森の中の瞬殺
――――俺に近づくな!!仲間に手を出すな!!傷つけるな!!
――――もう、殺させはしない!!
木々が生い茂る森の中を駆ける3つの影があった。黒いローブを纏い、並大抵では追い付けないほどの速度で木々の間を駆ける者。その隣をA級モンスター“ホーリースライム”同じ速度でぴったりと追い付き、その上空を低空飛行で飛ぶC級モンスター“大鴉”。周りの景色が霞んで見える速度の中、声が聞こえた。
『主、あの者達は良かったのですか?』
「ああ、森に住む魔物達に手出ししなければいい。手出ししたなら殺すさ」
その声にローブを纏う少年は答えた。だが、彼以外に人間はいない。
『わかりました。その時は我々も容赦しません』
謎の声はそこで聞こえなくなった。彼は気にすることもなく、ただ一心不乱に駆ける。
目的の為に………
同時刻、《魔の森》出入口付近。そこでは耳障りな男達の声が響いていた。
「ヒャハハハハハハ、稼ぎ放題だ!!」
「《魔の森》の魔物だからな!! ランクが低くても高価格のアイテムばっかりとれる」
「もっと狩ろうぜ」
興奮したような男達の着ている服や持っている武器には返り血がついている。地面には数体の魔物が倒れ、赤い血溜まりの中に沈んでいた。地に伏す魔物達は全て、《魔の森》に住む個体。男達に食べ物で釣られ、殺されたのだ。
基本的に《魔の森》に住む魔物達の毛皮や牙などは“ギルド”に持っていけば高価格で売れる。その為に男達は金稼ぎの為にやっているのだ。だが、他にも理由はある。それはいずれ分かるだろう。
男達が笑い声を上げながら周りを狩っていると、ガサッと草が揺れ、男達の数メートル先にローブを纏う彼が現れた。
「子供か。ちっ、金目の物はなさそうだな。さっさとあっちにいけ」
手で追い払う仕草をする男。だが、彼は立ち去ることはせず、男達に問いかける。
「手を染めた貴様らに問う。………何故、魔物達を殺す?」
静かな響きを持った幼い声が発せられた。
「そりゃ、金になるからだよ。決まってるだろ?」
「魔物達も命がある。人に危害を加えるのは一部の魔物だけだ」
「そんなのに興味はない。俺らは金だけが目当てだ。金さえありゃ、全部手に入るからな」
「――――所詮、人間はみんな同じか」
ぼそりと呟かれた彼の言葉は男達の耳には届かず、空気に消える。
「なんか言ったか?まぁいい。さっさとあっちにいけ」
男達は彼に背を向けようとした。その時。
「!!」
鋭い刃のような殺気が男達に向けられた。一歩でも動けばすぐに殺される――そんな殺気が。
「な、ぁっ…!!」
恐怖で言葉が続かない。それほどの恐怖を目の前の彼に感じた。
ローブで顔は見えないが、低い身長と幼い声色から子供だとわかる。だからこそ、自身が子供なんかに恐怖を感じていることに驚愕する男達。
「――――死ね」
冷酷に言葉が男達に向かって放たれる。それと同時に男達の視界から彼が消えた。
落ちていく視界。男達は自らも気づかないまま、首を切断され、切られたことに気づかず絶命した。
その場に残ったのは頭と胴体を切り離され、自らの血溜まりに沈む数人の男と身に纏う黒いローブに返り血を浴びた彼だけだった。
『主、お身体を洗いましょう。臭いがついてしまいます』
彼は振り替える。その先にいたのは“大鴉”と“ホーリースライム”だった。
「あぁ、その前にホーリースライム。“浄化”を頼む」
彼の言葉にホーリースライムは血溜まりへと近づく。そしてホーリースライムの体が淡い光を放った。すると、男達の体や血が消え、まるでなにもなかったように元通りに浄化された。男達に殺された魔物達の死骸もきえている。
「いつもありがとう」
“浄化”で黒いローブについていた返り血が消え、彼は数段柔らかい声で礼を延べ、ホーリースライムの頭を撫でた。それをまるで心地良さそうに体をプルプルと震わせるホーリースライム。
『主、帰りましょう』
「あぁ」
彼は大鴉とホーリースライムを連れ、歩き出す。出会ったマルクやデューク達の事など頭の片隅にもなかった。