし、俺が地球から転移してきた場所だ。
初めてユマと出会った場所でもある。
地竜を倒してから、タレントゥムの上空をシルフィードと共に飛ぶ。
たまらなくなったのか、下からワイバーンが迎撃の為に昇ってくる。
騎兵が乗った小形の竜が5匹。シルフィードに対応をまかせる。
シルフィードの放つ風属性のドラゴンブレスにより、真空部分が入り混じった烈風が竜巻状に渦を巻きながらワイバーン達を襲う。
小形の竜は引き裂かれ、バラバラになって地上に落ちていく。
『どう?』竜にドヤ顔があるとは知らなかった。
乱気流を発生できるシルフィードはヘリにとって脅威だ。
戦いたく無い相手なのを改めて認識し、正直に言う。
「凄い威力だな。君は敵にしたくない」
『…え、いや、それほどでもないわ』
何故、そこでドギマギするのか?
女心と戦略級ドラゴンという、両方とも謎だらけの属性を持つ相手は、俺から目をそらした。
街の広場に目を戻すと、住民の処刑が行われた後のようだ。
兵士達は俺達に気がついたのか、散り散りに逃げ始めている。
人間の男がぼろぼろになって、切り刻まれたのだろう力尽きて倒れている。
死んだ男の娘なのだろう女性が泣き叫び、オーク達に引きずられながら連れ去られようとしている。
何匹かのオーク達をチェーンガンで破壊した。
住民を巻き込まないようにすると、それほど多くの敵は撃てない。
必ず味方の地上軍を連れて戻ってくると心のなかで誓い、俺とシルフィードは街を離れザルメスク急襲の為に目的地へと向かった。
俺達は敵の都市であるザルメスクの街全体の壊滅を狙う。
手加減するつもりは無い。
M270 MLRSを使う時が来たようだ。




