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手紙

“エフェソス”の街に着くまでには、後2,3日はかかる。

ユマの秘密を知った俺は、直近で片付けなければならない事を考えながら歩く。


まだ最悪の事態じゃあない、と俺は思った。

その理由は、さっき襲ってきた奴らは正規の王国の軍じゃ無かったって事だ。

敵は秘密裏にユマの暗殺を図っている段階だ。

正式な手続きで軍なりが動いている訳じゃない。

正規軍がユマを追い込んでいる状況よりは、まだ対処しやすい。


しかし早く敵を特定しないと。

王の第二継承権、第三継承権を持つ人間が第一継承権を持つユマを殺害しようとしている線が一番怪しい。

だがそう決めつけるのも、時期尚早じきしょうそうかも知れない。


考えながら歩いていると、当然ながら仲間との会話は少なめになった。

ユマが心配そうに俺の方を見る。

そういう心配は不要だ。

俺のことなら、さっきも言ったように最後まで君と一緒だ。


問題は、仲間の安全の確保。特にアネットの事だ。

ユマの正体のせいで状況は変化した。

有り体に言えば、ユマと旅することはリスクを抱え込むことに成る。

敵がこちらに対して第二、第三の攻撃をしかけて来るのは確実だ。

俺達の旅の危険度はかなり増している。


アネットの旅の目的は、戦争の危険を避けて帝国に行こうというのが理由だ。

俺達と一緒に居るのは危険過ぎるだろう。

彼女にはいろいろ世話になったし明るい性格は好きだった。

各種の魔術の知識を教えてもらって感謝している。

…しかし残念だが別れるなら今だろう。


リンダの方の考えは読みきれない。最悪の場合、彼女自身が敵に回る可能性もある。

ユマが王の隠し子なんて情報は、盗賊ギルドにしたら金になる良い情報だ。

いずれにしろ彼女とも話をしておく必要がある。


「アネット、ちょっと俺と付き合わないか?」休憩の時にアネットに声をかける。


「…って、嫌だツカサ。いくらなんでも林の中に連れ込むってのはちょっと」


リンダがアネットの事を嘲笑わらう。

「ツカサ。私が先に話をしたい。私を先にして。

お子ちゃまのアネットとか言う人は、後回しでいいよ」


ムッとするアネット。


「ツカサは、話したい事があるって言ってるのよ。そんな事も分からない?」

リンダは俺の腕をつかむと言う。

「私ともかたを付けなきゃいけない、って思ってるよね?行こう」


「ここでいい」

と彼女は道から離れた木陰で止まる。


突然リンダは自分の身体を俺に預け、抱きついた。

意味が分からず身体を離そうとするが、リンダは自分の顔を近づけ俺の口を吸う。

柔らかい彼女の舌が俺の口の中に差し込まれる。


密着してくる彼女の均整のとれたスリムな身体と、綺麗な顔を間近に感じ、一瞬呆然(ぼうぜん)とする。

だが幸い理性の方が勝った。


俺は強く彼女の身体を押し、離れた。

彼女の口から唾液が流れるのが見え、それを腕でぬぐいながら彼女は言う。


「失礼な男ね。女が誘っているのに、何その態度?」


「意味が分からない」


「意味?ツカサの時間を節約してあげたんだけど?これが私の答え」


彼女はため息をつきながら言った。

「どうせこう思ってるでしょ? “盗賊ギルドは危険だ。ユマの情報を売るかもしれない”」

その疑問に対する私の答えがこれ、と彼女は重ねて言う。


答え?答えがキスなのか?俺には難解すぎる。


「私はあんたに惚れている、それが答え。

それじゃあ駄目?

私は確かに盗賊ギルドの一員だけど、盗賊の立場を優先して生きてるって思ってるんなら大間違いもいいとこだわ」


「ギルドの都合より好きな男を優先するって言ってるの。

私は私の好きなように生きる。

ある意味、模範的もはんてきな盗賊なんだけど」


あんたに嫌われるような事はしないわ。

そして私の能力の及ぶ限りあんたを助ける、と彼女はつぶやく。


それとお願いだから、ユマばかりでなく私のことも見て。


最後に彼女はぷいっと横を向き言った。

「何で俺に惚れたんだ、とか無粋ぶすいな事は聞かないでよ」


実は聞きたかったんだが、どうにかこらえた。


次はアネットと話した。

安全の為に俺達と別れたほうが良い、と伝えるといきなり怒られる。


い、いや、別に君だけ仲間外れにしようとした訳じゃあない。

しかし君の安全の為には、これからどうするかは良く考えた方がいいと思うんだ……


も、勿論もちろんそんな事になったら君の事も精一杯守る。

ユマの安全の事だけ考えてるわけじゃあないぞ。うん。絶対だ。


いや、そんな事はない。君は誰が見ても可愛い。美人だ。前からそう思ってた。

嘘なんて言うもんか。本当だって!


