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反撃/殲滅

俺の召喚の邪魔をしているのは、恐らく犬の化け物だ。

奴と対峙たいじしていると、力を吸い取られているような気がする。

銃器だけでも呼び出せるのはありがたい。

他の武器と比較して低威力の銃器類は、召喚の妨害は受けずらいという事だろう。


現在の敵は次のとおりだ。

部屋内に出現してきた召喚妨害をする気味の悪い犬。驚異的な回復能力持ちだ。

宿の外に魔術師が数十名、剣士も数十名。魔術師は火炎球(ファイアーボール)でこの宿を焼いている。剣士は俺達が宿から飛び出した時の抑え役だろう。


俺は方針を決めると女達に伝えた。

「全員で犬をおさえる。アネット、リンダ、ユマ、しばらくの間でいい、奴を行動不能にしてくれ」


俺はMINIMI機関銃の残りの弾薬を全て化け犬に叩き込む。

化け物のむき出しの骨格らしき構造が、いくつかちぎれ飛んだ。


ユマは、対邪結界プロテクション・フロム・イービルの呪文詠唱を開始する。


アネットが雷撃(サンダー)を無詠唱で即時発動。

周囲の空間から発生した数えきれない稲妻が敵を襲う。

猟犬のゼリー状の肉が炭化し、黒いかさぶたのようになって表面に張り付く。


ユマが詠唱を終え結界が発動。化け物は行動が阻害され動きが鈍る。

しばらくは走れないだろう。


リンダが叫ぶ。

たけり狂う大蛇だいじゃの剣よ、真の力ファイナル・ストライクを我に示せ!」

同時に魔法の短剣を猟犬に向かって投擲とうてき

投げられた剣は光に変わり、猟犬の胴体目掛けて突き刺さり破裂した。

爆発的に緑色の光が溢れだす。

まぶしくて見ていられない。


光が消えると、千切れた化け物の身体が転がっている。


やったか?


