新4.可愛いヒロインは、可愛いと書いてはいけない
「可愛い」「悲しい」「腹立たしい」など視点保持者が感じているものを、そのまま文字にしても、読者には同じようには感じてくれません。
「悲しい」と書きたいのであれば、読者にも登場人物が感じた悲しみが伝わったと思ってから、「○○は悲しかった」と書きます。
これができないと、読者からしたら「あ、そう」で終わってしまうからです。
では、どうやって視点保持者が感じたことを、読者にも感じてもらうのか。それは描写によって行います。
まず悪い例を書きます。
○○○・△△△王女。18歳。きらめく金髪と青い瞳の、ハッと息を呑むような美貌。教養も申し分なく身につけており……
こういう外見の描写はよくあると思います。この小説が三人称主観視点で書かれているとして、どこが悪いのでしょうか?
もし、お気づき頂けないのでしたら、たぶん「自分の作品は主観視点ではなく、客観視点になってないかな?」と疑った方がいいでしょう。
そう、△△△王女に対して、説明文で美しさや、外見を語っているだけなんですね。
そうではなく、目の前に△△△王女がいるのであれば、視点保持者の視線など五感をとおした描写ができるはずです。
また「ハッと息を呑むような」と説明するのではなく、視点保持者自身が息を呑むことができるはずです。
美貌も「美貌」と(客観的な感じで)書くのではなく、描写で伝えることを心がけるのが良いと思います。
私の小説からの例で恐縮ですが、引用させて頂きます。
(引用元:溺鎖【僕だけの美姉妹】 フランス書院文庫 P143~144)
プールの授業中に、三樹くんが美羽ちゃんに喋りかけるシーンです。
「お疲れ、美羽」
プールサイドに腰掛け、抜群のプロポーションを曝す少女に、肉体美溢れる少年が声をかける。見下ろすような視界の先にあるのは、スクール水着に収められた女子高生の瑞々しい肢体。胸元ははち切れんばかりに女性的な曲線を描き、無駄な脂肪が付いていない美脚はすらりとしなやかだった。
「ふふ、どこ見て喋ってるのかな? でも、こうやって改めて見ると、みっくんって逞しいよね。あたしも中学までは水泳部で鍛えてたんだけど、みっくんは身体つきがガッシリしてて、男なんだなぁって意識させられちゃうよ……」
描写は「美羽の胸は年頃の女の子たちよりも大きく、脚はモデルでもやっているのかと思うほど長い」とは書きません。
客観的な視点で(まるで筆者が語るような)説明文を書いては、読者にはヒロインの魅力が伝わらないからです。
「抜群のプロポーション」という客観的な説明で終わらせるのではなく、視点保持者(三樹)から見て、どう映っているのかを伝えることが大事なのです。
このような描写を心がけることで、美しいものを美しいと伝えられるだけでなく、視点保持者が悲しいときは悲しいと伝えられるようになります。