外伝 ゼオとリーゼの出会い~蒼狼の断罪者、誕生の時~
《魔の森》から一キロメートル程離れた所に冒険者ギルド本部はあった。その本部長室で本部長であるリーゼ・ウィルガは書類にサインをしていた。そして積み上がっていた書類、全てに目を通し、サインをし終わったリーゼは椅子にもたれて息を吐く。
「あぁ~疲れた~」
百枚ぐらいはあろうか、と思われる書類の山を終えたのだ。それは疲れもするだろう。
ドアをノックする音が聞こえた。
「あぁ、入ってきていいぞ」
「失礼します」
入ってきたのはギルド本部の受付嬢の一人だ。その手には紙が握られていた。
「リーゼさん。急遽、送られてきた伝書です。送り主は《ギルド支部長マッカ・サールチ》と書かれてあります」
「マッカか。懐かしいな。読んでくれ」
リーゼはマッカと知り合いで、送り主がマッカだという事に目を見張る。同い年で親友の仲だ。そんなマッカから送られてきたのだから、重要なのだろうと悟る。
「読み上げます。『リーゼ・ウィルガへ 久しぶり。今回は親友としてではなく、ギルド支部長として送らせてもらうわ。現在、S級ランカーでSS級冒険者になる力を持ち、資格もある者を見つけた。能力の凄さは私が認める。彼は5ヶ月でS級ランカーにまで登り詰めた実力者だ。但し、見た目で判断しないように、とは忠告しておく。話が長くなったが、1週間後に彼がSS級昇格試験の為に本部を訪れるからよろしく頼むわ。マッカ・サールチより』」
受付嬢は読み上げた伝書をリーゼに渡した。それを受け取ったリーゼは目を通す。
「マッカが認める実力者か。名前は――――ゼオ・アスタロナ―――」
時は過ぎ、1週間後。冒険者ギルド本部の扉が開け放たれた。
受付嬢達が視線を向ける。その先にいたのは黒いフード付きローブを纏った低い身長の人物。フードを深くかぶっているため、顔は見えず、男か女かさえも分からない。
受付嬢達の視線を集めたまま、その者はある一人の受付嬢に歩みより、告げた。
「本部長のリーゼ・ウィルガに用があってきた。彼女に会うことは可能か?」
子供特有の高い響きをもった声からして、男の子である事がわかる。
「ギルドカードをご提示願いますか?」
ギルドカード――――それは冒険者ギルドに登録した者なら誰でも持つカードの事だ。そのカードは特殊な銀で作られているため、折れたりする事はない。名前とギルドランク、二つ名がある場合は二つ名も書かれているカードの為、証明書の役割も果たすものだ。
受付嬢の言葉に彼は懐からギルドカードを渡した。それを目にした受付嬢は驚愕する。
「S級ランカー…《断罪者》…!」
その二つ名は最近、騒がれている名だ。
《断罪者》――その者は基本的に犯罪者を狩る罪を断つ者。魔物討伐依頼が多い中、犯罪者を捕まえる。もしくは殺す依頼ばかり受け、依頼成功率は100%。S級ランカーになった事でその二つ名がつけられ、指名依頼が殺到しているという噂があるほどだ。
「それで、会うことは出来るのか?」
呆然とギルドカードを見つめる受付嬢にゼオの声が掛かった。ハッと受付嬢は我に返る。
「は、はい!!ゼオ・アスタロナさん。話は通ってあります。こちらへどうぞ」
受付嬢は普通を装い、彼――――ゼオをリーゼの元へと案内するのだった。
ドアをノックする音にリーゼは入るように声を上げた。
声はいつもの調子だったが、内心凄くワクワクしていた。
――どんな奴が来るのか…
親友のマッカに認められる程の実力を持っているのは想像できる。何せ、リーゼとマッカはS級ランカーであるからだ。認められるという事はマッカを越えるぐらいの力を持っているのだと。
「失礼します」
受付嬢が入り、入るように促す。リーゼは驚きに目を見開いた。
何故なら、その者はリーゼの一回りぐらい小さい低身長であったからだ。リーゼは一瞬で真剣な顔になり、その者を観察する。黒いフード付きローブを纏い、その顔は見れないが恐らく、小さい子供なのだろうと予想した。
本部長であるリーゼが話を進めない訳にもいかず、視線で受付嬢に退室を命ずる。頷くと一礼してから受付嬢は部屋を退室した。
リーゼは視線を向け、口を開く。
「ようこそ、冒険者ギルド本部へ。私は本部長のリーゼ・ウィルガだ」
「ゼオ・アスタロナ。よろしく」
返ってきた声は高い響きをもった子供特有のものだった。
「それでは、SS級ランカー昇格試験の事について話そう。だが、その前にフードを取ってくれないか?どうも顔を見て話さないと違和感があってね」
「………………わかった。だが、一つだけ聞く。貴方は魔物の事をどう思っている?」
少し間が空いてから放たれたゼオの問い。怪訝そうな顔をしながらリーゼは口を開いた。
「私は魔物全てが悪いとは思っていない。確かに人間を襲う魔物はいるが、それは一部だ。その一部以外の魔物に対しては何にも思っていない。事実、魔物と心を通わせる人間もいると聞くしな」
この世界の人間の魔物に対する思考は凡そ2つに別れている。約4分の3をしめる、人間を襲わない魔物に対して友好的な思考を持つ人間。リーゼもこちらに入るだろう。
約4分の1を占める、もう1つ。全ての魔物に対して嫌悪や恨みなど負の感情を持つ人間。
――何故、そんな事を聞くのか?