ゴロンと転がっている犬の首が、俺の方を向きしゃべる。

「ユルサナイ。 オマエ コロス」

飛び散っている胴体の各部分が、ゆっくりとナメクジが這うように動き出し、元の身体に戻ろうとする。


……予測の範囲内だ。これでいい。


「今のうちに外に出るぞ」


焦げ臭い。

炎が宿の建物内部に入り始めている。

早く出ないと逃げ道をふさがれる。


俺は皆と一緒に階段を駆け下りる。

1階まで降りた。

外への扉は開いているが、周囲の壁がくすぶり煙が出始めている。


煙を吸い込まないように口をそでで覆う。

敵から隠れ、扉の端からゆっくり視線を外に通す。

はじめに見えたのは、倒れている血みどろの見知らぬ男女達、それと宿屋の夫婦、女中。


逃げようとして外へ出た途端、魔術師の魔法か剣士の剣で惨殺ざんさつされたのだろう。

敵は余分な目撃者を消したのだ。


俺は自分の甘さを死者達に詫び、同時に思う。

殺した人間は死ぬ覚悟は出来ているよな。


「15番機。広場の剣士と魔術師を全て殺せ」


化け物犬が復活するまで、恐らく数分。

その間は召喚妨害の能力が弱まり、相棒が実体化出来る。

短い時間だが、宿前広場の掃除には十分だろう。


解き放たれた相棒は広場の上空に光の塊として現れ、次の瞬間、攻撃ヘリの形が実体化する。


ヘリは俺の命令に従い、兵器としての使命を果たす。

数十秒間に渡りチェーンガンの咆哮ほうこうが響く。


「犬が、上の階から降りてくる。距離を取るんだ。走るぞ」


相棒の造った血の匂いが濃厚に漂っている。

俺は女達が付いてきている事を確認し、一番危なそうなユマの手を取り走りだす。

重い機関銃は捨てた。


「ユマ。周りを見るな。走れ」


何とか50m位、宿から離れたろうか。

俺は宿の入口を振り返る。扉の中に四つ足の黒い影。


犬が復活した事により、相棒の召喚は強制的に取り消されて姿が消失する。


MINIMI機関銃を呼び出した後のクールタイムが終了し、銃器の再召喚が可能となる。

110mm個人携帯対戦車弾を呼び出した。

パンツァーファウスト3の名称のほうが有名かもしれない。

歩兵が携帯できる対戦車ロケット弾の一種だ。

威力がありすぎて部屋では使えなかった。


弾頭は成形炸薬弾せいけいさくやくだん

信管は伸ばさずに縮めたままにする。

敵が小さいので直撃は狙わない。爆発を撒き散らす榴弾りゅうだんとして使う。


腰をかがめ背を低くし姿勢を安定、後部グリップを引き出し安全装置を解除。

背後を見て、発射時に吹き出すカウンターマスが女達に当たらぬよう確認する。


犬は完全に宿から外に出た。俺を見つけるとこちらに向かって走りだす。

動きが速すぎて、照準不能だ。当てられない。


「動きを止めてくれ!」


ユマが対邪結界プロテクション・フロム・イービルの呪文詠唱を始めるが、無詠唱で発動できるアネットが早かった。


「今!」

アネットは叫び周囲に即時出現した光の矢(マジック・ミサイル)が10数本、高速で犬を追尾する。

この魔法は避けることは出来ない。

矢は犬の胴体に吸い込まれ、ぜる。

化け物のゼリー状の肉が根こそぎえぐられ、痛みのためか動きが止まる。


今だ。俺は引き金を引いた。

「行けっ」対戦車弾が発射。

安定翼が展開しロケットモーターが点火。急加速しながら敵に迫る。


弾頭は犬の足元に着弾し、成形炸薬弾せいけいさくやくだんが破裂する。

爆発が化け物をボロ布のように引き裂き、吹き飛んだ塊が地面に叩きつけられる。


猟犬の持つ召喚妨害の能力が弱まり、アパッチ・ロングボウ攻撃ヘリが頭上に再度出現する。

相棒は度々(たびたび)の召喚妨害に激怒している。

チェーンガンが炸裂さくれつした。

化け犬の回復能力を超えた破壊力で身体の一部であった塊がさらに砕かれる。


俺は女達を連れて一緒に走り、射撃目標から出来るだけ距離を取る。

そしてハイドラ70ロケット弾の発射を命令する。


ヘリはM151高爆発威力弾頭での攻撃を実行。

化け物を中心に爆発が巻き起こる。

相棒は、怒りが収まらずロケット弾を打ち続ける。


ユマが言う。

「ツカサ、もう大丈夫…あれは、自分のかいに戻りました。

この世界での肉体を失ったようです」


取り敢えず撃退したようだ。もう来るなよ。

お前は俺の事を好きなようだが、こっちは願い下げだ。


15番機に攻撃停止を命令した。

相棒はまだ撃ち足りないのか、残念そうに武器の発射を取りやめた。


宿はまだ燃えている。

大騒ぎのせいで眠りから叩き起こされたのか、人が来ている。

遠くの方から、こちらの様子を伺っている。

面倒に巻き込まれたくないためか、近寄っては来ない。

だが、間もなく官憲や兵士達が集まってくるだろう。


この街を離れないと面倒なことになりそうだ。


「89式装甲戦闘車、来い」


89式装甲戦闘車は、乗員3名の他に兵員7名を運ぶことが可能な歩兵戦闘車だ。

主武装として、ドラゴン戦で使用した87式自走高射機関砲が持つ砲と同シリーズの90口径35mm機関砲KDEを装備している。

副武装として7.62mm機関銃の他、対戦車誘導弾を発射できる重MATを二つ装備している。


召喚の呼び出しに応え出現した89式に、女達3人を載せて俺は運転席に着く。

キャタピラを履き戦車と似たスタイルを持つ89式は非常に目立ち人目を惹くが、今はそんな事は言ってられない。


俺は戦闘車を発進させると大通りを通り、街を囲んでいる市壁に向かう。

戦闘車の速度は最高70km/時だ。人が思うよりは速く走れる。


市壁のそばに着くと、89式に対戦車誘導弾を撃たせて壁を破壊した。

そして戦闘車の持つ走破力で、無理やり壁の残骸の上を通り抜ける。


暗視装置に遠くの森が映る。

今日の宿はあそこになりそうだ。


ひどい目に会ったな。まずはお疲れ様だ。今日は戦闘車の中で夜を明かそう」

戦闘車の召喚可能時間は夜明けまでは持つはずだ。


ユマが尋ねる。「これからどうしましょう?」

アネットも不安気だ。


恐らく敵は俺達を王国の敵と糾弾きゅうだんし、国の組織を使ってこちらをとらえにかかるだろう。

しかし、そうはさせない。

「心配しなくていい。敵はミスを犯したと思う。何とか出来る。時間はかけない」


俺はリンダに向かい言った。

「1つ頼みがある。

敵はあれだけの人員を使って俺達を殺そうとした。

どこかでボロを出している筈だ。

あんな大人数を動かして、全ての情報を隠しきれるはずがない。

誰が首謀者しゅぼうしゃなのか探ってほしい」


「盗賊ギルドを使って調べるということ?」


「そうだ。君はギルドの中でもお偉方の筈だ」


リンダは微笑む。

「お偉方? 何でそう思うの?」


「何となくだ。協力は嫌か?」


「嫌と言う訳が無いのは、知っている筈よね」


リンダは俺の腕を取り、こう言った。

「分かったわ。明日一日、時間を頂戴」


待ってろよ。キザ男。

俺は呼び出された時に屋敷で会った美形を思い浮かべた。


今度は俺の番だ。


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