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敵らしき者からの手紙を受け、俺は一人で指定場所まで行くことに決めた。

恐らく何らかの交渉をしたいのだろう。


「ツカサ。私も行く。気づかれるようなヘマはしない」

リンダは言うが、俺は断った。

「既にこちらは敵の監視下に入っている。

俺のいない間にユマやアネットを守ってやってほしい」


これまで見たことが無かったリンダの不安そうな顔見て、

「俺は大丈夫だ。準備はしていく」と請け合った。


ユマとアネットも、一緒に行こうと言う。

「ツカサ。皆で行こう」

「あんただけじゃあ心配だわ」


俺は一人で大丈夫だよ、と声をかけ薄暗くなってきた外に出る。


手紙の主の指定した場所に向かう。街外れの屋敷だ。

俺は手紙の指定のとおり一人。1500m先から闇に紛れてこちらを見ている相棒を除いては。


目的地に着くと屋敷には入らずに、向かいの建物の壁にもたれ、背後からの不意打ちが無いように位置をとる。

民家に対してチェーンガンの射線が通るよう相棒が移動を始める。


魔法の灯りだろう。屋敷の周囲には外灯があり数十メートルは視覚が効く。

H&K USP軍用拳銃の重さを上着の中に感じながら俺は待った。


10分程待っただろうか。


「フユトミさん。折角せっかく、中で歓迎の用意をしてお待ちしていたのに」

屋敷の扉を開けて一人外に出てきた。男は歩み寄ると俺の側で声を掛ける。


どことなくユマに面影が似た若い美形の男だ。

しかし俺はキザっぽい男は嫌いなんだ。それと男の美形も願い下げだ。


俺は聞いた。

「あんたがユマを殺そうとしている本人か?」


「私は代理人です。首謀者しゅぼうしゃが直接来ると思いましたか?」

男はにっこりと微笑ほほえむ。


「大掛かりなお出迎え、痛み入る。そこ。あそこ。それと向こう。

沢山の人を集めてご苦労なことだ」

俺は相棒の赤外線視覚を通して見えている、隠れているつもりの人影を指摘した。

灯りの外側を取り囲む闇の中、何人も影が潜んでいる。


流石さすがはドラゴン殺しの英雄フユトミさんです。恐れいります。

しかし用心深いのも良し悪しです。少なくとも今は」


男は続けた。

「今は、あなたを殺しませんよ」


「悪いな。恐怖があんまり顔に出ないんだ。

礼儀として怖がらないといけないのは知っている」


男は鼻白はなじろんだ。

「口の減らないお方だ。私達はあなたとお話し合いがしたいだけです」


「話し合い?」


男は本題を述べた。

「言うまでも無いでしょう?ユマから手を退いてください

この世界の住人でも無いあなたが何の権利があって、我々に干渉かんしょうするのです?

あなたはお呼びじゃない」


「行きがかり上‥‥ユマを助けているってことじゃ駄目か?」


「駄目ですね」

男はため息をついた。


「死にますよ。別に脅かしで言っている訳じゃありません。

私達はあなたの正体を知っていますし、殺す能力も持っています。

弱点も込みであなたの事は良く承知しています」


でも。と男は続けた。

「別の道もあります。私達とあなた、両方共に望ましいやり方が」

こいつは現代日本に生きていたならセールスマン向けだな。

売り込みがうまそうだ。


「月並みですが手を退いて頂けるならば、しかるべき金と地位は差し上げられます。

お望みならユマとは比べ物にならない美女も」


「それは凄いな」大して気もかれずに俺は答えた。

ユマより美人という提案は、そもそも不可能だろう。

それに、一度死んでいる人間に対する釣餌つりえとしては不適切だ。


男は肩をすくめる。

「人を馬鹿にしたような態度は感心しません。

では、これはどうです?」


男は俺を試すようにゆっくりと提案を述べた。

「我々はあなたを元の世界に戻せる、と言ったらどうします?」

そして、じっとこちらの反応を見る。


‥不覚にも動揺どうようする。

俺は応えた。

「興味がある、と言ったら?」


「良い返事です。ユマから手を退いて頂けるのですね?」


「条件次第だな」


「合理的な判断が出来る人間は好きですよ。

私達はお互い分かり合える。そうでしょう?」

女から見れば魅力的であろう笑顔で、男は再度微笑(ほほえ)んだ。


俺は宿に戻り、敵との交渉は継続中だと伝える。

しばらく時間は稼げたろうとも言った。

敵の提案条件に俺がなびいたと見せかければ、少なくともしばらくは襲ってこないと考えていたのだ。


それは甘かった。大甘だ。


その夜、久しぶりに悪夢を見た。

俺は日本にいた。人々が俺を指さし、お前のせいだと責め立てる。

お前の部隊がろくに仕事もしないで全滅したから俺達は死ぬんだと叫んでいる。


ユマに揺り動かされ、夢から覚めた。

「ツカサ。起きて! 外が変」


リンダが窓を薄く開けて外の様子をうかがっている。

俺は非常事態が起こっている事を認識し、眠気を無理やり払いのけた。

幸か不幸か、悪夢を見ていたおかけで眠りは浅かった。


「リンダ。様子はどうだ?」


「囲まれた。ごめん。気づけなかった」

リンダが気がつけなかったという事は、魔術師を使って気配を消していたのか?


