1.出会い
処女作となります
ぜひ一読していただけますと幸いです
木には猫が1匹。みゃーおみゃーおと必死に鳴いている。
冬の寒さが残る2月のある日の午後のことだ。
「おーい、にゃんこ。大丈夫だから。こっち降りておいでー。な?」
真田がそう呼びかけても猫は小さな体を震わせて鳴き続けるばかりだった。
木の下には折りたたみ式のトランポリンがぽつんと広げられており、真田の手には虫取り網。なんとも滑稽な様子に、通行人は足を止めることなく足早に通り過ぎていく。
「薄情な奴らだな、ったく。」
頭を掻きながら真田は溜め息混じりに呟く。
猫は鳴くのに疲れたのかだんだん声に張りがなくなり、弱々しく鳴くようになった。
「にゃんこー!諦めるなよー!」
「お兄さん、楽しそうだね。」
猫に檄を飛ばす真田を見てにんまりと笑みを浮かべる女子高生。
「なんだ、JK。冷やかしなら帰れよ。」
「ねこちゃんと遊んでるの?」
「馬鹿野郎。こっちは仕事なんだよ。」
呆れ顔を浮かべる真田に女子高生も呆れ顔を浮かべる。
「トランポリンと虫取り網で仕事ねー…。」
「なんだよ。」
「いやー。17年の人生経験では全く見当がつかないだけです。」
それを聞いた真田はコホンとひとつ咳払い。
「いいか、JK」
「明智です。」
「分かった、明智よく聞け」
「下の名前は七瀬といいます。」
「分かったよ、明智 七瀬」
「家族や友人にはななちゃんと呼ばれます。」
「話を聞けよ、JK。いいか?これは探偵業には欠かすことのできない、いわば商売道具だ。」
「探偵?」
明智と名乗る少女はその言葉を聞くと表情が変わった。
あまりに真剣な目つきに真田はたじろぐ。
「な、なんだよ?」
「お兄さん、探偵なんですか?」
「あ、ああ。そうだ。それがなんだ。」
「分かりました。ここは私に任せてください。」
「はあ?」
そう言うと明智は猫に向かってみゃーおみゃーおと鳴き始めた。
猫は興味深い様子で明智を覗く。
その様子を見た明智は自分の鞄から空になったのど飴の缶ケースを取り出すと、中に小石と砂を入れ始めた。
「おい、何してんだ?」
「見ててください。」
4分の1ほど入れたところで明智は缶ケースを振る。シャカシャカとマラカスのような音を出しながら「おやつだよー」と猫に言う。
すると猫はピョコンと木から飛んだ。
「危ねえ!!」
真田は虫取り網を構えたが、猫は見事にトランポリンの上に着地。
ボヨーンと2、3度跳ねてから明智の胸元に収まった。
「すっげー…」
感嘆しながらすっかり座り込んでしまった真田に明智は猫を撫でながらにんまりと笑みを浮かべ話しかける。
「お兄さん。」
「なんだよ?」
「この子のおやつ買ってきてあげてよ。」