新7.一つ一つ意味を考えて文章の選択をする
小説の文章には必ず意味があります。執筆する際は、この「意味」を意識して書いてく必要があります。
どうして一人称小説にしたんですか? それは何かを表現したくて一人称の方が優位であると判断したものですか?
どうして主人公が女の子なんですか? 男の子では書けないテーマだったりするんですか?
どうして主人公はモテモテなんですか? 理由は必要なくても、読者に違和感を与えてはいませんか?
こういった書くための手法、物語の構成も、意味を考えて選択する必要がありますし、
どうしてここで先生が登場したのか(学園ものなら授業は先生がするものではダメです)も考える必要があります。
酷い場合は、寝起きの歯磨きシーンを説明文なりで書かれておられる方がいます。
この場合、その「歯磨きをする」ということがどうして必要なのかを考える必要があるわけです。
学園ものだからと言って、無意味に授業シーンを入れる必要はなく、先生を登場させる必要もないわけです。
そうなると、学園ものが学園ものとして見てもらえないかもしれませんね。
だったら、その小説は「学園ものである必要は無かった」という理屈になります。
会話も意味があるものでなければなりません。
そうしなければ、読者としては間延びした感じを受けてしまうからです。
例えば、これは私が失敗したと思った例なのですが……
(引用元:溺鎖【僕だけの美姉妹】 フランス書院文庫 P79)
美羽(本作ヒロイン)が、三樹(彼氏)にお弁当箱を渡したシーン。
「今日のウインナーは、タコさんなんだね」
「うん、みっくん、タコさん好きだよね」
きつね色の卵焼き、ポン酢煮ひじき、そしてタコさんウインナー。料理のバリエーションはまだ多くなく、代わり映えしないけれど、いつも嬉しそうに「美味しい」と言って食べる三樹。そして、そんな恋人の喜ぶ顔が見たくて、今日も腕を振るって弁当を用意したのだ。
この文章で目立つのは「タコさん」です。この短い間に3回も出てきますが、こんなのはダメなんです。
この「タコさん」が重要なら3回出てもいいでしょう。そんなことはないのですから、やってはいけません。
そして、この会話には何の意味がないことを、皆さんには理解して頂きたい。
この2つの会話が無くても物語には支障がありませんので、外していいわけです。
では、私がこの会話を外さなかったのは何故かと申しますと、地の文がずっと続いていたからです。
「意味がない会話は削ればいい」という結論には容易にはならず、地の文とのバランスを見る必要があります。
私の場合、地の文が3行続けば、会話を1つ入れる感じにしています。
しかしここでは第2章の冒頭ということもあって、前回の会話から地の文が16行も続いていました。
会話は必須だったのです。
そうなると、このダメ会話は修正しか方法がありません。
「今日のウインナーは、タコさんなんだね」
「ひと手間かけて作ったんだから、ちゃんと食べてよね」
と修正したとしましょう。相変わらず意味のない会話ですが、「タコ」の数は減りました。
さらっと流すのは、次善策としてはありかもとは思います。
続いて意味のある会話について説明致します。
(引用元:溺鎖【僕だけの美姉妹】 フランス書院文庫 P80)
「それよりさ、肩凝ってない? マッサージしてあげるよ」
「えっ、凝ってないけど?」
弁当箱を空にした三樹が、美羽の返事を無視して背後へと回り込む。美羽は咄嗟に胸元をガードするように腕をクロスさせるが、そんな少女のささやかな抵抗など意に介さず、三樹は両腕ごと包み込むようにして抱いてしまう。
「ちょっ、ちょっと、みっくん?」
「美羽、手を除けてくれないとマッサージできないよ?」
「ええっ! でも、そこは肩じゃな、ひゃっ」
動作と会話が一体化しており、会話が一つなくなるだけで読者にイメージが伝わり難くなることが分かって頂けると思います。
会話が何かと申しますと、描写と一体になって物語を読者に伝えるものと言えると思います。
少なくとも私は、そのように意識して小説を書いて参りました。