ぐっすり眠っているアネットを無理やり起こす。

「……激しいのはイヤ」

「おい。起きてくれ。敵が来る」


眠そうに目をこするアネットを後にして、俺はリンダのそばに行き窓から外を覗く。


冗談だろう。

宿から離れた広場に数十人規模、いや百人を超える剣士と魔術師らしき人影が集まっていた。


敵はこちらの交渉引き伸ばしに気がついていたのか。

俺をユマから離すのは無理と判断した敵は、次の段階に移行していた。

正式に逮捕するつもりか。俺達を拘束こうそくするのか?


いや。そんな穏やかなもんじゃない。


剣士達の後ろに列を成して並んでいる何十人もの魔術師の群れが、大きな火炎球(ファイアーボール)を宿に向かって投げつける。


「ばかな。泊まっているのは俺達だけじゃないんだぞ」

奴らは宿ごと俺達を燃やすつもりだ。


あんな、バカどもは吹き飛ばしてやる。


俺は相棒を呼ぼうと意識する。

召喚用の兵器類のリストが視覚に表示される。

しかし、装甲車両、航空機の欄のアイテムはどす黒い赤で表示され、選択が出来ない。召喚出来るのは銃器類だけのようだ。


15番機! 応答しろ。

思考で相棒に呼びかけるが反応が無い。


その時、強い酸のような強烈な匂いを感じる。

俺達の居る部屋の角に、不自然な空間のゆらぎが見えた。

何かが実体化しようとしている。


俺は召喚可能であった銃器・弾薬の項目から、5.56mm機関銃 MINIMIを選び呼び出す。

MINIMI機関銃と敵の実体化は、ほぼ同時に終了した。

ずっしりとした頼もしい、分隊用の支援火器に使われる強力な機関銃の重さを感じながら、俺は敵を観察する。


犬なのだろうか? シルエットは四本足の猟犬のようにも見える。

しかし肉らしきものはついておらず、代わりにゼリー状のぶよぶよとした原形質が針金と骨で造られたような背中に乗っている。

そして体中に、とがった骨のようなものが何本も突き出している。

明らかに、この世の生き物では無い。邪悪な何かだ。


「ミツケタ、 オマエ ミツケタ」

“化け物”の声が俺の脳内に響く。


脳内で化け物と呼んだのが気に触ったのか、奴は続けて言った。

「バケモノ ダト? オマエ モ オナジダロ」


俺は腰だめでMINIMI機関銃を斉射せいしゃした。

タッタッタッという乾いた機関銃の作動音がし、毎分700発以上の発射速度で5.56mm弾がばら撒かれる。

銃弾は敵のゼリー状の肉をなぎ払う。


敵は(ひる)むが倒れない。

吹き飛ばしてやったゼリー状の肉が内側から盛り上がり、急速に元通りになる。


奴が動いた。

気が付くと、俺の上にかり左腕が噛み千切られていた。


助けようと、リンダが緑色に光る短剣を片手に敵を襲う。

光る短剣が複数回、敵の胴体を切り刻む。

敵に触れた短剣は、よりいっそう輝きを増した。魔法剣と言う奴か。


化け物は態勢を立て直すため、俺から離れる。


「ツカサ。大丈夫?」

ユマが立ち上がろうとする俺に手を貸した。

「ユマ。ダメだ。俺から離れろ」


一人で立ち上がろうとするが、強烈な左腕の痛みと出血の為にふらつく。

左腕を見るとひじが食いちぎられて、そこから取れそうになっている。


「リンダさん。お願い、敵を近づけないで。ツカサを治療する」

「承知」

リンダは心配そうに一瞬俺の方を見るが、視線を敵に戻し魔法の短剣を構え直した。


「ツカサ。すぐ直すから大丈夫。待ってて」

ユマは千切れそうな俺の左手を胸に抱えるようにしてひざまずき、祈りの言葉らしきものをつぶやく。


左腕の痛みが急速に消え、温かい感触に包まれる。


アネットが叫んだ。

「外の魔術師達を何とかしないと。宿を燃やされてる」


焦げ臭い。

魔術師達の攻撃により、予想以上に火の周りが早い。

普通の炎じゃない。

魔術師が投げつける火炎球(ファイアーボール)は、着弾と共に爆発的に炎が広がる。


こうしている間にも、魔法のぜる音が聞こえる。


仲間達を逃さないと。

俺は二度と失敗する訳にはいかないんだ。


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