ゼオVSドラゴン・ゾンビ
視界が一瞬にして真っ黒に染まる。だが、次の瞬間には人々が地に横たわり、ほとんどの家屋が全壊している村が眼前に広がった。
「―――――っ!!」
誰か分からない、息を呑む音が聞こえた。
全壊する家屋、血を流し、倒れ伏す人々。そんな村の中心部にデューク達はいた。半透明な半円球状の結界に守られて。
「この半球体の中から出るなよ。死にたくなければな」
リーゼがそう告げた時、
『ガァァァアァァァ!!』
地響きのような雄叫びが響き渡る。そして空からリーゼ達の前方、数キロメートル先に竜が現れた。
光を宿さない虚ろな目、その体の所々に骨が見える事から、この竜が《操術》で操られているドラゴン・ゾンビだと分かる。遠目でもドラゴン・ゾンビの体の上に黒いローブの男が乗っているのが見えた。
そのドラゴン・ゾンビに続くように4つの影が落ちてくる。ドラゴン・ゾンビの正面、地面ギリギリの所で体制を立て直し、着地する。それはゼオ達だった。相変わらず、黒いフードつきローブを纏いフードを深くかぶっている。
「おい!さっさとやれ、ドラゴン・ゾンビ!! あいつを殺せ!!」
ゼオを指差し、命令する男。《操術》を掛けられているドラゴン・ゾンビは男の言葉通りに口からどくを吐き出し、ゼオを殺しにかかる。
ゼオと、一緒にいたホーリースライム達は後ろに飛び退き、回避した。ゼオはホーリースライム、クリムゾン・レイヴン、フェンリルに告げる。
「離れていてくれ。少し、本気を出す」
『了解した、主』
3体の中で唯一喋れるクリムゾン・レイヴンそう答え、ホーリースライムは了承するかのように体をぷるぷると揺らし、フェンリルは一鳴きして頭を垂らす。彼らの間には揺るぎない確かな絆が見てとれた。
そうして、ホーリースライム達はゼオに背を向け、去る。
見送ったゼオは自身を落ち着かせるかのように一つ息を吐き、正面の操られているドラゴン・ゾンビを見据えた。
地を蹴り、ドラゴン・ゾンビの元へと一気に跳躍する。子供とは思えないその跳躍力にリーゼを除いたデューク達は目を見開くが、ドラゴン・ゾンビは子供でもお構い無しに空中にいるゼオへとその鋭利な爪を振るった。
だが、その爪が切り裂いたのはゼオが身に纏っていた黒いローブだ。黒いローブの切れ端が風に舞い、雲間から太陽の光が差し込み、ゼオを照らす。
キラキラと太陽の光を反射する、目にかかるほどの銀髪。幼くとも目を引かれる端整な顔立ち。紅蓮の炎を連想させる、色白の肌に映える赤い右目を持つ美少年がデューク達の視界に入った。そんな彼にドラゴン・ゾンビは再び鋭い爪を持つその腕を降り下ろす。瞬間、空中にいるゼオの身体が停止し、ドラゴン・ゾンビの爪を避けるように横へ飛んだ。まるで鳥のように。
自由に空を飛び、今なお繰り出されるドラゴン・ゾンビの攻撃を避け続けるゼオの姿に唖然とするデューク達。そんな時、デューク達の耳に感心したかのようなリーゼの声が届く。
「さすがだな。ゼオ。やっぱり、君に指名依頼をして正解だった」
リーゼの言葉にデューク達の問い掛けるような目が向けられる。
「質問される前に答えてやる。ゼオは四代元素の一つ、風魔術の使い手だ。だから、ああいう事が出来る」
そう言ってリーゼが指差す方向には、空中で自由に飛ぶゼオの姿。
「普通、風魔術でああいう事は出来ませんよ。ですよね、ミーシャ」
「えぇ、出来ないわ」
セバスか執事である自分よりも魔術に詳しいミーシャに問い掛け、ミーシャは肯定する。
「だから使い手だって言っただろ。普通の魔術師なら、ゼオのように自由にはいかない。だが、あいつは並外れた強い覚悟と意思、才能を持ってる。ほぼ一緒にいる3体のモンスターとの絆だってそうだ。全て、ゼオの才能と血の滲むような努力の結果だ」
それだけ告げると、もう答える事はないとばかりにゼオの姿を見つめる。デューク達も同じように視線を向け、戦いを見守るのだった。
「ドラゴン・ゾンビ!!ブレスであいつを殺せ!!」
攻撃をしても一向に当たる気配のないゼオの姿に、苛立った男が声を荒げた。それに答え、ドラゴン・ゾンビが口に炎を一瞬で溜め、吐き出す。自身に炎のブレスが吐き出された時、ゼオは動いた。向かって吐き出された炎の中へと空を駆け、飛び込んだのだ。
「――――っ!!」
アリサ、マリア、ミーシャの三人が驚きの声を上げる。強いと分かっていても自ら炎の中に飛び込んだという行為が予想外だったのだろう。他の3人はゼオの行動に見入っている。
彼らが見つめる中、燃え盛る炎の中から出てきたのはゼオだ。大した怪我は見当たらないが、防御が間に合わなかったのだろうか、左目を覆う黒い布が少し燃え破れている。ゼオは懐から剣身が漆黒の剣を手に持ち、ドラゴン・ゾンビの眉間を軽く突く。
『グゥゥ』
ドラゴン・ゾンビが唸り声をあげ、地に突っ伏す。死んでいないことは胸が上下しているので分かる。
「おい!起きろ!おい」
ドラゴン・ゾンビが気絶した事で地面に落とされた《操術》を使う男はドラゴン・ゾンビの体を叩いて起こそうとする。そんな男の前にふわり、と空からゼオが舞い降りた。漆黒の剣を男の首筋に突き立て、静かに告げる。
「生き物に《操術》を使うなど、禁忌だ。それこそ処刑されてもおかしくない。だから選べ。国に処刑されるのを、冷たい牢屋で待つか、今ここで殺されるか」
「俺はこんな所で終わる人間じゃねぇ!!火よ、躍りて焼き尽くせ“炎舞”」
剣を突き立てられているのに威勢良く声をあげ、手をゼオに向ける男。その手から火が現れ、まるで踊るかのように舞い、ゼオへと向かう。
だが、ゼオは微動だにせず、向かってくる火を見つめる。ゼオに触れたと思った瞬間、何かに弾かれるように火が散り消えた。
「なっ!!」
「話すだけ、無駄だったな」
驚く男の耳に冷たいゼオの声が届く。男はその直後、首筋に何か暖かいものを感じ手で触れる。それは血。
「え……………」
状況をつかめないまま、男の首はズルリと落ち、力を失った体は切断部から血を噴きながら倒れた。ゼオは絶命した男の体を見下ろし、血のついた剣を振るって血を落とす。そんなゼオに声が届いた。
『――――お前か?我を救ってくれたのは』
次の話で本編は終了の予定です。
明日か明後日に投稿予定です!!




