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アメリカに着き、リチャード・アレン氏と会った瑞輝だったが、
残念ながら手ぶらで帰る事になった。
一足違いでフランス人に売ってしまったという。
厄介払いしたがっていたアレン氏は、
相手の身元をよく確かめずに売ってしまったということで、
今のところはこれ以上の痕跡を追うことは不可能だった。
「駄目だ。一足遅かった。」
光輝に電話を入れた瑞輝は悔しそうに言う。
「どうする?一度戻る?」
尋ねる光輝に、瑞輝は頷いた。
「ああ。ここにずっといても仕方ない。一度帰るわ。」
そんな瑞輝を離れて見ている者がいた。
クセのある金髪、金色の瞳の少年。薄い薄い水色の長い髪に、
エメラルドグリーンの瞳の若い女。そして、恰幅の良い年輩の男性だ。
少年は横に立つ年輩の男性を見上げて言った。
「…何か気になる奴だなぁ。大体、何で俺の絵を探す訳?」
女も眉をひそめる。
「確かにね。何か妙な感じがする男だわ。
…かといって、あの絵に精霊が封印されていた、
なんてことまで気付いてるとも思えないけれど…。」
「単なるコレクターじゃないのか?
世間には、金目の物を集める者だけじゃなく、
不思議な物を集める者も間違いなく存在するからな。」
「そうね。どこに価値を見出すかなんて、人それぞれだし。」
少年は少し残念そうな顔になる。冒険したい年頃なのだろう。
「そっか。うん、そうだよね。」
「…帰るぞ。」
男性はガッカリしている少年と固い表情のままの女を促す。
三人は瑞輝に背を向けて立ち去った。
瑞輝からの電話を切ると、光輝は自室のベッドに横たわった。
最近、部屋に戻ると眩暈に襲われることが多い。
校内にいる間は夢中で仕事をしている為か何も感じないが、部屋に帰って独りになると、途端に世界が廻るような感覚に襲われる。
それにしても、雷の絵を手に入れられなかったのは残念だった。
フランスに渡ったという使い魔が桃を襲う事態が来るとは考えにくいが、
それもしばらくは、という期限付きだ。
長い時間を経てその使い魔の主人がびとーの存在に気付いたら、
そしてそれがびとーの強大な力を欲するような相手だったとしたら、と思うと
安心してはいられない。
それに問題になるのは雷だけではない。他にも水、風、土の使い魔が存在するのだ。
特に土は、炎や水の精とレベルからして違うと言っていた。
その土の精霊もいずれ復活することは間違いない。
問題は、その際に彼がどんな人間を主人と認めるかに掛かっている。
勿論、炎の精とダウン症の少女の関係を見る限り、
主人の命令に絶対服従という訳ではなさそうだが、
それも安心に足る要素とは言い切れない。
思いながらいつの間にかうたた寝をしてしまったらしい。
揺れるような感覚があって、光輝は飛び起きた。だが、何も変わったところはない。
「…夢、なのか?」
疲れているのだろうか。
明日も眩暈が続くようなら、玲と相談して、一日くらい休暇を取っても良いかもしれない。子供達の前で倒れるようなことだけはしたくない。
そう思う光輝だった。