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勝負

「ツカサ フユトミ。いざ尋常じんじょうに私と勝負しなさい」

帝国の竜を名乗る少女は言う。


「帝国と戦う理由は俺には無い」

無いどころか帝国と戦ったら俺達は行く所がなくなる。

それでなくとも、ここ王国との関係も怪しくなってきているのだ。


「そっちに無くてもこっちにはあるの。

こんな良い機会を逃すつもりはないわ」

少女は舌なめずりしそうな表情で俺を見た。


「あんたの力見せてみなさいよ。光栄に思いなさい。

帝国の弩級どきゅうドラゴンと差しで戦って負けるなら、諦めもつくでしょう?」


「戦いたくない、と言っても無駄か?」


「無駄よ」


「では止む終えない。だが女達には手を出すな」


「馬鹿にしないで頂戴ちょうだい。取り巻きの雑魚に興味ないわ。

いいから早く呼び出しなさいよ。召喚士なんでしょ、あんた」


なんでそう挑発的なんだ。

ムッとするアネットにリンダ。


ドラゴンから距離を取りながら、どうしたものか戦術を考える。

相手の出方が読めない。

ならば素直に力押ししかないか。


10(ひとまる)式。来い!」


光が凝縮し、主力戦車の10式が現れる。

『10式、参上しました♪』


ドラゴンは10式を見ると、不満そうに大声で俺に向かってどなる。

『雑魚には興味ないと言ったでしょ! 早くワイバーンを出しなさいよ。

私、知ってるんだから。

見たわよ、その地竜もどきの持つ武器はドラゴンの皮膚を貫通できない』


10式を雑魚だと?

主力戦車を雑魚よばわりするほどお前の装甲は硬いのか?


……いや、待てよ。俺は思った。

“地竜はドラゴンの皮膚を貫通できない”と奴は言ったのか?

“見ていた”と言ったのか?


ああ、もしかすると。

俺はドラゴンの考えが読めた気がした。こいつ多分勘違いしている。

俺はアパッチ攻撃ヘリを上空に召喚した。

『相棒。ドラゴンの気を引いてくれ。』


15番機は実体化と共にチェーンガンを、少女の姿を取るドラゴンに向け撃ち始める。

着弾する前に、砲弾は青色のバリヤーにはばまれた。

直前で破裂する。

爆発は敵に影響を与えていない。


「無駄、無駄、無駄ー」ドラゴンは嬉しそうに叫ぶと、少女の姿から竜本来の姿に变化へんげを始める。

10式の方は見ようともしていない。


俺は確信した。こいつは、俺とヘルドの赤い竜との戦いを“見た”のだ。

恐らく魔法的な手段で。

どうやってヘルドの赤い竜が倒されたのか調べたのだ。


あの戦いの時、ヘルドの竜は87式自走高射機関砲に気を取られ、背後からアパッチのヘルファイア・ミサイルを浴びて負けた。

87式の90口径35mm対空機関砲はドラゴンの皮膚を貫通できない。あくまで囮役おとりやくだった。


ドラゴンよ。思い込みで物事を見るのは関心しない。

今回召喚したのは87式じゃなくて10(ひとまる)式、主力戦車なんだ。


ドラゴンの目には、キャタピラをいた台車に砲塔が乗っているフォルムは同じに見えたんだろう。87式だったら確かにドラゴンの皮膚を貫通出来ない。


10(ひとまる)式。主砲発射!』


とっさに危険に気がついたのはドラゴンの本能だろう。

10式が照準を行っている刹那せつな、自身の命が危うい事に気が付く。

愕然がくぜんした表情で、10式の居る方向を振り返る。

慌てて皮膚表面を青い魔法の光でおおい始める。


砲口初速は2,000m/秒近くあり、この距離では一瞬で着弾する。

避ける時間なぞ無い。逃げても砲塔の照準は目標を指向し続ける。


APFSDS弾が、主砲である44口径120mm滑腔砲からドラゴン目掛けて発射される。

APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾そうだんとうつきよくあんていてっこうだん)はダーツのような安定翼を持った弾体を装弾筒で包んだ、装甲の貫徹のみを目的とした専用弾だ。


