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王国の危機

帝国の竜―シルフィード―との闘いを終え、エフェソスの街に一緒に戻り宿に着く。

戦闘でボロボロになった服の代わりに、ユマが自分のを竜に分けてやった。


シルフィードとは、これでお別れだ。

「勝ち逃げは許さないから」という物騒ぶっそうな言葉を置き土産みやげに、少女の姿のドラゴンは去って行った。帝国へ一旦いったん戻るそうだ。


俺達は帝国との国境沿いの街“コリントス”への旅を急ぐことにする。

取り敢えず危機は去ったとは言え、騒ぎを起こしたこの街にあまり長くとどまるのは得策では無いと判断したからだ。


旅立つ前に、リンダは盗賊ギルドに情報収集を兼ねて顔を出しに行った。


公爵こうしゃくからの金も手に入ったし、旅立ちの前に多少贅沢な食事でもしておくか、とアネット、ユマと話をする。

すると何故かリンダが早めに帰ってくる。

彼女は血相けっそうを変えている。


「ツカサ。 タレントゥムの街が壊滅かいめつした。

それ以外の複数の街も同時に攻撃を受けている。

反乱軍が一斉蜂起いっせいほうきしたみたい」

リンダが報告する。


ユマが声を失う。

タレントゥムはユマの故郷で、俺と会った最初の街だ。この旅の出発点でもある。


「どういう事だ」


「ヘルドと王国の裏切り者達が手を組んだみたいなの。

ヘルドのモンスター達と結託けったくする王国内の勢力が出たみたいよ」


「それは、王への反逆と言うことか?」


「そう。それ以外考えられないし」


俺は思った。

せっかくヘルドの戦略級ドラゴンを一騎倒してやったのに。

王国は好機を生かせなかったどころか、大ポカをやりやがった。


「敵の戦力は?」


「兵員規模は少なくともヘルドと反乱軍の人間達を併せて20万人規模。

ヘルドの送った戦略級ドラゴンを筆頭にワイバーンを含む飛行部隊も出ている。

王国の反乱分子達は、地竜を何匹も繰り出したみたい」


既にいくつもの街で交戦状態よ。リンダは補足した。


ユマは真っ青になって俺に聞く。

「王国は大丈夫でしょうか?」


俺はユマを安心させてやりたかったが、旗色はたいろはかなり悪い。

いやかなりどころじゃない。悪すぎる。


しかし、何で人間がモンスター達と手を結ぶんだ。奴らは人間全体の敵だろう。

ドラゴンを落とされて劣勢になったヘルドは、甘言かんげんで王国内の不満分子を籠絡ろうらくしたのか?

ヘルドは王国を支配した後で、分前わけまえを与えるつもりか。


いずれにしろ、ろくなもんじゃない。


…これは、もう俺の手には負えない。1つの街への侵略なら、まだ手は打てるかもしれない。しかし、複数の街を襲う合計20万人規模の軍隊を相手にするのは無理だ。

しかもドラゴンと地竜がいる。


「残念だが君達の安全が最優先だ。今は逃げるしか無い。

帝国に逃げ延びよう。

歩兵戦闘車を使えば皆で迅速に移動出来る」


戦闘車は目立つが止む終えない。


「逃げるのは嫌です」

ユマは語気荒く、俺に反対した。


だが、直ぐに謝る。

「ごめんなさい。でも聞いてください」


彼女は続けた。

「私のわがままである事は分かってるんです。

静かに暮らしたい、ってツカサにお願いしたの私です。

それをかなえようとしてくれてるって分かってます」


「でも、ごめんなさい。私やっぱり嫌です。

王国のみんなが地獄に落ちるのが分かっているのに、私だけ逃げられません」


この状況で逃げない、という意味が分かって言ってるのか?