リーゼはその答えを求めるような視線をゼオに向けた。視線を受けたゼオはローブの隙間から腕を出して、フードに手を掛けた。
一番先に目に入ったのは、目にかかるほどの透けるような銀髪だった。幼いが端正な顔立ちに目にかかるほどの銀髪。幼くとも目を引かれる端整な顔立ち。紅蓮の炎を連想させる赤い右目がリーゼの姿を捉える。だが、リーゼが一番目を惹かれたのは黄金に煌めく金色の左目だった。普通なら珍しい“オッドアイ”として話がつくだろう。
だが、ゼオの目は普通とは違っていた。人間の瞳孔とは違う縦長に引かれたその瞳孔はまるで獣の目のようにリーゼは感じた。
「その目は……?」
人間とは違うその目にリーゼは驚愕し、そう問う。二人の間に一瞬の沈黙が降りた後、ゼオは口を開いた。
「――――いずれ、話す」
ただ、その一言だけを告げる。リーゼは口を開こうとしたが、ゼオの瞳を見て、止めた。
――何を言われても自分の言った事は曲げない
そんな、決意の籠っためをしていた。だから、リーゼは話を進める事にする。
「話してもらう時を待っているよ。では、話を進めさせて貰うぞ」
そう話題を変え、リーゼは真剣な顔になった事に気づき、ゼオは視線を再びリーゼへと向けた。
「SS級ランカー昇格試験の内容は明日に行う。試験内容は始まる寸前までは教えられない。後、私が試験監督として同行する。明日の夜明けにギルド本部へ来てくれ。何か質問はあるか?」
SS級ランカー昇格試験はギルド本部でしか行われない。何故なら、冒険者ランク最高位の者を決める試験なのだ。ギルド最高位のギルド本部長は試験に同行し、その者の力量を測る。そう決められているのだ。
「ない」
ゼオが淡々と言葉を放つ。
「そうか。では明日な。遅れるなよ」
「あぁ」
ゼオはフードをかぶり直すと、部屋を去った。その背をリーゼは扉が閉まるまで見ていたのだった。
翌日、リーゼは本部長室にいた。まだ夜明け前。だが、ギルド本部は受付嬢達が忙しそうにあちらこちらを走り回っている。
考え込むようなリーゼの顔には焦りの色が滲んでいた。
――どうする、どうしたらいい。本部長として最善策は……
そんな時、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
その先にいたのは一人の受付嬢。いつもならノックするが、この非常時に構ってられなかったのだろう。
「本部長!!S級ランカー、ゼオ・アスタロナさんがおみえになりました!!」
その言葉にリーゼはハッと顔を上げた。
「通せ!!今すぐにだ!!」
リーゼの剣幕に受付嬢は慌てて部屋を出ていった。
「それで?状況の説明を求める」
受付嬢の案内でリーゼの元へと連れて来られたゼオは昨日と同じ、黒いローブを纏い、顔はフードを深くかぶっているために見えない。ゼオは椅子に座るリーゼの正面に立ち、訝しげな視線を向けて問う。
「今、ここに盗賊団が向かってきている。《残斬盗》。危険度S級の盗賊団だ」
リーゼの言葉に続くようにゼオが口を開く。
「そいつらを生死問わず捕まえるのが、昇格試験か?」
的を射たゼオの言葉にリーゼは頷いた。
「あぁ、そうだ。それが試験の内容だ」
「わかった」
これより、ゼオのSS級ランカー昇格試験が始まる――――。
リーゼは今、目の前の光景が信じられなかった。
少なくとも50人はいたはずの《残斬盗》が半分程、血を流して倒れている。身動ぎ一つしない事から、恐らく死んでいるのだろう。ゼオは血に染まる大地を駆け抜け、目にも止まらぬ速さで《残斬盗》の残りの奴らを斬っていた。首など、急所を狙っているのが分かる。
