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望まない英雄

俺はヘリで少し飛び、街から5kmほど離れた森の中の空き地に降下した。

相棒を送還そうかんし存在を消す。


戦闘にかかった正味の時間は4時間弱といったところか。

まだ夕方にも早い午後だ。明るい間に十分戻れるだろう。

森の小道から西門に向かう街道に戻り、街まで急ぐ。


王国の兵士達が街の方向から来る。

慌てている様子で数名がこちらに向かってくる。

戦場に何か動きがあったのに気がついたんだろう。

俺は歩みをそのままに、兵士に礼をしながら通り抜けようとするが、その中の一人に呼び止められた。


そして俺の来た先で何があったのか、いろいろ聞かれる。


ヘリに乗って敵をやっつけました、なんて言う気は更々(さらさら)無いので基本とぼけた。

俺は旅人でたまたま通りかかっただけだ、と。

しかし、2時間近く相手をさせられただろうか。怪しい奴と言うことらしい。


そのうち戦場を見に行った兵士の仲間達が戻ってきて、俺のことはどうでも良くなったようだ。

開放してもらい、西門に急ぐ。面倒事は御免だ。

俺は俺が出来る事は全部やったんだ。

早く帝国へ出発して、女達を安全な場所まで連れて行きたい。

下手をすれば宿に着くのが夜になってしまう。


街の西門を抜け、宿まで急いで戻る。

階段を駆け昇り部屋に入ると、女達がハッとして俺を見る。

ユマが抱きついてくる。


「ツカサ!」


女の甘い体臭とスタイルの良い身体をじかに感じ、俺は戦った後そのままで汗臭い自分の身体を意識する。


「良かった。 ツカサなら大丈夫とは思ってたけど。 でも」


俺は女達に伝える。

「西のヘルド軍は潰走かいそうしている。街の防衛の為の時間は稼いだ」


アネットが驚いて尋ねる。

「ドラゴンは?」


「倒した。街道の先に転がっている」


「う、嘘よね? 本当にドラゴン?」

彼女は絶句している。


アレはどう見てもドラゴンだったと思うぞ。強かったし。


「本当なのね? あんたじゃなきゃそんな事、信じないけど。……でも良かった無事に帰って来てくれて」


今度はアネットが抱きついてくる。

「お、おい」

「いいじゃないの。たまには」


窓の外から歓声が聞こえてくる。

アネットから何とか離れ、外をうかがう為に窓に近寄った。

人々が歓声を上げている。


俺は急ぎ階下に下りて宿の主人に様子を聞く。


「ご主人、何があった?」

宿の主人は気分が良さそうだ。いつもの仏頂面ぶっちょうづらの面影はない。


「王国と街の自治軍の大勝利の発表があった。ヘルド軍が撤退てったいしたそうだ」


「西の軍が撤退てったいした話は聞いている。 東もか?」俺は尋ねる。


「西も東も両方だ」 主人が答える。


西方の軍の損害が大きすぎて、東も引っ込めたか。

あれだけ損耗率そんもうりつが高ければ、攻めるどころではなくて自国の防衛自体が心配になる筈だ。


主人は声を潜めて言った。

「軍は隠しているが、噂がある。

茶色に緑が混じった小さなワイバーンに乗った人間が、ヘルド軍を蹴散らしたそうだ」


……茶色に緑が混じった色ってのは俺の15番機の機体か。

相棒よ。化け物呼ばわりからワイバーンに格上げだぞ。

そういえば、アパッチ攻撃ヘリには小さな武器吊り下げ用の羽がついている。


主人は話を続ける。

「そのワイバーンに乗った人間が、ヘルドの弩級どきゅうドラゴンをほうむり去った、と。

まあこういう時だから、うわさにはいろいろ尾ひれがつくって訳だ。

ドラゴンがそんなに簡単に倒せるなら誰も苦労しない。

俺は信じないな」


主人は鼻で笑った。

「ヘルドがドラゴンを送ってくるとしたら、悪名高い“赤のエキドナ”だろう。

何匹も他の竜をほふっているような、あんな化け物が本当に来たならもうこの街自体が滅んでいるさ」


隣で聞いていたアネットが、“赤のエキドナ”の名前を聞いて激しく動揺している。頼むから人前で変な事言わないでくれよ。

