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 その日の夜は、桃と檸檬も、光輝や玲と夕食を摂ることになった。

 檸檬と桃はびしょ濡れになっている。

桃は学校に体操服があったが、檸檬には着替えが無い。

それで、学生服が乾くまでの時間を必要とした為もあった。

「…こうして見ると、ミニ光輝だな。」

 光輝の服を借りて着ている檸檬を見ながら、炎の精が言う。

成長期途中の檸檬は、まだ光輝の身長に及ばないが、

確かにその落ち着いた雰囲気が似ていなくもない。

年の離れた兄弟だと言われても納得できそうである。

そんな檸檬は、帰宅が遅くなるにあたり、

理事長である光輝の名前を出すと不都合もあるかと、

玲と仲良くなり食事に呼ばれた、と両親には連絡した。

精霊二人、大人二人、子供二人で食卓を囲むこととなる。

 桃は美味しそうに唐揚げを頬張っている。

怖い目に遭いながらも、元気を取り戻して食欲を見せる桃の為に、

玲は嬉しそうに次から次へと鶏肉を揚げていた。

 改めて、檸檬は光輝に謝罪した。

「…理事長先生。失礼なことをして、本当にごめんなさい。」

 光輝の手元には、昼間檸檬が玲に託したコピー用紙がある。

印刷されていたのは二十六年前、ある地域にのみ販売されていた新聞の記事だ。

所謂地元紙である。

そこには、双子の母親が滑落死した記事が掲載されており、

更に移送の準備をしている状況の写真もあった。

そこにはシートにくるまれた遺体らしきものと、

その側に彼女の荷物とキャンバスのようなものも写っていたのだ。

 光輝は穏やかに微笑んで首を振った。

「いや。僕の方が檸檬くんにお礼を言わなければいけないね。

僕がもっとしっかり母の死に向き合っていれば、

こんなに遠回りすることは無かったんだから。

…ありがとう。それから、余計に気を遣わせて悪かったね…。」

「違います。本当に俺が悪いんです。

俺だって、自分がこういうことを勝手にされたら嫌だから…。でも、それでも…。」

 光輝は微笑んだまま、檸檬の肩に手を置いた。

「それでも必要だったんだ。僕にもそれが判っているよ。

それに、今回のことで、

僕もようやく母の死を本当の意味で受け止められそうな気がするんだ。

だから良いんだ。

…情や常識に振り回されずに、冷静に判断して行動してくれて、

本当に感謝しているよ、檸檬くん。」

 檸檬は、それ以上何も言えなくなって、俯いた。

 その静寂を叩き壊すかのように、土の精霊が大きく息を吐いた。

ぷはぁ~という効果音付きだ。

「久々の酒は美味い!」

 凄く凄~く美しい男だが、やっていることは酔っ払いと大差ない。

それでも、檸檬は彼に感謝した。

自分のせいで重苦しかった空気が、その吐息と共に一変したからだ。

おそらく自分の為にわざとやってくれたに違いないと、檸檬は思った。

「俺、何か、夢を見ていてな。

そこに出てきた男に名前を付けろ~名前を付けろ~って強要した気がする。

どうやらそれが光輝だったんだな。」

 土の精が日本酒を呑みながら言う。

どうやら相当気に入ったらしく、一升瓶とグラスから手を離さない。

酒好きには多少名前が知れている『菊姫』である。

「じゃあ、何?

もしかして僕は、壮が寝ぼけていたせいで、無意識に出す振動に眩暈がしたり、

枕元に立たれて寝不足になったりしていたのかい?」

 光輝が情けない声を出す。

「それだけ、壮さんと光輝さんの波動が合っていたのでしょうね。

なるべくしてパートナーになったのでは?」

 玲に言われ、びとーも頷いた。

「同じ建物の中にいて、

キャデ、いや壮か、に反応したのが理事長先生だけだっただからな。

だが、契約した今は、壮の力に対する耐性も多少は身につくから、

今後はそういうことは無くなるだろう。

…まぁ、何にしても助かったぜ。桃と檸檬を助けてくれてありがとな。」

 最後の言葉は、壮に向かって言う。だが、言われた壮は首を傾げた。

「と言われても、正直あの時は、また兄弟喧嘩かと思ったんだ。寝起きだったしな。」

 檸檬がびとーに問い掛ける。

「ねぇ。びとーは本当に気付かなかったの?壮さんは昔からの仲間なのに。」

 びとーは頬杖をついた。

「光輝の纏う波動が壮と似ているとは思ったんだ。

だが、その波動、壮が睡眠状態にあったせいか、希薄でな。確信が持てなかった。

だから、一度は付いててやろうかと思ったんだが。」

 光輝が後を引き取って言う。

「その時は僕が断ったんだよ。

そしてその直後に雷の精が現れて、びとーはここに来ることもできなくなった。」

「そうだったんですか…。」

 納得して頷く檸檬。

 その時、慌ただしく扉が開いて瑞輝が入ってきた。

「だっ、大丈夫かっ?光輝っ!桃ちゃんはっ?檸檬はっ?」

 混乱の際、玲が瑞輝に連絡を入れたのだ。

 飛び込んできた瑞輝に、二人の精霊は驚いたような呆れようなた表情になる。

びとーが言った。

「…背中に何付けてんだ?瑞輝。」

 光輝と玲は顔を見合わせる。瑞輝は後ろをキョロキョロと振り返った。

が、何も見えない。

 そんな瑞輝に桃がちょこちょこと近付いた。

「ぎんいろのかみのけ、きれーっ!」

 何も無い空間で何かを引っ張るような仕草をする。そんな桃に檸檬が問い掛けた。

「桃、何か見えるの?」

 壮が口を開く。

「…いつまでそうしているつもりだ?ポル。」

「そうだ。見える姿になってやれよ。根性が悪いぜ。」

 びとーも続ける。

「ふっ。」

 色気のある吐息のような声を出して、銀色の長い髪をひとつに束ねた男が現れた。

一番驚いたのは瑞輝自身だった。

「あっ、ゆっ、夢っ!夢に出てきた…。」

 びとーが眉をひそめる。

「何でお前が瑞輝に付いている?」

 長すぎるシッポで勝手に三つ編みに挑戦する桃に、

美しい筈の髪をぐちゃぐちゃにされながら、風の精霊は微笑んだ。

「今の時代、誰しも狭い空間をちょこちょこ動き回っている。

そんな中で世界中を飛び回っている彼を見つけましてね、

一緒に旅に出掛けられたら楽しいだろうと思ったのです。」

 びとーは呆れたようにため息をついた。

「やっぱりお前達は双子だな。同じようなタイミングで精霊付きになりやがる。」

「は?」

 そこで初めて、瑞輝も土の精霊に気が付いた。

「…そういや、一人増えてる…。」

 どえらく美しい男が。

「土の精霊、壮だよ。」

 光輝に言われて、まだ混乱したままの瑞輝は、キョロキョロとみんなの顔を見回した。かなり挙動不審である。

「さっき壮さんは彼を、ポルって呼んでらっしゃいましたね。

ということは、彼が風の精霊なのでしょうか?」

 玲に問われて、壮もびとーも頷く。流れるように風の精が近付いてきた。

「瑞輝に付けてもらった新たな名は風雅。風雅と申します。」

 素晴らしく優雅な風情だが、髪の毛はぐっちゃぐちゃである。

「何だ?!『無糖』とかにしなかったのか?!」

 びとーが腹ただし気に言う。

「するかっ!」

 瑞輝は怒鳴った。



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