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 その日の夜は、炎の精が来なかった。

実力行使に出るということは、

契約解除をしない限り桃の命を狙うと宣言したようなものだからだ。

勿論、びとーは格下で年下の雷の精に遅れを取るつもりはないだろう。

だが、桃や檸檬が彼の力無しに、雷の力を持つ精霊から、自分の身を守れる訳がなかった。

 瑞輝や玲が側にいるとはいえ、光輝は少々心細かった。

桃に危険が迫っていることにも不安があるが、

男の人が憑いていると言われて平気でいられる程、図太くはない。

 いつもより遙かに静かな、現実感の感じられない食卓を済ませた後、

光輝は嫌々部屋に戻った。

また世界が回る。

だが、今日はベッドに横にならず、床に座った。

ベッドに寄り掛かる。眩暈を堪えようと瞳を閉じた。

 暫くそうしていると、側に気配を感じた。薄く目を開けて見上げると、男が立っていた。いつも夢現に畏怖を感じていたその相手を、

初めて光輝ははっきり目にしたような気がする。

黒髪に黒い瞳の凄絶に美しい男だった。

色素は日本人とあまり変わらないのに、顔立ちが違うだけで、畏怖の対象となってしまう。夢だか現実だが判らないまま、光輝は問い掛けた。

「あなた、は…?」

 それには答えず、男は静かな低い声で言った。

「名前を、付けて貰いたい。」

 光輝はここで、やはり夢だと決定づけた。

眩暈による体調不良、新たに現れた精霊、それがこんな夢を見せるのだ。

でなければ、絵も無いのに精霊が自分の元に来るとは思えない。

名前を付けろというのは、相手が幽霊ではなく精霊である筈だから。

 この時点で、桃が昼間、男の人が憑いていると言ったことは頭から消えていた。

ここは何か名前を付けた方が良いのかもしれない。

付ければそこで夢は終わりを告げるんじゃないだろうか?

 などと考えた光輝は、そこで途方に暮れた。

瑞輝が冗談で言った、『砂糖増量』しか頭に浮かばなかった。



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