森の中で……
こんな駄作ですが、読んでいただければ光栄です。
「―――――お前らに何の関係がある!!」
荒げた声が響いた。会うのは2回目だが、彼が怒りの感情を見せるのは初めてだった。彼はローブの奥からデューク達を睨み付ける。
「他人の過去を調べて、それを話して!! さぞ楽しいんだろ!! 領主アルガイ家当主は!!」
彼は怒りを露にして言い放った。デューク達は表情を凍らせる。その言葉にデュークは思慮が浅かった事に気づく。彼の事を助けるつもりで、彼の事を調べれば何か分かるかも知れないと思ったのだ。だが、それは本人にとって、他人に自分の事を調べられ、知られたくない過去を知られるのだ。
彼の――――ゼオの怒りも頷ける。デュークは頭を下げた。
「思慮が浅かった。すなまい。許してほしい」
まさか、貴族でもあり領主でもあるデュークが頭を下げるとは思っていなかったのか、ゼオは黙りこむ。
誰もが口を開こうとしない。そんな状態が続いた。
「誰かと思えば、貴族アルガイ家一行じゃねぇか!!」
好戦的そうな男の声が響く。振り返った先には屈強そうな男を筆頭にざっと20人ぐらいの男達が武器を構えていた。彼らに共通するのは赤い装飾がどこかにされているという事。
「まさか、《赤き盗賊》か――」
《赤き盗賊》――――貴族や大商人達を狙う約20人の盗賊のことだ。特徴は全員がそれぞれに赤い装飾を付けていること。被害が大きく、懸賞金が掛けられ、有名である。
「お下がりください」
マルクが《赤き盗賊》達と向かい合う様にデュークの前へと出て、槍を構える。デューク達は《赤き盗賊》に警戒を向けていた。だから、気付かない。
《赤き盗賊》と対峙しているマルクがニヤリ、と笑みを浮かべた事に――――たった一人を除いて。
槍を構える手をピクリ、と僅かに動かした時、小さな影がマルクの前へと一瞬で移動する。
「お前、スパイだな?」
マルクの前には黒いローブを纏った少年・ゼオがいて、じっとマルクを凝視している。
「違いますよ」
マルクは動揺しながらも答える。それに同意するかのようにミーシャがこちらに近づき、声をあげた。
「彼がスパイな訳ないでしょ。仮にそうだったとしても、仲間にどうやって知らせるのよ。私は彼と一緒にいたわ!!」
ミーシャはゼオに真っ正面まで近づき、突っ掛かるように言葉を続けた。
「どこに証拠があるの?あるなら、言ってみなさいよ!!」
言い過ぎだ、とデュークはミーシャの肩を落ち着かせるように軽く叩いた。
「その言い方はないよ。ミーシャ、落ち着いて」
ミーシャは多少、熱が冷めたのか、息を吐いて頷いた。それを見たデュークは思考を巡らせる。
――隙だらけ時に襲いかかって来ないのはおかしい……まさか!!