それは誤解だ。ご・か・い・だ。

言ってない。俺は絶対そんな事は言ってない!

おい。泣くなよ! ごめん、俺が悪かった。このとおりだ。機嫌なおしてくれ。


‥…なんで、こうなるんだ。

彼女の名誉のために、会話は俺のものだけ記しておいた。


一応、理性的に話せた部分をまとめると、“ユマちゃんとは仲良しだし、王国と縁が深いムーレヴリエ家の一員としてはお家騒動を放っておくわけにもいかないわ”との事。


それに‥と追加の理由を言おうとして俺の顔を見たアネットは、急にどぎまぎしたように小声で喋り、何を言ったのかそこは良く聞き取れなかった。


結局、アネットと一緒に旅は継続だ。

素直に嬉しいが、申し訳ない気もする。



二日後、俺達はエフェソスの街に着いた。

前のタレントゥムより随分大きな街だ。


背の高い市壁で街の周囲が囲まれており、壁の外側にも酒場や個人の家らしきものが建てられている。

ヘルドの国境からも距離があるからだろうか、通りには街の人間や旅人らしき姿も多く、賑わっている。

人々の表情も明るい。


「人口にして8,000人位かしら。 商業都市ね。各地から多くの商品や素材が集まって来る所」アネットが教えてくれる。

彼女の機嫌も、もう直っていると信じたい。


「とりあえず宿に落ち着こう。人通りが多くて目立つ場所がいい」

その方が敵もおそいにくいだろう。


宿の部屋は4人で共同で使える大部屋にしてもらう。

俺としては男一人と女三人が一緒に泊まるのには抵抗ある。

しかし万が一襲撃を受けたるような事態を想定すれば、そんなことも言ってられないだろう。


部屋に入り、荷物を整理すると一服した。

疲れたし宿の食堂で皆で飯でもしようか、と思っていたところにユマが俺に話し掛ける。


「ツカサ。この街に知り合いがいるの。随分ずいぶん会ってなかったのだけど

明日にでも、会いに行っていいかしら?」


勿論もちろん構わないが、俺もついていこう。街中で襲われる可能性もあるからな」

どういう知り合いなのかと聞くとユマは答える。


「ボードビル子爵ししゃくとそのお子さん。

母の知り合いだった人で、私の素性のこともご存知なの。

出生の秘密を隠して静かに暮す事にも随分協力してもらって。

温厚で優しい方よ」


子爵ししゃくと言うと貴族か。

俺は礼儀が分からないし、服装もなあ。

しょうが無い、外で待っているか。


「大丈夫よ。礼儀作法には、うるさくない方だから。一緒に会おう? ね?」


アネットが割り込む。

「当然、私も行くべきよね。やはり貴族相手なら、礼儀作法が服着て歩いているような私も行かないと」


いや、それには若干の異議がある。


「私もいくわよ。ツカサを貴族の中に放り込むなんて危ない危ない。

丸め込まれるのがオチだわ」

リンダが言う。


そんなに大人数で押しかけて大丈夫なのかとユマに聞くと、彼女は笑って答える。


「問題ないわ。人数多いほうが子爵も喜ぶと思います」


そうか。

とりあえず、俺とリンダは服装をなんとかしないといけないな。


部屋の戸にノックがある。

「誰だ?」


ノックの主は宿の女中だった。

「フユトミさん?手紙をお届けにきました」


見ると、封をした手紙が一通。

誰が届けたのか聞くと、使い走りの子供が宿に届けに来たとのこと。


俺はこの世界の話し言葉は分かるが、文字は読めない。

すまないが、とアネットに手紙を渡し読んでもらう。

文面を見た彼女の目が、けわしくなる。


「ツカサ フユトミ、あなた一人に宛てている手紙ね。今晩指定の場所に一人で来いって」

アネットは続けた。


「ユマの事だそうよ」




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