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「城主のセヨーム6世・ド・デステール公爵(こうしゃく)をここに呼べ」

俺はリーダーらしき兵士に怒鳴った。


「……デステール公爵(こうしゃく)は現在、ここには居らっしゃらない。

領地の視察中だ」

隊長らしきひげたくわえた剣士が答える。


しかしその言いよどみは、明らかに嘘っぽい。


「そうか。残念だな」


俺は心のなかで待機中の戦車に呼びかける。

10(ひとまる)式。位置についたか?


『はい。バッチリ城から300m手前に到着してます♪』


でも、と10式は残念そうに言う。

『敵の皆さん、私を見てくれません。

やっぱり、外装とかもう少し凝っておくべきだったでしょうか?

ちょい派手目に?』


…いや。それ俺達が中で騒ぎを起こしてるからだ。

城の外に注意を向ける余裕が、敵に無かったんだろう。


だが、いよいよ出番だぞ。

10(ひとまる)式、射撃開始。城の門を撃て。

俺は命令を与えた。


『了解です♪……照準、良ーし。主砲発射いきます。えい♪』


主砲である44口径120mm滑腔砲から多目的対戦車榴弾(りゅうだん)(HEAT-MP)が発射される。

砲撃目標が装甲車両ではないので貫徹のみが目的の徹甲弾(APFSDS)ではなく、貫徹と共に爆発を撒き散らす榴弾りゅうだん(HEAT-MP)だ。


弾頭が門の両脇にある見張り塔の1つにぶち当たる。

音速の5倍近い速度で着弾した成形炸薬弾は、モンロー効果で発生するジェット噴流を前面と周囲とに振り分け、同時に砲弾の破片を撒き散らす。


見張り塔は一撃で瓦解がかいし、隣にある木製の門が一緒に折れ曲がり、吹き飛んだ。


俺はひげの剣士に言った。

「残念だな。公爵が来るまで城が持てばいいが。

言い訳を考えておいた方がいいぞ」


砲撃を続けろ、と10式に告げる。


次弾が着弾。残りの見張塔も瞬時に崩壊する。

三射目が発射される。城を囲んでいる城壁に着弾。

横に10mほどに渡り、壁が崩壊する。


「地竜だ。外に地竜がいるぞ」

城門と壁が吹き飛び、見晴らしが良くなった内側から10式の姿が見える。

兵士の群れが戦車を指さしながら騒ぎ出す。


10式よ。喜べ。注目浴びてるぞ。

地竜と呼ばれるのは不満かもしれないが。


俺はひげの剣士に向き直った。

「外側ばかりでは不足か? それなら今度は城主の住んでいる建物はどうだ?」


「ま、待て。待ってくれ。お願いだ。 今、デステール公を連れてくる」


「5分だけ待つ。早くしろ」

俺はユマの方を見る。様子をうかがうとやはり緊張しているようだ。


「ユマ。公爵こうしゃくが来るぞ。

大丈夫だ。言いたい事は全部言ってやれ」


「はい」ユマが答える。


遠目に、公爵が普段住んでいると思われるやかたの扉が開く。

華美な服装をした見るからに貴族らしい男が護衛と共にこちらに歩いてくる。

デステール公だろう。


俺は男から目を離さず近づいてくるのを待った。


「一体何事か。我が城に何故攻め入る? お前は誰だ?」男が言う。

俺の事を本当に知らないようだ。


相棒が上空で空中停止ホバリングしているのを異様に思うのか、恐恐こわごわと眺めている。

一見平静を装っているが、手が細かく震えている。

安全地帯から指図している分には強いが、自分が矢面やおもてに立つ度胸は無いんだろう。


俺はユマに合図を送り言葉を促した。


「デステール公。

私はユマ・イベールと申します。

ご存知とは思いますが私の父はマルデリック15世、現国王陛下です。

現在、私が王位の第一継承者となっています」


デステール公の目が細まる。

「お前が、ユマ・イベールか。お前が……」


「王であるマルデリック15世は現在重い病にせっているとお聞きしています。

万が一の時を心配し、公爵は王位を誰が引き継ぐのか、と心配されていると思います。

しかし私は…」


ユマが丁寧な口を聞いているので、気を良くしたのだろう。

相棒の姿も忘れ、公爵は口が回り始める。


「王も困ったお方だ。若き時のおたわむれの結果をそのまま我らに押し付ける。

お前の母が一時期、王と関係を持っていたのは確かなようだ。

だからと言って、お前の本当の父親が王と決まったわけでもあるまい?

お前の母親は多くの男としとねを共にしたと聞いておるぞ?

いや失敬。恋多き女と言うべきか」


「公は母を侮辱ぶじょくなさるおつもりですか?」

ユマの顔がさっと青ざめる。


「侮辱?そう思ってたが事実と違うのか?