そんな時、力強く押される感覚がデュークを襲う。
ハッと見たその先にはこちらに向けて槍を構えるマルクと、デュークとミーシャの身体を小さな腕で押すゼオの姿があった。
――――――血が………空を舞い……地に落ちた。
キャー、と妻と娘の悲鳴が聞こえる。そんな中、デュークは目の前の光景に目を見張るしかなかった。
「どうして……」
ミーシャが茫然と呟く。
「勘違いするな。別にあんたらを助けた訳じゃない。この森で罪人以外の人間が傷つくことが許せないだけだ」
後ろに押し飛ばしたデュークとミーシャを見やり、ゼオは告げた。ゼオの纏う黒いローブの腕辺りが切れ、そこから見える色白の肌から出血しているのが見える。決して深くはないが、浅くもない。槍によって切られた傷口から血がポタポタと流れ落ちる。
それを気にする事もなく、ゼオは目の前に立つマルクに視線を向けた。マルクはいきなり、笑い出す。
「ハハハハハッ!! まさか、こんなガキにバレるとはな!! 俺は《赤き盗賊》リーダーのマルク。バレちまったが遅い。お前らの全て、俺らが貰う!!」
口調が変わっている。これがマルクの本性だったのだ。
「マルク…あなた、どうして? 私といた筈なのに、スパイなんて出来るわけがない」
ミーシャは驚きの表情でマルクをみる。
「……いつも一緒というわけではないからだろ? マルク。お前は誰もいない時間を見計らって仲間に指示を与えたのだろう」
「おぉ~! さすが、アルガイ家当主だな。その通りだ!! こうして襲撃する事が出来たわけだ。まぁ、ちょっとアクシデントがあったがな!!」
愉快、とばかりに高笑いするマルク。ゼオはそんなマルクの真っ正面に歩みより、問う。
「お前らは金目的でこの森に住む魔物を殺したか?」
と。
訝しげに眉を潜めたマルクは答えた。
「あぁ、もちろん殺したさ。ここらの魔物は強いが、その素材は高額になる。狩らない方がおかしいぐらいさ!!」
瞬間。ゼオの纏う空気が急変する。――――より強い、冷めたものへと。
その変化に気づいた《赤き盗賊》らは警戒心を露にし、各々が手に持つ武器を構える。だが、もう既にその行為は無意味なものへと化していた。
一瞬にしてゼオの姿が消えたのだ。マルクがそれを認識した時、部下達の間を縫うように移動する漆黒の線が見え、その漆黒の影が通りすぎた後の《赤き盗賊》らは身体のどこからか血を吹き出しながら倒れる。
そして、あっという間に《赤き盗賊》達は倒れた。――――ただ一人、マルクを残して。
「なっ………」
自分の部下が数秒のうちに自分よりも、一回り小さいガキに殺された事に息を呑む。そんなマルクの前にゼオが現れた。
「罪人は死んで貰う。自らの罪の重さを悔やめ」
「何故だ!!お前は俺らと何の関係もないだろ」
マルクは時間稼ぎのつもりか、早口で問う。
「お前らが高価な装飾品や人を盗む為に殺された人達はお前らとは無関係だった。ならば、無関係の俺がお前らを殺しても文句はあるまい。今まで何の罪もない人を殺してきたツケが今、回ってきたという事だ。ただの自業自得だろう」
「くっ……」
マルクは逃げ場はないと悟り、咄嗟にマリアの近くにいた娘・アリサを引き寄せ、その首筋に隠していた短剣を当てる。
「この娘が大事なら近づくな!!」
そう告げた。マルクは分かっていた。否、理解せざるを得なかった。目の前の少年との力の差を。
理解していても認めず、悔しさのあまり人質をとる方法を選んだのだ。
「ひっ…!!」
アリサは自らの首筋に当てられた短剣に恐怖し、その目からは涙が溢れる。ゼオはピクリと身体をほんの少し動かす。それに気づいたマルクはアリサの首筋に当てた短剣を握る力を込めた。
「ガキが!!動くんじゃねぇ!!」
短剣を握る手に力を加えてしまったせいで、剣先が触れ、赤い線を作り出す。その傷から血が一滴流れる。瞬間、マルクの運命は決められた――――。
シュッ、という布が擦れる音。そして、目の前にいたはずのゼオの姿がマルクの背後にあった。
訳が分からなかったがゼオが自らの言葉に反したと理解し、声を荒げようとした。その時、マルクは自身の首筋を伝う暖かい“ナニカ”に気づく。マルクはその“ナニカ”に触れた。
鮮やかな赤――――人の体温の暖かさを持つその“ナニカ”は血。触れた手についた血が手を伝い少しずつ流れ出す。
「え………」
マルクは茫然と呟いた。だが、もう既に身体と切り離された頭が落ち、力の無くなった身体が首から血を吹き出しながら、後方に倒れた。その血は一番近くにいたアリサとゼオに多く降りかかる。
「いやぁぁぁぁ」
血に染まったアリサが叫んだ。無理もないだろう。まだ子供だというのに人が死ぬところを見、その血まで浴びてしまったのだから。
マリアは娘に駆け寄り、自らの服が汚れる事も構わずに娘の小さな身体を抱き締める。
「アリサ、落ち着いて。大丈夫だから」
マリアはアリサの背を落ち着かせるように撫でる。マリアに抱きつき、アリサは嗚咽を吐き出したのだった。