「ユマは、王位の第一継承者なんだ。残ると言うことは未来の女王として戦うという意味だぞ。

王国の権力者達は、そう受け取るだろう。相応の責任も引き受けなきゃいけない」


ユマは俺の目を決心したように見た。そして答える。

「もし女王になるしか皆を救う手段が無いというなら、受け入れます」


「静かな生活を送るという夢は、一生不可能になるんだぞ。死ぬかもしれないんだ。

この国は不安定だ。権力者になったっていい目なんて見れない」


「構いません。いい目とか、贅沢な生活なんて興味も無いし」


でも、とユマはうつむいて言う。

「ここで言うのは卑怯ひきょうな事かもしれません。でもツカサ。私と一緒に居てくれませんか? それだけは私の最後の願い」


…否も応もない。

「前から言っていた筈だ。俺は最後までつきあう」



王国をヘルドと裏切り者達から守る事に決めても、困難な状況は全く変わらない。

俺だけでは根本的に無理なのだ。


ドラゴンや地竜を含む、複数の箇所に出現している合計20万人規模の軍隊を、一人で相手をするのは不可能だ。

そして、俺の持つ兵器達は、市街戦や混戦状態では力を発揮できない。

市民を含めて皆、殺してしまう。


敵が街に入る前なら、召喚兵器達で全滅出来るかもしれない。

しかし、味方との混戦状態になったら、相手をするのは多数の歩兵が必要だ。

俺が敵とまとめて味方や市民ごとほうむっていたら、どっちが敵なのか分かったもんじゃない。


帝国に頼るしかないか。俺は考える。

王国の裏切り者達がヘルドのモンスター達と手を結ぶと言うなら、こちらは帝国と結ぶしか無い。


このままでは、王国はヘルド軍に飲み込まれてしまう。

そうなれば、実質上、帝国はヘルドと隣接りんせつすることになるのだ。

高みの見物を決め込んでいた帝国も、そろそろ自分のケツに火がつく。

今回は何らかの形で動くはずだ。


「帝国へ向かおう。急ごう」


だが帝国に逃げ込む訳じゃない。

皇帝とサシで話をして、軍事介入してもらう。


…ただ帝国が、もしその気になったとしても何らかの代償を求められるだろう。

俺に払えるものだと良いんだが。


俺は帝国まで、急ぎ飛んで行く事にした。

ユマも一緒に来てもらう必要がある。

王位の継承者がいれば、帝国の介入が正統性をびる。


「ユマ。ある意味、国を売ることに成る。本当にいいのか?」


外国の軍隊が介入することに正統性を与え、戦いに引きこもうとしているのだ。

帝国がその気になってヘルドを打ち破れたとしても、王国に待ち受けるのは傀儡かいらい政権か属国かの選択だろう。


「構いません。帝国の支配の方が、ヘルドのモンスターに蹂躙じゅうりんされるより遥かにマシです」


下手をすれば反逆者として殺されるんだぞ。

だが俺はそれをユマには言わなかった。

その阻止は俺の仕事だろう。命にかえても。


このエフェソスの街もいつまで安全かは分からない。

リンダとアネットには歩兵戦闘車で脱出してもらう。


街の門から外に出て、街道沿いにしばらく進み、人通りが無くなるところへ出る。


「来い!89式装甲戦闘車、ライトタイガー」


光が凝縮し、装甲戦闘車の形を取り実体化する。


『参上した。用件は何だ?司令官』

前の召喚の時にも聞いた、低めの男の声だ。


「リンダとアネットを乗せて、帝国との国境の街、コリントスへ向かえ。

指揮権はリンダに移譲する。武器使用を含め彼女に従え」


『了解だ』


89式の主武装、90口径35mm機関砲KDEと副武装の79式対舟艇対戦車誘導弾(重MAT)を使えば、敵と遭遇したとしても大概は駆逐出来るだろう。

俺としては最高速度70km/hの足を使って逃げるのを推奨するが。


リンダ、アネットに行けるとこまで歩兵戦闘車で行くよう伝える。

車両が目立って邪魔になったら、送還そうかんして送り返してくれ。


「あんたに言っても無駄かもしれないけど無理しないで。

皇帝にも気をつけて。権力者なんて何考えてるか分からないから」

リンダがつぶやくように言う。


「本当は私も一緒に行きたいんだけど。皇帝との面会とか作法知らないでしょ」

アネットが心配そうに言う。


何とかなるさ、と答え二人を見送ると今度は俺とユマの番だ。

攻撃ヘリを呼び出し、ユマが乗るのを手伝う。

もうユマも慣れてきたようだ。ヘルメットも問題なく装備出来た。


地球の時間で言うと午後5時前位だろうか、まだ夜までは少し時間もある。

俺は空に舞い上がり、帝国へ向かって飛び始めた。


しばらく飛ぶと、美しい青い竜が地上より昇ってくる。

予想通りだ。

相棒の姿を見せつけるように街道沿いを、飛んだのだ。


『どうしたの? 随分早く帝国へ向かうのね?』

青い竜はアパッチ攻撃ヘリに近づいてくると、並んで飛びながら問う。

シルフィードだ。


攻撃ヘリの姿を地上から見た彼女は、我慢出来なくなって飛んできたのだろう。


『もしかして勝負してくれるの?

嬉しい!いつでもいいわよ』

竜は俺の頭の中に直接語りかけてきた。


いや、それはちょっと待ってくれ。

俺は事情を説明し、皇帝への謁見えっけんを取り次いで欲しい旨を彼女に伝える。


シルフィードはちょっとがっかりしたようだが、こう言った。

『なんだあ。じゃあ私に付いて来て。エスコートしてあげる』


俺は地上のゴタゴタを少しの間忘れ、綺麗な竜と美人の同乗者と共にデート飛行を楽しみながら帝国へと飛んだ。


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