あの竜は、“赤のエキドナ”って名前だったのか。赤かったのは確かだな。


部屋に戻るとユマが改めて言う。

「本当にお疲れ様でした。 それとどうもありがとうございます」


アネットは盛り上がって一人興奮している。

「領主に戦果を報告した? 早くしないと戦果横取りされるわ。

 報奨金相当出るわよ。 自衛軍の正規兵、いやいやいや、王国の騎士に取り立ててもらえて爵位も貰えるかも。 弩級どきゅうドラゴン倒してるんだし」


俺は首をふった。

「皆で帝国に行くんだろう?

報奨金なんてもらいに行って正体明かして、帝国行くから王国の皆さん、さようならっで済むと思うか。

適当な理由をつけて、無理やりここの防衛を継続してやらされるぞ」


俺の言葉を聞くと、ユマが悄気しょげた。

「ごめんなさい。 私がツカサに無理言ったから」


「いや。いいんだ。民間人を見捨てて逃げるのは抵抗があったのは俺も同じだ」


でも、と俺は続ける。

「少なくとも今は、これ以上の事をここでやるのは嫌だ。当面の危機は過ぎたと思う。後はここの兵士達にまかせる。

何するにしても2人を安全なところに逃してからだ」


ディアンとの約束は俺の手で果たしたい。

行動の自由は制限されたくない。


宿の主人が部屋の外側から声を掛けてくる。

「旦那さん。 お客さんだよ」

俺に客なんて、居る筈が無い。


「こんにちは。 二枚目さん」

現れた女は、アネットの事をゴロツキから救ってくれたギルド所属の盗賊だ。

女は宿屋の主人に階下に戻るように促す。何か聞かれたくない話をする気か?


俺は盗賊に言った。

「この前、アネットを救ってくれた事は感謝する。

しかし、あなたにこの宿を教えた覚えは無いな」


「調べる手段は色々あってね。 それにしても派手にやっつけたものね。

街を救った英雄さん。

弩級どきゅうのドラゴン一匹と数えきれない数のヘルド兵。 何十匹?何百匹? いや、千匹は超えてるか? もっと殺したかな?」


なんで、俺が戦闘した事を知っている。

「何を言っているのか分からない。言いがかりは止めて欲しい」


「とぼけてもダメよ。 ワイバーンに乗ってヘルド軍を駆逐くちくしたでしょ」


盗賊ギルドは危険だ。

下手をすれば、領主やら王国のお偉方に俺の能力に関する情報を売られかねない。

そうなると面倒なことに成る。良くて英雄としてたてまつられ、戦力に組み込まれるか、悪けりゃ、反対勢力に使われるくらいならいっその事…って話になるだろう。

自由が制限されるのは、まず絶対に間違いない。


俺はユマ達と一緒に帝国へ、普通の人間として行くんだ。

少なくとも今は、行動の自由を制限されたくない。


「あなたの考えている事は分かるわ。 私は危険過ぎる、そうでしょ?」

俺は何も言わずに女の顔を見つめる。


「あなたと争うつもりは無いの。 今日はお願いに来たのだから。個人的な事で。

私はリンダ・ピロゴフ。 職業はギルド所属の盗賊。これはもう知ってるわね?」


「私は、この王国とまずい事になっている。

間もなく追われる立場に成る。私も帝国に逃げたい」


「あなた達と一緒に連れて行って。ドラゴン殺しの英雄さん。

 今更、女が一人増えたところで違いは無いでしょ?

王国とまずい事になっている、と言っても殺人とかじゃないの。

まあ、ちょっとした諜報ちょうほう活動がバレたような」


つまり彼女は、連れていかなければ俺の能力をバラすって事を言いたい訳だ。


俺はうなった。どうすりゃいい?

しばし考えて腹を決めた。

「ついて来たいのなら好きにすればいい。

但し、俺は王国と事は構えたくないからな。

あんたが王国から何かされても手助けはしないぞ」


「うーん、どうしよ」

女はいかにも考えこむ振りをする。明らかに演技だ。


「それでもいいや。 頼みを聞いてくれてありがと」

盗賊はにっこり笑う。


「あなたは、女が殺されるところを放っておく筈がないもの」





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