だいたい末端の女騎士風情(ふぜい)が王の寵愛ちょうあいを受けられるとでも思っておったのか?

一時の気の迷いを大げさな。


それで誰が父親だか定かでもない子供が、自分は王位の第一継承権所持者だとほざく。

笑わせるのもいい加減にしろ」


デステール公は言葉を切り、ユマの顔をじっと見てニヤッと笑う。


「お前は欲の深い母親似だな。どうせ何かせびりに来たのであろう?

金か?いくらかならくれてやってもよいぞ」


そして、ジロジロとユマの身体を撫で回すように見ながら言う。

「お前の身体も淫乱そうだ。やはりそちらも母親似なのか?

泣いて頼むなら、我が後宮に迎え入れてやっても良いかな」


「私は……」


俺は我慢出来ず、男の襟首えりくびを両腕でつかみ、乱暴に持ち上げた。


「ユマへの侮辱ぶじょくは許さない。

自分の欲望を垂れ流し、欲の皮をつっぱらせている下衆げすはあんたの方だ。

加えて愚かでもある。現状が分かっていない」


「何だと。下郎げろうわれを侮辱するのか。 お前たち何してるのだ。こいつらを早く殺せ」

俺の手から逃げようとしながら、護衛の兵士達に身振りで合図を送る。


上空で待機していた相棒が、ゆっくり高度を下げ威嚇するように兵士達の群衆の前に進む。近づくにつれダウンウォッシュの風が強くなる。

兵士達は攻撃ヘリの威力を十分見せつけられている。

後退あともどりしながら距離を取ろうとする。


「10式。領主のやかたの屋根を撃て」

俺は城外で待機している戦車に心の中で命令した。


『了解です。照準……完了。撃ちま~す♪』


居住用の館の上部に、HEAT-MP弾が着弾し屋根が半分ほど吹き飛ぶ。

俺は砲撃された部分をあごで指し示し、言った。


「話を聞かなきゃいけない立場なのは分かったか?」


「わ、分かった」


顔が真っ青だ。

必至に平静を保とうとしているが、俺を掴む手がぶるぶる震えている。

男を離してやり、ユマに話を続けるよう促す。


「私は王位は望みません。その能力もありません。


この国は生前の継承権の譲渡じょうとを認めていませんが、私は方法を見つけるつもりです。私を殺す必要は無いのです。

ただ条件があります。いや。条件と言うよりお願いです」


ユマは言葉を切り、公爵の顔をじっと見つめなおす。

そして言った。


「この国の人達を幸せにしてあげてください。ヘルド蛮国の脅しになど屈することなく」


俺は内心こいつらには無理だ、やっぱりユマが王位を引き継いだほうがいいんじゃないか、と思ったが、その考えは無理やり飲み込む。

俺が口をはさむ事じゃない。


彼女の話が終わったようなので、俺は言った。

「俺からは通告がある。こいつはお願いじゃない。単なる通告だ」


「ユマを含め、俺の仲間に手を出すな。

彼等に対する、政治的な影響力の行使も許さん。

もし守らなければ」


俺は声をひそめ、話を続けた。

「お前はこの世から消える。俺は遠隔から好きな場所を攻撃できる。

逃げられる場所なぞ何処にも無い。

嘘だと思うなら俺の事を調べてみろ。ヘイム男爵(だんしゃく)にでも聞いてみればいい」


ヘイム男爵とはユマ暗殺実行のまとめ役で、屋敷やしきに俺を呼びつけた例のあの男だ。


公爵は何度も頷く。


「ここで消されない事をユマに感謝する事だ」


公爵を殺すのは簡単だ。

だがデステール公は国有数の権力者でもあり王国軍の主要なメンバーだ。

支配している領地や、率いている軍を空白にして弱体化してしまうとヘルド軍を利することになり、まずい。


王国は現在ヘルドと交戦状態なのだ。

ヘルドに占領されてしまうのは、ユマは望まない。


俺が出来る事は残念ながら、これまでだろう。


「ではデステール公。おこなった無礼をユマに対して謝罪しろ。

それとヘイム男爵(だんしゃく)に、俺から話があると伝えておいてくれ。

街に戻ってから呼び出す。

男爵が従わなければ、あんたに責任をとってもらう」



帰り道、相棒を飛ばしながら俺は後席のユマに機内通話で話しかけた。


「あれで良かったか? 気は済んだか?」


「ええ。ツカサ。本当にありがとう」


だがユマは不安そうにこう言う。

「私、静かに生きていきたい。私には国民の事を考えるなんて重すぎる。

それでいいんだよね?

そして、ツカサは私のそばにずっと居てくれるよね?」


俺にその資格はあるのだろうか?

「ああ、最後まで付き合うさ。必ずだ」俺は言った。


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