見た目で判断し、小さな子供だからと心のどこかでみくびっていた。だが、今の光景を目にしてリーゼの考えは払拭される。
何せ、大人数相手に見事に立ち回り、自身はかすり傷一つも負っていないのだから。
リーゼがゼオの姿を視線で追いかける。子供とは思えない速度で地を駆けていた。
リーゼはゼオの後ろに《残斬盗》の一人が剣をゼオに向かって降り下ろすのに気づく。
「っ!!ゼオ!!」
リーゼが声を張り上げた。だが、その声は遅かった。剣が降り下ろされる。リーゼが助けに行こうと足に力を入れた時、ゼオが空を舞った。
唖然とゼオを見やるリーゼ。
剣が空を切り、《残斬盗》の者達もその光景に目を奪われる。
まるで鳥のように空を自由に飛ぶゼオ。そして、《残斬盗》の残党を空を舞いながら斬っていく。
それは洗練された剣舞。
リーゼは唖然と呟く。
「風魔術…………」
かなり名の知れたリーゼは空を舞うゼオの魔術に気づいた。普通、風魔術でゼオのように華麗に空を舞う事は出来ない。空を飛ぶ事は出来ても、一直線に飛ぶ事しか出来ない。しかも、飛ぶ事だけでもかなりの努力と鍛練がいるのだ。
風魔術の使い手だと、リーゼは気づく。子供なのにS級ランカーである事も、左目だけが黄金に煌めく金色なのか、なぜ、黒いローブを纏い姿を隠しているのかも。判断要素になってリーゼは結論に辿り着く。
――――辛い過去があったんだな
リーゼはそう考えて、ゼオの華麗な剣舞を見つめていた。
場所は変わり、ギルド本部長室でリーゼは椅子に座り、ゼオに告げた。
「ゼオ・アスタロナ。昇格試験は合格だ。おめでとう。君は世界で3人目のSS級ランカーだ。それで話がある。君の左目はS級ランクモンスター《神狼》の目だな」
リーゼは懸けに出た。ゼオの実力は申し分無かった。その時点でSS級ランカー昇格は決定だが、リーゼはゼオに手を貸してやりたいと思った。庇護欲に似たようなものといってもいい。
辛い経験をしたであろうゼオを少しでも手助けしたかったのだ。
ゼオはフードの奥からリーゼを見抜く。まるで本質を見ているかのように。
「――――そうだ」
ポツリと呟かれたのはゼオの肯定の言葉。
「そうか。私はゼオの過去に何が合ったのかは知らないし、聞かない」
リーゼは一呼吸、間を置いて口を開く。
「ゼオ。私は君を手助けしたい。君を金銭面で少しでも助けようと思う。だから、君に私からの指名依頼を出してもいいかい?」
「何故、そこまでする?」
ゼオの問いにリーゼは天井を見上げた。
「そうだな。剣舞と風魔術に見とれたからかな。どうかな?指名依頼だから報酬は高い。けど危険度は上がる。この取引、受けてもらえるか」
シーンと静まり返る部屋。ゼオはフードの奥からリーゼに視線を向けた。
「受ける」
静まり返っていた部屋にゼオの声は響いた。リーゼはニカッと、まるで太陽のような明るい笑顔を浮かべる。
「ありがとう、ゼオ。――――《蒼狼の断罪者》」
これがSS級ランカー《蒼狼の断罪者》の誕生の瞬間だった。
S級冒険者《時空の魔女》とSS級冒険者《蒼狼の断罪者》の出会いの物語の全てだ。
完結いたしました!!
見ていただいた皆様、ありがとうございました!!
さて、話は変わりますが次の小説を考えております。
今月中には投稿すると思いますので、ご覧いただけると嬉しいです。
ではまた、次の小説にてお会いしましょう。