音速の6倍弱の速度で飛び込んできた弾頭に、展開中の魔法シールドは耐え切れず崩壊ほうかい

変身中のドラゴンに突き刺さる。


着弾した衝撃で、弾頭内部の重金属製の侵徹体しんてつたいは瞬時に液状化する。

マッシュルーム状に変化しながら、金属のユゴニオ弾性限界すら超える圧力でドラゴンの皮膚に叩きつけられた。


ドラゴンは崩壊したシールドをかき集め、それにすがり、少しでもダメージを減少しようとあがく。

不完全ながら間に合ったのは流石さすがだ。

帝国の弩級どきゅうドラゴンの性能は伊達だてではないと言うことか。


しかし、勝負はついた。俺の勝ちだ。

着弾の衝撃で、変身は強制キャンセルされ、ドラゴンは少女の身体のまま脚を血だらけにしてうずくまっている。服はボロボロだ。


少女の苦しむ姿を見せられ、俺は戦闘継続の意欲を刈り取られた。

…無理だ。


『15番機。ヘルファイア・ミサイル発射停止』

トドメを刺す気マンマンだった相棒は不満気だったが、俺は攻撃を止めさせた。


ユマがドラゴンに傷を癒やす回復の魔法をかけたいと申し出たが、彼女は断った。

自前の治癒能力ちゆのうりょくでしばらくすれば回復するそうだ。


「…負けた。屈辱だわ。地竜もどきに負けるなんて」

なんか今にも泣きそうなんだが。


「帝国のドラゴン。気は済んだか? もともとこちらは、事を構える気なんてないんだ。一体何をしていた? 何でこちらを攻撃した?」


「シルフィード」

ドラゴンは抗議する。

「私にも名前ぐらいある。さっきも名乗った」


「ああ。じゃあシルフィード。答えてくれ」


ドラゴンはまだ不服そうだったが、はーっとため息をついた。

しょうがないわね。負けは負けだし、と彼女はつぶやく。


「いいわ。話してあげる。

私は、あんた達の事を探っていたのよ。ヘルドのドラゴンを倒したんでしょ。

戦略級ドラゴン落とすような戦力は危険だわ、帝国にとって。

軍事バランスが崩れるし。

状況を探ろうとするのは、ある意味当たり前でしょ?


私がこの任務に就いたのは、自分から皇帝に志願したから。

あんたが殺した竜“赤のエキドナ”は私とも因縁いんねんあったし、興味が湧いた」


彼女は話を続けた。

「可能だったら、あんたを無力化しようとした。負けちゃったけど。

戦ったのは私の趣味も入ってるかな。

私は戦いが好きだし、強い人間に興味がある」


そう言う事、なのか?


俺は自分の思っているところを述べた。

「繰り返すが、こちらは帝国と敵対するつもりは無い。

それどころか、同行の人間を何名か帝国で受け入れてもらえないか、とも考えている」


ユマと、もしかしたらリンダも。

アネットは多分、最終的には自分の故郷の公国に帰るだろう。


シルフィードは言う。

「同行の人間を帝国が受け入れるかどうかは、さておいても、あんたの受け入れは無理よ。

戦略級ドラゴンを倒した男を一般市民として受け入れる国があると思う?」


「そこまで目立っているとは思わなかったんだ。大した事はしていない」


はーっとシルフィードはため息をついた。


「いいわ。帝国に来たら私を訪ねて。皇帝に取り次いであげる。

直接頼んでみることね。

帝国に住まわせてもらえるかどうかは分からないけど」


戦略級ドラゴンって皇帝とも直接話が出来るのか。凄いもんだな。

「私の命を取らなかったお礼。私があんたの立場なら殺してた」


ついでに教えておくと、とシルフィードは続けた。

「帝国の初代皇帝は傭兵ようへいあがりだって知ってた?

歴史的経緯もあって強い人間は帝国では尊敬されるわ。

あんた案外、皇帝と気が合うかもよ」


シルフィードはユマの事はまだ調べていないようだった。

彼女にとっては王位継承権を持つユマよりも、俺のほうが重要人物らしい。

軍人だから戦力の調査を優先していたんだと思う。


しかし、遅かれ早かれユマの事も気がつく。

帝国はどう出るだろうか?

王国の第一継承権を持つ人間が、例えば亡命してきたとしたら保護してくれるだろうか?

俺だけ入国をこばまれる可能性もあるな。

俺は危険人物らしい。


「ツカサとは一緒に帝国に入ります。離れるのは嫌です」

ユマは駄々をこねる。


「帝国の街で一緒に住んで、一緒に暮らすって約束しました」


いや。最後までつきあうとは言ったが、そんな約束はしていない。

…とは思ったがここで言い争いをしてもしょうがない。


リンダは個人的にも王国と面倒事を起こしているから、帝国へ逃げたいだろう。

アネットは、そろそろ生まれ故郷の公国に戻らなくていいのだろうか?

だが、俺がそれを言うと怒るんだろうな。


いずれにしろ、次の移動先は帝国との国境に近い“コリントス”の街だ。

そこで今後の事は少し時間をかけて考えることにしよう。


シルフィードの服は、俺との戦いでボロボロになってしまった。

上着を貸してやる。

人混みの中に突き放すのも何だから、服とか代わりに買ってやったほうがいいんだろうか?


一度、皆で街に戻ることにした。

既に自覚はあったが、俺は自分が女に甘いことを改めて認識しながら街に戻る。

そのうち命取りにならないといいんだが。


花見は残念ながら中止となった。


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